君とあいつの微妙な雰囲気には、おれたちもすぐに気づいたけど、傷ついている二人を遠巻きに見守ることしかできなかった。
君とパーティを組むと決めたそのときから、予測できないことではなかったはずなのに、冒険に心を躍らせていたおれたちはあまりにも幼すぎた。
だから、親友と同じ人を好きになるかもしれないだなんて、考えてもいなかったんだ。
「ぱーるぅ」
パステルに元気がないことがわかるのか、ルーミィはここのところ少しパステルに遠慮しているようだったけど、それでも遊んでほしいようだ。
袖を引かれて、パステルも原稿からルーミィへと視線を移す。
「どうしたの?」
「おえかきしたんらお」
ルーミィが差し出した紙を、パステルが受け取る。
「シロちゃん?」
「そうらお。おそらをとんでるんら」
そんな微笑ましい会話がはじまった。
白い紙に描かれたシロに、おれはすぐには気がつかなかったんだけど、さすがにパステルにはわかったようだ。
むくれていたルーミィも、パステルの言葉に機嫌を良くして楽しそうに話していた。
「ぱーるぅ。ルーミィ、ちょこえーとたべたいおう」
「今度、買いに行こうか」
「かうんじゃないお。ばえんたいんらおう?」
バレンタイン。
パステルは毎年、おれたちやルーミィに手作りのチョコレートをくれていたけど、さすがに今年は無理だろう。
「ルーミィ。おれと一緒に作ろう」
シロ相手にあやとりをしていたノルが、おれが言おうとしたことをそのまま告げた。
ルーミィは、ノルの足元に駆け寄って、こんなチョコが作りたいのだとリクエストをはじめた。
「市場を見てくる」
シロとルーミィを抱き上げたノルは、そう言って部屋を出て行った。
残されたのは、おれとパステルの二人だけ。
「ごめんね」
「気にするなよ」
そんな言葉でパステルが救われるわけがなかった。
気づいているから何も言わなくてもいいと遠まわしに告げるのは、パステルの言葉を封じ込めることにしかならなかったのに。
傷ついた人が、必ずしもそっとしておいてほしいとは限らないことに、このときのおれは気がついていなかった。
ほんのわずかにパステルが見せた、すがるような表情に気づいてさえいれば、パステルはあんなに長く苦しむ必要はなかったかもしれない。
「散歩してくるね」
ほどなくしてパステルが部屋を出たのは、トラップへの気遣いだとしか思わなかった。
二人だけでいるところを見られて誤解をされたら、さらにあいつを傷つけてしまうかもしれないとの思いからだとしか。
どうしておれは、こんなにも鈍いんだろう。
おれはパステルに救われたのに。
パステルは助けを求めていたのに。
あいつの想いに応えられなかったパステルは、それをおれに知られたことで、苦しみを増していた。
行き場のない想いを、一人で抱え込まなければならなくなってしまったんだ。
それから、二年が過ぎた。
一時的に気まずくなたパステルとトラップは、一ヶ月もしたら普段と変わらない関係に戻っていた。
それでも、トラップが別の人に心を奪われるまでには一年以上の時が必要だった。
パステルは変わらずにおれたちの傍にいる。
そしておれは、いまだにパステルに想いを告げられないままでいた。
去年、大切な友人だと思っていた子から告白を受けたけど、断ることしかできなかった。
その事実は、当たり前のようにパステルも知るところとなる。
それは、登場人物が変わっただけの一年前の繰り返しだ。
彼女に対する罪悪感と、パステルにそれを知られてしまったことに対する絶望感は想像を超えたものだった。
パステルの友人でもある彼女を振ってしまったおれを、パステルが受け入れてくれるはずはない。
苦悩に満ちた日々と、周囲に気遣わせないようにそれと悟られない努力。
彼女を傷つけないですむ方法があったのじゃないかと繰り返される煩悶。
もっと早くにパステルに想いを打ち明けていればという身勝手な自己嫌悪。
そんな心情を抱えたままでの冒険もバイトも、心の底から楽しいとは思えなくなっていた。
昔、パステルが聞いてくれたように、自分の本心を誰かに打ち明けてしまいたかった。
だけど、パステルも他のメンバーも遠くから見守るだけだった。
気遣わしげな視線だけでもありがたかったこともあったけれど、それさえも苛立つこともあった。
パステルもこんな思いを抱いたのだとしたら、自分の判断は大きく間違っていたことになる。
しだいに葛藤も苦痛も薄れて、彼女に対する罪悪感も持たなくてすむようになったけど、そこに至るまでにはそれなりの時間がかかった。
パステルに想いを伝えようと思えるようになったのは、それからさらに一年近くが経ってからだ。
パステルの誕生日が過ぎて数日後、数年越しの想いをようやくパステルに告げることができた。
それは、誰かの癒えた傷をうずかせてしまう行為だったかもしれない。
誰よりもパステルを傷つけてしまうかもしれない。
だけど、パステルもおれを気にかけてくれているような気がしたから。
交差する視線を、パステルも離れがたく感じているように思えてしまったから。
もしも、パステルとおれとが同じ想いを持っているのだとしたら、誰かに遠慮するなんておかしいと思う。
すでに傷つけてしまった彼らに遠慮をしたりしたら、きっと彼らは怒るだろう。
遠回りをしてしまったのは、間違っても彼らのせいじゃない。
パステルとおれとが、それぞれに勝手に壁を作ってしまっただけなのだから。
その壁を壊せるのは、自分自身だけなのだから。
抱えてきた思いを打ち明けあって、それでもその日には返事をもらえなかった。
そして、二月十四日。
町中に甘い香りが漂うこの日に、パステルはおれに返事をくれた。
小さなチョコレートがいくつも詰まった箱と共に。
「クレイへの想いを、たくさん積み重ねてきたから」
甘いだけじゃないチョコレートは、それでも口に入れれば甘さを一番強く感じる。
辛かっただろう日々の中で、おれの存在が楽しさや嬉しさを生み出していてくれたのだとしたら、それに勝る喜びはない。
失わせてしまった笑顔の分も、パステルが笑っていられるようにしていきたい。
少しでもいい、毎日じゃなくてもいい、時には喧嘩をしてもいい。
だけど、最後にはいつも笑顔でいてもらえるように。
幸せと安らぎを、ずっと感じていてほしいから。
END
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