いつも始まりは墓の前にいる。
泣いている自分と寄り添うセレーネ。
そして、助けてくれた賢者、ディレンシェ様。
「ジュディ・・・もう泣いてはいけない」
ディレンシェ様が慰めてくれるけど、涙は止まらなかった。
シスター・マム、・・・私のお母さん。
その死に泣いてはいけない法はないはず。
賢者様は厳しい口調で私をたしなめる。
「シスター・マムの気持ちを無にしてはいけません。
・・・これから、貴方は宿命と戦わなくてはいけないのですから」
・・・宿命・・・・?
それは至宝としての戦いのことだった・・。
賢者様は私に全てを教えてくれた。
私が闇に堕ちた至宝であること。セレーネが守護石であること。
それがゆえに両親に捨てられたこと。
そして、・・・至宝の片割れ、青の至宝が私の双子の兄であること。
聞いたときは全てを憎んだ。
戦士になって力をつけたのも、全て復讐するため。
そう、親もあいつも憎んでる!!
最近、あいつに会った。
・・・私によく似ている。
でも性格は正反対。
しかも至宝って自覚がてんでない。
あんなに守護石に囲まれてるのに、わかってないし。
・・・こんなヤツ倒しても嬉しくない。
条件が同じじゃなきゃ、勝った気がしない。
だから、待つことにした。
・・・・・本当は誰も憎みたくない。
人間としての私が悲鳴を上げる。
・・・でも、もう遅い。
全ては始まった。
至宝が戦えばどちらかが砕けなければならない。
・・私は生きる。だから、憎み続ける。
じゃないと、あいつを「兄さん」って呼んでしまいそうだから。
・・・翌日、私は夕べのことを大体話した。
あ、トラップとの話はのぞいてだよ。
そしたら全員考え込んじゃって
・・・・やっぱり言わなきゃよかった!!
「・・・何で、こうなるんだよ」
クレイの苦々しい声が静寂を破る。
「クレイ・・・?」
「オレ、みんなを巻き込みたくなかったのに・・・
何でみんなまで!!
こんな運命オレ一人でたくさんなのに!!」
仲間を守護石かも知れないって可能性だけで、巻き込みたくない。
そう叫んでいるようで、クレイの姿はひどく痛々しかった。
「・・・クレイ」
ギアが呼びかける。
クレイが素直に振り向いたとたん、
”バキッ!!”
・・ギアの一撃はクレイを吹っ飛ばしていた。
「ギア・・」
「クレイ、いいかげんにしろ。
オレ達はみんな、自分で考えてそれでお前のそばにいるって決めたんだ。
お前は言ってみれば、中心なんだ。
それをほいほい心を揺らされては、オレ達が安心できないだろ?
・・・念のため言っておくが、一人でこっそり行こうなんて考えるなよ。
その時にはお前をそこらの木に縛り付けてやるからな」
最後の言葉は茶目っ気たっぷりに、言葉をしめた。
・・・そうね、ギアの言うとおりよ!!
私は自分で選んだ。
だから、迷わないもの!!
「ギア・・・」
「クレイ、一人でいきたきゃ、私を殴ってからにしてよ」
「・・・パステルまで・・・」
疲れたように笑うクレイ。
その中にはあきらめがあった。
だって、みんな言葉には出さないけど、ギアの言うとおりだって
顔が言ってるもの!!
「・・・すまない・・」
ついにクレイは降伏した。
ルーミィとシロちゃんがはしゃぎ出す。
と、同時にキットンが素朴な疑問を口にした。
「・・・それにしても、守護石って何なんでしょうか?」
・・・へ?
・・・・・・そういえば、守護石ってどうして至宝と関係あるか、
私たち知らなかったっけ・・・。
ふたたび考え込んでしまった私たちの前で、シロちゃんがとんでもないことを
口にした。
「ボク、守護石のこと聞いたことあるデシよ」
えーーーーーーーーー!?
「これはホワイトドラゴン族に伝わるお話なんデシ」
・・・昔、神様の宝物が二つに割れる事件がありました。
片方は何とか回収したのですが、もう片方とかけらは地上に落ちてしまいました。
堕ちた片方は闇の世界にいってしまいましたが、かけらは地上に残りました。
そして、大気や大地、そして、すべての生けとし生けるものに宿りました。
・・二つの宝を待つために。
「・・・で、ボクらホワイトドラゴン族は至宝の大きいかけらを
ずーーーーーーーっと持ってたんデシ」
「じゃ・・・シロちゃんも・・?」
私の言葉にシロちゃんが大きくうなずく。
「ボクのなまえは『至宝を待つもの』って意味なんデシ」
へえ・・・そんな由来があったんだ・・・
感心している私たちをよそに、クレイはますます考え込んでしまっている。
・・・この話、クレイ抜きですればよかったかな・・・?
