白い時間。


冬が、ほら、始まるよ。
僕と君との間で。

     *

「わあぁ……!」
「綺麗デシ!」
ルーミィとシロちゃんが、初雪を見つけて大騒ぎを始めた。
「もう、こんな季節か」
ノルは吐く息を真っ白く染めながら、空を見上げる。
「はぁ……。キノコたちも、そろそろ眠りの季節ですねぇ」
キットンは、どことなく寂しげに呟いて。
トラップは、最初から外に出ようともしなかったけれど。
皆、それぞれに。冬を感じ始めていた。

毛糸の手袋に、雪の結晶。今年、初めての、雪。
「わぁ……」
思わず見つめる、きらりと輝く六角形。でも、それは儚くて。
やがて形を失って、すうっと溶けて、消えていった。
最後に、きらりと。ひときわ輝きを、鋭く遺して。




冬が、ほら、やって来た。
僕と君との間に。

     *

「───あ」
バイト帰りに、白い息を吐きながら。
空を見上げれば、空から新しい季節の挨拶状。
「そっか……もう、12月だもんな」
あと数日で、この見慣れた景色も雪化粧を施されることは間違いなし。
俺としては、雪はあってもなくても構わないのだけれど。

雪遊びができる、と間違いなく大はしゃぎするヤツらがいたり。
笑顔で雪だるまを造ってくれる、頼もしい奴がいたり。
布団に潜り込んだまま、出てこない奴らを思い浮かべてみたりする。
……そして。
大好きな白い服を着て、雪が舞う中ずっと空を見上げている彼女を。
家の前まで来たとき、発見して。
思わず笑みが、浮かぶのを感じた。




冬が、ほら、歩き出す。
僕と君との間を。

     *

布団から顔を出せば、やけに窓の外が眩しい。
「?」
渋々身体を起こして、カーテンを開けると、納得した。
「何でぇ……雪かよ」
昨夜、カジノから帰ってくるときにはまだ、雪なんて降ってなかった。
朝方にでも、降り始めたのか。
外はすっかり、真っ白くなってる。

「ぱーるぅー、みてみてぇ!」
「ノルしゃんが、あんな大きな雪だるま造ってくれたデシ!」
「わあぁ、凄いねノル! ありがと!」
「本当だな。言ってくれれば手伝ったのに」
「雪かきのついでだから、大丈夫」
どんなに寒くても、万年春真っ只中の奴らはほえほえしてる。
それは、決して不快なことなんかじゃないけれど。
ついつい思い出しちまうのが、真夏の太陽と秋の憂いが同居してる奴のこと。
「エベリンは……さすがに、んなに雪積もってねぇだろーな」
ふと、口に出してみると。ガキの頃、一緒に雪ん中で転げまわってた頃を思い出した。
そういや、あいつも雪が好きだった。
「久々に雪遊びも、悪かねぇな……おい、そう思わねぇか?」
心の中に、いつもある。
あいつの笑顔に、問いかけた。




冬が、ほら、行き来する。
僕と君との間も。

     *

「真っ白ですね、どこまでも」
冷たい風吹く、銀世界で。ひとり、声に出してみる。
いつもと違って、大きな声ではなくて。誰にも聞かれないように。
実際のところ、今自分の周囲に、人はいないのだから。
そんな気遣い、無用なのだけれど。
「貴方のいるところにも、雪は降っていますか?」

大事な貴方の名前さえ、最近まで私は忘れていましたね。
いつか会えたら、全て話しますから。そして、貴方に謝りますから。
きっと、あなたは笑顔で許して下さると、信じています。
今吹き付けた、北風が。いつか貴方に届くように。
そして、あなたの心を持って。私の許へ、戻ってきますように。
「……あ、いた、キットーン! 家に入って、ココアでも飲まないー?」
「おぉーい、キットーン! 風邪ひく前に入ろうぜ!」
仲間の声が、聴こえてきました。
いつか貴方にも、紹介しますよ。誰よりも信じられる、大切な、仲間たちを。
「じゃ、また。スグリ」
……彼女の名前を、口に出すと。
一瞬だけ、風がふわりと、優しくなった気がしました。




冬が、ほら、跳ね回る。
僕と君との間で。

     *

すっかり雪が、積もった庭で。
はしゃぎ回り、転げ回る子供たち。
ルーミィとシロだけでなく、友達も遊びに来ていたから。
みんなで楽しめるように、雪の滑り台を作った。
「わぁぁー! すごーい!」
「ノルさんって何でもできるんだぁー!」
「のりゅー、あいがとー!」
感謝の言葉は、嬉しくなる。

小さい頃は、メルと一緒にいろんな遊びをしていた。
友達もたくさんいた。今のルーミィたちと、同じように。
子供たちは、はしゃぎ回る、季節の妖精の化身。春も、夏も、秋も、冬も。
幼い頃の、自分たちと、同じように。
きっと、エンチラーダにも。そろそろ雪の頼りは届いているだろう。
今夜、寝る前に。手紙を書くことにしようか。




