「クレイ、買い物に付き合ってくれない?」
楽しそうに剣を研いでいたクレイにそう切り出した。
「いいよ。ちょっと待ってな」
普段どおりに了解してくれて、剣や研ぎ石を片付け始める。
買い物に付き合ってもらうのなんて良くあることだから、変に思われることはないと思ってはいたけど、クレイの反応に一安心した。
「行くか」
支度の終わったクレイの呼びかけで、二人そろってみすず旅館から外に出た。
「寒いね」
「もう十月も終わりだからな」
空は白い雲に覆われてて、風が髪をかき乱す。
もうちょっと着こんで来れば良かったかも。
「今日は何を買うんだ?」
「うーんとね。歯ブラシとか、ハンドタオルとか」
「パステルの?」
「歯ブラシはノルので、タオルはルーミィの。他には何かあったかな。クレイは何か買っておきたい物はない?」
「今のとこは特にないな」
クレイに買い物に付き合ってもらうことは多いけど、そういうときは荷物が多かったり重いものを買ったりすることが多いから、何か言われるかと思ったけど、あんまり気にしてないみたい。
どうでもいいことなのかな、なんて思わなくもないけど、せっかく二人きりなんだから楽しまないとね。
今日、クレイに付き合ってもらってる理由はちゃんとあるんだし。
「これで終わりか?」
「うん。あ、そうだ、クレイ。その先に武器屋があるよね。新しいものが入荷したとか聞いたからちょっと覗いてみない?」
「そうだな。しばらくバイトに顔出せてなかったから、知らなかったなぁ」
ちょっと前まで冒険に行ってたから、まだみんなバイトしてないんだよね。
わたしは昨日、武器屋の前を通りかかったときにお店のおじさんに会って、入荷のことを聞いたんだ。
「いらっしゃい。おう、クレイじゃないか。パステルも」
「こんにちは」
二人して頭を下げた。
「昨日の話をクレイにもしてくれたんだな。バイトにもそろそろ出られるか? 人出が足りなくて困ってるんだ」
「それなら、明日からでも出ますよ」
「そうかい。ありがたいね。安くしとくから見てってくれよな」
おじさんとのそんな話の後に、クレイはショートソードを探し始めた。
そう、実はこれを期待してたんだよね。
シドの剣や、お兄さんたちから魔法をかけてもらった竹アーマー+1を買い変える必要はない。
だから、クレイが武器を探すならショートソードだろうと思った。
ショートソードなら値段も手ごろだし、買えないこともない。
格安のじゃないと無理なんだけどね。
クレイが気に入ったショートソードを見つけて、でもお金が足りなくて買えない。
残念だけどって二人で帰るんだけど、わたしがまたお店に来てショートソードを買うっていうのがわたしの計画だ。
ショートソードを誕生日プレゼントにしようと思ったのはいいんだけど、どれが気に入るのかがいまいちわかんない。
だから、こうしてクレイ自身に選んでもらおうってことになったってわけ。
お店のおじさんにも協力してもらって、クレイが買えないギリギリくらいの値段より安くはできないって言ってもらうことになってる。
だから、計画は上手くいくはずだった。
「これがいいな」
そう言ってクレイが取り出したのは、ボロボロのショートソードだった。
「そんなのでいいのか?」
「はい」
おじさんの困惑した声にも気づかずに、クレイはにこにことうなずいた。
「300Gですよね」
値札を見ながらクレイが言う。
さ、さんびゃく!?
