天使


始めてみた時は天使のようだと思った。
そんなことは秘密だけど……汚い泥に埋もれても可愛かったなんて いったらきっと彼女は照れるだろう。
 始めてみた時は天使のようだと思った。
 情けない顔をしていたけど……。
 可愛い女の子を懸命に守るその姿はとても必死だったから。
 聖母のようだと思った。
 それは本当だ――それは本当だ。
 天使が俺の前に舞い降りることはもうない――。
 天使は消え去ったのだから、でもそれはそれでいい――と思う。
 そんなことを思ったのは19歳の時だった。
 そして天使が再び舞い降りたのは20歳の誕生日だった。
 20歳の誕生日だった……。


 1.

「えっと?」
 俺はただ驚いていた、面白そうな微笑とともに彼女は微笑む。
「久しぶり!!」
 元気よく俺に向かって手を上げる、アンダーソン家の屋敷で俺は ただ間抜けな声をあげるしかなかった。
「お二人さん、どうぞ二人っきりでお過ごしください」
 アルテア兄さんがどこかからかうように微笑む、イムサイ兄さんも ぽんぽんと俺の肩を叩く。
 そして俺たちはただテーブルで向かい合っていた。
 綺麗になった――そんなことを思い俺はただ照れる。
「えっとどうして?」
「誕生日だからね」
「そういえば……」
 もうそんなになる、俺が屋敷に戻って……パステルたちは冒険を続けていた。
「まあそんなになるってこと」
 はぐらかすようにパステルは微笑んだ、そして紅茶を優雅に飲み干す。
「みんなは?」
「後から来るわよ」
 やっぱり面白そうに笑い、パステルは俺に向かって微笑む。
 俺はやきもきする、俺に何を言いたいんだ?
「怒っているのか?」
「怒っていないわよ」
俺は騎士になるために屋敷に戻った、それは決意したからだ――偉大な曾おじい様の 幻影を振り払うために、騎士という称号を自らの手において手に入れようと 決意したためだ……。
 ただ怒っていないと繰り返すパステル、でもパステルは泣いていた……。
 あの時泣いていた、でも今更どうして?

 2.

「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 会話はひたすら平行線、パステルはにこにこと微笑むだけ……。
 泣き顔しか思い出せなくなって1年――微笑を見るとこの心は嬉しい。
 でもやはり何を考えているのかはわからなかった。
「えっと……プレゼントをあげたいの目をつぶって?」
「?」
 俺はどこか恥ずかしそうに顔を赤らめるパステルを見るが、目を薄くつぶる。
 そして――その誕生日プレゼントは俺の……頬にやってきた。

 3.

「誕生日おめでとう!!」
「おめでと!!」
「おめでとデシ!!」
「誕生日おめでとうございます〜。クレイ」
「おめでとう、これでおじんの仲間入りだな」
 俺が目を開けると、そこにはニヤニヤ笑う仲間の姿。
 パステルは慌てて俺から離れて、ぎっと睨み付けている。
「早かったじゃないの!!」
「ああ、クレイちゃんの照れる顔を見たくてな」
 皆を引き連れたトラップがにやにや笑っている。
「誕生日プレゼントはどうだった?」
「……お前の仕業か!!」
「積もる話もあるだろうしさ、まあゆっくりと話してくれ」
 ひらひらと手を振るトラップ、そして顔を真っ赤にする俺たちと、 にやにやと面白そうに笑う皆。
 昔が戻ってきたようだった、そして俺は天使に微笑む。
 頬に感じた感触を思い出しながら、天使に優しく微笑みかけ、
「ありがとう……」
 と小さく言った、それを聞いて皆も嬉しそうに微笑む。
 天使が舞い降り、また新たなる時が始まる。
 また――始まるのかも知れない。



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