「でも、持ってるからどうだっていうことはないんデシよ」
沈みそうになるクレイがこの一言で顔を上げた。
シロちゃんがにっこり笑いながら、クレイのそばにちかづく。
「クレイしゃんが至宝だとしても、力を発動させるには”想い”が必要なんデシ」
「想い・・・」
「そうデシ。誰かを守ったり何かしたいって想い、それがなきゃ
至宝はただの石デシ。
これは守護石も同じデシよ」
「・・・・守りたい・・・・想い」
クレイはその言葉をかみしめるように、ゆっくりとつぶやいた。
すっと、立ち上がる。
”トクンっ・・・・”
その顔にはさっきまでに迷いはなかった。
それに、いつもと違う・・・なんだかすごく、素敵・・・・!!
彼を見ているのが恥ずかしくって、私は目をそらした。
クレイは一人一人ゆっくりと見つめ、こう宣言した。
「・・オレは、クレイ・シーモア・アンダーソンだ。
青の至宝でも神の宝でもなんでもない。
オレは人間なんだ」って。
その姿は、さながらサーガにでる英雄のようだった。
・・・そこまでは物語みたいって、ひたる余裕があったのよね。
クレイがあんなこといわなけりゃ。
誓った後、クレイはまっすぐギアとトラップの前にやってきた。
「クレイ・・・?」
「ギア、トラップ、多分お前らにも迷惑かけるとおもう。
だけど、パステルのことは譲らないからな」
まっすぐな瞳でそういってのけた。
ちょ・・・クレイ!!何言うのよ!!
ギアとトラップはしばらくぽかんとしていたけど、
反応は見事に違っていた。
ギアはクレイの胸あたりに軽く拳をいれて
「それはこっちのせりふだ」
って言って返すし、トラップは全身赤くして
「な・・・な・・・なにいってんだよ!?オレはこいつのコトなんて・・・」
ってあわててるし。
そしたら、今度はキットンまでルーミィたちと一緒になって
「ほー、クレイがパステルを好きだとは!!」
「ねー、くりぇい、ぱぁーるのことしゅきなんかぁ?
るーみぃもしゅきだおう!!」
・・・なーんて騒ぎ出すし・・・・
もう!!私はどうすりゃいいのよーーーーーーー!!
・・・・それからはとくにトラブルはなくエレッセに着いた。
・・・まったくクレイったら!!
おかげで、しばらく男性陣の顔まともに見られなかったんだから!!
特にクレイは。
・・・なんだか、自分の気持ちがクレイに傾きそうな気がして。
そっと横にいるクレイを見ると、今までになかった強さが彼を彩っていた。
(クレイ・・・)
また、少し気持ちが彼の方へかたむいた、そんな気がした。
「・・・なんだこりゃ」
エレッセの寺院を見て、トラップが変な声をあげた。
・・・寺院は廃墟と化していた。
「・・・だいぶ前に壊れたようだな」
がれきをとって、つぶやいたギアの言葉に同じくがれきをあさっていた
キットンが同意する。
「そのようですね。この壊れ方からすると、大体10年くらいたってますね。
しかもこれは・・・」
急にぶつぶつ言いだしたキットンはほっといて、私たちは顔を見合わせた。
「・・・ジュディはここで育ったと聞いていたのに・・・」
クレイの瞳に哀しい光が見えた。
「一体どうして・・・?」
「ここは10年前、どっかの魔法使いの修行のとばっちりを食ったのよ」
後ろから、澄んだ声が聞こえてきた。
全員が後ろを振り返る。
そこにはクレイそっくりな女戦士と銀色の狼―ジュディとセレーネが
剣を携えて立っていた。
「ジュディ!!」
「ようやく守護石を見つけたようね。クレイ」
宿命の双子は再び邂逅した。
クレイはジュデイに向き合うように、一歩前に進んだ。
「・・・どういうことだ?」
かすれた声での問いを笑うようにジュディは唇をもちあげた。
「額面通り。10年前、この近くで修行していた魔法使いの攻撃魔法で
つぶされたってこと。
幸い、私は助かって真実を知った、ってワケ」
他に何か?とも言いたげな彼女に、クレイは再び話しかけた。
「・・・オレは至宝とか宿命とかどうでもいいって思ってる。
仲間がいて、大切にしたい人がいて・・・それで十分だって思う。
・・・・・ジュディ、帰ろうよ。父さん達のところに」
「・・・・あのお人好しが・・・!!」
トラップが小さく舌打ちした。
・・・彼が言いたいのは大体解る。
憎しみに包まれた彼女に、そんなことが通じるものか。
人間として生きようとする兄と、至宝として生きる妹にもはや共存はないんだ、と。
・・・でも・・・クレイはそうしたかったんだと思う。
妹の存在を知ってから、彼が彼女に対して負い目を感じていたのは私が知っている。
両親から引き離された、彼女にすまないって、いってたもの・・・。
だから、クレイは言ったんだと思う。
・・・でも、ジュディはそれをはねのけた。
「・・・何言ってるの?私もあんたも至宝の片割れ。
いくら人間として生きようとも、力を欲する者にそんな理屈は通用しない。
それに、私は至宝としての生き方を貫く。
至宝がぶつかる先は・・・どちらかが死ぬことになる。
共存などありえない!!」
たたきつけるように言うと、ジュディは剣を構えた。
・・気のせい・・・?
