白い雪、白い夢

「よぉ、クレイ。ホワイトデーのお返しって決めたのか?」

 トラップの不意打ちに、俺は一瞬ぽかんとなる。
 そして、頭が活動を始めると、言葉の意味を理解する。

「おいトラップ、ホワイトデーっていつだった!?」
「……ったく、おめぇはよぉ。やーっぱり忘れてやがったな」
 トラップは溜息をつき、頭をぼりぼりと掻いた。
「言っとくけどな、明後日だ」

「明後日……」

 バレンタインデーに、俺に気持ちを伝えてくれたパステル。
 嬉しくて、愛しくて。俺の気持ちもその時伝えた。
 幸せを感じた。

 きみが俺にくれた、暖かい気持ち。
 俺も、少しだけでも返したい。
 きみの笑顔が、少しでも見たい。

 でも…何を贈れば、いいんだろう?
 今まで全く頭から抜けていた事柄を、改めて考えても、何も思いつかない。
 俺は、部屋でひとり頭を抱える。

 きっとトラップも、マリーナに何か贈るつもり、なんだろう。
 だから俺のことも、珍しく気遣ってくれたのかもしれない。
 あいつには感謝しなきゃな。そうじゃなきゃ、気づかないままだったかも。

 でも…

「何を贈れば…一番、喜んでもらえるのかな」
 俺は、誰にともなく呟いた。

 そして、14日。
 結局俺は、何を贈ればいいか思いつかず、そのままパステルの部屋を訪ねた。
 ノックをするのもためらってしまう。
「はい、誰?」
「あ、パステル、俺」
「…クレイ?」

 少し間を置いて、パステルは扉を開けてくれた。
 今日も笑顔だ。
「なあに?」
 ニッコリと眩しいぐらいの笑みを浮かべて、俺に話しかけてくれる。

「あ、あのさ」
 俺は、この笑顔を曇らせるかもしれない言葉を言うのを躊躇した。
 でも、ちゃんと言わなくちゃな。
「あの、パステル。今日、その…ホワイトデー、だろ」
「え?クレイ…覚えててくれてたの?」
 パステルの声が弾んだ。
 俺の胸は痛んだ。

「うん、それで…ごめん、何を贈ろうか考えてたんだけど、全く浮かばなかったん だ。だから、今日はきみと一緒に買い物でも行こうかと思って、誘いに来たんだけ ど…」
 俺が最後まで言葉を言い終わらないうちに、パステルが動いた。
「クレイ、ありがとう!」と叫びながら、俺の胸に飛び込んできた。
 ……は?
 今、何て言った…?

「わたしが欲しいのは、あなたと一緒にいられる時間だもの。今日はふたりだけで お出かけできるんだね。とっても嬉しいよ、ありがとう、クレイ」
 そう言うきみの笑顔は、眩しいぐらい綺麗で、幸せそうで。
 俺の見たかった笑顔、そのものだった。

 外出準備を済ませてふたりで外へ出ると、外はまだ名残雪。
 春も間近の世界の中、雪の白さが輝いて。
 きみの笑顔も白いまま、輝いて。
 夢の中を、俺は歩いている心地だった。

 幸せな日の、白い夢。



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