クレパス Love Fortune小説風

クレパスWEBドラマを簡単な小説にしていきます。
続きを書く際の参考にしてください。



「ここからはわたしとクレイの話を中心に投稿してね」
「おれとパステルの話、楽しみにしてます」
「パステルおねーしゃん、クレイしゃん、次はどんなお話にするんデシか?」
「ガイナとかドーマでの話にしても面白そうだよね」
「クエストに行く話でもいいよな」
「クエストの途中、はぐれちゃった!!とかね」
「パステルの場合、しょっちゅうだもんな」
「ひっどーい! 否定はできないけどさ」
クレイとパステルが楽しそうにじゃれあっているのを見て、キットンが口を開きました。
「クレイとパステルはすぐ本題からそれてしまいますね。ですのでわたしがまとめましょう。今回のWEBドラマはクエスト中にはぐれたパステル(&クレイでも可)です。ではどうぞ」

「ここってどこだろう?」
全員でクエストに来ていたはずでしたが、気がつけばパステルの周りには誰もいませんでした。
「はぐれちゃたのかなぁ」
迷子になったのだろうと思い、パステルは地図を開きました。
「えーっと、この道を右に曲がったんだよね。それから道なりに歩いてたはずなんだけど、やっぱり迷子だよね。どーしよー」
すると、遠くから声が聞こえてきます。
「何か聞こえる。もしかしてクレイとか…じゃないよね。この声は」
声はどう聞いても人の言葉を話しているようには聞こえませんでした。
「ま・まさか、モンスター?」
今度はおたけび声がきえます。
「うう、モンスターだー。逃げなきゃ。
パステルは音を立てないように恐る恐る、それでもできるだけすばやく逃げました。
「早くにげなきゃ〜」
声の持主が追いかけてきています。
「やだやだやだやだ、誰か助けて!」
「お〜い!パステル〜!俺だよ、俺!」
「クレイ!!」
ものすごく嬉しそうにパステルがクレイに駆け寄りました。
「良かった。クレイだったんだー」
パステルがほっと一息をついたときに、二人の背後の茂みががさがさと揺れました。
「えっ!な、何?」
「静かに!モンスターかもしれないぞ」
遠くから、「おーい!どこだー!」と聞こえてきます。
「トラップだ!おーい!ここだ・・・ムグムグ、う、うう」
「静かに!モンスターがいるかもしれないぞ」
「そ、そうだよね」
「トラップのことだから、もうきづいていると思うから、もうすぐ来ると思うよ」
怖がってしまったパステルを安心させるようにクレイが言いました。
すると、トラップらしきもの(?)が、近づいてきます。
「モンスターも連れてきたりしないよね?」
「トラップはそんなへまはしないさ」
「そうだよね。そんなへま、しないよね」
クレイは軽く請け負いましたが、パステルはまだどこか不安そうです。
不安そうなパステルの言葉が的中したかのように、「おーい」というトラップの声が遠ざかっていきます。
「近づいてきてるのはトラップじゃないみたいだな」
「うそー!どうしよう!」
「とりあえず、向こうの茂みに隠れよう」
クレイはパステルを引っ張って茂みへと隠れました。
「いちよう、戦闘の準備しといた方がいいかな。」
「だな。クロスボウを構えられても平気だし」
「なによ、クレイ。どういう意味?」
そのような会話をしているうちに、モンスターらしきものが近づいてきます。
「声を出すなよ」
「うん、わかってる」
二人が茂みに隠れると巨大な影が現れました。
「モンスターかと思ったらノルじゃない、びっくりさせないでよ」
「へ?ノル?」
パステルから少し遅れてクレイもノルを確認しました。
「無事だったか」
「うん! 心配かけてごめんね」
パステルが申し訳なさそうに言うと、ノルはにっこり笑いました。
「モンスターが来ないうちにみんなのところに戻ろう」
「そうだね」
そして皆の所に戻ると・・・。
「ぱーるぅ!!」
真っ先にパステルを見つけたルーミィが転がるように駆け寄ってきました。
「ルーミィ!!よかったー、会えて。」
「あれ?トラップがいないけど、どうしたんだ?」
「もうじき戻ってくると思いますよ。パステル、探してたのはクレイとノルだけじゃないんですからね」
キットンが喜ぶパステルに釘を刺すように言いました。
「わ、わかってるよ。後でちゃんと謝る」
キットンとパステルのそんなやり取りをクレイたちはほほえましく眺めていました。
「トラップあんちゃんデシ」
「・・・毎回毎回素晴らしい迷い術でソンケーするぜ、マッパ-さん」
「わ、悪かったわね」
「パステル」
謝るはずのパステルが皮肉を言うトラップにつられて喧嘩腰になるのをクレイがいさめました。
「クレイおめーもな、いっそこいつに縄でもつけろ!前回と足して5回なんて言い飽きたがマッパ-が聞いて呆れるぜ。」
「悪かったわね!方向音痴で!」
クレイの気遣いもむなしくパステルは怒り出してしまいました。
「こ、こらこらパステルそうつっかかってちゃ・・・。トラップもいい加減にしろよ」
「おめぇがこいつに甘いからいつまで経っても成長しないんじゃねーか」
「別に甘くしてるつもりはないよ、俺は俺でちゃんと考えてる。お前こそそうやって噛み付くのやめろよな」
「ありがとう、クレイ」
「いや…。でもパステルもちゃんと謝らないとな」
「あーもういいもういい!今に始まった事じゃねーだろ」
「そうやってあいまいにするから駄目なんだよ」
「・・・・―ッ!!」
謝罪の言葉など言われたくないトラップは、そう言うことで「許してやる」と意志表示したつもりでしたが、当の本人に文句を言われて怒りをあらわにしました。
「パステル、怒らせてどうするんだよ」
仲裁に入っているクレイも困り顔です。
「だからちゃんと謝るって続けようと思ってたんだけど」
「後から聞き分けのいい事言われて「はいそうですか」っつー程いい人じゃねーぞ俺は!!」  
「まぁまぁ、そう怒るなよ。パステルも続けて言わないとトラップが勘違いするだろ」
「そうだよね…。ごめんね、トラップ」
「べ、別にいいけどよ。つーかな、おめーも次から迷わねーようにクレイに手でも引っ張ってもらえ!」
「え!?」
パステルはとたんに真っ赤になりました。
「な、何言ってんだよ。そんなことできるわけないだろ!」
「できねーのがそんなに悔しいか?」
冒険中のせいで好きな子の手を握ることができないのが悔しいのかとトラップがからかいます。
「く、悔しいかって・・・・っていうかそんな事、なあ?パステル」
「そ、そうだよ。ねぇ、クレイ」
(しようか、なんて言えないよなぁ)
(したいよね、なんて言えないよね)
クレイとパステルはそれぞれに心の中でため息をつきました。
「パステルおねーしゃんが一番前にくればおねーしゃんも迷わないデシ」
「一番前? そんなの無理だよ。それに、後ろに人がいても迷っちゃうんだよね。どうしてだろう」
パステルは心底不思議そうです。
「そ・・・ッそうだよシロ。ちょっとそれはなぁ・・・」
「なによ、クレイ。それってわたしが先頭だと、わたしだけじゃなくてみんなで道に迷うってこと?」
パステルの目が吊りあがりました。
「わかってんじゃねーか」
トラップの言葉にさらに目を吊り上げそうになったパステルを見て、クレイが慌てました。
「止めろって。違うよ、パステル。先頭だとほら、モンスターが出てきたら困るだろう?」
「うまいこといいますね〜!ぎゃはははは!!」
「キットン、俺は今受けねらいの小ネタ言った覚えはないぞ」
「先頭だと戦闘でも頼りにならないってこと!?」
「だ、だから冗談を言ったんじゃないんだって。パステルは後方からの援護射撃だろ? 先頭はおれかノルじゃないとさ」
「ん〜・・・。そうだね、そうかも」
そんな会話をしていると・・・。
「早く行かないと目的地にたどり着けませんよ。ただでさえ時間をロスしてるんですから」
しばらくふざけあっていたパステルたちでしたが、ボク的を思い出したように釘をさすキットンにそれぞれうなづきました。
「そうだな。んじゃ行こうぜ」
「う、うん」
パステルは地図を握り締めておもりました。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。地図も周りもちゃんと見てような」
(む、無理かも・・・)
「クレイはパステルの頭をなでてから、進み始めました」
「おーい!こっちに何かあるぞー!!」
先を歩いていたトラップが大きな声を張り上げました。
「なんですか?」
みんなでトラップの示すものを覗き込みました。
「うーん、暗くてよく見えないな。ノル、ポタカン持ってきてくれ」
「わかった」
「これなに?」
「石像みたいだけど…なんだろうな」
「変なかたちデシね」
「んだな。下手なのか、わざとわかりにくくしてるのか…。ちっと調べてみっか」
トラップは石像の前に座り込んで調べ始めました。
「・・・・・呪われてたりしてな」
クレイが言うと、
「罠が発動するかもしれませんねぇ」
キットンが後を受け、
「いきなり動いて襲ってきたりして」
パステルも悪乗りして、
「とりゃー、たべられるかもしえないおう」
ルーミィが真に受けて怖がりました。
「大変デシ!」
と、シロちゃんが叫びました。
「ったく。人が真剣に調べてるってのにぐちゃぐちゃ勝手なこと言いやがって…ん?」
「何?どうしたの?」
シロちゃんとトラップの様子にパステルがおろおろしながら声をかけました。
「危険が危ないデシ!!」
「トラップ、下がれ!」
シロちゃんの瞳が鮮やかな緑色に輝いていました。
「おう!」
トラップは後ろに下がり、クレイが剣を構えて前に出ました。
「・・・・・・って下がりすぎだトラップ!!お前も武器構えてここにくるんだよ!」
「へ? いや、おれは後方射撃をな」
無駄口を叩こうとしたトラップの背をノルが押しました。
「って!へーへー。前にでればいいんだろ!ちぇ。」
「『ちぇ』じゃないでしょう。全くあなたって人は。状況がわかってるんですか」
「てめぇよりはわかってら!」
「トラップ! 早く応戦してくれ!」
トラップとキットンが言い合ってるうちに、クレイがモンスターに襲われていました。
「クレイ!」
小さく見えた石像は半身以上が地中に埋まっていたのでした。
「くっ!」
振り下ろされた硬い腕が当たったクレイは転がるようにして次の攻撃から逃れました。
「クレイ、大丈夫?」
「あ、あぁ」
ノルとトラップが前線に出たので、パステルはクレイに駆け寄りました。
「血が出てる…キットン! 薬草かなにか持ってない!?」
「はい、この薬が効きますよ。」
キットンは、懐からある薬を取り出しました。
「あれ?これって・・・。」
「はい、これは、マックス城の時に使った薬です。」
「キットン・・・、いいから早く塗ってくれ・・・。」
クレイは、苦しそうにそういいました。
「ああ、はいはい。・・・あとはちょっと安静にしてれば大丈夫ですよ。」
「ああ、ありがとう。」
「大丈夫? クレイ」
「大丈夫だって。そんな顔するなよ。キットン、ノルたちの様子を見てくれないか?」
「はいはい、わかりましたよ。」
「パステル、ルーミィとシロは?」
「大丈夫、ここにいるから」
パステルはクレイを安心させるように頬に触れました。
「大丈夫だから、大人しくしてて」
「すまないな」
「やだなークレイ、謝る必要なんてないじゃない」
ちょっと照れ笑いしてパステルが言いました。
「…でも、少し油断したのは事実だからさ」
クレイは悔しそうにつぶやきます。
その時、キットンの耳をつんざくようなわぎゃぎゃぎゃぎゃーーー!っと言う悲鳴が響き渡った。クレイとパステルは一瞬耳がキーンとなって顔をしかめるが、何事かと振り返った。なんとそこには………「キットン!!」
石像に捕まえられたキットンの姿がありました。
「くっ! こいつじゃ効かねー 」
トラップのパチンコでは石像にダメージを与えることができませんでした。
「俺のも効かないぞ!」
「そういうことは先に言えよ!」
安全な場所から声を張り上げるクレイをトラップが毒づきました。
「ルーミィの魔法で何か効きそうなのない!?」
「ストップの魔法で止めてる間にキットンを離させるとかどうだ?」
「ルーミィ、呪文のメモは? クレイ、わたし行ってくるね。シロちゃんはクレイをお願い」
「わかったデシ!」
「ちっ面倒なこった」
ルーミィがたどたどしく呪文を唱え、石像が止まったと同時にノルがキットンをつかんでいる手首に攻撃を加え、キットンがなんとか抜け出しました。
「みんな、逃げろ!」
クレイの一声に、ノルがキットンを抱え上げて、みんなが一目散に逃げました。
「はぁはぁはぁ・・・。こ、ここまでくれば、大丈夫だよね。」
「…そうだな。みんないるか?」
「いるみてーだな」
「ぱーるぅ、こあかったおう」
「ほんとだね。ねぇ、クレイ。どうするの?」
思っていた以上に強力な敵を目の辺りにして、パステルは不安げにクレイにクエストを続けるかどうかを尋ねました。
「そうだな………続けよう! 今までだっていろんな難解なクエストだってみんなで乗り越えてきたんだし、大丈夫だ!……多分…」
「そうですね。でもきちんと対策を立てないと先ほどの二の舞になるだけですよ」
「わかってはいるけどな。トラップ、石像が動き出す前にお前は何をしたんだ?」
「んー、罠がないかチェックするためにあちこち触ってたからなぁ。特定の部分を触らなきゃいいのか、どこを触っても駄目なのかわかんねーし」
「打つ手なしですか?」
「気長に一つずつチェックするしかねーか」
トラップはそういうと、みんなにこの場所に残るように言い、一人で立ち上がりました。
「おれも行く」
ノルがのっそりと立ち上がり、トラップの後についていきました。
「クレイ、もう大丈夫?」
二人を見送った後、パステルがクレイに話しかけました。
「あぁ。キットンのおかげだな」
「役に立ってよかったです。トラップたちは平気でしょうかね」
「ノルもいるし、無茶はしないだろう」
「とりゃー、あぶないことしてうんかぁ?」
「うん…。ねぇ、クレイ」
パステルは不安な表情をクレイに向けました。
「だな。おれたちも行くか」
多くを聞く必要もなく、パステルの心情を察したクレイは、みんなを見回して言いました。
4人と1匹はトラップとノルの元へと急ぎました。
「トラップ、ノルどうだ?」
「まだ、大丈夫だ」
クレイたちがそっとノルに近づくと、トラップは一心不乱に石像に取り組んでいました。
「くっそー、わっけわかんねー!」
「駄目そうか?」
「駄目ってことはねーけどよ。ためす箇所が多すぎんだよな」
「どこを触っても駄目というわけではないのですね」
「まぁな。おかげでこっちは大変だぜ」
「トラップしかできないんだから、がんばって!」
ぼやくトラップにパステルが励ましの言葉をかけました。
「成功報酬500でどうだ」
「馬鹿なこと言ってる暇があるんですか?」
にやにや笑っていたトラップでしたが、キットンをちらっと見てから、再び石像に向かいました。
「こいつか? おい、クレイ」
「どうした?」
「このボタン、怪しくねーか」
「これか…。そうだな。そこを触らないでできそうか?」
「他に罠はねーみてーだから、いけるだろ」
罠を見つけたトラップは嬉々として、再び石像を細かくチェックしはじめると、
「あっ」
クレイが切羽詰った声を発しました。
「どうしたの?」
「どうしたのらぁ?」
不安そうに様子を見ていたパステルとルーミィがクレイを覗き込みます。
「今、触らなかったか?」
二人に頓着せずに、クレイはトラップに聞きました。
「触ってねーよ。んなへまするかって」
こともなげに言い放つトラップに、一同が安心したとたんに、今度はノルが声をあげました。
「!!、あそこに・・、何か・・・、いる!」
「どこだ!?」
「あの大きな木の後ろデシ」
ノルと同じほうを見ていたシロちゃんが、ごつい手で木を指しました。
「どうしたんらぁ?」
「何かいるみたい。前に出ちゃダメだからね」
ぽてぽて前に進みそうなルーミィをパステルが制していると、クレイが前に出て、バッと木の後ろを覗きました。
「なにかいる?」
度重なる不安に泣き出しそうなパステルが、クレイのマントをぎゅっとつかんで聞きました。
「いや…。もう逃げたのかもな」
「良かった。モンスターが出てくる前に先に進めるといいけど」
「そうだな。そっちはどうだ、トラップ」
「何もいねーけど」
「進めそうか?」
「あぁ、もちっとだな」
その言葉に、全員がトラップのそばによって成り行きを見守りました。
「トラップあんちゃん、がんばるデシ」
「とりゃー、がんばるおう!」
年少組の応援を背に受け、トラップは黙々と作業を進めました。
「おっし。こんなもんだろ。大丈夫そうだぜ」
「じゃあ、いくか!」
「うん!!」
クレイの号令にパステルがうなずき、みんなはクレイについて洞窟内へと入りました。
「ポタカン頼む」
リーダーの言葉にトラップとキットンがポタカンを用意しました。
「パステル、メモの準備はいいか?」
「うん!」
「じゃあ、行くか」
トラップを先頭に、クレイ、キットン、ルーミィ、パステル、シロちゃん、ノルの順に進んでいきました。
「ここまでまっすぐで、次は右と左に道があって…」
「右ってよりは右上だな。斜めに書いた方が良いんじゃないか?」
パステルがマップを書きながらぶつぶつとつぶやいていると、クレイが振り返ってアドバイスしました。
「あ!そうだね!!」
「『あ!そうだね!!』じゃねーっての。しっかりしてくれよな、マッパーさんよぉ」
「まぁ、大きな声で書いてることを言うようになったのは進歩じゃないですかね。おかしなことを言ってたらわかるわけですからして。普通は自分で気づくものですけどね」
「パステルの場合進歩っつーかただ単に独り言が増えただけじゃねーのかぁ?」
「間違えないように声にだしてるの!! キットンもトラップもひどいんだから!」
「まぁまぁ、パステル。それより何歩目だったか覚えてるか?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
洞窟などでマッピングをする場合、距離感をつかむために歩数をマップに書き込むのですが、数えていた数を忘れてしまったようです。
「38歩目だったよ。次からは忘れないようにな」
パステルがつぶやいていた歩数をクレイが教えました。
「おいクレイ!おめーさっきから甘やかしすぎ!それじゃおめーがマッパ―じゃねーか!」