その瞳には深い悲しみがある。
戸惑う私の前にクレイが立っていた。
「交渉決裂・・・か」
苦笑混じりの言葉を、周りは容赦なく非難した。
「あたりまえだろうが!!向こうとこっちじゃ考えはまるで違う。
なのにんなこと言うなっての!!」
「・・・トラップに同感、だな」
うう・・・みんなそこまで言わなくッテも・・・
クレイは困った顔をしていたけど、すぐ真剣な顔になって話し出す。
「これからあいつと一騎打ちだ。
みんなは手を出さないでくれ。
それと・・・・あの狼牽制よろしくな」
「クレイ・・・」
このときすごく泣きそうな顔をしていたんだと思う。
クレイは優しく微笑むと、私の肩を抱きしめた。
「大丈夫、・・・オレは必ず勝つよ」
そして額に暖かいものがふれた。
・・・キスしたの?
彼は照れくさそうに笑って、もう一人の自分―ジュディ―の方へ歩んでいった。
「クレイ・・・」
「大丈夫。あいつは勝つさ。・・・守護石がついてるんだからね」
ギアがそう言ってくれてるけど・・・・
私はもう一つのことを心配していた。
彼の心。
二つの至宝がぶつかったら、どちらかが砕ける。
つまり、二人は兄殺し、妹殺しをおこなうってこと。
・・・そんなことに、その重荷にクレイは・・・
心を壊してしまうんじゃ・・・・!?
私は懸命に祈った。
・・・どうか、クレイが心を壊してしまわないように・・・と
どうか・・・神様!!
・・・戦いが始まった。
剣と剣がうち合わされ、互いの身体に傷を作る。
(ジュディ・・・・)
オレは目の前にいる女、ジュディに向かって突きを繰り出した。
・・・オレの片割れ、・・・たった一人の妹。
なのに、至宝というだけで変わってしまった。
敵という存在に。
つらかった。やりきれなかった。
本当なら、兄妹のなかでたった一人の娘として、大切にされるはずだったのに
・・・・。
(すまない)
これは彼女へ対する精一杯の謝罪だ。
・・・カッコつけるなら、「オレの命で」なんて言うんだろうけど、
それだけはできなかった。
・・・待っていてくれる仲間のために。
・・・誰よりも大切な人の涙はみたくないから。
ジュディの動きは本当に、オレに似ていた。
だから、動けたはずなのに・・・・・!!
近くのがれきに足を取られたんだ。
その隙を狙って、彼女の剣が振り下ろされる。
オレはとっさに身体をひねった。
剣は額のひもを切断し、脇へそれた。
「くっ・・・」
血が流れてきて、視界を遮る。
(血が目にはいるなんて・・・)
よくよく不幸なヤツだな、オレって。
「これでおわりよ!!」
ジュディの声が耳に響く。
・・・・ごめん、パステル・・・君のこと泣かせてしまうな・・・。
覚悟を決めた瞬間、誰も気がつかなかった最後の守護石が力を発揮した。
・・・そうとしか思えないくらい、右腕の動きは早かった。
・・・そして、勝負はついた。
・・・馬鹿兄貴!!
何が「帰ろうよ」だ!!
私になんて帰る場所なんかありゃしない。
寺院はなくなり、賢者様は行方知れず・・・
それに、・・・帰れっこない、ドーマの家。
私は捨てられたのよ!!あんたのために!
