素直


 必要なのは、勇気だけ。


   *


『義理じゃない』と。
『本命だ』と。
確かに、彼女は、そう言った。

(………夢じゃ、なかったんだよな)

思わず自分の頬を、軽く突いてみたりして。
傍から見れば、物凄く怪しい印象を与えまくりであろう、今の自分。
しかし、今自分の視線の先にある、書き物机の棚の上。
ひっそりと存在感を主張するのは、先月彼女からもらったプレゼント。

やっぱり、夢じゃない。



正直なところ、彼女を特別な存在として意識してはいなかったように思う。
冒険者として縁あってパーティーを組んだ、仲間のひとりであったから。
かけがえのない『家族』。
そう、そんな感じであったように思う。

……でも、確かにあの時。
(『本命だ』って言ったんだよなぁ)
耳まで綺麗に真っ赤に染めて、湯気でも上がるんじゃないかと心配な。
初めて見た、あんな表情。
初めて聞いた、あんな声。

「……どうしよう」

思わず一言呟いてから、天井を見上げて。
ついでに、壁に貼られたカレンダーに視線を動かす。

3月14日。
言わずと知れた、ホワイトデー。
告白に、返答する日。

(………嫌、じゃなかったよ、な)

あの日の自分を省みる。
俺にしてみれば唐突でしかなかった、彼女からの言葉。
どうしていいのかわからなくて、頭の中がパニックになって。
脱兎の如く逃げ去る彼女の背中と、揺れる髪を、無言で見送った。
──我ながら、野暮。

でも。
そんな自分を、彼女は。
……『好き』だと言ってくれたんだ。



「………よし」

俺は椅子から、勢い良く立ち上がる。
これ以上くよくよ悩んでも、自分の性格上、きっといい案は浮かばない。
ならば、今の正直な気持ちを彼女へしっかり伝えるべきだと結論づけた。

(嫌なんかじゃないんだ。むしろ、嬉しかったんだ……そう、それは間違いない)

俺は自分に再度確認すると、歩き出す。
目指すは、自室に篭って原稿執筆にいそしむ勤勉な彼女の部屋。
ホワイトデーまで待つことは、必要ないことに思えたから。

感謝と。
困惑と。
……そして。
今の俺が、どうしたいと思っているのか、まだ見えないことと。

(きっと君なら、わかってくれるよな)

俺は心の中で確信して、彼女の部屋の扉をノック。

「はい?」
「パステル、いいか?俺だけど」
「あ……クレイ、う、うん」

彼女が息を飲む気配。
そして、俺も生唾をごくりと飲み込んで。
深呼吸してから、ゆっくりと扉のノブに手をかけた。


   *


 嘘じゃなくて、正直に。
 君へ、気持ちを伝える。





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