「そうか? ちゃんと頑張ってるんだし、また戻らせるわけにもいかないだろ。もう忘れないよな、パステル」
「う、うん!もちろんっ!」
パステルの返事にクレイは「頑張れよ」と声をかけて、トラップに先に進むように言いました。
(優しく言ってもらえると素直に頑張ろうって思えるんだよね。プレッシャーもかかるけど、頑張らなきゃ)
パステルが内心の決意も新たに一歩を踏み出そうとしたその時に、
「ぱぁーるぅ、ルーミィお腹空いたおうー」
「ボクもデシ・・・」
前後から空腹の訴えがあがりました。
「ならお昼にしようか。クレイ。お腹すいたって。食事にできる?」
「ん。そうだな。まだ入ってそう経ってないから敵がきても逃げれるし、飯にするか」
リーダーの言葉にみんながめいめいに地面に腰を下ろしました。
「パステル、これでいいか?」
「うん。ありがとう」
ノルは自分の大きな荷物から、みんなの分の食料を取り出してパステルに渡しました。
「危険が・・・危険が危ないデシ!」  
シロちゃんの瞳が緑色に輝き始めました。
「え!? どこどこ??」
食料を抱えたパステルが騒ぐのをクレイが止めました。
「静かに。それと、取り乱さない方がいい。」
「あー・・ったく今腰おろしたばっかりだっつうのによ」
「文句を言ってる場合じゃありませんよ」
クレイたちに言葉に自分を取り戻したのか、パステルは荷物を置いて落ち着きました」

「トラップとキットンは下がっててくれ。パステルはルーミィとシロを頼むぞ。ノル、気をつけろよ」
「僕もがんばるデシ!」
「わ、わかった。」
クレイの指示にみんなが自分の役割を思い出しました。
「くるぞ!」
洞窟の奥から現れたのは、ゴブリン3匹でした。
「おれたちがモンスターの相手を」
クレイが言いかけたとき後ろからもう一体、クレイめがけて襲ってきました。
「クレイ!!」
パステルの悲痛な叫びに、クレイは振り向きざまにゴブリンの剣を剣で受け止めました。
「やあ!」
剣で受け止めてから、ゴブリンの剣をはらいました。
「クレイ、加勢する」
クレイとノルが戦いはじめ、トラップとキットンもそれぞれ武器を手にしました。
「キットン、図鑑で弱点はわからないの!?」
「ゴブリンならそうたいした敵ではありませんよ。ルーミィにファイヤーを唱えさせてください。わたしたちには当てないでくださいよ」
「ファイアーうつらぉ。ドゥルミィルファイルゥン・・・・・・エセンパサラン・ガイラァ・・・・・・デス・マス・ファイアァ―――!!」
ルーミィのロッドからそれなりに強い火が出てきました。
「やったぁ!」
ルーミィのロッドから火が出て来たとたんに、ゴブリンは一目散に逃げていきました。
「ルーミィえらいぞ」
「よそ見してる暇はねーぞ!」
しばらくの戦いの末、ゴブリンを倒しました。
「終わった〜」
「おめぇは何にもしてねーだろうが!」
「お前だって人をおとりにしまくってるくせに説教できた立場かッ!」
「ひ〜!!クレイちゃんっ怒んなぃでー!!」
「先に進もう」
喧嘩しはじめた二人にノルが声をかけました。
「あぁごめん、そうだな。」
「奥が明るいデシ!」
「こら、シロ。危ないだろ」
明かりが見えたとたんに駆け出したシロにクレイが注意しました。
「ルーミィも〜」
「駄目よ、ルーミィ。危ないでしょ」
ルーミィはパステルに襟首をつかまえられて、引き止められました。
「奥からとってもおいしそうな匂いがするデシ!」
「またモンスター?」
「気をつけろよ、おれが先に行く」
奥に行くと部屋になっていて端っこにつぼがあり中には小さな虫のモンスターがいました。
「おいしそうデシ!」
「シロちゃん・・・」
シロちゃんは小さな虫のモンスターを食べだした。
「トラップ、どっちの道がいいと思う?」
部屋の奥と、右手に先に進めそうな道がありました。
「こっちだな」
トラップは右手の道を指差した。
「よし。右に行こう」
クレイの決断は早く、パステルたちはぞろぞろと右の道を進みました。
「頼むぜ〜、マッパーさん」
「わわわわかってますっ」
「あんま力入れすぎるなよ。落ち着いて書けば大丈夫だから」
「うん! ありがと、クレイ」
「でもパステルですからねぇ」
「そーそー、10分後にはいなかったりな。」
「しっ失礼ね」
トラップは冗談で言ったが、しばらくして本当にパステルはいなくなっていた。
「……」
「パステルはやはりパステルですねぇ」
「はぁ〜、本当にいなくなっちまったのか!?」
「探してくる」
一言だけ告げると、クレイは一人で来た道を戻り始めました。
「くりぇー、おこってるんかぁ?」
「クレイしゃんは、きっと心配してるんデシヨ」
シロがそう言うと、ノルもうんうんとうなずきました。
「クレーイ!おれ達はここにいるからパステルのこと頼んだからな!」
「わかった! 気をつけろよ」
「気をつけるべきなのはクレイとパステルだと思いますけどね」
その頃1人迷ってしまったパステルは・・・。
「どうしていっつも迷うんだろう…。気をつけてるつもりなのに」
パステルは大きなため息をつきながら進んでいます。
「パステルー! いたら返事してくれ!」
一方、クレイは大声で呼びかけながら来た道を戻っています。
「みんな心配してるだろうなぁ・・・」
「パステルー」
パステルの耳に微かにクレイの声が聞こえた。
「・・・クレイ? クレイー!」
「パステル!!」
パステルの声が耳に届いたクレイは、声の限りに叫んで、声のする方へと駆け出しました。
「パステル! 良かった、大丈夫だったか?」
「クレイ…。ごめんね、迷惑ばっかりかけて」
「迷惑なんてことはないけどな」
(だけど、どうしたらいいんだろうな)
クレイは思案ましたが、そっとパステルの手を取りました。
「こうしてれば、迷わないだろ。モンスター以外では離さないからな」
「うん! わたしも離さないからね」
二人はしっかりと手を握り合って、みんなの下へと帰りました。
「本当に迷子になることないだろ!!」
「そうだけど! そうなんだけど!! みんな、本当にごめんね」
「まぁ、慣れてますからね」
「ぱーるぅ、見つかってよかったお!」
「見つかってよかったデシ!」
ノルも嬉しそうににこにことして、パステルはみんなの優しさに涙腺が緩んでしまいました。
「さっ、行こうぜ」
パステルの頭をポンっと叩き、リーダーが号令をかけました。
「うん!」
トラップ、クレイ、パステル、ルーミィ、シロちゃん、キットン、ノルの順に、クレイとパステルはしっかりと手を握り合ったまま、進んでいきました。
「お!お宝があるぜ!!!」
「どこどこ?」「宝箱か?」「ルーミィも見たいお!」「ボクも見たいデシ!」とみんなが一斉に身を乗り出しました。
「皆、慌てるな!罠だったら如何するんだ!!」
クレイの一言に、ズザザッと音がしそうな勢いで、トラップ以外が遠のきました。
「こういうのはおれに任せとけって」
トラップは得意げにそう言うと、鼻歌交じりに宝箱を点検しはじめました。
「どうだ?」
「鍵はかかってないが、変な罠があるな!」
「頑張って、トラップ」
「とりゃー、がんばるんらおう!」
「がんばるデシ!」
「うるさい!!あっ!(汗)」
「へまをしましたねぇ」
キットンがしみじみとわかりきったことを告げると、宝箱から大音量のアラームが鳴り響きました。
「おわっ!」
トラップは慌てて宝箱のフタを閉じました。
「な、何あれ!」
「パステル!!!危ないっ!!!」
クレイがパステルを抱えて、脇へ飛びのきました。
「大丈夫か!? みんな」
「大丈夫だ」
ノルはルーミィとシロちゃんをかばっていました。
「クレイ、そんなにがっちりつかんだら痛いよお」
「え? あっ、ご、ごめん」
「でも、ありかと。私をかばってくれたんだよね」
「だけど、痛い思いをさせちゃったな」「ううん。それくらい平気」「ほんとか?」と状況を忘れたかのようにクレイとパステルが二人の世界に入って行こうとすると、アラームでモンスターが2体現れました。
「スライムですね〜 すばしっこいですがたいした事ないですよ」
「んじゃ、クレイ、ノル、よろしく頼むわ」
トラップがひらひらと手を振ると、クレイは多少の文句を言いながら、ノルは無言でスライムに向かっていきました。
「お前が失敗したからきたんだろ!少しは手伝え!トラップ!!」
「スライムくらい、おれがいなくても平気だろ」
「戦う意欲だけでも見せたらどうですかね」
「そうよ、トラップ。」
「そうおー、とりゃーっぷ」
「はいはい、わぁったわぁったよ。ったく」
パステルとルーミィに責められ、トラップは重い腰を上げました。
「もう終わったよ」
が、非情な一言をリーダーから告げられました。
「なんだよ、そりゃ!!」
「あんたが遅いからですよ」
「まったく。クレイ達を見習ったらどうなの?」
「うっせー!」
「まぁまぁ、無事終わった事だし、良かったじゃないか。」
「そうですね。あんたの活躍の場はまだあるでしょうから、先に進んでください」
口々に言われ、落ち込むトラップ。
「元気出せ、トラップ」
「とりゃーぷ、どうしたんらあ?」
「ぅ、うるせぇー。はぁ〜ったく、さっさと次行くぞ、次!!」
そう言うとトラップは、スタスタと早足で奥に行ってしまいました。
「まったく…あのひねくれた性格はどうにかならないですかねぇ…」
「無理だろうなぁ」
幼馴染に太鼓判を押されました。
「トラップ兄しゃん怒ってるデシか?」
「怒ってるわけじゃないよ」
「トラップを見失ったら大変だ!行こう!」
クレイたちは、トラップの後を追いかけました。
「おい、トラップ。勝手な行動するなよ」
「わぁってるよ」
不機嫌そうにトラップが答えました。

先の道が右と左に分かれていました。
「左に行くか」
と、クレイが言うと、
「俺は右だと思うぜ!」
と、トラップが言いました。
「右ですね。不幸なリーダーよりは馬鹿な盗賊の方がましでしょう」
「不幸って言うな」
「だれが馬鹿だってぇんだ!」
「あんたですよ」
クレイはいじけ、トラップは怒り、キットンは冷静に指摘しました。
洞窟内が、とたんに騒がしくなります。
「進もう」
喧騒を中断させたのは、ノルの一言でした。
「そ、そうだ。馬鹿言ってると日が暮れる。進もう」
クレイとパステル以外の全員がぞろぞろと、クレイが提案した左ではなく、トラップが提案した右に進んでいきました。
「ちょ、ちょっと、みんな。どっちに進むかまだ決めてないよ?」
パステルが声を張り上げましたが、誰もとまる気配がありません。
「おれの運の悪さは折り紙つきだからしょうがないさ。パステルだけでも行かないでくれて嬉しいよ。ありがとな」
「そんな、たいしたことじゃないよ」
照れ笑いするパステルをクレイは優しく見つめました。
「いや。嬉しいんだよ」
「クレイにそう思ってもらえたなら良かった。わたしでも、クレイの役に立てるかな」
「当たり前だろ。パステルがいてくれるから、頑張れるんだ」
「クレイ・・・」
「パステル…」
クレイがパステルを抱き寄せました。
薄暗い洞窟の中で、二人は身を寄せ合って、お互いへの想いを実感していました。
「ぱぁーるおなかぺっこぺこだおぅ!」
ルーミィが、パステルの背中に引っ付きました。
「きゃ!! 」
「うわっ!」
「こんなとこでいちゃついてんなよな」
ニヤニヤと笑いながら、いつの間にか戻ってきていたみんなを代表するように、トラップが言いました。
「べっ、別にいちゃついてなんていないわよ!」
「名前を呼び合って見詰め合ってたように思いますが」
「くれいしゃんとぱすてるおねーしゃん、くっついてたデシ」
クレイとパステルは、さんざんからかわれることとなりました。
「そ、そんなことより早く進もう!」
話を切り上げるように、クレイが大きな声を上げました。
「そうよ! ぐずぐずしてたら日が暮れちゃう」
そんなクレイにパステルも同調します。
「はぐらかすんじゃねえよ、このご両人」
「本当ですよ、どうしたんですか?2人揃って。・・怪しいんだからなぁ。」
ですが、トラップとキットンには通用しません。
(そんなこと言われたってどう答えろっていうのよ〜)
パステルは困り顔です。
(パステルが困ってる。おれがなんとかしないと。でも、どうしよう)
自分がしっかりしないと、と思いながらも、トラップたちの口撃から逃れるすべのないクレイ。
(なんでこう、あからさまに慌てるんだかな。「からかってください!」って言ってるようなもんじゃねぇか)
トラップは楽しくて楽しくてしかたがないようです。
「ぱーるぅはくりぇーがすきなんらおね?」
「ル、ル−ミィ!!ちょっとだまってて!!」
唐突に言いだしたルーミィの口を、パステルが押さえ込みます。
「な〜んだぁ!そうなんですか!ぎゃっはっはっは!!」
我が意を得たりというキットンの大きな笑い声が洞窟内に響きます。
パステルは思わず、ルーミィの口から手を離して自分の耳を押さえました。
「くりぇーもぱーるぅがすきなんらお。なんですきらっていわないんら? ルーミィはぱーるぅもくりぇーもみんなもすきらお!」
ルーミィには、素直に自分たちの気持ちを言わないクレイとパステルが不思議なようです。
「おーおー、ルーミィのほうがよっぽど素直じゃんか」
「お、おれもパステルが…って今は冒険中じゃないか! 気を抜いてるとモンスターが出てくるぞ!」
「またそれですかぁ。いい加減、認めちゃってもいいじゃないですか。祝福しますよ」
クレイが再度、話の軌道を修正すようとしましたが、あっさりと戻されました。
「そーそー。なぁ、クレイちゃん?」
「ぐっ…」
そう言われてしまっては、クレイも言葉を返せません。
クレイは、ちらっとパステルを見ました。
「おれは、パステルを愛してる」
言って、クレイは真っ赤になりました。
「だから、その、えっと、これからもよろしく」
誰にむけて言ったのか、クレイはぎこちなくそんなことを言いました。
「わたしも、クレイが好きだよ。大好き」
クレイに触発されたのか、パステルもクレイへの気持ちを告げましたが、真っ赤になって、何も言えなくなりました。
「ひゅ〜!」
「青春ですねぇ」
トラップがからかうように口笛を吹くと、キットンも羨ましそうに言いました。
ノルは顔を赤らめて、何を言えばいいか困り中です。
「わぁ〜い!わぁ〜い!」
よくわからないなりに、いい雰囲気を察したルーミィは飛び上がって喜んでいます。
「良かったデシね」
シロちゃんも嬉しそうです。
「みんなの前ではっきり言ってくれたのは、はじめてだね」
「正直な気持ちだから。良かったかな」
クレイとパステルは、お互いを見詰め合ってにこにことしています。
(誰か突っ込んでやれよ)
しばらくは温かく見守っていた仲間たちでしたが、いつまで経っても見詰め合っているクレイとパステルに、少々呆れ気味です。
(あおったのはわたしたちですからねぇ)
ひそひそとキットンが返します。
「ぱーるぅ、ルーミィおなかへったおぅ〜〜」
「あっ、そうね。そろそろ食べようか」
ルーミィの鶴の一声により、クレイとパステルの呪縛が解けました。
「ノル、出してくれるか?」
ノルがごそごそと荷物から食料を取り出します。
「なんか、食ってばっかな気もするな」
「そんあことないおう! とりゃーはたべうるふとうから、ルーミィがとりゃーのぶんもたべるお」
「よけーなお世話だ!」
トラップとルーミィのそんな会話が交わされながらの賑やかな食事が終わりました。
「ルーミィ、もう食べられないおう……ムニャムニャ……」
食べ終わると同時にルーミィは夢の中へと旅立ちました。
「さ、先に進もう」
「そうですね。ゆっくりしてる時間もないですし。」
そんなルーミィに気がつかないクレイとキットンが立ち上がりました。
「待って待って。ルーミィ、ねぇ、起きて」
パステルが、ルーミィを揺り起こします。
「・・・ぱ〜る・・・・・・zzz」
「ノルゥ・・・・ルーミィおんぶしてくれる?」
目を覚まさないルーミィを、ノルに頼みました。
「分かった・・・おいで、ルーミィ」
ノルがルーミィをおんぶしたとき。
「何だよ、途中で止めるなよ!」
ナレーションにトラップが突っ込みを入れたときに、意外な人物がパステルたちの前に現れました。
「あれっ?何で皆がここに・・・」
目を丸くして立っていたのは、マリーナでした。
「えっ!?」
「どうして・・・」
「ここに・・・」
「マリーナが」
「居るんだ?」
「居るんだおう!?」
「でし!!」
パステル、クレイ、トラップ、キットン、ノル、ルーミィ、シロちゃんの順番の言葉に驚いたマリーナは少し引いてしまった。
「何でここにいるかっていわれても・・・・。ある人に連れてこられて・・・」
「どんな人に?」
パステルが興味津々でマリーナに聞きます。
一生懸命思い出すマリーナ。
「確か。フードをかぶった男の人でね、腕にロケット型の腕輪してた」
「え・・・もしかしてあいつがここに?」
少し考え込むパステルは、手を組んだ。
「あいつって・・・その白いフードかぶってる男の人の事知ってるのか?」
「え・・・うん。幼馴染なんだよ・・・もしあいつだったら」
クレイが聞くと、パステルは頷きました。
「もしかしてパステルの初恋相手ですか?」
キットンのその言葉を聴いた途端、パステルの顔が真っ赤になった。
「ちっ違うよ!ただちょっと遊んでただけなんだから!!」
(パステルの初恋相手・・・)
パステルの反応に、クレイはそれが事実であるらしいと思いました。
(はぁ・・・キットンのやろう・・・)
幼馴染の深刻な様子に、トラップはキットンを軽くにらみました。
(もしかしてまずい事言っちゃいましたか?)
(言っちゃっただろ)
トラップとキットンの間で、アイコンタクトが交わされました。
「ところで、マリーナ。パステルとその人の関係はわかりましたが、なぜあなたがここに連れて来られているんですか?」
「そうだ! どうして二人っきりでこんなところにいるんだよ」
話題を変えようとしたキットンでしたが、今度はトラップがマリーナに詰め寄りました。
「それがね、皆が危険な目に合ってるからって言われて・・・」
「え? そんな事あんまり・・・あ」
パステルの発言直後、クレイの嫉妬が爆発しました。
「パステル、本当にそいつが初恋の相手なのか?」
「え? えっと」
(どうしよう。クレイ、なんか怒ってるみたいだけど…)
パステルがしどろもどろしていると、フード男が「そうだよ」と余計な事を言ってしまった。  
「ちょっ・・・何言って!?」
(パステルが・・・赤くなった!!)