そんなに安かったら普通に買えちゃうじゃない。
「クレイ、こっちのは?」
「それはおれには軽すぎるよ」
「じゃあ、これは?」
「ごてごてし過ぎてるな」
「こいつはどうだい?」
おじさんも加勢してくれた。
「そんなにいい剣はおれには荷が重過ぎますよ。こいつを磨いて生き返らせてやります」
「そ、そうか。そういうのを選ぶとは思わなかったよ」
おじさんがわたしに申し訳なさそうな顔を向けたから、わたしは首をゆるく振った。
おじさんのせいじゃない。
クレイはボロボロの剣の方が好きだってことを忘れていたわたしの責任だ。
意気揚々と旅館に戻るクレイの後を、とぼとぼとついて行った。
まさか失敗するとはなぁ…。
いそいそと研ぎ石を取り出すクレイをぼんやりと見つめながら、心の中で盛大なため息をついた。
でも、他のものでも何かほしそうなものがあるかもしれないし。
うん、そうだよね。
何がいいだろう。
研ぎ石は安いし、いくらなんでも誕生日プレゼントって感じがしないよね。
うーん。
「じゃあ、パステル。おれは部屋に戻るな」
「え? もうそんなに経ったの?」
あんなボロボロの剣を、もう研ぎ終わったのかと思って驚いた。
「買い物から帰ってきてからは、まだそれほどでもないよ」
「もう綺麗になったの?」
「ショートソードか? いきなり綺麗にはならないよ。こういうのは時間をかけてゆっくりやらないとな」
「そっか」
片づけをしてるクレイをぼんやり見ていたら、マントを買い換えるのはどうだろうと思いついた。
「そうだ。悪いんだけど、マントをつくろっておいてくれないか?」
「…あ、うん。わかった」
このマント、大事にしてるもんね。
直してでも着るくらいなんだから、買い換えたいとは思ってないんだろうな。
それから、思いつくたびににクレイに欲しいものをそれとなく聞いてみようとしたんだけど、ことごとく失敗に終わった。
「ねぇ、クレイ。手袋、傷んでなかったっけ?」
「あぁ。それならノルが誕生日に買ってくれるって」
みんなもクレイにプレゼントあげるもんね。
「そろそろ、寒くなってきたよね」
「そうだなぁ。パステルが去年くれたマフラーがあるから、寒くなっても平気だけど」
去年、マフラーあげたんだっけ。
「クレイ、ほしいものとかない?」
「特にないな」
直球勝負も通じなかった。
どうしてここまで上手くいかないんだろう。
今年はプレゼントをあげるなってことなのかな。
何を渡しても無駄だとか。
クレイも、別にわたしからのプレゼントなんていらなかったりして。
……本気で落ち込みそうだから、深く考えるのは止めとこう。
「クレイ」
クレイの誕生日はもう終盤にさしかかっていた。
食事は食べたし、ケーキも食べた。
みんなからのプレゼントもそれぞれに受け取ったようだった。
「どうした? パステル」
「プレゼントをね、渡そうと思って」
「悪いな、わざわざ」
「ううん」
悩んで悩んで悩んだ末に、思いついたプレゼントだった。
大胆すぎるかもしれない。
迷惑にしかならないかもしれない。
プレゼントって、本来はきっとそういうものじゃない。
それは、わかってるんだけど。
「これ」
差し出したのは、薄い封筒。
「トラップとキットンのに似てるな」
「え?」
「あ、いや、なんでもない。開けていいか?」
「うん」
こっそり深呼吸をしながら、クレイの言葉を待った。
「乗合馬車のチケット? シルバーリーブからドーマまでの」
「うん」
それが、二枚。
ドーマまでの、片道切符。
本当は往復切符を買いたかったんだけど、そこまでの持ち合わせはなかった。
「トラップと里帰りでもさせてくれるのか?」
「ううん。違うの。一枚はクレイのだけど。もう一枚の使う相手はクレイが自由に決めてくれていいんだけど」
どう言えばいいだろう。
プレゼントなんだから、自由に使っていいに決まってるんだけど。
「だけど、できたら、わたしを連れて行ってもらいたいなって思って」
クレイが驚いた顔でわたしを見た。
「それはもうクレイのものだから、わたしがこんなお願いするのもおかしいんだけど。もし、良かったら、クレイの家に行きたいから」
こんな遠まわしな言い方で、クレイが気づくかどうかわからない。
だけど、クレイの家に行きたかった。
お父さんやお母さんやお兄さんたちと、もっとたくさん話がしたいから。
クレイと二人で、クレイの家族に囲まれたかった。
言葉にしてしまうと何だかおかしくて、まるでプロポーズみたいにも聞こえる。
そういうことじゃなくて、でもそれに近いかもしれない。
二人でゆっくり、クレイの故郷を歩きたかった。
「おれさ、トラップとキットンからも券をもらったんだ」
突然、クレイが関係のなさそうな話をはじめた。
「何の券だと思う? 『お邪魔虫を退散させる券』と『二人きりにしてほしい券』なんだ」
「なにそれ?」
「トラップとキットンが、おれとパステルが二人きりになれるようにしてくれるってことだよ。おれの片想い、気づかれてたみたいだな」
クレイがわたしの手をとった。
「両親に、改めてパステルを紹介してもいいってことだよな?」
「してくれるの?」
「あぁ。パステルの誕生日には、ゲインズヒルまでの切符を用意するよ」
唯一の肉親である、おばあさまのいるゲインズヒルまでの切符。
「ほんとに?」
「約束する」
おばあさまはクレイのお爺さんより手ごわいかもしれない。
それでも、一緒に行ってくれるんだね。
「わたしの方が、プレゼントをもらっちゃったね」
「パステルが先にくれたからな」
祝砲のようなクラッカーの音が、続けざまに鳴った。
その音に後押しされるように、わたしはクレイに飛びついた。
クレイが生まれてきたことへの感謝を告げたかったから。
END
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