笑って。



 どうか、笑って。


   *


嬉しいことだけじゃなく、悲しいことも、たくさん。
人よりも、きっと多く経験してきた貴女だから。
その笑顔が綺麗だって、思う。
だから。
その笑顔の裏で、たくさん泣いていたことに、気づけない。

人のためには、たくさん泣いても。
自分のためには、滅多に泣かない、貴女だから。



「……わぁ、クレイ、見て!」

久々の、二人での外出。
何のことはない、単なる買出しなのだけれど、それでも貴女は大喜びで。
金茶の髪を弾ませて、踊るような足取りで。
ふと、何かに目を留めた。

「ん?」
「ほら、これ!」

小さな手が指差した、足元には、春を告げる花。

「やっぱりもう春なのね、暖かくなってきたもの」

空を見上げ、目を細めて、微笑む貴女。
春の光を浴びて、とても幸せそうで。

でも、きっと。
その瞼の裏に浮かぶのは、二度と戻らぬ懐かしい記憶。
母親と花を探し、父親へ届けたであろう、幸せな過去。
……もう、戻らぬ時間。



「パステル」
「なあに?」

声をかけると振り向く貴女は、もう瞼を見開いていて。
澄んだ輝きの瞳は、一点の影すら見つけられない。
だから、俺は。

「この花、摘んで帰ろうか?」
「え?」
「せっかく見つけた春だろ、みんなにも教えてやろうよ」

「……うん!」

小さな手で、そうっと花を手折って。
大事に両手で抱え、胸に押し当てて目を閉じる。
その姿は、祈りにも似て。

声をかけられなかった。


   *


 どうか。
 貴女は、笑って。
 悲しみは、終わるから。
 幸せが、来るから。

 ……笑って。







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