クレイはどんどん嫉妬が大きくなっていった。
「どうしてアンタがコンナとこに・・・」
クレイの様子に気がつかないパステルは、フードの男に話かけています。
(クレイからジェラシーが・・・)
キットンは危険を感じて、クレイから少し離れました。
(ジェラシーの固まりかよクレイは)
「なぁなぁ」
トラップは、再び話題を変えようと、クレイを呼びました。
「どうしたんだよ?」
不機嫌なクレイが、ぶっきらぼうに答えます。
「クレイ、トラップ。パステルとさっきの男が居ない」
この状況下で最も冷静であろうノルが、真っ先に異変に気がつきました。
「あ・・本当だ。」
キョロキョロと辺りを見回したマリーナも同意します。
「なっ!」
(やべぇぞパステル。クレイがばくはつするぜこりゃ)
その頃パステルたち二人は・・・。
「はぁぁ・・・、何でこんなところに・・・・」
「俺だって好きでこんなじめじめした所に来たんじゃないつの」
「それなら、どうしてここにいるの? マリーナまで連れて来て」
パステルとしては、そこが気になりました。
「親父から命令されたんだよ!!」
「王様から!?何でそんな事いちいち・・・?」
言いかけたパステルの言葉が止まり、何かに気がついたかのようにはっとしました。
なっなんと!!
「!?まさか・・・あの事・・・?」
男は国の皇子!?それにあの事・・・とは?
「こ・・・」
パステルが言いかけた時、クレイ達が二人のところに駆けつけました。残念!
「パステル!こんなところに居たのか?」
「あっ、クレイ!!」
(はぁ・・・よかったぁ。ばれずに済んだ?かも)
途中で止めて良かったと、パステルは胸をなで下ろしました。
クレイはパステルにばれないように、男の事をにらんだ。
「パールゥ・・・お腹ペッコペコォ・・・だぉ・・・」
「ルーミィッたら、夢でもお腹すいてるのかしら」
パステルの声にルーミィは目を覚ましました。
「やっやだ、ルーミィまだ寝ててもいいのよ?」
「違うお!ルーミィお腹ペッコペコなんだオ!!クッキィ!クッキィ!」
ルーミィは、クッキーを求めて、
「おにーちゃん。くっきーもってうか?」
「おれ!?」
ルーミィに指名されたフードの男はびっくりして自分を指差しました。
「ちょっと、ルーミィ。恥ずかしいでしょ。ごめんね、気にしないで」
「あぁ。別に気にしやしないけど」
「なぁ、ちょっといいか?」
なごみはじめた場に、似つかわしくないクレイの硬い声が響きました。
「??」
パステルは、なぜクレイが怒っているのかがわかっていません。
「あ〜あ、マリーナのせいだな・・・こりゃ」
「何で私のせいなのよ!!」
マリーナはトラップをキッとにらみながら言った。
「お前があの男連れてくるからクレイが怒ったんだよ!」
「・・・サライのせいでクレイが怒ってるの?」
パステルは頭にクエスチョンマークを浮かべながらトラップにといた。
「サライ・・・・?」
トラップもまた、クエスチョンマーク・・・・。
「うん。、幼馴染で・・・昔付き合ってたんだけど・・・なんかうまくいかなくって私が最後にフッタの」
「え・・・・」
トラップが絶句しました。
「パステルが・・・?」
マリーナは目を丸くしています。
「さっきの人を・・・」
キットンは信じられないという顔です。
「フッタ?」
ノルはなぜかカタコトです。
「のかぁ!?」
「デシか!?」
ルーミィとシロちゃんは同時に叫びました。
「なっ・・・何よぉ!悪い?」
あまりの驚かれように、パステルは気を悪くしたようです。
「や・・・別に悪かぁないけどよ」
「あの人結構カッコイイと思うんですけど・・・」
「フラレたの間違いじゃ・・・」
「ちょっと! 失礼ね!」
みんなが話している間も、クレイは一人で考え込むように押し黙っています。
「だからね、クレイ。クレイが怒るようなことは何にもないんだよ。わたしが今好きなのは、他でもないクレイなんだから」
パステルが言い募ると、クレイはほっとした感じに微笑んだ。
「ね?」
「へぇ・・・、てことはこいつ等に言ってきてもいいんだよな?」
サライが不敵に笑います。
「ちょっ!」
パステルは、顔をこわばらせて怒鳴った。
「何の事だい?」
クレイが不思議そうに問いかけます。
「べっ・・・別になんでもないよ!そうでしょ?サライ」
パステルはサライと言うフード男に同意を求めました。
(・・・何か大変な事になる気がする)
ノルの考えは的中してしまいます。
「ね?そうでしょ、サライ!!」
一生懸命同意を求めるパステルだが、サライはまったく答えようとしない。
(何かありますねぇ・・・。クレイには悪いですけど、これは暴きたくなることですね)
キットンの好奇心に火がついたようです。
「別に・・・何もないってわけじゃない。ま、俺とパステルの関係ってのは″・約者"てとこかな」「うぁっ!!なんで言っちゃうのよ!バカァ!!!」
カァァッと真っ赤になるパステルに、クレイは敏感に反応した。
「こいつが・・・」
「パステルの・・・ッ」
トラップの後をマリーナが引き継ぎました。
「こ・・・」
「婚・・」
ノルは最後まで言えず、キットンが取って代わりました。
「約・・・」
「者ぁぁ―ーーーっ!?!?!?」
マリーナの後をトラップが引き継ぎました。
「パステルの・・・婚約者?」
クレイはパステルの顔を見た。ところで、ルーミィとシロちゃんは何がなんだか分けが分からないようで、皆の顔を見ていた。
「「こんやくしゃ」ってなんだぁ?」
「えっと、クレイしゃんとサラお姉しゃんみたいな関係デシ。つまり、パステルお姉しゃん」
シロちゃんは、パステルの行動に気付き、途中で話を止めた。
「え・・・なっ何?」
クレイの腕をつかんで、説明をしようとしていたパステルは、みんなの注目に気がついて、みんなを見回しました。
「パステルと俺が婚約者」
クレイがいきなり変なことを言いだします。
(クレイが壊れた)
トラップはクレイを気がかりそうに見つめました。
「ど、どうしたの? クレイ」
「おれも、早くパステルと婚約しようかな」
「クレイ…」
パステルは戸惑ったような、嬉しいような、複雑な表情でクレイを見上げました。
(何かややこしい事になりそうだぜこりゃ)
トラップは内心でため息をつきました。
「毎日子作りに専念しような。」
「クレイ、おめぇ、ちょっと黙ってた方がいいぞ」
どんどん壊れた発言をしていくクレイを、トラップが止めました。
(パステル、クレイをもっと安心させてあげてください。いきなり実は婚約者がいました、なんてどれほど傷つくかはあなたが一番よく知ってるでしょう)
(だ・・・だってぇ。お父さんが決めちゃったんだもん!)
キットンの助言にもパステルは困惑するばかりです。
「はっきり言って、お前がパステルの婚約者なんて無理だぜ?」
「何でだよ」
サライの言葉に、壊れていたクレイが立ち直りました。
「パステル、何か知ってるんじゃないですか?」
「え・・えっと、だって・・・。知ってるも何も私、好きで婚約者なんて座にいるわけじゃないんだもん。」
「ま、俺の親父の権力ってやつかな」
「権力?」
サライの発言に、マリーナが敏感に反応しました。
「マッ・・・マリーナ・・・」
聞き流してほしいパステルは、マリーナが追求しないように名前を呼びました。
「権力って何だ?美味しいんかぁ?」
「違うぞルーミィちゃん。権力ってのは偉いって事なんだぜ。つまり王族とかな」
「お前王族なのか!」
トラップの目がキラリと光る。
「ちょっとトラップ、そんな事どうでもいいじゃない!!」
トラップの考えていることが手に取るようにわかるマリーナは、トラップを叱咤しました。
「そうですよ!」
(大体クレイの事を考えてあげてくださいよ)
(わりぃ)
お宝に心を奪われそうになったトラップは、キットンに素直に謝りました。
「そんな事よりもさっさと家に帰らねぇと俺また殴られんだよなぁ」
「じゃあさっさと帰りなさい!一人でね!」
「えーーー・・・?」
「甘えてないでさっさと帰って!」
堪忍袋の緒が切れたとでもいうように、パステルはサライにきつい言葉を投げかけました。
「パッパステルが・・・」
「怖い・・・」
パステルが怒鳴ると、トラップとキットンはズササッと引きました。
「なによ! なんか文句ある!?」
「め、滅相もない」
「一言の文句もありません」
「よし!」
腰に手を当てて自慢げに言うパステル。そして、シロちゃんはあることに気づいた。
「トラップあんちゃん、パステルお姉しゃんの髪がほどけてるデシ!」
「?これでいいんだよ」
なぜシロが慌てているかがわからずに、パステルは自分の髪をさらりとなでました。
「ダメに決まってんじゃん。お前これ以上被害を増やすな」
「あ!!」
フードの男は手馴れた手つきでパステルの髪を結いなおした。
「・・・あれ?今まで私何してたの?」
辺りを見回しながらつぶやくパステル。
「・・・?」
トラップは怪訝そうにパステルを見ます。
「パステル、大丈夫か?」
「え? うん…」
クレイが尋ねると、パステルはどこかぼんやりしたまま答えます。
「お前は何者なんだ!? パステルに何をした!」
パステル、ルーミィ、シロ、マリーナをノルに預け、クレイたち三人はフードの男を取り囲みました。
「??」
パステルは突然の展開についていけないようです。
「俺の勝手だろ?大体、あのままのパステルをほっとけば、絶対怪我人出てたし」
「パステルが髪を解くと、何かあるということですか?」
「そんなわけねぇだろ。こいつのはったりだ」
「それはどうかな・・・。くっくっ・・・」
「どういう意味だ?」
「パステルにはな、呪いがかけられてるんだ。髪を解くと別人のように凶暴になる。そういう呪いがな」
「の・・・」
「ろ・・・」
「い・・・」
トラップ、マリーナ、キットンが一文字ずつ言います。
(おっ俺にも言わせてくれ!)
ノルの心の叫びは誰にも聞こえませんでした。
「のおいって(のろい)なんだぁ?」
「あのデシね、・・・。えっと、のろいって言うのは、・・・クレイしゃん見たいに不幸になったり、方向音痴になる事なんデシ!」
「こっ・・・これは・・」
「誰が教えたのかしら」
クレイとパステルはガッとトラップをにらみながら言った
「なっ何で俺を見るんだ!」
「あんたしか・・・」
「いないだろ・・・」
パステルとクレイに、トラップがぼこぼこにされたのは、言うまでもない(言ってるけど)。
(息ぴったり・・・)
マリーナはクレイとパステルのコンビネーションに見ほれていました。
「お―い。気付いてないんだろうから教えるけどさ、モンスタ―がどんどん寄ってきてるんだけど」
「・・・うそ・・・・・。じゃっなーーーーいっ!」
「そう怖がらなくってもさ、昔みたいにやればいいのに!」
サライは楽しそうです。
「昔・・」
「みた・・・」
「い・・・」
「に・・・?」
クレイ、トラップ、マリーナ、キットンが順に言います。
(だっだから何で必ずキットンで終わるんだ)
ノルが話す機会は、こうしてまた失われました。
「どういう意味だ!」
「クレイ、モンスターが先だ」
サライに詰め寄るクレイに、ノルが冷静な判断を下しました。
パステルたちはすでに戦闘態勢にはいっており、マリーナはトラップが守っていました。
「速く倒して何のことを言ってるのかを聞かなければ!」
フードの男への怒りをモンスターにぶつけるようにして、クレイはどんどんモンスターを倒しました。
「うわぁっ」
「パステル!」
倒れたパステルに迫るモンスターをクレイは一撃でなぎ払いました。
「あ ///」
「あ〜あ、つまんねぇの」
クレイたちがあっさりモンスターを倒したことが不満のように、サライが言いました。
「何がだよ皇子さん」
「クレイに焼き餅でも妬いてるんでしょう」
手伝いもせず、「つまらない」と言い放つ王子に、トラップとキットンは軽蔑のまなざしを向けました。
「あ、ありがとう、クレイ」
「怪我はないか?」
「うん・・・。ていうかさぁ、いつまで居るのよサライ!」
クレイといい雰囲気になっていたパステルですが、サライへの怒りを思い出したのか、彼に詰め寄ろうとしました。
「パステルは関わらないほうがいい。トラップ、キットン、ノル。悪いけど、お前たちで話を聞いてくれないか?」
パステルがサライに近づくとろくなことにならないと知ったクレイは、パステルを押しとどめました。
「わかった」
「ってことで、きっちり話してもらおうか」
ノルがうなずき、トラップが口火を切りました。
「お前らになんかに言う義理は無いんだよな」
「思わせぶりなことしか言わねぇなら、とっとと帰れよ」
「あなたみたいな人がいても、混乱を招くだけですからね」
「わんデシ!」
シロまでもがサライに向かって牙をむきました。
「やだね。大体さぁ、俺の方がパステルと付き合いが長いんだぜ?お前らに関係ないだろ」
「パステルのことでわたしたちに関係ないことなんてありませんよ」
「お前は付き合いの長さしかないんだろ? 嫌われてるしな」
キットンとトラップは挑発するように言いました。
「ムカッ。あのなぁ、長さだけって言われてもなァ・・・。ここだけの話、俺とパステルは・・・キ」
「キャーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!」
サライが一文字を言ったところで、パステルが盛大に叫びました。
自分の耳はしっかり押さえてます。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
たった一文字でも、パステルの過剰な反応を見れば、何があったのか想像がつきます。
クレイは多大なるショックを受けました。
「そんな大声出すことねぇのにさ。」
サライがニヤニヤと笑います。
「いくらパステルとはいえ、それくらいあっても不思議はない年でしょうしねぇ」
「おれと出会ったときに14だぞ!?」
「子供だからこそ、抵抗がないんじゃないですか?」
「……もう、いい。過去のことを小出しにされたって、大事なのは今なんだから」
キットンと話しながら、クレイは落ち着いてきたようです。
「お前らちゃんと話聞いてたか?俺は、「キス以上までいったっていってるんだよ」!」  
「キャ―ーーーーキャーーーーーキャーーーーァァァッァァアァァァ」
パステルの声が洞窟中に木霊し、皆の耳を壊しかけたのは言うまでもない。
「どういう意味だ!!!」
落ち着いたはずのクレイが、険のある声で叫びました。
(あぁ〜あ、パステルもパステルだよな)
(パステルも叫ばなきゃいいのに)
トラップとマリーナは、サライにいいように翻弄されるパステルに呆れ気味です。
(否定すればどうにか誤魔化せたでしょうに)
(クレイ・・・パステル・・・かわいそうだ)
キットンもパステルの馬鹿正直さに呆れ、ノルは二人に同情しました。
(みっ耳が痛くてキンキンするおう・・・・・・・)
ルーミィは頭がぐるんぐるんしています。
(うぅ〜・・・記憶がぁっ、闇の世界がぁ!!迫って来るデシィ)
シロちゃんは何かの記憶に触れたようです。
「大嘘ばっかり言わないでよ! クレイ、信じないよね?」
「当然だ。14の子供にそんなことしたら、犯罪者だからな」
パステルの言葉に、クレイが力強くうなずきました。
「はぁぁ・・・、誰が最後まで行ったなんていったよ」
(何なのよあのサライって人・・・)
(ただの馬鹿なんじゃないか?)
(ほっといた方がいいと思うんですけどね。構ってると話が進まないですよ)
マリーナたちはひそひそとサライ追い出し計画を立て始め、クレイとパステルは二人の世界に入っていました。
「クレイ…信じてくれてありがとう」
「おれにとっては、パステルを信じるのは当たり前のことだからな。今、おれの隣にパステルがいてくれることが重要なんだ」
「お前ら恥ずかしくねぇわけ?そう言うのは陰でするもんなんだよ」
イライラとサライが二人に近寄ろうとします。
「帰れ」
クレイとパステルにはサライの声は届いておらず、サライの前にはノルが立ちふさがりました。
(サライは帰ってもらわなきゃ!でも・・・・そんな事したら・・・?)
クレイの腕の中で、パステルは不安に怯えていました。
「俺さぁ、そんなでかい図体で前に立たれたら、つぶしたくなるんだよねぇ・・・」
「なにっ!?」
ノルの叫びの直後、サライが倒れました。
「おめぇはもういいんだって。大人しく寝てろ」
トラップの攻撃がクリーンヒットしたようです。
「今日はもう帰りましょう。この人はここに置いておけばいいでしょう」
パステルたちはマリーナも連れて、シルバーリーブへと戻りました。
「///」
「あれっ」
パステルの顔が真っ赤で、ふらふらし始めました。
「どうしたんだい?」
真っ先に気づいたクレイが、さらに言葉を重ねました。
「熱でもあるんじゃねぇの?」
「そうですねぇ・・・・、ザッと・・・三十八度三分」
「そっそんなにか!?」
「あっ、いや、簡単に言っただけですから、実際は分かりませんって」
「そっか・・・、こんなときなのに、私これから仕事なのよ・・・。帰らないと」
そういうとマリーナはすまなさそうに帰っていきました。
「俺、水貰ってくる。」
「ではわたしは薬をせんじてきます」
「ルーミィとシロが居ると騒ぐだろうし、連れてくわ」
それぞれがパステルとクレイに遠慮し、それぞれの役目を果たしに行った。
「ご・・・めんね、世話・・・かけて」
「何言ってるんだよ、仲間だろ?」
「仲間・・・か、昔居たなぁ・・・・そう言う人達」
パステルは遠い目をして、つぶやいた。
「どういう意味だい?」
「冒険者になる前、まだ両親がいた頃に、仲のいい子たちがいたの」
目をふせ、さっきまでの体調が少し和らいだような顔をした。
「その友達と一緒にいろんな所に行ったりした、他にも買い物とか・・・もね」
「名前は・・・?」
「サライ」
(!!)
