信頼のある場所

「なによ、トラップ!!」
「へっ、おめぇがわりーんだろ?」
いつものようにわたしとトラップはくだらない口喧嘩をしていた。
そうするといつものようにクレイが…。
「いつまでやってるんだよ」
その、言葉はいつも通りなんだけど。
「ク、クレイ」
クレイはわたしとトラップを引き離すように、わたしを後ろから自 分の方に抱き寄せた。
「ふ〜ん」
トラップがニヤニヤ笑ってる。
「あ、ごめん!」
クレイはぱっとわたしを離したんだけど。
うわぁ、顔が熱い。
絶対真っ赤だ、わたし。
たぶん、クレイもだろうけど。
「え、えっと、いつまでも喧嘩しててどうするんだよ。トラップが悪 いんだろ? ちゃんと謝れよ」
クレイはそう言って、そそくさとトラップの部屋から出て行った。
「トラップ、ちゃんと片付けといてよ!!」
わたしもそれだけ言って、部屋を出た。
それにしても〜!
わたしは隣のクレイの部屋に向かった。
軽くノックして、返事があったからドアを開けたら、クレイはベッドに 座って頭を抱えていた。
「パステル…さっきはごめんな」
わたしが近づいて行くと、申し訳なさそうに顔を上げた。
わたしはクレイの隣に腰掛けた。
「いいよ。だけど、あんな事したらばれちゃうよ?」
そう、実はわたしとクレイはそういう事になってたりする。
そういう事ってどういう事? って聞かないでね。
わかるよね…?
「わかってるんだけどさ。何か、身体が勝手に」
クレイはすっごい照れくさそうな顔をした。
「ね、もしかして。焼きもち妬いてくれた?」
クレイを顔を覗きこむと、クレイは真っ赤になってそっぽを向いた。
かわいい!
わたしの顔もまた赤くなってると思うけど、でも変な風に笑ってる んだろうなぁ。
顔が自然に、にやけちゃうの。
クレイって普段はそう特別に接してくれないし(2人っきりでも)、 そのクレイが妬いてくれるなんてね。
「そう、だろうな。あんまり仲良さそうだったから」
「え? やだな、トラップとはそんなんじゃないよ」
クレイが素直に言うもんだから、わたしは慌てて否定した。
「わかってるよ。もちろん。わかってるんだけどさ」
クレイはわたしを見て、いつものように笑ってくれた。
わたしが大好きな極上の微笑み。
「おれって独占欲が強いのかな」
クレイの手がわたしを優しく抱きしめた。
「そうかもね」
クレイの胸に頬をくっつけた。
たくましい胸板に安心する。
「これからは気をつけるよ」
「うん…」
「でも、たまにはこうやって2人だけでいたいな」
「そうだね」
わたしもそうしたい。でも。
「いつまでみんなに黙っとくんだ?」
クレイとちゃんと恋人になってから1ヶ月。
まだみんなには話してなかった。
クレイはすぐにみんなに話そうとしたんだけど、わたしが 止めたから。
「ごめんね。でも、まだ」
わたしが言いよどむと、クレイはわたしを強く抱きしめた。
「理由を聞かせてくれないか? みんなはパステルとおれ が付き合ってたって祝福してくれるだけだと思うんだけど」
わたしもそう思うよ。ただ、
「もしパーティを続けられなくなったら?」
わたしは不安を口に出した。
そう、それが心配なんだ。
クレイとわたしが恋人になってるなんてみんなに知られたら みんな、気を使ったりするかもしれない。
もしかしたら「冒険者をやめて結婚でもしたら?」って言われるかも しれない。
それも嫌じゃないんだよ。
クレイの奥さんになれるなら…。
でも、わたしはまだ冒険を続けたい。
みんなと一緒にいたい。
わがまま、だよね。
わかってる。わかってるからクレイにも言えなかった。
「なんで?」
わたしが緊張と不安を持って口にした言葉に、クレイは不思議そうな 声を出す。
「なんでって、そりゃ、だって気まずくなっちゃうかもしれないでしょう?」
わたしはクレイの胸から顔を上げて、抗議するようにクレイを見上げた。
「そうか?」
クレイは考え込むように眉を寄せてる。
こういうちょっと厳しさがあるような顔もいいなぁ。
なんて思ってる場合じゃなくて。
「そうだよ。だいたい、カップルがパーティにいて上手く行くと思う?」
「…パステルは、それくらいの事でおれたちが離れると思ってるのかい?」
クレイは優しくわたしを見下ろした。
「そんな事ないけど・・・」
考えるより先に言葉が出ていた。
「だろ? だから大丈夫だって」
そう言って笑うクレイを見てると本当に大丈夫な気がしてきた。
「そうかな」
「そうだよ」
「本当に?」
「本当に」
オウム返しのようなやりとり。
でも、そんなささいな事でわたしは安心できる。
「そうだね!」
わたしはもう一度クレイに抱きついた。
ずっとここにいたいな。
そう思いながら。

 で、その日の夕食後にみんなに話したんだけどね、わたしとクレイの事。 そしたら。
「はぁ? 今ごろ何言ってるんですか? 知ってますよ、それくらい」
キットンはわたしをまじまじと見て、そう言った。
「知ってたの? 嘘、どうして? ううん、それより、だって仮にも恋人って いうか、そういう2人がパーティにいるのは…」
話ながらキットンの方に詰め寄るような格好になってたものだ から、キットンはわたしの剣幕に口を挟めなくなっていたみたいだ。
それを見かねたのかトラップが口を出した。
「おめぇらがくっつく前からおれらはおめぇらがそうなるってわぁってたんだよ。 別にかわまねーだろ? それとも何か? 赤ん坊でも作るのかよ」
なっ!
トラップの言葉に、キットンを掴んでいた手が離れた。
「そっそんなわけないでしょう!!!」
今度はトラップに食って掛かる。
「そうだぞ、トラップ! 何馬鹿な事言ってるんだよ。だいたいお前は…」
さすがにクレイも怒ったみたいだ。
わたしたちの様子を黙って見てたんだけど、トラップに文句を言い始めた。
気勢をそがれた格好のわたしは、ぼけっと2人のやりとりを眺めてるしか なかった。
「ぱーるぅ、おかあさんになるんかぁ?」
ルーミィがわたしを見上げて聞いてきた。
「…違うよ、ルーミィ」
ルーミィの方に目を向ける気力もなく、わたしは答えた。
でも、みんな知ってたわけ?
わたしたちが隠してたのって一体…。
いいけどさぁ…。
わたしは残ってるノルにも聞いてみた。
「知ってた。でも、パステルとクレイなら自分たちで気付くと思ったから。 みんな何も言わなかったんだ」
「そう…」
そっか。
ずっと見守っててくれたんだね、みんな。
それなら大丈夫だね。
このままずっとここにいられる。
「大丈夫だっただろ? パステル」
トラップを軽く叩いて、クレイはわたしのところに戻ってきた。
「うん、そうだね」
傍にきたクレイの腕にわたしは自分の腕を絡めた。
「人前ではいちゃつくなよー!」
トラップの大声に、わたしたちは赤くなりながら笑い合った。

                                          END


HPへ リクエストの部屋へ