たった一度の大事なもの


本当は、前から決めてはいた。
ただ、きっかけとか。タイミング、つーのか。
そんなもんが、掴めなくて。

「よぉ」
とりあえず、第一声。
あいつの驚く顔は、いつ見ても小気味良い気がしちまう。
「あんた、いつの間に来てたのよ? みんなは?」
溜息混じりのマリーナの声は、それでもガッカリしたものじゃなくて。
俺は内心、ほっと胸を撫で下ろしつつ。
「俺だけで悪かったな」
「ホントね。クレイやパステルと話したいわよ、私だって」
嘘の応酬に、なぜか安堵する。

ホント、天邪鬼だよな。俺たちって。
こーゆーの、『似たもの同士』だってか? ちっ、冗談じゃねぇ。

     *

本当は、ずっと考えてた。
ただ、きっかけとか。タイミングとか、そういうのが。
どうしてか、わからなくて。

「どのくらいいる予定なの?」
お茶なんて用意しつつ、尋ねれば。
「ま、んなに長居するつもりじゃねぇよ。とりあえずアンドラスん家にでも 厄介になっけど、2〜3日もすりゃあ帰るさ」
人の部屋でやけにくつろいで、涼しい顔で答える。
そんないつものやり取りが、心地良く感じられる自分を意識しつつ。
「厚かましいわよね、いっつもアンドラスの家に居候してさ」
「んなことゆーなら、おめぇん家泊めてくれや」
「だぁれが!」
また口喧嘩じみたやりとりを、繰り返すのが笑えてしまう。

ホント、天邪鬼な、私たち。
これが本当の『似たもの同士』なのよねぇ…。

     *

今回は、いい加減何とかすっか。

俺は珍しく、真面目な顔で言ってやった。
「おめぇ、そろそろドーマに戻らねぇか?」
予想通り、あいつは動きを止めて。
「何でそんなの、あんたに指図されなきゃならないのよ?」
思ったとおりのふくれっ面。

だけどな、俺も。そろそろ覚悟、決めるときだから。
深く息を吸い込んで。バクバク言ってる心臓に、喝入れてから。
一度だけの、言葉を投げつけてやった。

「俺の帰りでも待ってろよ。ブーツ一家のかみさん見習いやってな」

     *

今回は、いい加減潮時ね。

あいつがまさか、直球勝負に出るなんて思ってなかったから。
柄にもなく、顔から火が出そうになっちゃったわよ。
「どうだ?」
私と同じ、真っ赤な顔のくせに。あんた、視線だけは鋭いわね。
「俺だって、覚悟してきた。おめぇもそろそろ決めてくれよ」

そうよね、私も。いい加減、はっきりさせなくちゃ。
心はとっくに決まってたから、あとは心を言葉にするだけ。
一回しか、言ってやんないからね。

「あんたが必ず帰ってくるっていうなら、そうしてやるわよ」



特集の部屋へ