「サライだけじゃないよ。他にも何人かね」
「…そっか。もう寝た方がいい。あまり話すと疲れるからな」
「そうだね、そうする」
パステルは静かな寝息を立て始めました。
(パステルはどうしてあいつの話ばかりするんだろう。おれがなんとも思ってないと思ってるんだろうか。パステルはそんな無神経な子じゃないはずだけど…)
(こんな風にサライのことを話すことなんて無神経だってわかってる。でも・・・)
心の中で、悲しい顔をするパステルに気付くことなく、クレイは沈んでいった。
(でも・・・私はサライと付き合ってた頃の事を・・忘れられない・・・)
パステルがそう思った瞬間、サライの声が聞こえた。
「おい!そっちにサライ来なかったか!?」
「声だけだ!」
「くそっ、さっきルーミィ達と散歩に出かけたときなんだけどよ、サライが現れて」  
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっっギャがーーー!!!!!!」
キットンがトラップの声を遮って、叫び声が聞こえました。
「キットン!?」
「キットン!? あのバカ・・・」
「キッ・・・トン?」
「キットン!」
ノルがいち早くキットンとサライの元にたどり着き、トラップも後から現れました。
「クレイ! おめぇは絶対そこから離れんな!」
「わかってる!!」
パステルの手をぎゅっと握り、クレイはパステルの傍を離れませんでした。
「あ・・・っ」
「あ・・・ごめん。強く握りすぎた」
「ううん、いいよ」
そう言うやり取りを見ていたサライは、パチンッと指を鳴らした・・・・。
「キャアアァァ」
「パステル!」
ベッドから浮かび上がったパステルの体を、クレイが必死に押さえつけた。
「ノル!」
ノルもクレイに加勢した。
「くそっ、どれだけ魔力が強いのか分からない!」
「俺の力を見くびるな。お前たちの力じゃ叶わないんだよ!」
サライはパチンッと指を鳴らしました。
「あっ・・・キャアァアッッ!!!!」
パステルとクレイとノルが、サライの方へと飛んでいきました。
「どいてー!!」パステルの叫びもむなしく、サライはノル、クレイ、パステルの下敷きになりました。
「アレは重いでしょうねぇ(笑)」
「あ〜あ、ありゃ完全にノビてるな」
意識を失っているサライを見て2人は笑いました。
「うぅ・・・・、おーもーいーっ!!!」
「パステルは一番上にいますよ」
誰かに乗っかられていると思ったパステルは、自分が一番上にいたことに気が付き、慌ててクレイの上から降りました。
「ノル、大丈夫か?」
「なんともない」
「お前等」
「ん? 息も絶え絶えに何言ってんの?(笑)」
「俺を怒らせたな・・・。ぶつぶつぶつ・・・」
「! 皆!ふせて、危ない!!!」
「もう遅いんだよ!!この俺を怒らせたんだからな!!」
「パステル!」
「クレイはパステルを抱えて床に伏せました」
「いってー。おい、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「あんだよ、偉そうなこと言ってなんにもなってねーじゃん」
「ルーミィ!」
トラップが安心したとたんに、ノルの叫びがこだましました
「ぱーるぅ、くりぇー」
サライに抱きかかえられたルーミィが小さな手を必死に伸ばしても、パステルやクレイには届きません。
「おいおい、てめーロリコンかぁ?」
「馬鹿なことを言うな。この子を返してほしかったら、パステルを渡してもらおうか」
ルーミィを抱きしめたまま、サライはじりじりとパステルに近寄りました。
「悪役の決めゼリフという感じですね。もうちょっとヒネらないと頭が悪そうに聞こえますよ?」
「てめーらなぁ・・・、いいか!?俺は皇子なんだぞ!そんなこといったら極刑にさせるぞ!?」
「ぶつぶつぶつ・・・いい加減にしなさいよ・・・。それで男?小さい子を人質にして、挙句の果ては極刑・・・?本当にいい加減にしてよ!!!」
パステルがキレました。
「パ・・・パステル?」
「げ・・・やっべぇ・・・。・・・、こういうときは、逃げるが勝ちだ!!」
サライは一目散に部屋から逃げ出そうとしました。
「あっ、逃げやがった!」
「待ちなさーい!!!」
キレてしまったパステルを誰も止めることはできません。サライはあっという間に捕まり、子どものようにお尻ペンペンされています。
「悪い子はお尻ペンペンです! 反省しなさい!!」
「パステルはいつからあんな豪快な性格になったんでしょうねぇ」
どさくさにまぎれて、ノルがルーミィを助け出しました。
「ルーミィ、良かった」
「こあかったおう!」
「ルーミーしゃん大丈夫デシか?」
「もうらいじょーぶらお」
「そっか・・・。」
安心したパステルは、サライをパッと放し、落としてしまった。
「あ〜あ、いったそ〜。ま、いい気味だけどな」
「ふん、べぇ〜っだ!!!」
パステルはサライに思いっきりあっかんべーをしました。
「また失敗したのかよ、俺。 なっさけねぇ」
「珍しく素直じゃないですか」
「おれたちに攻撃してきたり、パステルとのことをいちいち暴露したり、迫ったりしないなら、話くらいは聞く。何か用があるんだろ?」
クレイの言葉に、ノルもウンウンとうなづいています。
「そうするって言って信じるのか?」
「そう言うのなら信じるさ」
「やだね。お前たちになんか言うわけ無いだろ? 国の一大事なんだからな、人間になんか言うか」
「ふ〜ん、一大事なんだ」
「言わないとか言っておきながら」
「言ってしまってますね」
「あぁ」
「だおぅ!」
「デシ! 」
サライの間の抜けた発言に、パステル、トラップ、キットン、ノル、ルーミィ、シロちゃんが呆れました。
「で?」
パステルが続きをサライに聞きますが、
「それならもう来るな。迷惑だ」
珍しく、クレイが冷たい言葉を言い放ちました。
「このお兄ちゃんは、ルーミィにお菓子くれたんだお?だから、悪い人じゃないんだお?」  
「ル・・・ルーミィ・・・」
いとも簡単に洗脳されてしまったルーミィに、パステルは焦りました。
「でもよぉ、こいつはお前を人質にしようとしたんだぞ?」
「それより、その国の一大事っての、聞かせてくれる?」
「パステル!?」
「クレイは黙ってて、国の一大事って聞いたら、ほっとけないもん。あの国には、友達とか、親切にしてくれたおばさんや」
少し悲しい顔をしてうつむいた後、ぱっと頭を上げて、空を見上げた。
「それ以外にも・・・、たくさんの人が居るんだもん」
「そ・・・そうですねぇ。冒険者たるもの、事件だと聞いたらほうっておけないのが普通ですし・・ ・」
「あぁ・・」
「だな、キットンとパステルの言う事も一理あるしな」
勝手に事を進めているパステルたちに、クレイは着いていけずにいた。
「くりぇ〜?」
ルーミィが心配そうにクレイを見上げています。
「サライがガイナに来ていた時に仲良くなったって話だったけどな。おれには嘘しかつけないのなら、もういいよ。勝手にしてくれ」
クレイはそういうと部屋から出て行ってしまいました。
「クレイ!!」
「パステルはクレイが好きなんですよね?」
場違いとも取れることをキットンが言いました。
「うん。好きだよ」
「それならもうちっと、クレイのことも考えてやれよ。ずーっとサライのことばっかじゃねぇか。いくらクレイでも怒るときは怒るぞ」
(そっか。そうだよね。今のわたしはクレイの恋人なんだから、クレイを一番不安にさせちゃいけなかったのに)
これまでの自分を振り返って、パステルは反省しました。
「パステル」
落ち込むパステルにノルが声をかけます。
「ん?」
「あいつさぁ、勘違いしてねぇか? 誰もガイナに行っただなんて言ってねぇよな」
「うん・・・」
「クレイしゃんを連れ戻して誤解を解いたほうが言いでしか? それなら僕が連れてきますデシよ?」
「あぁ、頼んだ」
(大体・・・、クレイもしっかりしろよな・・・。パステル思いっきりサライとあいつの間で・・・困ってるじゃねぇか)
トラップはそんなことを思いました。
パタパタと羽を羽ばたかせながら、シロちゃんはクレイを宿の中から連れ戻してきました。
「あのね、クレイ。さっき仲間みたいに遊んだって言ったけど、誰もガイナに来てたサライなんて言ってないでしょ?」
「え・・・?」
「サライと会ったのは、お父さんがお仕事で、私もつれられて国に来たの!そもそも、何でサライが城下に居たのかがなぞなんだけど」
さっきまで落ち込んでいたわりには妙に強気なパステルです。
「なら、パステルは幼い頃はずっとサライの国にいたんだな? 洞窟のところで幼馴染って言ってたからな。そう言われたから、おれはサライがガイナに来てたもんだとばかり思ってたけど」  
「んー・・・、そうじゃなくって・・、あのね。家族で仕事に言ったり来たりすると、必ずサライの国の領地内なの。それで、お父さんが仕事で居ないときは、サライと一緒に遊んでたから、ずっと居たってわけじゃなかった・・・の」
「サライは長男じゃないんだな? 王族がそれだけ頻繁に城下にいるってことは。王位継承者じゃないからって、普通はそれほど城から出れないとは思うけど」
「ううん、サライは長男だよ?ただ・・・・」
「ただ・・・?」
「えっと・・・」
「いったい何なんですか!」
「んな焦らすこたねーだろ?」
クレイとパステルのやり取りに、キットンとトラップが焦れて怒り出しました。
「あ・・・あのね、スーパー家出少年って言う異名を持ってるほどの・・・家出少年って言うわけで・・・」
「はぁ?!」
と、トラップが大きな声を上げました。
「王族の一員としましては、そんな責任感のない王位継承者は情けないと思いますね。パステルはこういうタイプは苦手そうですが、あっさり騙されたんですか?」
「あ・・・いや、そう言うわけじゃなくって、えっと・・・」
「だから、ハッキリしなさいよ」
「マリーナ!?」
「先に帰ったんじゃないのか?」
パステルとクレイが驚きましたが、他のみんなも驚いています。
「仕事が終わったのよ」
「だからって、立ち聞きでもしてたみたいなタイミングで出てくるなよ」
「あら、失礼ね。入るタイミングがつかめなかっただけよ」
「そういうのを立ち聞きって言うんだろ」
マリーナはトラップを無視して、話を進めることにしました。
「ねぇ、パステル、これ、渡しておいたほうがいいかもね」
「え? 何?」
パステルの手に渡されたのは、一つの宝石・・・ではなく、それに似たように輝いている真っ赤な石だった。
「それは何ですか?」
「んー・・・、わかんないの」
「はぁ!?」
マリーナの言葉に、トラップが呆れます。
トラップは呆れてばかりです。
「・・・・これって、サライの家にあるやつと似てるね。 色違いだけど」
「サライとは城下で会ってたんじゃないんですか? 矛盾が出れば出るほどクレイが傷つきますよ」
「え? 城下であってたんだよ? サライが城の出入りに使ってた、小さな門の上の所にはめ込まれてたんだよ。」
「小さいとは言え、門の上なんて見えるんですか?」
「高さが1メートルちょっとくらいしかない門だからな。門と言うより勝手口って感じのヤツだ」」
「でも小さい割には、いろいろな模様みたいなのがあったのよねぇ」
サライとパステルが思い出しながら説明します。
「で、これはなんなんだ?」
クレイの一言に、みんなが一斉にパステルの手の中の玉を見ました。
「ふえっ!!??」
パステルがいきなり慌てましたが、なぜなのかは謎です。
「これが何んかのトラップの鍵になってるかもしれねーってことじゃねぇ?」
そう言いながら、トラップはパステルから玉を取り上げました。
「そうとも限らないだろう?」
「いえ、トラップのいう可能性はあるかもしれません。それだけ小さな『門』というのが気になりますね」
クレイは反論しましたが、キットンはトラップの意見に賛成のようです。
「マリーナはこれをどこで手に入れたの?」
「仕事先よ。エベリンに住んでるって言うことが知られたら、『シルバーリーブに住んでいるパステルという人に渡してください』って言われてね」
「そんなうさんくさいもん、捨てれば良かったじゃねーか」
「そうもいかないわよ。それに、サライと何か関係があるような気がしたの」
「何でだ?」
「ほら、この模様。サライのフードのトメ具と同じでしょう?」
「マリーナはトラップから取り、その玉の中にある模様をみんなに見せた。
「まじだ」
「ふーむ」
トラップとキットンがマリーナの鋭さに感心しました。
「さっき話してた「国の一大事」に関係するのか?」
「さぁな」
ノルが聞きますが、サライの返事はそっけないものでした。
「さぁな・・・って、自分の国なのに、知らないんですか?」
「知るも何も、親父がそのことについて絶対教えてくれねぇんだ。んなのわかんねぇっつーの」  
「じゃあとりあえず、なんで国が一大事なのか話してよ」
「こいつらの前で言いたくねぇけど、パステルの頼みなら仕方ねぇな」
「んな事どうでもいいからさっさと話す!!」
「かーくかくかくしーかじかじかどーちゃらこーちゃらどってんばってん」
「なっ・・・何言ってんだ?」
「おっ・・・俺に聞くんじゃない!」
「私にだって分かるわけ無いでしょ!?」
「ノ・・・ノル、分かりましたか?」
「い・・・いや」
トラップ、クレイ、マリーナ、キットン、ノルは困惑しています。
「ルーミィ分かったおぅ!!」
「ルーミィしゃんすごいデシ!!」
「そうらお、すごいんだお!!」
ルーミィとシロちゃんはそんなことを言っていますが、ルーミィに本当にわかったのかは不明です。
「そーらそらそらきーらききききなーしてこーして」
サライはいつまでもおかしな言葉で話し続けます。
「サライ!! 私は分かるとして、そっちのお国言葉じゃ、分かるものも分から無いでしょうが!!」
「パステルはバイリンガルだったんですねぇ」
「何ヶ国語しゃべれてもいいけどよ。あんま適当なことにするなよ」
パステルの設定が崩壊しかねない事態に、キットンとトラップがうんざりしています。
「実はパステル、サライと兄妹だったりしてね」
マリーナも、ここまでなんでもありなら、と冗談めかして言いました。
「パステルはガイナのご両親の子だよ。冗談でもそういうことは言わないでくれ」
パステルがあまりにもサライについてよく知っているためクレイはいつまで経っても不機嫌です。
「兄妹だったら俺とパステルが婚約者なわけないだろ?そんくらい考えろよな」
サライがマリーナの冗談に呆れたようです。
「それにしても、サライ、あの言葉って・・・・確か禁じられてなかったっけ?あんたのお父さんが分からないからって」
「どういうことですか?」
「これはカンでしかないが・・・、あそこの封印が破かれたことに『あの言葉』、関係があるのかもな」
「「あそこ」というのは、小さな門のことですか? 封印が破かれた場合は禁じられた「あの言葉」を話しても構わないと? 禁じられていた理由は?」
キットンが矢継ぎ早に質問します。
「それにしても、跡継ぎの王子様がパステルと婚約って無理がありすぎるわよね。他国の中流家庭のお嬢さんと簡単に婚約なんてできるわけないじゃない。この人、ただのうそつきじゃないの?」  
単なる冗談に呆れられたのにカチンときたのか、マリーナが辛らつな言葉をサライに浴びせました。
「パステルみたいにぼけっとした奴なら簡単に騙せそうだしな」
「どうなんだ? パステル」
「言われてみれば、お城の中に入ったことがあるわけじゃないから…」
クレイが心配そうに聞くと、パステルも自信がなさそうです。
「パステルの身分の話か?ばばぁ」
「ばばぁ?」
いきなりサライに「ばばぁ」呼ばわりされたマリーナは、サライに怒りの目を向けました。
「ちょっサッなッ」
「何言ってんの?パステル」
「ちょっと! サライ! 何言ってるのよ!」あたりだということはすぐにでもわかりそうですが、サライはにやにやとパステルに聞きます。
「ぱ〜るぅ??」
ルーミィはパステルの慌てぶりが良くわからないようです。
「とりあえず繋がりというのは父方の実家のことだ。あの家はオレの家の遠縁にあたる。婚約することは不思議じゃないと思うぜ?」
「まぁ、私だって人の事いえませんしね」
「何故?」
パステルがキットンに聞きます。
「だって、私の妻であるスグリは、元々普通の民家に住む庶民だったんです。でも、父上が許してくれましたからね。パステルたちとはパターンが違いますが、似たようなものですね」
「今気付いたんだけどさ、お前もしかして、キットン族の、ノイ・キットンじゃねぇ?」
「は!?」
「まさか・・・」
「本当に・・・」
「今・・・・」
パステル、クレイ、トラップ、マリーナが順番につぶやきます。
「あなたは何でも知ってるスーパーマンなんですねぇ。それは別にいいですけど、それがこれと何か関係があるんですか? 悪戯に話を広げるだけで畳む気がないような話までするのは止めてくださいよ」
キットンはそう言ってマリーナから玉を取り上げた。
「ところで、あんたさぁ」
トラップがつかつかとサライに歩み寄ったかと思うと、その襟首をぐっとつかんだ。
「今度マリーナに暴言を吐いてみろ。ここからすぐにでもたたき出してやる。おれはお前の国がどうなろうと知ったことじゃないんでな」
「トラップ。それ以上はやめとけ」
クレイがたしなめます。
「そんなに熱くならんでも(フン)。ちょっとしたジョークじゃないか」
「もういいわよ。ありがとう」
再びサライにつかみかかろうとしたトラップをマリーナがとめました。
「はぁぁ・・・・、いったいさぁ、一大事って何?かなり話がずれちゃったんだけど」
珍しくパステルが話を戻しました。
「・・・・城内の祠が壊された。そのせいだと思うが大臣たちの様子がおかしい。何ていうか・・・近づくと何処と無く禍々しい感じというか・・・」
「正気ではないということですか?」
「ああ。見た目は変わらないけれど、別人という感じだ」
「ふむふむ。なるほど。もしかするとこの玉が祠にあったんでしょうかねぇ。壊した誰かが持ち去ったりとか。可能性の一つではあると思いますよ。ですが、ここで考えても埒が明かないですね。ひとまずその祠に行ってみない事には」