冬が、ほら、また来たね。
僕と君との間に。

     *

ふわふわふわ。綿のように舞い降りる。きっと昔も、今みたいに眺めてた。
昔は隣に、優しいママの笑顔があって。今は隣に、大事な仲間の笑顔がある。
「ルーミィ、もう家に入ろ? 温かいココア飲もう、ね?」
笑顔と同じ、優しい明るい声がして。
「うん!」
急いで返事をしてから、駆け出した。
「ぱーるぅ!」
「え?……きゃあ!?」
思いっきり飛びつくと、その反動で、よろめく体。でも、しっかりと私を支えて。
「もうルーミィったら、ほんとに元気ねぇ。さ、行こ」
やっぱり、お日様みたいに。眩しい笑顔で、手を握ってくれた。

いつでも、ちゃんといてくれるから。
こんなときでも、握った手が、温かいから。
私は、今も、こんなに元気。




冬が、ほら、踊ってる。
僕と君との間を。

     *

大きくて、真っ白。
それは、今の自分には、雪野原。
一番の「大きくて、真っ白」は。
本当は、違うのだけれど。

大きくて、真っ白で。
温かくて、優しくて。
懐かしい、お母さんは。
今、元気にしていますか?
ボクはとっても幸せだけど、やっぱり貴方を思い出します。
どうか、ボクが戻るまで。ずっと待っていて下さい。




冬が、ほら、巡り行く。
僕と君との間も。

     *

「……あ」
仕事中、ふと窓の外に視線をずらして。
白いものが、音もなく降りてきたのを見つけた。
「初雪かぁ……。もう、今年も終わり、ねぇ」
溜息混じりに吐く息も、白い。
そのまま、しばし窓辺にもたれ。空を眺めて、感傷に浸ってみる。

毎日のように、3人で。庭で転げまわって、遊び続けた。
時には、ブーツ一家の皆も混じって。毎日毎日が、大騒ぎ。
寂しさよりも、楽しさが。私を毎日、包んでいた。
それは、今の私を支える。大事な大事な、思い出のひとつ。
「ふふっ……そういえば、シルバーリーフって、もう雪、積もってるわよね」
思い立ったが吉日と、店の品物を物色する。
とっても大事な家族と、誰より素敵な幼馴染と、初めての親友と、素敵な仲間たちのために。
たくさんの冬物を選んでから、箱詰め───しようとして。
「どうせなら、届けに行こうっと!」
慌てて旅行かばんを取り出して、いろんなものを詰め込み始めた。
……あいつの、物凄く驚く顔を想像して。ひとり、ほくそ笑みながら。




冬が、ほら、始まるよ。
僕と君との間で。

     *

「また、降ってきたよ。ホラ」
「───ほんとだな」
バイトから帰ってきたクレイと、ふたり並んで空を見上げる。
キラキラ輝く、六角形ひとつ、ひとつ。同じかたちは、ひとつもなくて。
その全てが、何かを伝えるための、大事な手紙なんだって。教えてくれたのは、お父さん。
差し出した手の平に、すうっと訪れては。声もなく、静かに消える。
夏の終わりの花火みたいな、儚い美しさを一瞬だけ残して。

「また、会えたね」
空を見上げて、声を出す。
「え?」
訝しげな、クレイの声。
「今年も、会えたね、って。冬に」
そう答えて、さくり、と一歩踏み出せば。
「そうだな」
クレイが静かに言って、彼も足を一歩踏み出す。
さくり、さくり。
私に近づいた、彼の声が。耳元で静かに、囁いた。
(今年もまた、一緒に会えたよな)
少しだけ低い、その声に。私は真っ赤に染まってしまい。
ただ、頷くだけだった。

     *

「ったくよぉ、ほんっとーに人騒がせなヤツだな」
目の前で盛大に悪態をつくのは、いつものこと。
でも、ちゃあんと知っている。彼の頬が、赤くなっていること。
「あんただって、あたしに会いたがってたんでしょ?」
つい、憎まれ口のひとつも叩けば。
「……っ、な、なにっ、い、言ってんだよっ」
図星を指された、彼のうろたえる様に思わず笑ってしまった。

「ま、たまには素直に認めなさいよねーえ?」
赤くなった顔を近くで見たくなり、ずいっと顔を近づける。と。
「───いい加減に、しろって」
「!」
ぐい。
真っ赤になったトラップが、私を急に引き寄せて。やや強引に、キスをしてきた。
ゆっくりと、名残惜しむように唇が離れて。
「……ちょ、ちょっと!」
私は抗議しようとしたが。
「ま、先手必勝ってことだな」
まだ赤い頬だけど、すまして答えるこの男が。今日は一枚上手だったと思い知らされた。

     *

そしてまた、始まるよ。
僕と君との間で。

新しい、白い時間が。







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