シンデレラ・クリスマス

序.

 ヒラリと舞い落ちるは……雪
 フワリと暖かいのは……貴方の笑顔
 雪を溶かすのは……恋心?  

1.

 12月24日、クリスマスイヴ。
 本日パステル達は猪鹿亭でのパーティーにご招待されていた。
 パーティーと言っても、キスキン国のようなドレスや豪華な食事といったものではない。
 見知った人が集まり、飲んで食べて話して……
 みんな笑っていた。
 心の底から今日という日を感謝して。
 でも……パステルは違った。
 笑顔だけれど心の中は少し違った。
 その原因は視線の端に映る集団。
 二人の男性と複数の女性。
 男性についてはパステルのよく知る人物。
 クレイとトラップ。
 女性一人一人はわからないが、いわゆる親衛隊の皆様。
 パステル達が猪鹿亭へと辿り着いた途端、二人を引っ張っていってしまった。
 視線をほんの少しだけ動かす。
 人垣の中にいるのにそこだけしか見えない。
 クレイは笑っている。
 その笑顔はいつもの笑顔。
 パステルにも向けられる笑顔。
「……ハァ」 
 知らず知らずにため息が出る。
「ぱーるぅ?」 
 スカートをクイッと引っ張られ、かわいらしい声が聞こえた。 
  「えっ? どうしたの、ルーミィ?」
 慌てて笑顔を作って見下ろす。
「楽しくないんかぁ?」
 当を得た質問。
 ルーミィは時々こんな風にドキリとする質問をする。
 そのたびに子供とはすごいものだと感心をしてしまう。
「ううん、そんなことないよ。あっ、ルーミィこれ食べた?」  
 これ以上ルーミィに心配させるわけはいかないと思い話題を変える。
 この作戦は成功を収めた。
 でも、パステルの心に気が付いたのはルーミィだけではなかった。
 ノルもキットンもそっと様子を見に来た。
 そのたびに「なんでもない」「大丈夫」そう言って笑った。
 パーティーも終わりに近づいた頃、突然の歓声が聞こえた。
 クレイ達の集団だった。
 正確には歓声を上げたのは女の子達だけ。
 見たくはなかったけれど気になるのも事実。
 そっと視線をやると……
「これ私にくれるのよね」  
 その女の子が手にしている物。
 それは綺麗にラッピングされた小箱。
 クリスマスプレゼントと一目で分かる。
「違うわよ。私よね……クレイ」
 チクリとパステルの胸が痛む。
 今ので言葉で、あの小箱の持ち主がクレイだと言うことが分かる。
「ねぇ、誰にあげるつもりなの?」
「いいだろ。返してくれないかい?」
 困ったようなクレイの顔。
 そんな顔も女の子達を喜ばせる。
「ねぇ、誰にあげるの?」  
 同じ問いが繰り返された。
「ぱーるぅ?」
 ルーミィの声が後ろに遠ざかった。

2.

 わずかな街灯が夜の町を照らした。
 温かな空間は賑やかなのに、寒々とした空間は耳が痛いほどの静寂だった。
 走る足はいつしか歩く足に変わり……そして立ち止まった。
 一人の部屋に帰るのはなんとなく嫌だった。
 けれど、大人数の猪鹿亭に帰るのはもっと嫌だった。
 冷たい風がパステルの頬を撫でる。
「寒っ」
 自分の腕で自分を抱きしめる。
 飛び出してしまったためにコートを忘れてきてしまった。
 寒いが取りに帰れない。
「あっ!」
 コートの置き位置を思いだし、もう一つの忘れ物に気が付いた。
 大切な物。
 頭に思い浮かぶのは、ラッピングのされた袋。
 つまり、クリスマスプレゼント。
 取りに帰る?
「……いいや。もう必要ない物だもの」
 寂しさを言葉にだして風に遠くへと運んでもらおうとした。
 誰に贈る物?
「クレイも迷惑だろうし」
 風は寂しさを運ばない。
 冷たい風が寂しさを増殖させた。
「あ〜あ。クリスマスなのに……何してるんだろう」
 わざと明るく言ってみる。
 泣いてない?
「やだなぁ。目にゴミが入っちゃった」
 手の甲で両目をこすった。
 目を閉じると暗闇。
 世界中が幸せの中、自分だけが小さな部屋に閉じこめられた気分。
 お姫様を救い出すのは王子様。
「風邪引くよ」
 優しい声と共に頭から何か被せられた。 
 慌てて手をどけ振り返る。
「コート、忘れただろ」
 そこにいるはずのない人。
 会いたかったけれど……会えないと思った人。
「クレイ、どうしてここに?」
 パステルの質問にクレイが柔らかな微笑みを返した。
 微笑みを見ながら気が付いたこと。
「……それ」
 パステルの指差す先はクレイの首周り。
 そこには蒼い色のマフラーがクレイを寒さから守っている。
 よく知った蒼。
 よく知ったマフラー。
「コートと一緒に置いてあっただろ。……俺宛だって知って嬉しかった」
 カードは付けていなかった。
 何故?
「ルーミィとシロが教えてくれたんだ。パステルが一生懸命俺のために作ってくれたって事」
 制作中の隣にいた二人。
 そういえば、誰にあげるのか聞かれたことがあった。
 未だ頭上に乗せられたままのコートをクレイの手が肩へと移動させる。
「パステルが泣きそうだったこと、淋しそうだったこと、俺に伝えてくれた。どうして自分達と一緒にいてくれなかったのか聞かれた」
 先ほどの光景を思い出してパステルは俯いた。
 楽しそうなクレイの顔。
「本当はパステル達と一緒にいたかった」
「……うそ」
 冷静な自分に心の中で驚く。
 その驚きが言葉に含まれない。
「嘘じゃないよ。でも、これを取られちゃって」
 その手の中にあるのは先ほどの小箱。
 ジッと見つめる。
「手を出して、パステル」 
 言われるままに右手をだした。
「メリークリスマス」
 言葉と一緒に小箱がパステルに送られる。
 添えられたクレイの手が温かい。
「くれ……るの?」 
 小箱とクレイの顔を交互に見て問う。 
 その問いに苦笑する。
「パステルに上げるために買ったんだからね。開けてみて」 
 温かさが離れる。
 壊れ物を扱うように丁寧にリボンをほどいた。
 蓋を開けると中から出てきたのは指輪。
 驚きが声を止める。
 固まったままのパステルの手から指輪を取り出すとクレイは左手をそっと取った。
 指輪は帰るべき場所がそこだと主張するように……薬指にピッタリとおさまった。
 左手の薬指の意味はパステルも知っている。
「予約ってことで……いいだろ?」 
 否定など出来ない。
 否定する意味もない。
「うん」
 笑顔で答える。

   静かに降り始めた雪。
 まるで天使からの祝いの雪。
 12時を告げる鐘。
 鐘が鳴りやんでもシンデレラの魔法はとけることはなかった。
 


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