「そうだな。じゃあ準備をして、明日の朝出発するか」
キットンの提案に、クレイが賛成しました。
「えっ、いいの? クレイ・・・」
パステルが驚いてクレイに聞きました。
不機嫌だったクレイが、こうもあっさりサライの国の一大事に手を貸すとは思っていなかったようです。
「俺たちは冒険者だし、それに・・・」
「?」
「パステルの知り合いもいるんなら、なおさら助けないとな」
「クレイ・・・」
全てのことを吹っ切るかのように、クレイは優しく笑いました。
「お熱いこって」
「そうと決まれば、さっそく支度しましょう」
パステルたちは支度を整え、その日はサライもシルバーリーブの別の宿に泊まり、翌朝乗合馬車の待合所に集合しました。
「・・・・・遅い!遅すぎる・・・・!!!」
肝心のサライがいつまで経っても来ないので、パステルは怒り心頭です。
「何なんだ」
クレイも呆れていました。
「あはははっ、わりいなぁ、寝坊しちまったんだよな。俺としたことがはっはっは」
「それじゃあ、行こうぜ」
お気楽に現れたサライんび誰も構うことなく、クレイの号令でちょうど来た馬車に乗り込みました。
「パステル、サライの国の詳細をおしえてくれないか?」
「リーザの国を超えたところだよ。トント村があったじゃない? あそこをもっと南下した辺りかなぁ」
「ずいぶん遠くまで仕事に行ってたんですね。パステルのお父さんは」
クレイとパステルが会話をはじめると、キットンも話に乗ってきました。
「うん。お得意さんの紹介で一度行ったら、それからよく頼まれるようになったんだ」
「旅費をこいつに出させなかったら、おれらだけじゃ絶対行けねぇよな。馬車代だ飯代だ宿泊費だって金ばっかかかりそうだ」
「金は出したし、宿の世話もしてやるけど、その分きっちり働いてもらうからな」
サライは王子様の割にはけちなことを言いました。
「そもそもはおめぇが余計なことを言ったから、おれらが巻き込まれる羽目になったんじゃねぇか。よく言うぜ」
「いいのか?俺の国には結構出るカジノがあるんだけどねぇ」
「トラップ、そんなことろに行ってる暇はないからな」
「お金もないからね
クレイとパステルに突っ込まれて、トラップは不機嫌そうに「わかってる」と言いました。
そうこうしているうちに、馬車はサライの国へと到着しました。
「で、ここからは?」
「あの門をくぐれば・・・もう着く筈だよ」
キットンの問いにパステルが答えました。
「やれやれ、やっと到着か?」
「結構かかったな」
トラップのぼやきにはクレイが応えます。
「懐かしい…。ちっとも変わってない」
パステルは瞳を輝かせてあたりを見渡しました。
「ぱ〜るぅ、くりぇー、おなかぺっこぺこだおう・・・」
緊張の中、ルーミィの声が響き、皆がズテッと転んだ。
「どぅしたんらぁ?みんな一気に転ぶなんて、バカラァ!!」
「ごめんごめん。じゃ、とりあえず夕飯食べようか。ね、クレイ?」
「そうだな。ルーミィ、人に「馬鹿」なんて言ったら駄目だからな。悪い見本は見習わないようにしような」
トラップを見ながらクレイが言いました。
「ごめんあしゃ〜い。」
「夕飯はどこで食べましょうか?」
「少し情報収集も出来るといいな」
「あ、それなら・・・あの店がいいと思うよ?」
パステルは、東の方向、を向きながら、なぜか、西を指差しました。
「こっちにあるのか?」
「うん」
クレイの確認に、パステルは自信満々に答えました。
「正反対だ。あの店のことだろ? 方向音痴のところもちっとも変わってないな」
が、サライに指摘されました。
「パステルですからねぇ」
「方向音痴は生まれてから死ぬまで治らねぇだろ?」
トラップが深くうなずきながら、キットンに同意しました。
「ちょっと、どーゆー意味よ!」
「行こう」
喧嘩を始めそうな四人を放っておいて、ノルがクレイたちをうながしました。
「そ、そうだな」
パステルたちを気にしながら、クレイは返事をしました。
「わ〜い! ごはんだおう!!」
「僕もお腹が空いたデシ」
「パステル。方向音痴克服のためにも先導してくれよ」
「クレイまで方向音痴っていわなくても!」
パステルと離れないために言ったことでしたが、パステルは怒ってしまいまた。
騒ぎながら、パステルお勧めのお店にたどり着きました。
「どっひゃーーー。すげー店だな」
中はものすごくゴージャスで、パステルたちのような貧乏なパーティは、一生来る事の無いような場所。
「ちょっと待って、その解説はちょっとひどいんだけど」
「パステル、誰に話しかけてるんだ?」
「こういう金に明かせたような場所にパステルを連れてきてたわけですか」
「悪いかよ。パステルだけならともかく、こいつらにもここの飯を食わせる気はないんだけど」
「なら、別のところに行きましょ」
サライの口説き文句(?)もパステルはしれっと流しました。
「一般人が集まるような所はねぇのか?」
「さっき食堂があった」
「じゃあ、そこにしよう。ここじゃルーミィも食べにくいだろう」
お腹が空いてルーミィは機嫌が悪くなっています・・・。
「ごめんね。もうすぐ食べられるからね」
ルーミィをパステルとクレイがなだめながら歩いていると、すぐに食堂に着きました。
「うーんと、このBにするお!」
「俺、A定食」
ルーミィの元気な声に、トラップが続きます。
「私はC定食がいいですねぇ。ノルはどうします?」
「パステルはどうする? 」
「うーん・・・Bかな。クレイは?」
クレイとパステルはお互いに聞きあってます。
「じゃあ俺もB定食」
各自それぞれ注文をし、まずは腹ごしらえです。
「ねえちゃん、ビールも」
店内は仕事帰りと見られる人でごった返しています。
「活気があるね、猪鹿亭みたい」
「ほんとだな。飯もうまいといいけど」
「あたりめーじゃん。ここ、俺の従兄弟が経営してんだからよ」
「王族の従兄弟が食堂を経営ですか?」
「・・・家出したんだよ。あいつさ、城下に好きな女が出来たって言ってよ、親父達に身分を剥奪までしてもらって、ここに店を開いたんだよ」
「おめぇの親戚にしちゃ根性あるじゃねぇか」
「ふむ・・・。ではその人物に最近の様子を聞いてみてはどうでしょう?」
「あっ、キットン頭いい! そうしよう」
「わ〜! おいしそうだおう!!」
ウエイトレスが料理を運んできたのを目ざとく見つけたルーミィが歓声をあげます。
「ル・・・ルーミィのお腹には、負けそうだけど」
そう言いましたが、パステルもルーミィと同じくらい勢い良く食事を食べました。
「おいしかったな」
「じゃ、その従兄弟呼んでくんねぇ?」
ビールを飲みながらサライを見てトラップが言いました。
「えっ・・・、何でだよ!!」
珍しくサライが慌てました。
「あんだよ?」
「はははははは・・・・、私も呼ぶのには反対する!!」
引きつった笑顔で言うパステルは、大きくため息をついた。
「サライの従兄弟の名前はサディって言うんだけど、それが・・・・そのぉ・・・」
「どうかしたんですか?」
「その従兄弟、城下のことも知ってるだろうし、王族なら城内のことも多少耳にしてるかもしれないだろ?」
クレイの言葉にノルもうんうんとうなずきます。
「あっれ〜?パステルにサライじゃん!!」
ちょうど店に出てきたサディがパステルとサライを見つけました。
「サ、サディ…」
「だからあの店にしようって言ったのにさぁ」
「どういうことだ?」
「ま、どうだっていいじゃん。なぁアンタ最近の城内外のこと教えてくんねぇ?」
「ん〜? 様子ってどんなことが知りたいわけ?」
パステルとサライがいたせいか、特に警戒することもなく、サディはトラップの質問に答えました。
「国の一大事って話」
「あぁ、それな。俺も気がかりでさ、この前、城の逃げ戸口にもぐりこんで確かめてみたんだよ」 「どうだった?」
「どこぞの放蕩馬鹿息子のせいで家臣達が慌しかったな。国王はちっとも変わりなさそうだったけど」
「放蕩馬鹿息子ですか」
全員の視線が一斉にサライに集まり、サライは気まずそうに目をそらした。
「祠は?」
「それは・・・本当のことだ。やべぇんだよ。早くしねぇと」
「やばいって・・・どういう意味だ?」
「それは・・・」
言いよどむサディの様子に、パステルは緊張のあまり、ゴクッとのどを鳴らしました。
「俺が話す!!」
「げほっっごほっ」
サディの話を今か今かと待ち構えていたパステルは、急にサライが割り込んできたので、飲んだ水を、目の前に居るサディにふっかけて、むせました。
「だ・・・大丈夫か?」
「う・・・うん、大丈夫」
咳き込むパステルの背中を、クレイがさすります。
「俺らが生まれる前から、近づくことさえ禁じられていたあの祠に、時々怪しい男が現れていたんだ」
「・・・・男?サライじゃなくって?」
「バカにすんな、俺だって行かない場所なんだよ。それなのに行く奴がいるとは思わなかったからな、見に行ったんだよ」
「結局その禁じられていたと言う場所に、行ったんじゃないですか。パステルが正しいですねぇ」
「うっせぇ。でよ、見に行ったら、黒いフードをかぶった・・・」
「あーーーっ、もしかして、謎の行商人!?」
「おっ落ち着いてパステル」
「その可能性は?」
「十分にありえますね」
「うん」
「謎のチョコレートがどうしたんらぁ?」
「チョ・・・チョコレートじゃなくって」
「近くで見てみたらよ、何かずっと、ぶつぶつ唱えてたんだよ」
「内容は聞き取れた?」
「うぅ〜ん、微妙でさぁ。確か、「フェアリーキングダムの呪いは解けた」とか・・・それ以上は聞けなかった」
パステルが聞くと、サライが自信なさげに答えました。
「フェアリー・・・・」
「キングダムゥ!?」
クレイとトラップが仲良く続けます。
「ほう!それは何ですかな?」
キットンは興味津々です。
「サライのお城の書庫になら手がかりがあるんじゃないのか?」
「あぁっ、それはいい考えかもな!!んじゃ早速いくか!!」
ノルの提案に、サライは乗り気です。
「サディ、お店は?」
「そこにめちゃくちゃ働き者の奴と、おれの奥さんが居るんだぜ?」
「そうだったね」
パステルが心配そうに聞くと、サディは平気だと請け負いました。
「な、サライ!!」
「サライがお手伝いしてるの!?」
サライがお店の手伝いをしていることにパステルは驚いたようです。
「パステル、不本意だけど、サライが居なきゃ進むものも進まないだろう?」
「そうですね。その方がいろいろ都合がいいと思いますよ?」
「んじゃ、明日城の書庫に行くかぁ」
「今日はもう遅いしな。パステル宿屋はどこだ?」
「え!? えっと…あ、あっち、かな」
クレイが何度もパステルに道を聞くのはいじめのようにも見えます。
「で、どっちですか?」
キットンがサライに聞くと、サライはパステルが指した方角とは90度別の場所を指しました。
「さっきよりも近づいたぞ、パステル。あともう一息だ」
「えっ。・・・へへっ」
クレイのフォローなのかとどめなのかよくわからない言葉に、パステルは苦笑を返しました。
「zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz」
「ルーミィが寝てる」
お腹が満足して寝てしまったルーミィをノルが抱っこしました。
「あぁ本当。じゃ宿屋に行こっか」
「そうだな」
一同は、サディの奥さんのお父さんが経営している、『カカジ旅館』に向かった。
「いいところじゃないか」
「みすず旅館みたいにボロじゃないけど、雰囲気が似てるね」
「ふぁ〜。 じゃ、俺はもう寝るぜ」
あくびをしたトラップは少し固めのベッドにドスッと寝転がった。
「ベッドを独り占めはずるいですよ」
キットンはトラップの横に寝転がりました。
「おれは床で寝るから、そのベッドはクレイが使え」
「サンキュ。パステル、お休み。夜中にサライが忍び込んできたりしたら、大声を上げるんだぞ」
「あっはっは。大丈夫だよ。行こう、ルーミィ、シロちゃん。クレイ、ノル、おやすみ」
パステルは完全に安心していた。何故ならー・・・
「だって隣の部屋にクレイがいるんだもん!」
寝ているルーミィの顔を見ながら、パステルはつぶやくように言い、1人にやけてしまいました。
「・・・。眠れないな」
みんなが寝静まっても、なかなか眠れないクレイはソッと部屋を出ました。
「パステルは・・・?」
パステルの部屋をのぞくと、すやすやと寝ていたことに安心したクレイは、小さく微笑んで、外に出て行った。
「お前はっ!?」
何者かの気配を感じたクレイは、鋭い声を上げました。
「よ、クレイ」
「お前、寝てたんじゃないのか?」
相手がサライだとわかり、クレイは緊張を解きました。
「俺は、魔術師だし、一大事って時には一分でも寝れれば、全快するから良いの良いの。それよりあんたこそ」
「眠れないだけだ」
「そ、じゃあ、この国の昔話聞くか?」
「昔話?」
「そうだ、昔話だ」
いつになく和やかに話が進みます。
「それはパステル、知ってるのか?」
唐突に、クレイがパステルに声をかけました。
「うん」
いつの間にかクレイたちのところに来ていたパステルが頷きました。
(いつの間にパステルが来ていたんだ? おれは全然気がつかなかったのに、こいつは平然と話しかけた…)
サライはクレイに遅れをとったのが悔しいようです。
「どんな話なんだ?」
クレイはサライではなく、パステルと向き合っていました。
「・・・・・なんだっけ、サライ」
「ま、パステルはパステルだよなぁ」
忘れっぽいパステルをサライが笑いました。
「あっ、ひどーい!!」
「ま、それはいいとして、俺ちょっくら出かけてくる。そろそろ城に帰って、書庫開ける準備しなき ゃなんねぇし」
夜が白々と明け始め、サライはその場から立ち去りました。
「あっそっか、じゃ、お願いね」
「昔話はどうなったんだ、結局」
「サライは気まぐれだから。わたしが来て気が変わっちゃったのかも」
「あいつが王位を継ぐんじゃ、この国も大変だな」
「んーーーー、でもね、やるときはやるから、トラップと似てるし、ここぞと言うときはしっかりや ってくれるんじゃない?」
「だといいんだけどね」
クレイとパステルが時間を忘れて話し込んでいるうちに、朝日が顔を覗かせ、すっかり朝の気配が漂 っています。
「誰と誰が似てるって?」
部屋からクレイとパステルを見下ろしたトラップが突っ込みを入れました。
「やっぱりトラップとサライじゃないですか?」
「一発殴りに行ってやろうか・・・」
「せっかくいい雰囲気になれたんですからソッとしておいてあげましょう・・・・」  
「・・・・・。だな」
トラップもキットンも、窓から外のパステルとクレイを眺めながら、そう話すと、もう一度布団の中にもぐった。ノルは、二人のいびきにうなっていた。
「うぅ・・・う・・・・・」
朝食――――・・・・・。
「うわ―――――ん!!!!!!!!!」
「どうしたの、ルーミィ!!」
「トリャーが、ルーミィの、ウィンナー食べたぁぁ」
「チビが遅いからだろう」
「どんだけいやしいんですか、あんたは」
キットンだけでなく、全員がトラップに呆れているようです。
「ルーミィ、わたしのあげるから、もう泣かないで」
「うん、がまんすぅーーー」
「えらいな、ルーミィ。パステル、俺の食べるか?」
「えっ? いいよ、いいよ。それはクレイのだから」
「そうか?」
クレイはちょっと残念だな、と思いましたが口にはしませんでした。
「それじゃ、そろそろ城の書庫に行きましょうか」
「だね」
「おい、パステル!!あ、それから愉快な変人仲間!!」
どこからともなくサライが現れました。
「誰が変人仲間だ!!」
「まあまあ」
一行は城に向かい、こっそりと城の書庫へと行きました。
「うわぁ、たくさん本があるね・・・・・」
「パステル・・・ここは『書庫』だよ。 それにしてもこの中から探すのは結構大変そうだな」
「まぁな」
サライもうんざりしたように相槌をうちました。
「ね、サディは確か、本の虫だよね。何処にあるか知ってる?」
「こいつに聞かねーってことは、王子様はご本がお好きではありませんのね〜」
パステルがサライでなくサディに聞いたことを耳ざとくトラップがとらえました。
「お前だって好きそうには見えねぇよ」
「喧嘩してどうするんですか」
「キットンの言うとおりだ。さっさと本を探そう」
「そうだね。ね、サディどの辺りがわかる?」
「「フェアリーキングダム」についは、この書棚全部と、こっちの片側全部かな。向こうの方にもあったかもしれないけど」
かなりの本の量に、げんなりとしましたが、パステルやクレイやノル、サディが率先して本を開きました。
「あ〜、そうかそうか!!!」
「あ・・・・、あったぞ」
「おおっ!!」
クレイからキットンが、本を取り上げ、一ページを開いてみた・・・・ら、内容が分からないように、落書きがしてあった。
「んもう!!サライ、いい加減にしてよ!!」
「えっ!?」
突然怒り出したパステルに、クレイは目を白黒させます。
「へぃへぃ、・・・・・・ぶつぶつぶつ・・・・」
サライは反論できないのか、口の中でぶつぶつ言うだけです。
「どういうことだい?」
「王子様のいたずらだろ」
クレイの問いに、トラップが答えました。
「……」
キットンは呆れて何も言えないようです。
「とにかく、量が量だからな。全部に落書きするほど根気があるとも思えないから、まともな本もあるだろう。片っ端から調べよう」
「これじゃないか?」
「ん? あ、本当「フェアリーキングダム」について書いてある」
一人黙々と探していたノルがパステルに一冊の本を見せました。
「どれ。・・・・ふむふむ。・・・・・・なるほど」
「 えっと、フェアリーキングダムとは、妖精たちの王国である」
「んなの、名前だけで分かるっつーの!!!ふざけてんのか、この本は!!」
「だからって、本に八つ当たりしないでください!!!」
本につかみかかろうとするトラップを、キットンがたしなめました。
「デュガーリミセット・クリアル・バリアーム・ゲリアッサリア!!!」  
突然、サライが叫びだしました。
もう少し落ち着いてもらいたいです。
「!!??」
「な・・・何言ってんだ?」
クレイとトラップも驚いています。
