至宝の寵児

”ザッ!!”
2柱の神の降臨に二つの天使族は膝をついた。
「メナース!!ウギルギ様!!」
パステルが驚きの声を上げた。
「久しぶりね、パステル」
「ほっほっほ、みなさん元気そうじゃのう」
彼らはおおよそ神様らしくない口調で至宝と守護石に 懐かしそうに声をかけた。
なぜなら彼らはかの神々と一度会ってるからだ。
メナースはサラディ、ウギルギはサバトで。
パステル達がトラブルにあったとき、出会ったのだ。
「オーティス様から聞かされてびっくりしたわ。 まさか、あんた達が至宝と守護石だったなんて」
にこにこ笑いながらメナースが言う。
「わしらもせっぱつまっていたとは言え、情けないのう。 至宝の存在に気づかなかったとは」
・・・だが、クレイはメナースと会ったときオームに なっていたし、ウギルギの時は神様自身が行き倒れていたで 気づかなかったのは仕方ないのかも知れない・・・。
ともかく、天使と神、至宝と守護石がそろった。
メナースとウギルギは天使達の方へ向き直った。
「このたびの天使族の内紛、オーティス様はお怒りに なっている」
りんとした声に炎と水の天使は深く一礼した。
後ろではメナースの姿にパステル達がなにやらごそごそ 話している。
(なんかメナースってイメージと違うな)
(アレは多分猫かぶってるんだって)
(トラップ!!きいたら怒るわよ。彼女)
(事実は隠しようがありませんって)
(そーそー、大体おめえあいつのせいでひでぇ目にあって るじゃねえか)
(だからってそんなこと・・・)
(しっ!!ルシファーへの、質問、始まる)
彼らの騒ぎをよそに事態は緊迫していた。
神による天使への糾弾が始まったのだ。
「・・最初、我々は事態を静観していた。 しかし、至宝まで引っぱり出したとなれば、話は別。 それ故、至宝達と縁がある我々が降りてきたのです」
「水の王ルシファー、お前さん、何故こんな侵略行為を 起こしたんじゃ? わしの知るお前さんはもっと穏やかな人物じゃったはずじゃが」
ウギルギの言葉にルシファーは静かに神を、そして 至宝―クレイ―を見た。
「・・・今回のことは、すべて赤の至宝様ご逝去に 端をを発します」
さっきとうって変わった静かな口調にその場にいた者全てが 彼を見た。

「我らは赤の至宝、ジュディ様を知っておりました。 冷たい中に悲しさを潜ませたあの方。 守護石をたった一つだけしか持ってなかったあの方。 ・・・我々は何とかしてあの方の力になりたい 何とか兄君と和解させたい、そう願ってました。 ところがジュディ様は自らクレイ様にお会いになり、 命を落とされた」
その言葉にクレイは胸の痛みを覚えた。
(あいつ・・・・気づいていたのか・・・?)
彼らの存在に。・・・いや、知らなかったのだろう。
知っていれば必ず天使がいたはずだ。
だがそばにいたのは氷の狼ただ一頭。
(ジュディ・・・お前、一人じゃなかったんだぞ!!)
天使の言葉の中にある想いがもっと早く彼女に届いていれば ・・・・
クレイの表情に気づいたのだろう。
パステルがそっと、彼の手の中に自分の手を滑り込ませた。
「パステル・・・」
「大丈夫・・・?」
彼女の心遣いが嬉しかった。
クレイはパステルの手を握りしめ、小さくうなずいた。
そんなやりとりが恋人達のなかで行われている間にも ルシファーの言葉は続いた。
「・・・我々はあの方を愛していた。 たとえ運命に逆らってもあの方を護りたかった。 それができなかった我々には死しかなかった・・・・」
うなだれた顔と言葉にその場にいた者全てが悟った。
彼らは赤の至宝、ジュディの元へ逝くために戦いを 起こしたのだ。
青の神官が至宝を呼ぶことをしなければならないほどの 危機となり、かの至宝の力で彼女の元に逝くこと。
それが炎と水の天使達の望みだったのだ!!
「・・あなた方はわしらと同じ気持ちだったのだな・・・」
風と大地の天使族の長、ユリウスが小さくうなずいた。

