ヤサシイオト


 それは、貴方限定の。


   *


ここが私の『特等席』になってから、気がつけば随分と時が経って。
いつの間にか、お互い顔から火が出そうになることもなくなった。
それでも、私の胸の高鳴りは、今も変わらない。

(……不思議)

目を閉じて相手の胸に押し当てていた顔を上げて、見上げると。
私の動きに気付いた貴方が、優しい瞳で見下ろしていて。
視線が、ぶつかった。

「どうかした?」

そっと私の額を撫でる、大きな手が温かくて。
私の表情は、だらしなく緩んでいるだろうと思いながらも。
微かに首を振って、意思表示。

彼の瞳から、優しさが溢れ出る。



この瞳の色も。
この手の温もりも。
この腕の逞しさも。
この胸の……鼓動まで。

今は全部が、私のための特等席。

だから、今日は珍しく、大胆になって。
私は自分から、腕を伸ばして彼の首に絡めた。

今だけは、私をもっと、見て欲しいから。


   *


 それは、貴方だけの。
 私だけが知ってる、貴方だけの、音。







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