「あぁ、これね、本当の、バイリンガル語なの。前に言ったのは、旧バイリンガル語って言うんだけど。これ、結構すごいんだよ!!」
一人冷静なパステルがそう言ったとき、ほとんど詳しい事は載ってなかった本が光だし、全ての文字が消え、その上から、誰かがペンで書いているかのように、文字が書かれ始めた。
すごいだろうと言いたげなサライの方を見る者は誰もいなかった。
「え・・・?何々?フェアリーキングダム、それは、妖精たちがすむ王国なり。その国の王である、デュギラは、五億年前、この地に、王国を作り上げたと、記されている」
それからこう書かれている。
「・・・・・・」
『その後、各地に住んでいる妖精たちは、妖精王国へと移り住み、他の地にはほとんどの妖精たちが消え去った。』
「消え去るって・・・、そりゃ、移り住んだんだからそりゃ当たり前だよなぁ」
「黙ってください、読めないでしょう!!!」
『そして、その国の事に気づいた、ある大臣が、まだ就任したばかりの十五歳の王を良い様に操り、王国を攻め始めた。』
「ひどい!!」
『そして、攻めたのにはわけがあり、それは、この王国を、新米王の手中に入れようと言う考えがあったからだ。そして、その大臣は、新米の王を操り、ほぼ自分の思い通りに動かそうという魂胆だった』
「なんてアク大臣でしょうか!!ミモザ皇女のところに居た大臣とそっくりじゃないですか!!」
「お・・・落ち着いて!!」
『しかし、大臣の思い通りになる事は無かった。妖精王国は、その国にある戦力全てを使い、自分達の国を護った』
「妖精だからといって、見くびればこうなる・・・と言うことか」
『しかし、大臣達を退却させた後、すぐに国王が倒れてしまったのである』
「国王、かぁいそうだお」
『妖精たちは、大騒ぎして、急いで他の大陸に残っている、妖精の医者を呼び出した・・・が、容態は余計に悪くなるばかりだった』
「どうして倒れちゃったデシか?」
『理由は、国王にしか分からなかった。それは、遠い約束と、掟。国王は昔、ある妖精神に、恋心を抱いたのだ。』
「・・・・・・・」
パステルの頬がほんのりと赤く染まった。
「ふむ。つまり、この約束と掟が『呪い』ということになるのでしょうか」
「恋した相手に呪われたっていうこと?」
「いえいえ。当人…というか、神様ですか。彼女には悪意がなかったのかもしれません。結果的に国王が倒れてしまっただけで」
「しっかしよぉ、神様なんだろ? さくっと治してやりゃあいいじゃん」
「国王の恋心に、神様が応えたとは限りませんよ。そもそも神に恋するというのはあまり普通ではありませんからねぇ」
「妖精の女神にとって、国王の病気はむしろ好ましいものだったのかもしれないわけか。求愛されなくなるんだもんな」
「そんな! いくらなんでもひどすぎるよ!」
「パステル、気持ちはわかるけど、ここで怒っても仕方がないだろ」
「う・・・、うん。でもせつないよ・・・」
「しっかし、その掟って何だ?」
『その掟とは・・・・』
パステルがゴクッとつばを飲み込みました。
『その掟とは、妖精神に愛の言葉をささやく事で、その者の魂のかけらが消されていくという事だった』
「魂の・・・かけら・・・」
『そして、遠い約束は、妖精神との、結婚だった』
「結婚?」
「妖精神って奴、国王からの求愛を認めたってことか?」
「そうみたいですねぇ」
「ね、ちょっと待って、この本、終わっちゃったよ?」
「何ですって!?どうするんですか!?」
「次の・・・本を見ろってこと??」
「よしっ、手分けして探そう」
みんなで黙々と探しました。
「おっ」
しばらくしてから、トラップが声を上げました。
「みつかったのかぁ?」
「そうじゃねぇんだけどさ、神様に愛を囁くと魂のかけらが消されて、遠い約束が結婚ってのなら、神様は国王の死を待ってるんじゃねぇか?」
「え!? なんで!?」
物騒な話に、パステルが驚きます。
「まぁ、そう考えられますね。愛を告げるたびに魂のかけらが失われていくのですから、いつかはすべてがなくなります。早い話が死んでしまうわけですね。そのときこそ、二人は結ばれるのでしょう」
「だとすると、国王に愛を囁くこと…妖精神への想いを捨ててもらわないと救えないって言うことか?」
「救われることを望んでいるようにも思いませんけどね。おそらく国王はわかっているのでしょう。その上で、女神を愛しているのだと思いますよ」
「だけど、それじゃあ国民はどうなるんだよ! 15歳の国王の下なんか、まだ赤子も同然だろ。今度こそ攻め滅ぼされるぞ」
サライがじれったそうに怒鳴りました。
「いろいろあるでしょうが、この場合『世襲制』にこだわる必要はないと思いますがね。ロンザも世襲制ではありませんし」
キットンが冷静に言いました。
そして・・・。
「なんだ??」
「キャーーーーーっっっ!!!!!!!」
「ど・・・・」
「どうしたんだ!?!?!?」
パステルの叫び声に、クレイが声をかけようとしましたが、サライの大きな声に邪魔をされてしまいました。
「いたたたた・・・・・」
山積みにされた本の中から、パステルの頭が出てきた。
「あのね、続きの本を見つけたから、取り出そうとしたの。そしたら、一気に出てきたの!!!」
「大丈夫か?」
クレイが手を貸して、パステルを立ち上がらせました。
「うん…ごめんね」
パステルは散らばった本に謝罪をして、元通りに戻し始めた。
「それにしても、困りましたねぇ。パステルの見つけた本が何処にあるのか分からなくなってしまった。」
「ま、この山の中にはあるんだろ?」
「そうだな。この中から探せばいいだけさ」
手分けして本を探し、ほどなくして見つけました。
「えっと・・・、何々??」
皆がいっせいにパステルの手元を覗き込みました。
「『妖精神への愛の囁きは、一日も欠けることなく毎日行わなければならない』」
「厳しいんだな」
「『その囁きが一年の時を経過したとき、遠き約束は果たされるであろう』」
「15歳の国王は、おそらく国王就任前に妖精に出会って恋に落ちたのでしょうね。こんなに早くに国王になるとは思っていなかったので死ぬ覚悟で彼女を愛したのではないでしょうか」
「自分が死んでも、弟が成人するまでは前代国王が国を治められると踏んだってわけか。ところが、予想外に早く自分が就任しちまったと」
「しかし…サライが聞いたのは「フェアリーキングダムの呪いは解けた」って言葉だったよな? それなら、一年が経過する前に愛の囁きを止めたんじゃないか? 呪いは解けたんだからさ」  
クレイが疑問をさしはさみます。
「それは・・・・、違うんじゃないかな??」
「え??」
「呪いって、違う意味のほうじゃないのかなぁ。だって、謎の行商人が、国王の恋が実った事を喜んだりするわけ無いもの」
パステルが考え考え答えました。
「ま、あいつ、そうは見えなかったからな、パステルの考えに一理あるな」
「・・・、まぁ、今まであいつの悪事を少し見てはきましたが、それもそうですねぇ」
サライとキットンもパステルに同調しました。
「喜んでたのか?」
(そんなこと言ってたっけな…まぁいいか)とクレイは思いました。
「行商人としては、呪いが解けた方が都合がいいのかもしんねぇから、何とも言えねぇな。世襲制が簡単に覆るとは思わないけどよ、しっかりした奴が王様になっちゃうかもしんねーわけだし」  
「文献を調べるのもいいけど、国王に直接会えないかな。その方が早いような気がする」
「本も大方、調べたからな。現状を直接聞くのは悪くないだろう」
クレイの提案にサディがうなづきました。
「じゃあ・・・行くんだね?」
「あ・・ぁ、そうだよ?」
わざわざ確認を取るパステルを、クレイは不思議そうに見つめました。
パステルはすぅっ・・・と息を溜め込んだかと思うと、
「キャーーーーーー、サライ皇子が殺されたわーーーーっっっ!!!!!!!!」
と絶叫しました。
「え!?」
「な・・・・!?!?!」
「何を言ってるんですか!?」
クレイもトラップもキットンも驚きの声を上げます。
皆が驚いている間にも、たくさんのメイド達が書庫へと向かってきている。
「ほら、サライ、死んだふり、死んだふり!!」
サライは、パステルに言われるまま、グッタリとした表情で床に寝転がる。
「パステル? これはどういう…」
クレイが言い終わる前に、メイドが書庫へと入ってきました。
「隠れろ!!」
「あっ、ダメだってば!!隠れちゃダメー!!!」
隠れようとしている皆を起こしあげるパステル。そしてとうとうメイドが、パステルたちの居る場所へと、来てしまった。
「あ、あの、これは、えっと…」
クレイがしどろもどろに取り繕おうとしますが、メイドたちは倒れているサライに気がつくと「王子様!!」と叫んで駆け寄りました。
(お前がなんとかしろよ)
トラップはパステルにこっそり言いました。
「はいはい。私達が殺しちゃいましたー!!」
トラップにおざなりな返事を返してから、元気よく宣言しました。
「はいっ!?!?!」
これにはクレイもびっくりです。
メイドたちは、見回りをしている兵士達を呼び出し、皆を牢屋に連れて行った。
「おい!!どうにかするんじゃなかったのかよ!!!!!!」
「どうにかしたじゃない!!!」
「こここ・・・これがどうにかしたっていえますか!?!?!余計悪化したじゃないですか!!!こんなじめじめした牢屋に閉じ込められて、挙句の果てにどうなる事やら・・・」
「何よ、別にサライを本当に殺したわけじゃないんだから、別に良いじゃない!!」
妙に開き直るパステルに、みんなは呆れ気味です。
「オマエナァ・・・・」
「えっと・・、確かここら辺に・・・・」
「人の話を聞け!!!
トラップは、パステルに無視され、怒鳴ったが、そんな事はお構いなしにパステルはつぼの中を調べる。
「何やってるんだ??」
ノルが全員を代表して疑問を口に出しました。
「あのね、本に載ってたの。この国の牢屋にあるつぼを割ると、フェアリーキングダムへの道が開くって」
「え、そうなのか・・・?・」
「うん。あ、サライの部屋には椅子があるんだけど、その椅子の下には階段があるから、こっちにすぐ来ると思うよ??」
「何でお前がそんなの知ってるんだよ」
「あー、あのね、さっき本につぶされたでしょ?私。そのときに、手元に一冊の本があって、そう書いてあったんだよ!!」
楽しそうにパステルは言います。
「話はよくわかった。わかったけどな。何かする場合はまず相談してくれないか。いきなり叫んでわけのわからないことをされるおれたちの身にもなってくれ。わかるな?」
「クレイの言うとおりですよ。王子を殺したと宣言なんかしたら、その場で打ち首にされても文句は言えませんよ。牢屋が一つのはずもないですしね。全員が同じ牢に入れられたのはただの幸運ですよ。あなたの軽率な言動で誰かに何かあったらどう責任を取るつもりなんですか?」
パステルの言動にさすがのクレイも真剣な顔でパステルに詰め寄り、キットンも追随しました。
「うふふっ、キットン、それは違うってば。じゃなきゃ、そんなこと言わないもん!!!」  
「じゃあどういう意味なんだ?」
「・・・・・、この国は、一緒に犯罪を起こした人たちを同じ牢に入れる風習みたいなものがあるみたいなの」
「そ・・・そうなんですか?」
「そうなの。んで、ここはそんな簡単に死刑になんてしないの。ま、道具は揃ってるけどね」  
「あんだと!?」
「ん・・・。でもね、見せつけで、昔読んだ本には、死刑歴がまったく無いんだもん。だから、こうしたの!」
「・・・そうか」
「そうなの!それに、皆に言ったらどんな反対受けるか分からないし・・・って、あ。サライが来た!!」
悪びれた様子もなく、むしろ誇らしげに言うパステルにクレイは軽くため息を落しました。
「だから、パステル。そういう説明を先にしてもらいたいんだよ。ここのことはおれたちにはわからないんだから」
「あっ、そっか。うん、そうだね」
「もう少し落ち着いてくださいね、パステル。わかってるからといって先走られたら困ります。あまりひどいようでしたら、あなたは宿に残ってもらいますよ」
「……ごめんなさい」
クレイとキットンの言葉に、パステルはようやく理解したのか、うなだれました。
「おいっ。俺を殺すな!!ま、もうなれたけどよ」
サライが牢屋にやってきました。
「おわっ、ゾンビだ!!ルーミィ、ファイアーとなえろ!!」
「ダメだお!サライは、ゾンビじゃないお!!サライは、シュケルトンなんら!!」
「違うでしょ!!」
「ルーミィ・・・・」
気の抜けた会話に、クレイは脱力しました。
「あ、クレイ、キットン。本当にごめんね。気をつけるから」
パステルは念を押すように謝りました。
パステルはたちは壷を割り、フェアリーキングダムへと入っていきました。
「ここには妖精しゃんが沢山いるんデシね?」
シロちゃんとルーミィはすでに走り回っている。
「それにしても、この風、気持ちいねぇ!!!」
「・・・・だな」
「お、これ、ピクシーじゃねぇか」
「ここってピクシーの国なの?」
「いえいえ、だから、この国にたまたまピクシーも一緒に住んでるって意味じゃないんですか?」
「あっ、そういうことね」
「王様はどこにいるんだ? 城があるのか?」
「「こっち」っていってるお」
ピクシーの案内にみんなで付いていきました。
「・・・・、それよりも、このピクシーの名前って何??」
「ピッピ・・・・」
パステルが聞くと、ピクシーは恥ずかしそうに名前を言いました。
「へぇっ、ピッピかぁ」
「えっ、お前聞こえるわけ??」
トラップがびっくりしてパステルを見ます。
「わたしにも聞こえますよ?」
「俺も」
「あぁ」
キットンに、クレイもノルも同調します。
「何!?」
ピクシーの声が聞こえないのは、トラップだけのようです。
「やはり、心が清らかなものにしか妖精やピクシーの声が聞こえないみたいですね」
「じゃあサライはどうなんだよ!!」
「さっぱり聞こえねぇ・・・・・。と、言いたいところだが、聞こえるんだよなぁそれが」  
「あんたの場合心とかそう言う前に、あんたは妖精と話したり出来るでしょーが、生まれつき!!!!!」
「パステル、落ち着いて」
「しかしトラップ。あなたって人は…。ここで懺悔でもしたらどうですか?」
「うるせー! お前らに聞こえるならおれに聞こえなくても問題ないだろ。行くぞ」
「トラップ兄シャン、待ってくださいデシ」
スタスタと先に進んでしまったトラップを、シロちゃんを先頭にみんなで追いかけます。
「トラップ、そっちじゃなくてこっちだ」
「何で分か・・・・。ちっ」
トラップは舌打ちして、クレイたちについていった。
「大体よぉ、キットンが心清らかな奴には見えねぇっつーの。普通はよー」
「失礼ですね。私は誇り高きキットン族の王族ですよ。」
「確かにそれは・・・・、謎だね」
「パステルまで!!!!」
キットンが悲痛な叫び声を出しました。
「着いたみたいデシね」
「きえいなおしおだお〜!」
「そうだね!ちょっと小さいけど」
「でも、なんとかノルも入れるみたいだな」
「どんなお宝があるんだろーなー(わくわく)」
わくわくと目を輝かせるトラップに、(そればっかり)と全員が心の中で突っ込みを入れました。
「はやく、入ろう」
「そうだな」
ぞろぞろと入っていこうとすると、小さな妖精たちが行く手を阻みました。
「・・・・ねぇねぇ、あのさぁ。あの妖精たちって・・・・」
「踏み潰してでもいけそうだな」
「私が言いたいのは、そうじゃなくって・・・・。さっき読んでた本に載ってる妖精と」  
「違うって言いたいのか? ピクシーもいるんだから、他の妖精もいるだろう」
「ううん、その逆で・・・・。そのままそっくり・・・と言うか、そのままなの」
「なにか問題でもあるのか? その妖精の国なんだから当たり前だろ?」
「う・・・・ううん、それは、問題ないんだけど。何だか、ここ、寒気しない??」
「そうか?」
パステルが震えているのに気がついたクレイは、自分のマントをパステルにかけました。
「いっ、いいよ!」
顔を真っ赤にして、パステルがマントをクレイに押し返しました。
「パステル、風邪でも引いてるんじゃないですか??」
「いや、違うだろ。俺もここ、寒気がするからな」
「ルーミィ、シロ、平気か?」
ノルがルーミィとシロちゃんに聞きます。
「うん少し寒いお。でも平気なんらお!」
「大丈夫デシ!」
ルーみぃとシロちゃんの返事を聞いて安心したクレイが、一歩前に進み出ました。
「おれたちは怪しいものじゃないんです」
「うんうん」
パステルも同調するように頷きました。
クレイの言葉には表情を変えなかった妖精たちでしたが、サライが話すとすんなり通してくれました。
「曲がりなりにも皇子様だな」
トラップが皮肉めいた言葉を口にしましたが、サライは取り合わず、ぞろぞろとみんなで王様のもとへと向かいました。
「・・・・・。やっぱり小さいね」
王様と対面したパステルの最初の一言でした。
「…パステル、相手は王様なんだから」
「具合はだいぶ悪そうですね」
とりなすように言うクレイと、ごまかすように言うキットンの言葉が重なりました。
「神様と恋に落ちたそうですね」
「うわ、直球で言うんだ・・・・。普通遠まわしに言うんじゃない?」
「そうだな」
サライがずばりと核心を突いたので、パステルとクレイがひそひそと言葉を交わしました。
「ばぁーか。回りくどくしたってしょうがないだろうが」
くるりとクレイとパステルに向き直ると、馬鹿にするようにサライが笑います。
「僕たちは怪しい者ではありません。どうでしょう・・・話してみてくれませんか?」
そんなサライに構わず、クレイが王様に声をかけましたが、王様は、プイッとそっぽを向いてしまいました。
「か、かわいくねぇ」
キットンとサライが慌ててトラップの口を押さえ込みました。
「はにふんだ!!」
「余計なこと言わないの!! 例え本当だとしても」
「パステル!!」
クレイが慌ててパステルの口をふさぎました。
いつの間にかパーティにはトラブルメーカーが増えていたようです。
(キットン、おめぇパステルに「思ったことをすぐ口にする薬」とか飲ませたか?)
(そんなもの飲ませたりしませんよ。日ごろのあなたの言動が移ったんじゃないですか?)
