「やっと来たな」
クレイたちは場所を移動して、広場から離れたところで待っていた。
「お待たせ」
わたしが言ったのに、クレイたちはあんまり反応しない。
どうしたんだろ?と思ったら、
「ほー」
キットンが変な声を出した。
「へぇ…よく似合うな、2人とも」
クレイがわたしとマリーナをじっと見てた。
心臓が跳ね上がる。
自分の身体が脈うってるのがはっきりわかる。
「な、ノル」
クレイはわたしたちから視線を外して、ノルを見上げた。
「そうだな。ルーミィも似合ってる」
「え? あ、ルーミィも着てたのか。かわいいな、ルーミィ」
クレイがルーミィの頭をなでるためにしゃがみ込んだから、わたしはやっと息がつけた。
肩に入ってた力も抜ける。
いつもはこんなにドキドキしたりしないんだけど、やっぱりおしゃれしてる時っていうのはちょっと
違う。
この姿を一番見せたい人が見てどう思うのか、それがすごく気になるし。
「似合うな」っていう一言でも十分嬉しい。
できれば、もうちょっと何か言ってほしかったけど。
「良かったわね、パステル」
マリーナがこそっと耳打ちしてくれた。
「うん…!」
わたしがマリーナの方を向いて返事をした時に、マリーナはちらっとだけど別の方を見た。
あ、そっか。
マリーナが見せたい相手。
彼はまだわたしたちの格好について何も言ってない。
元々そういう事を言う人じゃないって事はわたしよりもマリーナの方がよくわかってるんだろうけ
ど、でもそれにしてもひどい。
一言くらい何か言ってくれてもいいのに。
「ちょっと、トラ…」
わたしがトラップに声をかけようとしたら、マリーナがわたしの腕をつかんだ。
「いいのよ、パステル」
「でも!」
「トラップが誉めたりしたら気持ち悪いでしょ?」
マリーナはそう言って笑ってたけど、でもどこか寂しそうだった。
クレイもだけど、トラップも乙女心なんていうもの、全然わかってないんだから。
「お互い今年も大変そうね」
「そうだね」
クレイは鈍感で、トラップは照れ屋。
2人ともわたしたちの事をどう思ってるのかちっともわからない。
「じゃ、行くか」
立ち上がったクレイがみんなをうながした。
これから神殿に行く事になってる。
祝福の神様、ブレス様がエベリンに来てるんだよ。
これがこのお祭りのメインイベント。
ブレス様の前で今年1年のお願い事を祈るんだ。
でも、エベリンがパンクしそうなくらいに人が集まってるから、さすがに1人1人っていうわけに
は行かない。
祭壇に上がってるブレス様にみんなが両手を組んでしばらくお祈りして終わり。
次々に人が押し寄せるから、終わったらすぐその場から離れなきゃいけないんだって。
久しぶりに神様と会えるのにちょっと残念なんだけどね。
「時間がかかりそうですね」
行列は神殿の随分手前まで出来ていた。
わたしは今のうちにマリーナとの打ち合わせ通りに・・・。
わたしは、隣にいるクレイの服を引っ張った。
「何だ?」
クレイはわたしの口元に耳を寄せてきた。
いつもは上の方にあるクレイの髪が、すぐ目の前にある。
触れられる、距離。
内心の想いを悟られないように、あらかじめ用意しておいた言葉をできるだけ自然に並べた。
「クレイ、後で行きたいところがあるんだけど、一緒に来てくれる?」
返事はわかってる。
わかってるけど、これだけの事を言うのにすごく勇気がいる。
「あぁ、いいよ」
思ってたとおり、あっさりと答えるクレイ。
「ほんとに? 約束だよ」
「どうしたんだよ、パステル。それくらいの事で」
クレイはわたしの真剣な様子がおかしかったのか、笑ってた。
クレイにとっては何でもない事なのかもしれないけど、わたしにとっては大事な事なんだけどな。
今年はじめて2人だけになれるんだよ。
クレイにとってそれは、何でもない事なのかな。
キットンを挟んで前にいるマリーナたちも同じような話をしてるみたいだ。
トラップはこの行列を見てすぐに逃げ出そうとしたんだけど、マリーナが言葉巧みに引きとめた。
そりゃ、いなくなられちゃたまらないもんね。
2人の声は聞こえなかったけど、マリーナの表情で上手く行ったんだって事はすぐわかった。
トラップを見上げる顔がぱっと輝いたから。
わたしもあんな綺麗な笑顔ができるといいんだけど。
「もうすぐだ」
わたしたちの後ろにいるノルが教えてくれた。
やっとわたしたちも神殿の中に入れた。
そんなに広くないスペースには人がぎっしりつまってる。
ブレス様なんてとても見えないけど、でもどこか神聖な雰囲気が漂ってる気がする。
「ほら、パステル。お願いしないと」
みんな目を閉じて祈ってる。
わたしも慌てて手を組んで目を閉じた。
わたしの願い事はマリーナと同じ。
──好きな人に振り向いてもらえますように──
END
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