”グラ・・・・ッ!!”
突然、ルシファーの身体が大きく傾いだ。
「ルシファー!!」
「ルシファー様!!」
全ての者が彼の元に集まる。
「おい!!どうし・・・!?」
彼の身体を支え、クレイは絶句した。
剣が心臓を貫いていたのだ。
「なぜ・・・!!」
嘆くメナースにルシファーが笑った。
「メナース様、・・・ウギルギ様・・・私はあの方を 護りたいのです・・・たとえこの身が精霊になろうとも ・・・・」
彼の目がリリスを向いた。
「風の・・・若長・・・・愛は一つではない・・・ ・・・見守ることも・・・できるの・・ですぞ・・ ・・・・そうですな?・・メナース様」
恋の女神はうなずいた。
彼女は知っていた、全ての想いを。
至宝へ報われぬ愛を捧げた天使の想いを。
だからこそ、彼の言葉にうなずいたのだ。 「おい!!オレのことあやつっといていきなり しおらしくなるな!!」
トラップの声が怒りに震える。
「・・・緋色の守護石・・・さま・・・ ・・・申し訳ございません・・・お許しを・・」
それだけを言うのがやっとなほど、ルシファーは弱って いた。それほど血は流れきっていたのだ。
神々は静かに見守るだけ。そして天使も・・・
運命という言葉はそれくらい重いものだった。
ルシファーは最期にクレイの方を見、
「人として・・・至宝として・・・あの方の・・・分まで・・・」
・・・光を失った。
(・・・また、オレの手の中で・・・命が・・・)
クレイはそっと堕天使と呼ばれた男の瞳を閉じてやった。

夕闇がすべてを覆っていたことに気づいたのは 子供達とリジェだけだった。
「・・・・・終わったのですね・・・全てが」
彼は小さく呟いた。

・・・虹?
炎と水の天使ルシファーの身体は淡い燐光に覆われ・・ やがて虹になった。
夜の闇に美しく輝く大きな橋に・・・・


「・・・クレイ?」
クレイは厳粛な表情で虹を消えた後も見つめていた。
まさかクレイ・・・また気に病んでるんじゃ・・・?
私の心を見透かすように彼は笑った。
「気には病んでないよ。 ただ・・・オレは生きなきゃな、って思ってさ」
「生きなきゃ・・・?」
私もトラップも、ノルやキットンも、そしてルーミィや シロちゃんもクレイの方をじっと見た。
クレイは瞳に静かな光をたたえて、言葉をつづけた。
「ジュディ、ルシファー、・・・そしてこの戦いに 巻き込まれた天使達・・・彼女らの死に全部、至宝であるオレが 関わってる・・・・どんな形であっても。 だから・・・・あいつらの分まで生きていかなきゃ ならない、そう思ったんだ」
そう言ったクレイは優しさと強さ、二つの力に満ちていた。
「クレイ様・・・」
リリスさんがクレイの方へ歩いてくる。
クレイはにっこり笑うとマントの留め具にしていた 宝石をはずし、彼女に手渡した。
「これは・・」
「君からもらった魔晶石、返しておくよ」
「・・・」
リリスさんは魔晶石とクレイを交互に見た。
「オレはもう、よほどのことがない限り、力を 使おうとは思わない。 だから、・・それは返すよ。 このまま持ってたら、トラップがギャンブルに使いそう だしな」
苦笑混じりの言葉にトラップが割り込んできた。
「おいコラ!!オレを変なトコで引き合いに出すんじゃねえ!!」
「あーら、トラップ、限りなく正しい認識だと おもうんだけど」
「そうです、最初のクレイのアーマーはあんたの 借金のカタに取られたんですからね!!」
ぎゃんぎゃん言ってる私たちを彼女は呆気にとられた顔で 見て・・・・そして、笑ってうなずいた。
全てを受け入れた、すがすがしい笑顔で。
「わかりました。 ・・・私祈ってますわ!!クレイ様が運命に 負けることなく生きていられるように、 みなさんがいつも笑顔でそばにいられるように、って!!」
その笑顔、さっきの虹みたい・・・
私も祈った。
彼女が幸せでいられるようにって。

メナースとウギルギさまが虹の中に眠る妖精を 抱え天界へ戻っていった。
ルシファーの生まれ変わりの虹の精を・・・
(ジュディさんに会えるといいね)
それはみんなの願いだった。