トラップとキットンがひそひそと話します。
(く、くるしー)
「あっ、ごめん」
勢いあまって強めに口をふさいでいたクレイが、慌てて手をどかしました。
「ぱーるぅ、どうかしたんからぁ?」
「パステルは余計なことばっかしゃべりたがるみたいだから、クレイがずっと口をふさいでた方がいいんだろ」
「失礼ね!」
「あなたの言動に問題があるんですから仕方ないでしょう。クレイ、パステルのことは頼みますよ」
「あ、あぁ」  
(最近のパステルを抑えられる自信はあんまりないけどな)と思いながらも、クレイは決意を新たに頑張ろうとするのでした。
「王様、話を聞かせてください。私は、私の民草を守りたいのです。そのためにここにきたんです。」
王様の方を向き、サライが真摯に言いました。
(曲がりなりにも『皇子』ですねぇ・・・)
(サライがまともに見える…)
キットンとパステルがそれぞれに驚きを込めてサライを見ました。
サライは、自分の国の様子を王様に話しました。王様は黙って話を聞き、話が終わったあと「そうか・・・」とポツリと言いました。
「話していただけませんか?」
クレイが聞くと、今度はそっぽ向かずにクレイを見ました。
「そうだな…。このままでは、大変なことになる」
パステルはジッと王様を見つめ、言葉を待っていました。
「わかっているのだ。私が諦めればいいだけだということは。だけれど、そうすることができない。彼女なしでは生きていけないのだ」
「国よりも、国民よりも、妖精の女王が大事ですか?」
「・・・。王として、どうするのが良いのかはわかっている。けれども―――私は心を捨てることが出来ずにいるのだ。」
「それならば、次の後継者として有能な方を探すべきではないですか? そうすれば、国民の混乱は避けることができます」
「そうだな・・・。」
王様とクレイの間で苦悩に満ちた会話が交わされました。
「その『後継者』を見つけるのが難しいのでしょうか?」
「だろうな。後継者の器があるような奴がそうそう転がっちゃいないだろう」
キットンが独り言のようにつぶやくと、サライが答えました。
「ふむ・・・」
「じゃあどうしたらいいんだろ・・・」
パステルも気遣わしげにクレイたちを見ながら、考え込みます。
「おうしゃま、しんじゃうんかぁ?」
ルーミィの言葉に、その場にいた全員が神妙な面持ちになりました。
「できることなら、なんとか助けたいけど」
「王様自身が望んでるんだもんな」
パステルとクレイが顔を見合わせます。
「それでもだ! どうにかしてもらわねぇとコッチも困るだろーが!」
「まぁ、そうなんですけどねぇ・・・。ふーむ」
トラップが鼓舞するように怒鳴り、キットンはどうしたものかと頭をかきました。
ルーミィ以外の全員考え込んでいます。
「そういえば、謎の行商人の話はどうなったんだっけ? 「フェアリーキングダムの呪いは解けた」ってやつ」
「それもあったな。ただ、謎の行商人絡みだからいい話だとは思えないけど」
「謎の行商人にとって、王様が亡くなった方がデメリットがある場合もあるのではないですか? それなら、「フェアリーキングダムの呪いが解けた」というのが、王様が死ななくて済むようになったという話になるかもしれません」
「王様が死なない方が、自分にとっては都合がいいってことだろ? でも何でだよ?」
「王様が亡くならないことではなく、他の要因かもしれませんよ。妖精神の恋が実ると困ることがあるのかもしれません」
トラップが疑問を投げかけると、キットンが冷静に答えました。
「後継者として後々に指名されるだろう人が王になると困るとか」
「新しく王様になる人が、行商人にとって強大な敵になるかもしれない?」
クレイの言葉をノルが補足しました。
「ねぇ、それだと王様が死ぬと世界が困るけど、死ななかったら謎の行商人の思うツボってことじゃないの?」
「王様の生死よりも、謎の行商人にとって「困ること」がされるかどうかが問題だろうな」
「???」
パステルの疑問にはクレイが答えましたが、パステルはよくわからなかったようです。
「たとえば、王様が亡くなっても謎の行商人にとって困る後継者が指名されなければいいってことだよ。わかるか?」
「えっと・・・」
パステルはよく理解できてないようです。キットンが『ゴホン』と咳払いをし、説明を始めました。
「後継者に指名されたら困る人をAとしたら、後継者に指名される人がBであれば謎の行商人としては何の問題もないわけです。A以外の人さえ指名してくれれば王様が亡くなっても問題ないってことですね」
「うん。だいたいわかった。ありがとう、キットン、クレイ」
「後継者か・・・。それは簡単な問題ではないのだがな・・・」
王様が苦悩します。
「後継者問題だと決まったわけではないですけどね。謎の行商人の目的がわからない以上、とりあえずは今できることをするしかないでしょう」
「そうだな」
「さっそくですが、後継者候補をあげてもらえますか?」
「ねぇ、キットン。だからさ、王様が死なないように何とか考える方が先じゃない?」
どんどん先に行こうとするキットンを、パステルがさえぎりました。
「めがみしゃま(女神様)と、おはなしすぅんかぁ?」
「止めてください! わたしはこのままで良いのです。後継者も慎重に選ばせましょう。部屋を用意させますので、そちらでおくつろぎください」
「で、でも」
パステルの抗議の声もむなしく、部屋に追いやられました。
「どうしたもんかな・・・」
クレイが考え込みます。
「そうですねぇ・・・。とりあえず案をまとめて、もう一度王様と話し合いをするしかないでしょう」
部屋の中央に集まって、輪になって座り込みました。
「まずは王様を死なないようにするっていうのがあるよね」
「亡くなった場合だけど、後継者を選ぶことだな」
「妖精の女神さんの恋が叶うことが、謎の行商人にとって都合が悪いかもしれねーから、その調査とか」
「謎の行商人にとっての「都合の悪いこと」が何なのかを知る必要がありますね。それがわからないと手の打ちようがありませんから」
「「フェアリーキングダムの呪いは解けた」の意味もわからない」
パステル、クレイ、トラップ、キットン、ノルが順に発言しました。
「王様に頼んで、人員を割いてもらわないとな。おれたちだけで調べるのは難しいだろう」
クレイがまとめるように言いました。
「そうだね」
パステルがクレイに同意しました。
「王様に謎の行商人について調べてもらいましょうか。女神の女王には一度会ってみたいですね」
「じゃ、俺は調べる方だな。」
「では、わたしもトラップが失礼なことを言わないように調べる方に回りましょう」
「めがみしゃまにあいたいおう!」
「わたしも女神様の方に行こうかな」
「じゃ俺もそうするか。ノルとサライはどうする?」
「おれも女王の方に行く」
「おれは…」
「おれたちと一緒だよな」
サライが話そうとすると、トラップが気安くサライの肩を抱きながら言いました。
「謎の行商人の悪行について色々とお教えしましょう」
「えっ?! あ、オイ」
パステルよ引き離そうとする二人の意図に気がついたサライは文句を言おうとしましたが、
「さあさあ、遠慮はいりませんよ。重要な事ですからね」
「そうそ。俺たちと一緒に行くんだからサ」
サライは強制的に「謎の行商人チーム」となりました。
「これで決まりだな。じゃあ、トラップ、キットン、サライは謎の行商人の方は頼んだぞ」
「ボクはルーミィしゃんと一緒がいいデシ」
「それなら女王様の方は、わたし、クレイ、ノル、ルーミィ、シロちゃんだね」
「…なんだか不安なメンバーですね」
サライ以外の和やかな雰囲気に、キットンが水を差しました。
「ボケッとした奴らばっかだからなぁ」
「…お前らよりまとまりはあると思うぞ。そっちこそ暴走しかねないけどな」
トラップも賛同しましたが、クレイが反論しました。
「今日はもう王様には会えないでしょうから、明日にしましょうか」
「そうだな。夕食まではまだ時間があるだろうから、各自好きに過ごすっていうことでいいよな」
クレイがパステルをちらっと見ました。
「うん、いいよ」
パステル、ルーミィ、シロちゃんは自分たちの部屋に行きました。
「ちょっと、出てくるな」
パステルの後を追うように、クレイが立ち上がりました。
「へーへー。遅くなっても構わんぜ」
トラップがひらひらと手を振りました。
「ちょっと待てよ。お前、パステルのところに」
サライが立ち上がりかけながらクレイに食って掛かろうとしました。
「気をつけて、クレイ」
キットンがサライの言葉をさえぎるように大きな声を出しました。
「あぁ。あまり城の中を歩き回らないようにな」
クレイは手を振って部屋から出て行きました。
「パステル、ちょっといいか?」
声をかけながら、クレイは扉をノックしました。
「あ、クレイ」
扉を開けたパステルが、とたんに顔を輝かせました。
「今、時間あるか? 良かったら、庭を散歩でもしないかと思って」
「ルーミィとシロちゃんはすぐ寝ちゃったから、誰かにこの部屋にいてもらえば大丈夫だよ」  「誰かに頼んでくるよ。準備しててくれよな」
クレイは部屋に戻って、ノルに頼みました。
ノルは快く引き受け、クレイはサライの不機嫌そうな顔にも気づかずに、ノルと連れ立って部屋を出て行きました。
「気をつけて行って来い」
ノルはルーミィたちのベッドの傍らで、にこにこと二人を送り出しました。
「小さいお城だけど、それでもやっぱり広いね」
「そうだな。迷子にならないといいけど」
「ひっど〜い」
パステルは笑いながら、軽くクレイを叩きます。
「あ、いや、パステルのことじゃなくて、おれでも迷子になるかもしれないからさ」
「「おれでも」って何よ。わたしなら当たり前ってこと?」
クレイをいじめるのが楽しいかのようにパステルは笑顔で言いました。
「そういうわけじゃ」
クレイが返答に困ると、パステルがにっこり笑いました。
「冗談だよ。この階段を下りるんだよね」
「そうだな。装飾も凝ってるよなぁ」
そんな会話をしているうちに、庭につきました。
「わぁ。キレイだね〜♪」
「ほんとだな。やっぱり手入れが行き届いてるなぁ」
「あっちに薔薇園があるみたいだよ」
「ほんとだ。でも、パステルは薔薇ってよりは野の花のイメージだよな」
「えー? タンポポとか? ま、私って地味だしねー」
パステルが苦笑しながら答えました。
「おれにとっては、薔薇よりも落ち着けて好きだけどな」
「そう?」
「あぁ」
赤くなったパステルを、クレイは優しいまなざしで見つめました。
しばらく見詰め合っていた二人でしたが、パステルが気恥ずかしさから目をそらすと、とたんにおかしな表情になりました。
(・・・・・・)
「ど・・・・・・どうしたんだ?」
「あはははっ、クレイの後ろでサライが変な事やってるぅ!!!」
サライが雰囲気を壊すために変なことをしていたようです。
「えっ!?!?」
クレイが驚いて振り向くと、そこにはいつもどおりのサライがいました。
「ちっ、黙れって言ってたのに。それよりも、お前らの仲間ってバカなのな」
「・・・・・・」
その頃の、トラップたち。
「ぐぞーーっ。いげられが!」
(くそーー)
(甘く見すぎていましたね)
トラップもキットンも、身動きが取れないようです。
「パステル、みんなのところに戻ろう」
クレイは、パステルの手をつかんで駆け出しました。
「え....っ」
パステルはクレイの手をしっかりとつかんで、遅れないように走ります。
「ノル!」
まずはルーミィとシロちゃんの眠るパステルたちの部屋に飛び込みました。
「どうした?」
ノルが駆け込んできたクレイとパステルを交互に見ながら聞きました。
「ここは大丈夫みたいだな。ノル、パステルを頼む」
息を切らしたパステルをノルに預け、クレイはトラップとキットンの様子を見に行きました。
「トラップ! キットン!」
「ふがふがふが」
クレイは急いでトラップとキットンを縛っている縄を解いて、さるぐつわを外しました。
「ぷっは〜! あの野郎!!」
「おれは隣に行ってくるな」
クレイはトラップとキットンを残して、パステルたちの部屋に行きました。
後からすぐにキットンとトラップもやってきました。
「はぁ〜。全くあの人は変わりませんねぇ」
サライを除く全員がパステルたちの部屋に集合しました。
「はぁ。一体なんなの??」
「おめぇらの邪魔をしようとしたんだろ。王様のご機嫌取りでもしててくれりゃいいのに」  
ルーミィとシロちゃんを起こさないように小声で話しています。
「はぁ」
サライの大人気ない行動に、パステルが大きなため息をつきました。
「あの人がいないことにはここに滞在することもできないわけですから仕方がないですが、いい加減になんとかしてもらいたいですね」
何度も被害にあっているキットンが困ったように言います。
「そうだな…」
考え込むクレイの傍に、パステルが寄り添いました。
「わたしは、サライに遠慮するなんて嫌だからね。悪いのはサライなんだから」
自分たちが二人でいるのを控えればサライが攻撃的になることはないとクレイが考えているのを見透かしたようにパステルが釘を刺しました。
「そうだな」
パステルの言葉に、クレイは嬉しそうにパステルの頭をなでました。
(変に我慢されても困るけど)
(わたしたちはこれからも苦労しそうですねぇ)
苦笑いのトラップとキットンが目に入ってないように、クレイとパステルは2人の世界にいってるようです。
「ねぇねぇ、ぱーるぅおなかぺっこぺこらおぅ!」
「わぁ! ・・・あぁ、ルーミィ起きたのね」
空腹のせいか目を覚ましたルーミィがクレイとパステルの間に割って入りました。
「外に食べに行くか?」
「なんのためにサライなんかがいると思ってるんだよ」
無難なことを言うクレイに、トラップが待ったをかけました。
「彼から交渉してもらいましょう」
縛られた恨みとばかりにトラップとキットンは執拗にサライを探しました。
二人に捕まったサライは、しぶしぶ食事の用意を頼みました。
「うわぁ。豪華!」
案内された部屋を見回して、パステルが感嘆の声をあげます。
「もうすぐ食事が運ばれくるぞ。トラップ、いつまで物色してるんだ」
きちんと席に着いたクレイが、トラップに注意しました。
「へいへい」
全員が席に着いたところで、食事が運ばれてきました。
「おいしそー」
美味しい料理に大満足のパステルたちでした。
食事を終えて、部屋に戻ります。
「キットン、ちゃんとお風呂に入ってよ」
「あなたはお風呂のあるところに泊まるたびにそればっかりですねぇ」
パステルとキットンは不毛な会話を続けています。
「おれはもう寝る」
大きなあくびをして、トラップが自分たちの部屋に消えていきました。
「おやすみ、パステル」
最後にクレイがパステルに声をかけて、賑やかにそれぞれの部屋へと入っていきました。
「んー。よく寝たー」
パステルが目覚めると、広い部屋の大きな窓にかかった薄手のカーテンの向こうから、暖かな日差しが差し込んでいました。
「こんな贅沢なところで寝られるのも今日だけかな」
パステルは身支度を整えて、クレイたちの部屋に行きました。
「おはよー。クレイ、起きてる?」
パステルがそっと部屋の扉を開けると、クレイとノルが起きていました。
「おはよう、パステル」
「おはよう、クレイ、ノル」
「おはよう」
「女神様に会いに行かないといけないから、今日は早めに出発だ」
「場所はわかってるの?」
「あぁ。王様の側近の人に聞いておいたから。距離があるからシロに乗っていこう」
「頼むぜ。シロ!」
「ガッテンデシ! がんばるデシ!」
トラップとシロちゃんも起きだしました。
「トラップとキットンも頑張って調べといてくれよ」
「ぐーぐーぐー」
全員が集まったにもかかわらず、キットンはまだ眠っていました。
「トラップでさえ起きたのに」
クレイが呆れたようにキットンの寝顔をみました。
「『でさえ』ってなんだ。おれはキットンほど寝ぼすけじゃねーんだよ」
「そうかなぁ」
「同意はしかねるな」
「とりゃーもねぼすけなんらおう!」
「デシ!」
「ちぇー」
パステル、クレイ、ルーミィ、シロちゃんに次々と言われて、トラップは面白くなさそうです。
そうこうしているうちに、キットンの目が覚めました。
「朝から騒々しい人たちですねぇ。人が寝てるんですから、もう少し遠慮というものを覚えてくださいよ」
「おめぇが起きねぇからだろうが」
トラップがキットンを叩き、いつもどおりの朝がはじまりました。
「おれたちは早めに出るから、お前たちも謎の行商人については頼むな」
朝食を食べ終えると、クレイ、パステル、ノル、ルーミィ、シロちゃんが出発準備のために早々に部屋に戻りました。
「わたしたちはどうしましょうねぇ。謎の行商人について調べるとは言っても」
「謎の行商人が現れたところを回ってみるか?」
「全部ですか? シロがこちらにいないですから、それは難しいでしょうね。まずは、この国の中で怪しいフードの男を見なかったか聞いて回りましょう」
「面倒くせーなぁ」
クレイたちが出かけた頃、トラップたちも支度に取り掛かりました。
「さぁ、行きましょう。サライ、あなたも協力してくださいよ」
「わかってるよ」
「しっかり働いてくれよ、王子さま!」
サライは不機嫌そうでしたが、協力をするつもりはあるようです。
「フードを被った怪しげな人物を見かけたことがないか聞き込みをしましょう」
「フードをかぶった奴なんか大勢いるんじゃないの?」」
「我々は妖精よりも大きいんです。妖精以外がどれほどこの国にいるかはわかりませんが、数は多くないでしょう」
「そうだな。とっとと調べようぜ」
それぞれに手分けして、探すことになりました。
「すみません。ちょっとお尋ねしたいんですけどね。フードをかぶった怪しげな人物を見かけたことはありませんか? あぁ、いえ、妖精ではなく大きい人物なんですが。見かけたことはないですか、わかりました」
「フードの怪しい奴、見たことない? ないか。なんかそういうの知ってそうな奴、知らない? そっか。もし何か思い出したら、城の方に伝えといて」
「そもそも人間は滅多に見ないか。そうだよな。ありがと」
三人三様に聞き込みを続けましたが、芳しい結果は得られません。
「なかなか見つかりませんね。妖精の国には入っていないのかもしれないですし…」
キットンは、トラップとサライの様子を見に行きました。
「誰も見てねーって」
「この国に入る人間は少ないようだからな。入っていれば誰かに見られていると思うんだが」
「わたしの方も成果はなしです。そこでですね、謎の行商人が目撃された場所に行ったらどうかと思いまして」
「だから、おれがはじめにそう言ったじゃねーか。そっちからはじめてれば良かったんだよ」
「この国に謎の行商人が入り込んでいない可能性が高いことがわかったのだって収穫ですよ」
「けどなぁ…。まぁ、いいけど。じゃ、さっさと行こうぜ」
その頃、女神のところについたクレイたちは・・・・
「やっぱりシロちゃんだと早いね」
「そうだな。シロ頑張ったな」
女神のいる場所にたどり着いていました。
元の大きさに戻ったシロちゃんは、ほめられて嬉しそうです。
「何者だ」
「わっ! びっくりした」
和んでいるところに鋭い声が飛んできて、みんながすくみあがりました。
現れたのは、美しい女性でした。
彼女が女神のようです。
「あ、あの。俺たちは怪しいものではないです。その、妖精国の国王様のことと、謎の行商人につ いてお聞きしたくて」
「わたしたちは、謎の行商人が何かをする前に止めようと思っている冒険者です」
「ぎょーしょーにんはこあいんだおう」
「力になれるかもしれない」
クレイたちは門前払いされないように、必死に自分たちの目的を話しました。
「謎の行商人というのは知りませんが、国王のことで話があるのであれば、聞きましょう」
「えっと…」
どう切り出せばいいか困ったパステルがクレイを見上げると、女神がちょっと笑って、神殿の奥へ と案内してくれました。
「綺麗なところだね」
「神様が住んでるんだからな」
パステルとクレイが小声で話しているうちに、部屋に案内されました。
「それで、国王様についてですけど」
クレイが切り出すと、女神はうなずきました。
「彼はもう間もなく、わたくしたちの神殿に来てくれます」
「ここのことですか?」
「・・・。それは国王があちらで”死んで”ここにくるということでしょうか?」
パステルは無邪気に尋ねましたが、クレイは女神の言う意味を正確に理解していました。
「そうです」
「!!」
「ひどいと思われるでしょうね」 
女神は哀しげに、驚くパステルを見つめました。
「いえ……でも……」
パステルは女神を直視できずに、言葉を濁しました。
「おれたちにあなたがたの恋愛に口を挟む権利などはありません」
「そうね。そうだわね」
(でも、なんだか迷ってるようにも見えるけど。いくら傍に来てくれるからって、好きな人が死ん じゃって嬉しいわけないもんね)
パステルは内心で思いましたが、女神の辛さを察してか言葉にはしませんでした。
「あなたは、それでいいのか?」
ノルが最終確認をするかのように優しく女神に問いかけました。
「…えぇ、いいわ。そう言えないなら、はじめから彼と恋愛などしません」
「でも…何だか悲しそうに見えるのはどうしてですか?」
パステルが遠慮がちに女神に聞くと、
「あなたの気のせいよ」
女神はつれなくそっぽを向いてしまいました。
(強がってるんだろうな。ま、人間風情に弱音を吐けるわけないか)
女神の強がりを見抜いたクレイは、話題を変えました。
「それで、国王の死期はいつごろなのですか」
「あと、一月です」
「一月・・・」
痛ましそうにパステルが眉をひそめました。
「後継者選びが間に合うといいけどな」
「わたしたちがここに来れるんですから、国王様がここに来て一緒に暮らすとかは駄目なんですか?」
「それは許されないわ。生身の妖精とでは、ずっと一緒にはいられない。あなたは死についてこだわっているようだけど、彼は死後も存在し続けるのよ」
「パステル」
なおも言い募ろうとするパステルをクレイが押し止めました。
「フェアリーキングダムの呪いは解けた、という言葉に聞き覚えはありませんか?」

「えぇ、知っているわ。黒いフードをかぶった奴が言っていたもの。確かに、フェアリーキングダムの呪いは解けたから、その言葉に偽りはない。でも・・・」
女神は言いよどみました。
「呪いが解けたってどういうことなんですか?」
「国王様が亡くならないわけではないんですね。それなら、どういう呪いがあったのでしょうか」
「王が亡くなるのは呪いではない」
不機嫌そうな女神の言い方に、(女神様、機嫌を悪くしちゃったかな)とパステルが思いました。
「ごめんなさい。悪気があった訳じゃないんです」
女神はわかっている、というように一度頷きました。
「それで、どういうことなんですか?」
「妖精たちが死ななくなる呪いがかけられていた」
女神は重々しく言いました。
「死ななくなる呪い…」
パステルが言葉の意味を租借するようにつぶやきます。
「誰かが亡くなったのですか?」
「えぇ。寿命よりも長く生きていた者たちがね。…良かったわ」
クレイが聞くと、女神はかすかな笑みを見せました。
死ななくなる呪いで苦しんでいた者たちが安らかな眠りに付いたことに安堵しているようです。
「そうですか…。なぜ、謎の行商人がそんなことを」
「誰かに、生きていてほしくなかった」
クレイの疑問に、ノルが答えると、クレイは深く頷きました。
「亡くなった妖精たちで、何か特別な力のあった妖精はいましたか?」
「詳しいことは知りません」
「では、その妖精たちと親しかった妖精たちから話を聞くことはできませんか?」
「できます。呼びますか?」
「お願いします」
クレイの交渉を、女神が了承しました。
(クレイばっかりしゃべってる〜)
パステルが不満げに小声で抗議します。
美しい女神とクレイが二人だけのやり取りをして入るのも気がかりのようです。
(ルーミィたちは、でばんがないんかぁ?)
