白い花を君に


もうじきホワイトデーなんだよなぁ。
一ヶ月前から考えて続けていたことを、そろそろ具体化させないといけない。
バレンタインデーにパステルはおれにキスをくれた。
それはトラップに騙されたせいだったけど、パステルの気持ちはしっかり受け取った。
おれもお返ししたんだけど、やっぱりホワイトデーにも何かするべきだよな。
バレンタインもホワイトデーもドーマ独自の風習みたいだからパステルは知らないだろうけど、だからこそ喜んでくれそうだよな。
パステルの喜ぶ顔が見れるっていうだけで楽しみになる。
だけど、何を渡せばいいのかを考えると、とたんに詰まってしまう。
花束って言うのはありがちだし、前に渡したことがあるし。
恋人になったんだから指輪っていうのも良いかと思ったんだけど、冒険中は邪魔になるし。
実用品っていうのもプレゼントとしてはいまいちだし。
インパクトがあって喜んでもらえて、邪魔にならなくて役に立って…。
そんなものってあるのか?

悩みながら道を歩いて、店を眺めた。
ふと、思いついたものがあった。
あれがいいかもしれない。
きっと、パステルは喜んでくれる。

ホワイトデーの当日。
みんなで夕食を食べた後にパステルを散歩に誘った。
頼りない明かりに照らされながら、話したり笑ったり、繋いだ手だけ離れないままで。
いつしか明かりは途切れて、月と星だけが道しるべになった。
それでもパステルは不安そうなそぶりも見せない。
夜の闇も慣れてるとはいえ、信頼を示すその様子がなんとなく嬉しかった。
何かあったら、おれはパステルを守れるだろうか?
自分がいかに未熟かは自分でもわかってる。
わかってはいるけど、パステルは守りたい。
どんな敵が現れても、力が及ばない相手であっても、パステルだけは守りたい。
パステルを守るためなら、いくらでも勇気が出てくるような気がする。
もっとも、ノルがいつか言っていたように、勇敢なのと無謀なのは違うんだけど。
手に手を取って逃げるのも、おれたちらしいかな。
「星が綺麗だね。三日月も出てるよ」
「そうだな」
見上げれば満天の星空。
浮かぶ月は、黄色く光っていた。
「あれ? あっちの方、白っぽくなってない?」
空から視線を地平に戻したパステルが、先にある何かを不思議そうに見つめた。
「なんだろう」
不安そうなパステルがおれに身を寄せて腕にしがみついた。
「大丈夫だよ」
パステルを安心させるように笑った。
「ほんとに?」
「ほんとだって。行こうぜ」
おれがうながすと、パステルも多少おびえながらもついてきた。
しっかりとおれの腕に自分の腕を絡めて。
パステルとお化け屋敷に行くのもいいかもな。
怖がるパステルがかわいくて、内心でそんなことを考えていた。
もちろん、パステルが嫌だって言って終わりだろうけど。
「綺麗」
ぼんやりと白くなっていたものの正面にたどり着いた。
そこには十本足らずの梅の木が一列に並んでいた。
盛りはわずかに過ぎてしまっているけど、白い花が夜目にはっきり見える。
「綺麗だね、クレイ」
「あぁ」
シルバーリーブの町の外れの畑のふもとに咲く梅の花。
おれたちは普段は町の中から出ないし、冒険に行く時は道なりに歩くから、町の外れにある景色は意外なほど見慣れてない。
キットンの薬草探しに付き合った時に、こっちまで来て梅の木があるのに気づいた。
その時はまだ真冬だったから花はつけてなかったけど、春になったらパステルと一緒に見たいと思ったのは忘れてなかった。
こんなプレゼントでいいのかどうかはわからないけど、思っていた通り、パステルは花を見上げて嬉しそうに見とれていた。
口元がゆるんだパステルに、おれが見とれた。
しばらく、静寂の中で時が過ぎた。
「夜に見る花も素敵だね。いい香り」
梅の香りは鼻を近づけなくても感じられる。
パステルは目を閉じてその香りを楽しんでいた。

夜に浮かぶ白い花とパステルの白い服。
夢の中の光景のように現実味が薄い。
闇に溶けてしまいそうに見えて、はっきりとその存在を放っている。
「寒くないか?」
言いながらパステルを後ろから抱きしめた。
「あったかいよ」
「おれも」
夜風に冷えたコートを通しても伝わってくる確かな熱。
簡単に包み込めるほどの熱が、どうしてこんなにも感情を揺さぶるんだろう。
君のために何かしたくて、君の笑顔を見つめていたくて、君にずっと触れていたい。
輝く髪に唇を落とし、白い肌を指先でなでた。
「今日はホワイトデーなんだ」
「ホワイトデーってなに?」
「バレンタインデーがあっただろ? その時にもらった気持ちに、気持ちをかえす日だよ」
「そうなんだ」
「本当はプレゼントでも渡そうと思ったんだけど、なにがいいのか決められなかったんだ。パステルが知らない景色を贈るのもいいかと思ってさ」
「ありがとう。素敵なプレゼントだよ」
「喜んでもらえて良かったよ。これからもよろしくな、パステル」
「うん。わたしのこともよろしくね」
「もちろん」
寒さを感じはじめるまで、おれたちはそのまま、花を見ていた。
これからも二人で、新しい景色を見ていこう。
君と二人でいろんな景色を眺めたい。
寄せてはかえす波。
険しく切り立った山。
明るく近代的な街。
素朴で牧歌的な村。
いつか、世界中を旅してみたいな。
そして、今日のような日々を過ごしたい。
笑顔の君を抱きしめられる距離で、おれが君の笑顔の源になれる、今のような時を。
バレンタインに君から気持ちをもらえて、ホワイトデーに君に気持ちを渡せるような。
そんな年月を重ねていこう。
君との幸せなホワイトデー。
来年も再来年も、この日が幸せに彩られるように。

END


♪♪♪あとがき♪♪♪
わたしに甘いものは書けません…。
無理がありましたね〜。甘いクレパス。
雰囲気だけ、お楽しみください(楽しめるか?)。
パステルたちが見てるのは白い梅です。
ピンクも良いですが、パステルのイメージカラーは白なので白い梅を、ということで。
パステルもクレイもなんだか妙に薄っぺらくて。
うーん、もうちょっと押し出さなきゃいけませんね。
日々是精進。といきたいところです。いつも同じことを言ってますが。
クレパスが上手く書けなくなってます。むむ。



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