その当人がいけしゃあしゃあと・・・何言ってるのよ!!
・・・・ヤツの剣が脇をかすめる。
やっぱ双子なんだ、私と動きがよく似ている。
そして、待ってる人たちがいる。
それが、うらやましい。
・・・私にはセレーネがいる。
でも解る、彼女が一族に戻りたがっていること。
彼女は私を助けてくれた。何より心を。
・・・でも今日でおしまい。
これで決着がつく!!
がれきに足を取られ、こけたクレイめがけて私は剣を振り下ろした。
剣は額をかすめただけ。
でも血がヤツの視界を封じた。
チャンス!!
再び剣を振り上げたその時、
(ジュディ!!)
セレーネの思念が飛び込んできた。
(最後の守護石、ヤツの手にある剣・・・・!!)
それが最期の言葉だった。
・・・・・遠くで水晶が砕けるような、澄んだ音が聞こえた・・・・。
”キィィィィィィン・・・・・!!”
・・・至宝が砕ける音がした・・・・?
そんな気がしたのは、二人の戦いが悲しすぎたからかもしれない。
クレイの剣はジュディの心臓を正確に貫いていた。
「クレイ!!」
「ジュディ!!」
私の声とクレイの絶叫が交錯する。
クレイは剣を抜いて、くずれおちるジュディを抱き留めた。
「キットン!!ギア!!頼む、手当を・・・」
「・・・・いいよ、しなくって・・・」
クレイの腕のなかで、彼女はそうつぶやいた。
「ジュディ、生きろ!!生きてくれよ!!
父さんや母さんが待ってるんだぞ!!」
兄の言葉に妹は首を振った。
「・・・いいの、こうして兄さんが看取ってくれてるから・・・」
「・・・!!」
ジュディさん・・・初めてクレイのこと、「兄さん」って・・・!
クレイも笑顔と泣き顔が混じった、複雑な表情で彼女を見た。
「・・・ごめんね・・・辛い思いさせて・・・・
・・・私ね、ずっと兄さん達を恨んでるって思っていた・・・
・・・でも、本当は・・・大好きだった・・・
兄さんも・・・父さんも・・・・母さんも・・・・・」
「ジュディ!!!」
瞳から徐々に生気が抜けていく・・・・・って、あれ?
瞳の色が紫から鳶色に、変わっていく・・・・?
私の怪訝そうな顔に気づいたのか、ジュディさんは笑った。
「・・・元々ね、私の目は兄さんと同じ色なの・・・
でも・・・至宝として・・・生きようと決めたときから・・・色が
変わってた・・・」
そして、私の頬をなでた。
「あなた・・・兄さんを・・・お願いね・・・」
「もういい!!しゃべるな!!」
クレイが悲痛な声で止める。
ギアとキットンが懸命に治療してくれるんだけど・・・・すでに手遅れだった。
「・・・いつか・・・・人として・・・お兄ちゃんと・・・・会いたい・・・」
それだけ言うと、しばらく目を閉じた。
・・・そして、二度と開かれるコトはなかった・・・・。
「・・・・・!!」
空が今にも泣き出しそうになっていた。
・・・雨が降っている。
クレイは黙々とジュディの墓を作っていた。
そばにいるのはセレーネ。
赤の至宝の守護石。
・・・私たちはそんな一人と一匹を見ているしかなかった。
翌日、私たちはエレッセを後にした。
セレーネは残るつもりだ。
ノルから聞いた話によると、彼女は死ぬまでジュディを守る、と言っていた。
そんな彼女の毛は気高い銀色に輝いていた。
・・・クレイはゆっくりと壊れていっている。
ドーマに帰って、彼はコトの顛末を両親に話した。
お母さんは泣いていたけど・・・クレイはただ黙っていた。
そして、それ以来部屋に閉じこもったきりで、笑うことも泣くこともなく、
ぼんやりと外を見つめていた。
「・・・ったく、あいつは・・・!!」
心底いらだたしげにトラップが毒づいた。
・・そう、私たちはクレイに対して、何も出来ず、無駄な日々を送っていた。
「・・さすがにクレイには辛すぎたんでしょうねぇ・・」
ため息混じりにキットンがつぶやく。
「クレイ・・・・」
・・・このまま何も出来ないの?
クレイを助けること、出来ないの?
いや!!そんなのいや!!
いつものクレイに戻ってほしい。
私が大好きなあの笑顔をもう一度見たい!!
