『夕暮れ時の、淋しさに』

 薄紅に染まる空。
 人々もみな、家路を急ぐ。
 外で遊んでいた子供たちも、もういない公園。
 そこにいるのは、俺一人。
 「久しぶりだな…」
 思わず口をつく言葉。
 茜色のヴェールに彩られた世界に、自分ひとりしかいないような感覚。
 幼い頃は大嫌いだった。
 友達との楽しい時間の終わりを告げる、この色が。
 でも、自分も大きくなった。
 夕陽を綺麗だと思えるほどに。


 「―クレイ、こんなところにいたの?」
 俺に話しかける声。
 視線を夕焼けから彼女に移す。
 金茶の髪は燃える炎の艶を宿し、白い肌も少しだけ赤みを帯びて。
 茜色のヴェールに彩られ、溶け込みそうな彼女。
 「綺麗だな」
 「え?ああ、夕陽のことね?ホントにきれい」
 自分のことを言われたのに気づかない彼女。
 俺の隣に腰掛ける。無造作に、全く無意識に。
 そのまま、ふたり並んで夕焼け空を眺める。


 「こんなふうに、ふたりでゆっくり話すのって久しぶりね、クレイ」
 「そうだね」
 「いつもはみんなで一緒にいるから、そんな時間全くないもんね」
 ころころと、彼女が笑う。俺の大好きな笑顔。
 でも、彼女は誰にでもその暖かい笑顔を向ける。
 本当は独占したい。いつでも俺にだけ、その顔を見せて欲しい。
 だけど、それはできないこと。
 誰にでも優しくて、明るくて、暖かい君だから。
 そして、その君が俺の大好きな君だから。


 「俺さ、小さいとき、夕暮れって嫌いだったんだよな」
 「…どうして?」
 「遊ぶ時間の終わり、って合図みたいで」
 俺が話すと、彼女はうなずいた。
 「そうだね。ひとりでお家に帰るのって、淋しい気がしたな、私も」
 「だろ?」
 「でも、帰り道って、明日は友達と何して遊ぼうかな?とか考えたらワクワク したよ」
 彼女の意外な答え。
 自分には全くなかった、前向きな発想。
 「だから、私は夕暮れって嫌いじゃなかったの」
 そう言って、またニコリと笑った。夕陽に映える、柔らかな笑顔。
 この笑顔が、俺をいつも前に進ませてくれる。
 不安を打ち消してくれる。
 そして、今まで俺が感じてた淋しさを包み込んでくれる。
 誰よりも、暖かい、君。


 不意に、彼女が声を上げた。
 「あ、いっけない!私、クレイを探しに来てたんだった。トラップが用事があ るって」
 「そうか、じゃあもう帰ろうか」
 俺たちはパッと立ちあがる。
 「ほら、行こう、クレイ」
 走り出す君。髪が弾んで、俺を呼んでいる。
 俺も、後を追いかけて走り出した。
 「待てよ、パステル」


 ―いつか、捕まえるからな。
 声に出さずに付け足して。


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