(ボクはしゃべってもいいデシか? 駄目なんデシか?)
(しゃべってもいいと思う)
ルーミィたちもしゃべりたいようです。
「わかりました。では、しばらく待っていてください」
「はい。よろしくお願いします」
女神が席を外しました。
「何をぼそぼそしてたんだ?」
クレイがパステルたちを振り返って問いかけました。
「だって・・・」
「くりぇーばっかしゃべうかららおう」
「ボクもお話したいデシ・・・」
パステル、ルーミィ、シロちゃんがすねたように言いました。
「だけど、みんなで話すとごちゃごちゃになるからなぁ」
「ほんとにそれが理由?」
クレイが困ったように言うと、パステルが疑うように聞きます。
「どういう意味だ?」
「女神様、きれいだもんね」
「そういうことじゃないよ」
「ほんとに?」
笑いながら言うパステルに、クレイも本気で妬いてるわけではないと気がつきました。
「ほんとだって」
「連れて来ました」
クレイとパステルがじゃれていると、女神がやってきました。
「はぁいねー」
「ありがとうございます」
パステルだけに向かっていた意識をクレイは慌てて切り替えました。
「女神きれいだおう!」
「ありがとう」 
女神は微笑みました。
「この人たちですか?」
女神は数人の妖精をつれてきていました。
「えぇ、そうよ」
「人たちって複数形??」
「なんか話がよめないんだけど・・・」
「この者たちに死んだ者たちの話を聞くのでしょう?」
女神はにっこり笑いました。
「そうだよ、クレイ。忘れないで」
「そうか。謎の行商人のせいで死ねなかった妖精たちが亡くなって、彼らと親しかった妖精から話を聞くんだったな」
思い出したようにクレイがまとめました。
「そうそう」
パステルが頷きました。
「わたしたちに話があるというのは、あなたたち? 何の用?」
妖精の一人が歩み出ました。
「亡くなった妖精たちのことを聞きたいの」
「そうね。彼らは年老いていたから、呪いが解ければ亡くなるのは無理なかった。彼らに共通した特別なこととかあった?」
パステルが聞くと、答えた妖精は後ろにいる仲間たちに聞きました。
「・・・。どんな妖精たちだったのか、話を聞かせてもらえないだろうか。話の中で何か見つかるかもしれないし」
クレイが言うと、ノルもうんうんとうなずきました。
「そうならば・・・」
パステルが思案げに何かを言おうとすると、
「全員で情報集めっていうのはどうだ?」
突然、声が割り込みました。
「トラップ!?」
「なんでここにいるの??」
「ふふっ。」
驚くクレイとパステルに、トラップは怪しく笑います。
そんなトラップに「うわっ」と思うパステルはおいといて・・・。
「わたしもいますよ」
「キットンまで…。そっちの調査はどうだったんだ?」
「調査はいろいろ苦労したんだぜ!!」
「その話は後でするとして、そちらの妖精たちの話を先に聞きませんか?」
「あ、そうだね」
同意したパステルが、妖精たちに、「ごめんなさい」と謝りました。
「いいのよ」
という妖精の後ろで、それまで話をしなかった妖精が「わたしが話そう」と言い出しました。
「お願いします」
「彼らは…マッドサイエンティストだったんだ」
苦しげに妖精は言いました。
「マッドサイエンティスト?」
意外な言葉に驚くパステルでしたが、他の妖精たちも驚いていました。 
「秘密裏に行っていたからね。わたしは偶然、それを知ってしまった。だけど、彼らは元からそんな妖精だったわけじゃない」
「有能な妖精たちに目をつけた謎の行商人が、彼らに何かをしたのかもしれないですね」
「だけど、死ねない呪いをかけられていたのに、彼らはもう亡くなっている…」
「謎の行商人がほしかった「何か」はもう完成してるってわけか」
キットン、クレイ、トラップがそれぞれに意見を述べました。
「その「何か」って」
「完成していると大変な事になるって!!」
パステルやクレイが青ざめました。
「その者たちが何の研究をしていたのか、知らないのですか?」
女王様が妖精たちに聞きました。
「そうですね…。何か気になる言葉とか聞いた事はありませんか?」
「少しでも分かる事があれば何でも言ってください!」
キットンとパステルも言い募り、しばらくの間妖精達は考えました。すると1人の妖精が何かを思い出したようです。
「気になることがあれば教えてください」
「すごく仲が良かったカップルがいたんですけど、彼らのことを「もうすぐ別れる」って言って、しばらくしたら本当に別れてしまったことがありました。不自然に別れたカップルはその一件しか知らないですけど」
キットンはふむふむと聞きました。
マッドサイエンティストたちは、カップルを別れさせる薬を発明したようです。
「実験は成功したわけですか。完成したものは謎の行商人が持っていったんでしょうね」
「でも、どうしてそんなものを?」
「身分の高い女性や男性が、誰かと恋に落ちていても、その親が必ずしも賛成するとは限りませんからね。別れさせて都合のいい相手と結婚させたい場合とか、いい商売になるんじゃないですか?」
「そうすりゃ大儲けできるな」
「ソレを王様に飲ませたらどうなるだろう?」
ノルが静かに告げました。
妖精の女王と恋に落ちている王様に薬を飲ませたら、女王のことは何とも思わなくなるでしょう。
そうなれば、都合のいい相手との縁談を進めることもできるようになります。
「…。急いで王様のところに戻ろう」
「ボク大きくなるデシか?」
「お願い!」
パステルたちは、妖精たちに何かを思い出したら知らせてほしいと頼み、女王様に挨拶をして急いでシロちゃんに飛び乗りました。
「シロ、できるだけ急いでくれ。」
「ガッテンしょうちデシ!」
「あ、そういえばみんなで目的地まで向かうの??それなら色々用意しなくちゃ!!食事とかぁ・・・。」
「王様のところに戻るだけなら必要ねぇだろ」
とぼけたことを言うパステルを、トラップが一刀両断しました。
「そっかぁ。よし、じゃあみんなで出発!!」
「しおちゃん、がんばるんだお!」
みんなを乗せたシロちゃんは大空へと舞い上がり、王様のところへ向かいました。
「もう少しだな」
「そうだね。シロちやん――」
クレイとパステルが話している途中突風が吹き、パステルが落ちそうになりました。
「パステル!!」
パステルを助けようとしたクレイですが、二人そろって落ちてしまいました。
「きゃ―――!!!」
「クレイ―! パステル―!」
トラップの叫び声がむなしく空にこだまします。
「2人で落ちちゃったよお。どうするのお?」
さて、落ちてしまった2人は今・・・。
「ねぇ、どうしようクレイ・・・。私達みんなと別々になっちゃったね。これからどうやって合流しよう・・・。」
「とりあえず、王様のお城の方角に歩いて行こう」
だんだん日が暮れて辺りが暗くなってきました。
「こっちでいいのかな…」
パステルは不安そうにクレイにマントをつかみました。
「少し休もう」
「でも、休んでたら暗くなっちゃうよ?」
「モンスターがいるわけじゃないからな。トラップたちも、もう城に帰ってるだろう。闇雲に動いても消耗するだけだ」
「うん、分かった。でもずっと隣にいてね。」
「わかってるよ」
クレイはパステルの肩を抱きました。
「クレイ・・・。」
パステルは目を閉じて、クレイの肩に頭を預けました。
「じゃぁ休みながら考えよう、どうやったらトラップたちと合流できるか。」
雰囲気に飲まれてしまわないように、クレイは考えることに集中しました。
このまま二人きりで夜を明かすのも魅力的ですが、みんなに心配をかけるわけにはいきませんし、パステ ルに風邪をひかせるわけにもいきません。
「うん。」
と、言いながらパステルはいつの間にかクレイの手をぎゅっと握っていました。
「そんなに心配しなくっても大丈夫だって。俺だけじゃ頼りないかもしれないけど」
「そ、そんなことないよ。クレイのことみんな頼りにしてるんだから」
クレイが苦笑すると、パステルも笑いました。
などと話している間に外はどんどん寒くなっていきました。
「寒いねクレイ。」
「うん。あ、パステル、もう少し火焚こうか?こんな所で風邪引いてもしかたないからね。」
「ありがとう。」
クレイが手元の小枝を焚き火の中に投入すると、パチパチと音を立てて、火の勢いが強くなりました。
お互いの顔が、赤々と照らし出されます。
クレイが何かを言いかけようとすると、
「人が心配して探してるってぇのにノンキだな、おい」
木の陰から呆れた声が聞こえました。
「トラップ!」
「何でここに・・・。」
クレイとパステルが呆然としていると、別の人影がパステルに向かって転がるように駆けてきました。
「ぱぁるぅ〜。ルーミィ探したよ!!」
「ルーミィ!!」
と言って2人で泣きながら抱き合いました。
「ありがとな、トラップ。わざわざ探しに来てくれたのか」
「お邪魔だったかもしんねーけどな。こいつが「ぱーるぅ、ぱーるぅ」うるせーのなんの」
ルーミィを親指で指差して、トラップはことさらに疲れた顔をしてみせました。
「とりゃーらって、くりぇーとぱーるぅをしんぱいしてたおう!」
「余計なことを言わなくてもいいんだよ」
トラップがルーミィの口を押さえると、
「ルーミィが言わなくても」
「それくらいわかるよな?」
パステルとクレイは顔を見合わせて笑いました。
「無事に見つかってよかったです。じゃあとりあえず戻りましょうかね」
「そうだな。トラップ、城までどれくらいだ?」
「そうだなあ・・・ここからなら1時間もかからないはずだ。」
「こんなに暗いのに今から行くの??」
もう日はとっぷりと暮れていました。
「明日でも間に合うんじゃないですかね。今日急いでも仕方ないかもしれません。」
「そうなると今日はここで野宿になりそうだなあ。他のみんなはどう思う??」
「鳥たちの様子からすると、雨が降るかもしれない…」
「野宿もできないか・・・。」
ノルの返事に、クレイが考え込みました。
「やっぱり今から王城へ向かったほうがいいのかなあ。」
「どっか雨宿りできるところは無いのか??」
どうしようか考えあぐねるパステルたちに、トラップが提案しました。
「さっき穴があったお」
「そうデシ。さっきルーミィしゃんと穴を見つけたんデシ。中にクレイしゃんたちがいるかと思ったけど、すぐに行き止まりでいなかったんデシ」
「じゃ、そこに行ってみよう。ルーミィ、シロ案内してくれ」
「がってん承知デシ!!」
「シロちゃんいくおう!!」
ルーミィとシロちゃんは駆け出しました。
「あ、ルーミィ待って〜!先に行かないでぇ〜。」
など、言いつつパステル達はシロちゃんとルーミィの見つけた穴へ向かうことにしました。
「ここなら何とか雨は防げそうですね。」
「特別危険もなさそうだな」
「とりあえず火を焚いて温まろう。」
入り口から50mほど入った場所に荷物を下ろしてそれぞれに座り込みます。
ノルが小枝や枯葉を集めてきて、火をつけてくれました。
「ありがとう、ノル。」
「気にしないで、出来るのはこのくらいだから・・・。」
(ノルってほんとに謙虚だよね。いつも誰よりも働いてくれるのに。ノルみたいな人がいるとわたしも優しくなれる気がする)
「食料はわたしが出すね」
ノルの言動に感動したパステルは、自分も働こうとノルのリュックからみんなの分の乾パンを取り出しました。
「乾パンかよ」
「助けに来る前に食事を済ませておけば良かったですねぇ」
「文句ばっかり言わないの!」
「まぁまぁ、パステル。おれたちを探しに来てくれたんだから」
「ぱーるぅ、ルーミィかんぱんすきだお!」
「ルーミィはいい子だね♪」
にこにこ笑うルーミィに、パステルのささくれ立った心は少し癒されました。
「ルーミィなら何を食べても生きていけるな!」
「そえどういうことぉ??」
トラップのデリカシーのない言葉に、こんどはルーミィが気分を害したようです。
「ルーミィは大きくなれるってことですよ。さ、あんなのは放っておいて食べましょう。」
「そうだな」
キットンのフォローに、クレイも同意しました。
ルーミィは食事をはじめたとたんに、トラップの言葉は忘れてしまいました。
みんなで乾パンを食べると、クレイ、トラップ、ノルの順に火の番をすることにして、みんな寝ました。
「zzzzzzzzzzzz」
トラップの寝息が、洞窟内にこだまします。
「相変わらず寝付きのいいヤツだよなぁ」
「交代するときに起こせる?」
横になっていたパステルが、笑い声とともに言いました。
「ま、蹴ってでも起きてもらうさ」
クレイが笑います。
「みんなを起こさないでね」
パステルはそう言うと、ごそごそと起き出しました。
「寝てなくて大丈夫か?」
「うん。何だか目がさえてるから」
「なんだかパステルだけじゃ心配だな、一緒にいてあげるよ!!」
「寝不足になっちゃうよ?」
「どうせ火の番しないといけないからな。」
外は雨が降り始めたようです。キットンやトラップのイビキが洞窟に響いています。
「キットンって声だけじゃなくてイビキも大きいねー」
苦笑しながらパステルが大きな口を開けているキットンを見ました。
「そうだな。トラップも負けてないけどな。でも一緒の部屋でも寝れるから体が慣れちゃったんだろうなぁ」
「クレイ大変だね」
パステルが笑います。
「パステルだって野宿で慣れただろ? パーティに繊細な人がいなくて良かったよ」
「えー?(笑) でも確かに繊細な人だと冒険者にはむかないかもね〜」
「自称「繊細」のトラップはクレイとパステルには繊細だと思われていないようです。
「しばらく、クレイの隣にいていい?」
「一緒にいるって言っただろ?」
クレイは傍にあった薄手の毛布をパステルの肩にかけました。
「ありがと」
「まぁ、最近色々あたふたしていたから、ゆっくり休もうっか。」
「そっか、最近あまり休んでなかったもんね。」
手を繋ぎ休む二人は、いつしか深い夢の中に・・・・。
「トラップ?」
ノルが見張りの交代のために目を覚ましたとき、起きているはずのトラップは眠