生憎の雨模様。
ルーミィとシロちゃんは、レインコートと長靴ではしゃぎ回って。
お洗濯、あとで頑張らないとなぁ。
「…明日、晴れるかなぁ」
思わず独り言が口を突く。だって、明日は、クレイの誕生日。
青が似合う人だから、素敵な青空、プレゼントしてあげたいよね。
「今日はずっと止みそうにないなぁ」
背後から、優しい声。
「クレイ! バイト、もう終わったの?」
「この雨だろ? 今日は途中で中止だってさ」
ずぶ濡れのクレイは、タオルで頭をがしがし拭きながら言う。今の彼のバイトは、屋外で
のお仕事だから。天気に左右されちゃうんだよね。
「続きは明日だって」
「明日!? ええ、だって明日はあなたの…」
思わず叫び声が出る私を、静かに目で制して。
「明日が何の日でも、バイトはちゃんとしないといけないだろ。何たって、俺たちの生活
がかかってんだしな」
彼は不器用にウィンクひとつ。
*
そして、次の日は見事な快晴。
クレイのための、神様からのプレゼントなんだね、きっと。
「うわぁ、いいお天気ー」
窓を開けて、深呼吸。さっそくお洗濯に取りかかる。
気持ちのいい空の下、仕事も不思議とはかどって。予定より早く片付いたから。
「…よし」私は意を決した。
「ただいまー。あー、疲れた」
夕方、クレイがばてばてで帰宅。
「「「「「「ハッピーバースデー、クレイ!」」」」」」
お帰りなさいの代わりに、全員での合唱。
「………………え?」
意表を突かれたのか、クレイの反応はとことん鈍かった。
「おめぇよぉ、もちっと嬉しそうな顔とかできねーのか?」
トラップが呆れ顔で溜息。
「しょうがないですよ、トラップ。クレイも疲れてるんでしょうしね」
キットンがフォローして、ノルもうんうんと頷いて。
「くりぇー、るーみぃおなかすいたおぅ! はやくおててあらってきて、みんなでごはん
たべるんだおぅ!」
「クレイ兄しゃん、ボクもデシ…」
ルーミィとシロちゃんは、もう待ちきれずにいて。
「さぁ、皆主役をテーブルに案内して。もう始めましょ!」
私はまだ呆然としているクレイをさっさと食卓に押しやると、飲み物の準備をするために
台所に戻った。
…それからは皆笑顔で食べまくり、飲みまくり。夜遅くまで大騒ぎ。
後に残ったのは、山のようなお皿とグラスで。後片付けは、もちろん私。
でも、クレイの表情も、幸せそうに見えたから。パーティやって、良かったと思う。
本当のところ、今日のクレイの誕生日に気づいていたのは私だけで。慌てて買出しに行って支度したから、プレゼントなんてろくに用意もできなかった。
だけど私も、自分なりに頑張ったつもり。ケーキも大急ぎで焼いたんだから。
「はぁ…やっと終わったぁ」
たっぷり30分以上をかけて、大量の後片付けを終えると、私はリビングのソファにもたれかかった。心地よい疲労感。
やっぱり、急ごしらえでも。ちゃんとお祝いできて、良かったな…。
*
「…パステル?」
名前を呼ばれて目を開ける。…眠っちゃってたんだ、私。
目の前10cmに…クレイの顔。
「……!」思わず目を見開いて、がばっと起き上がりそうになって。
ソファの肘掛に、頭を思いきりぶつけてしまった。
「い、いったあーい…」
「だ、大丈夫か?」
クレイがおろおろしながら私を気遣ってくれる。うう、情けない…。
「大丈夫よ。ごめん、心配させて」
私はずきずきする頭を押さえつつ立ち上がった。すると。
ふわり、温かい彼の腕が私の身体を包み込んだ。
「…ク、クレイ?」
突然のことで、何を言えばいいのかわからない。頭の中がパニックしてしまう。
「ありがとう、パステル」
ふと耳元に、クレイの囁き声が聞こえた。
「今日すっかり忘れてたよ、俺の誕生日。パステルが覚えててくれたんだろ」
クレイの表情は見えないけど。きっと、ほんのり顔を赤らめたりしてるよね。
だって、あなたの腕の力が、さっきより少しだけ強くなった。
「ううん、私こそごめんね。大したお祝いもできなくて、プレゼントも用意できなかった」
私が思っていたことを口にすると、彼はまた囁いた。
「君が覚えててくれてたことが、俺にとっては一番のプレゼントだよ」
…さりげない一言だけど、私にとっては。
泣きたいぐらい、嬉しい言葉で。
「ありがとう」そっと呟くと。彼にちゃんと、届いていたらしく。
腕の力は、また少し強くなって。私をしっかり包み込んだ。
彼の誕生日のはずなのに、幸せなのは私のほう。何だか悪いぐらい。
「クレイ、後からになっちゃうけどプレゼント必ずするね。何がいい?」
そう聞いてみたら、クレイはふっと腕の力を抜いて。私の両肩をそっと掴んで。
「…何でもいいの?」
とっても真剣な表情で聞いてきた。
私がこくん、と頷くと。彼の目が、ふっと細められて。
「それじゃ…」
耳に届いた、囁き声は。
やっぱり私を幸せにした。