メナース達が去った後、クレイが倒れた。
・・・無理ないわよ。
彼のダメージ、相当な物だったし。
・・・結局、キットンがクレイの手当に当たった。

「・・・クレイの目が覚めましたよ」
二時間位しただろうか、治療に割り当てられた 部屋からキットンが出てきて、開口一番そう言った。
私達は顔を見合わせた。
あ、そうそう、ルーミィとシロちゃんはもう寝てしまい ノルが見ていてくれてる。
他の天使族もクレイの無事を祈ってて、ここにいるのは 私とトラップ、それにリリアさんと長老だけだった。
「よかった・・・・」
安堵のため息をもらすと
「あいつがあれくれぇで死ぬわけねえだろう?」
・・・トラップ、素直になりなよ。
顔がしっかり喜んでるよ。
「・・・で、これからは誰かがしっかり見張って なければなりませんよ。 今が注意時なんですから」
その途端、全員の視線が私に向いた。
「へ・・・?」
「パステル、貴女、クレイ様のことしっかり見張っててね」
「そーそー、惚れた女の言うことなら聞くだろうからな」
にやにやと意味ありげに笑うトラップとリリアさん。
・・・でも、二人とも寂しそう・・・
戸惑ってる私に
「お行きなさい、あなた様がいれば、クレイ様の 傷もよくなりますよ」
・・・そう、長老が言った。
そこまで言われれば・・・
私は部屋に入った。

「クレイ・・・」
月明かりに照らされるようにクレイがいた。
上半身に包帯を巻いて、見るからに痛々しい。
「パステル」
「大丈夫なの?そんなに包帯巻いて」
私の言葉にクレイが笑った。
「キットンの話じゃ、そんなにひどくないって。 大体・・・三日休んだら動けるって」
「なんだ・・・」
安心して彼を見た。
瞳が情熱的に輝いてる・・・?
いつか・・・・キスキン国の王家の塔で告白された あの時のように・・・
「クレイ・・・」
「パステル・・・・」
私達はゆっくりと口づけをかわした。
優しく・・・そして激しいキス。
愛おしい、この人が愛おしい。
陶酔に浸りそうになった時、クレイがゆっくりと のしかかってきた。
「!?」
キスをしたまま、クレイの手が胸の方にのびて・・・ 私の胸に触れた。
「や・・・やめ・・・」
抵抗しようにもクレイと私じゃ力の差がありすぎる。
でも私は抵抗した。
だって、・・・怖い。
クレイがクレイじゃなくなる・・・そんな恐怖が 私を動かしていた。
なのにクレイは・・・・
”バチィッ!!”
「いてっ!!」
・・・私の手はクレイの右肩をひっぱたいていた。
そのままうずくまるクレイ。
「パ・・パステル・・・傷口殴るこたぁないだろ・・?」
「クレイが悪いのよ!!あんなことするなんて」
身体の下から這い出しながら、私は文句を言った。
クレイは起きあがりながら肩をおさえ・・・ 再び私を抱きしめた。
「ちょ・・・・クレイ・・・」
「・・・何もしないから・・・そばにいてくれないか? 色んな事を話したいんだ・・・」
その言葉に私はうなずいた。

・・・私達は色んな事を話した。
離れていた間のこと、小さい頃のこと、みんなのこと・・
まるでそばにいなかった時を埋めるように・・・
クレイは私を壊れ物のように優しく抱きしめ、 私はその温もりの中にいた。
・・・そんな幸せの中、クレイが口にした言葉は 私をうれし泣きさせた。

「結婚しよう」って。


”・・・はどうするの?”
ドア越しにパステルの声が聞こえる。
・・ったく、オレは毎回何やってんだか・・・
オレはパステルとクレイのやりとりを立ち聞きしていた。
”家は関係ない。お前に一生そばにいてほしいんだ!!”
・・・プロポーズなんかしやがって。
クレイの奴、パステルのためなら家だって捨てかねねぇぞ、 この勢いなら。
あいつ、昔っからそうだもんな・・・
自分の大切な物のためになら、覚悟を決められる。
オレが誘拐されたときだって、あいつは単身助けに来て くれた。
(・・・なにやってんだか・・・)
急に自分が情けなくなって、オレはドアから離れた。
”クレイ・・・私で・・・いいの?”
喜びに満ちたパステルの声をオレの耳は聞き漏らさなかった。
・・・望みは完全に絶たれた、って訳だ。