(クレイ・・・・お願い・・・・)
気がつくと、私は涙を流していた。
「・・・クレイのヤツ・・・・」
ギアが腹立たしげにつぶやく。
そして、私の涙をふいてくれた。
「ギア・・・」
「今のあいつ、ジュディが見たらなんて言うだろうな・・・」
・・・そうだ、ジュディさんなら、きっと怒ってる。
情けない兄貴だって、なじってる。
私は決心がついた。
「・・・私、クレイのところに行ってくる。
行って怒ってくる」
「パステル・・・」
私の言葉にみんな呆れた顔をしていたけど、すぐに黙ってうなずいた。
部屋を出ようとしたとき、トラップの情けないような声が耳に入ったけど、
それは聞かないようにした。
だって、「何恋敵に塩送ってンだろうな、オレ達」
って言ったんだもの!!
・・気にしない気にしない。
今はクレイのことが最優先、なんだからね!!パステル!!
「・・・クレイ・・・?」
ゆっくりと部屋のドアをあけた。
クレイは一瞬こっちを見たけど・・・すぐ外に視線を向けた。
その目は虚ろでなんの感情も伺えなかった。
「クレイ・・・らしくないよ。今のカッコ」
急に悲しくなってそうつぶやくと、ようやくここに私がいることに
気づいたらしく、身体ごと向き直る。
「パステル・・・・・?」
「そんな魂抜けちゃったみたいにしてるなんて、クレイらしくない!!
もっと感情出しなさいよ!!ジュディさんのことで泣きたきゃ泣けばいいじゃ
ない!!どうしてそんな・・・」
「オレには資格がないんだよ・・・」
「え・・・?」
一瞬クレイが何を言ってるのかわからなかった。
そんな私をよそに、クレイは震える声ですべてをぶちまけた。
「・・・だってそうだろう?
ジュディをひとりぼっちにして・・・・辛い目にあわせて・・・あげくに
殺したんだぞ!!あいつを!!
たった一人の妹を!!
そんなオレに彼女を悼んで泣くなんて許されるわけない!!
許されないんだ!!」
「違う!!」
気がつくと私は泣きながらそう叫んでいた。
・・・だって、クレイ、自分を追いつめすぎてるんだもん!!
何でも自分のせいにして、追いつめて・・・・
でもジュディさん、恨んじゃいないんだよ!!
でなきゃ、あの瞬間でクレイのこと「兄さん」って呼ぶもんですか!!
確かにジュディさんに手をかけたのはクレイでも、そこまで
自分を追い込む必要はないんだよ!!
「クレイ、ジュディさんは一人じゃなかったんだよ」
私の言葉にクレイはいぶかしげな顔をした。
「一人じゃなかった・・・?」
「そう、一人じゃなかったんだよ。
だって、あの時クレイがそばにいたじゃない。
たとえ決着がどういう形でついても、クレイがそばにいてくれた、
それだけで、彼女は嬉しかったって思うよ」
クレイは黙って私を見つめた。
「・・・それに、今のクレイ、ジュディさんが見たらきっと怒ってる。
私が死んで心を壊すなんて、なんていやなコトかんがえるんだ、って」
「・・・・!!」
その言葉で、ほんの少しクレイの瞳に生気が戻る。
そんな些細なことが嬉しくて・・・・
私は優しく言った。
「クレイ、ジュディさんに済まないって思ってるなら・・・・
彼女のこと、わすれちゃ駄目だよ」
「忘れるな・・・・?」
「そうよ。わすれちゃだめ。
クレイがわすれちゃったら、彼女は本当にこの世からいなくなっちゃうんだよ。
・・・だから、クレイが負い目を感じてるっていうなら・・・
ジュディ・セレス・アンダーソンのこと、わすれたら駄目なんだから!!」
しばらく、クレイはじっと動かなかった。
・・・・やがて私はクレイの腕の中に包まれていた。
「クレイ・・・」
「わすれるわけない・・・わすれてたまるか!!」
そう言ってクレイは泣いた。
夕日が最後の光を放つまで・・ずっと・・・泣いていた・・・。
夕闇があたりを包みだした頃、クレイはようやく私を解放してくれた。
・・・腕は捕まれたままだったけど。
「・・・悪い・・・心配かけた・・・」
そう言って笑った彼の笑顔は、雨上がりの虹のように綺麗だった。
「クレイ・・・」
・・・その時、私はようやく一つの結論にたどり着いた。
クレイのそばにいつまでもいよう、って・・・・
fin