「くそっ・・・!!」
オレはいつの間にか泣いていた。
わかってる・・・わかってるだろ!?トラップ。
お前にはもう勝ちはねえんだ!!
あいつは・・・パステルはクレイの物なんだ!!
盗賊でもダチのものは奪えねえ!!
ましてや、心はもう・・・
「・・・トラップ・・・さん?」
・・この声は・・・
オレは声の方を向く前に目をこすった。
「リリス・・・」
・・コイツが余計なことをしたから・・・
そんな思いがオレのなかで渦巻く。
「・・・私のこと・・・怒ってます?」
オレの気持ちを見透かすように、リリスは言った。
「・・ああ!!怒ってるぜ!! 厄介なことオレ達に押しつけやがって!!」
懸命に気持ちを隠した言葉だったのに・・・・
リリスはオレのそばに座ると、杯を手渡した。
「・・・飲みましょう・・・互いの失恋を癒すために」
・・・そうだった、コイツ、クレイに惚れてたんだった ・・・!!
リリスがついだ酒を飲み干し・・・・オレは口を開いた。
「辛れぇな・・・」
「そうですね・・・」
かすかに瞳を伏せて、リリスはうなずいた。 「・・・でも、あの方が笑っていてくれるなら・・・ この痛みにも耐えられます」
「・・・!!」
オレは雷に打たれたような衝撃を受けた。
(オレは何を見たい?)
パステルの笑顔。
それに決まってる!!
あいつの笑顔の為に耐えるんだ!!この痛みを!!
オレはにやりと笑って、リリスと酒を酌み交わした。

・・・同じ痛みを持つ、仲間と。


・・・それから三日後。
私達は天使族の里をあとにした。
クレイのケガが良くなったこともあったし、 何より今までと同じ、でも少し違う生活を 早くしたかったから。
・・・みんなに冷やかされるのも恥ずかしかったしね。

「お元気で!!」
「お幸せに!!」
天使達が口々に言ってくる。
あ、そうそう。
長亡きあとの炎と水の天使達。
彼らは風と大地の天使族と共存していくことにしたんだって。
それは、以前からルシファーさんに言われていたことで、 長老やリリスさんも了解してくれた。
・・・すぐ、なじんでいくと思わない。
でも、きっと上手くやっていけると思う。
「・・・きっと、上手くやっていけるさ」
気持ちを見透かすようなクレイの言葉に、私は顔を 赤くした。
だって、クレイったら、すっごく優しい目で 私を見るんだもの。
・・・そりゃあ、婚約までしたんだし、・・いいんだけどさ
「おーおー、お熱いねぇ、ご両人」
ほら、トラップが冷やかす。
「おい、トラップ!!」
「あ、赤くなってら」
「何を今更照れてんですか?もう、だいぶ進んでるんでしょ? 二人の仲」
「キットン!!何言ってるのよ!!」
「あ、ますます、赤くなった」
「もう!!ノルまで!!」
「ぱーるぅ、顔真っ赤だおう!!」
・・ルーミィまで加わって、冷やかし大会になって しまうし・・・
クレイの方でも家のこととか決着をつけなきゃ ならないし・・・私達いつ結婚できるのかしら・・・とほほ

で、私達はキスキン国とホーキンス山に事の次第を 報告に行った。
最初からの約束だったしね。
ミモザ女王はクレイと婚約したことでやっぱり 冷やかしてきたし・・・
リリアさんは天使族の共存の知らせにほっとしていた。
やっぱり寂しさを顔に隠して。

途中ギアにも会えた。
で、今回の話をすると、うなずき、
「幸せにな」
・・・そう寂しそうに言った。
「ギア・・・」
「クレイ、パステル泣かせるなよ」
優しい笑顔を浮かべ、彼は私達の前から去っていった。
(ごめんなさい、ギア)
・・・私を好きだって言ってくれた人。
あなたのこと、ずっと忘れないから。

「ふむ・・・そのような顛末となったか」
JBはしきりに顎をなでながら、何度もうなずいた。
・・何だか、感慨深いものがあるみたいね。
何せ、友人だったクレイ・ジュダが至宝を宿し、 その子孫がこうして目の前にいるんだから。
「じゃ、そういうことで」
さっさと席を立とうとしたトラップをJBが 引き止める。
「まあ待て。おもしろいゲームを考えたんだ。 やっていきたまえ!!」
・・・この提案に全員が一斉に声を上げた。
『えーーーーーー!?』


  今でないとき。
  ここでない場所。
  この物語は、一つのパラレルワールドを舞台にしてる。
  そのファンタジーゾーンでは、アドベンチャラーたちが、   それぞれに生き、様々な冒険談を生み出している。
  ・・・私はこれから、その一つのパーティの   話をしたいと思っている。
  彼らの目的は・・・・生きること。
  神々の宝を宿した彼らは、人として生きようとしている。
  運命の糸を必死にたぐりながら。


戻る HPへ