至宝の寵児

「んー、なんかこんなクエストひさしぶり!!」
「そうだよな、なんか最近は人間以上のレベルのばっかしだったもんな」
「誰かさんのせいでな」
「トラップ!!」
私たちはこんなおしゃべりをしながら、ズールの森を 歩いていた。

例の騒動からだいぶ月日がたった。
みんなあの時のダメージから回復して、もう思い出に なりかけたある日、久しぶりにクエストをやろうって クレイが言い出して、それでこうして森に来ていた。
あ、ギアは今回は一緒にいない。
なんでも昔の知り合いから助けてほしいって連絡が 来て、そっちに行ってしまった。
・・・でも、運命の神様ってのは相当意地悪らしく、 私たちはまたとんでもない事件に巻き込まれてしまう のだった・・・。

「おーい、薪はこんなもんでいいかぁ?」
「うん、十分十分」
・・・日も沈みかけてきたんで、私たちはキャンプを することにした。
・・・ほんと何もかもが久しぶりでうれしくなる。
と思ったとたん、笑いがこみあげてきた。
やっぱり、人間なんだな、って
「・・・珍らしいですね、虹ですよ」
キットンの言葉に誘われるように空を見ると 夕焼けに照らされるように七色の虹がアーチを 描いていた。
「珍しいな、夕方に虹なんて」
わずかに微笑みながらクレイがつぶやいた・・・
その時。

”ヒューーーーーーーーン”
”ドカバキッ!!”
「わっ!!!」
・・・何かが落下する音とクレイの悲鳴が重なった。
「クレイ!?」
「いたた・・・」
そこにはクレイを下敷きにして身体のあちこちを さすっている少女がいた・・・・
「えっと・・・ここは・・・」
さっきの虹と同じ瞳をあちこちにさまよわせ 彼女はうめいた。
(うわ・・・)
彼女の背中には白い翼があった・・・って彼女 天使!?
呆然とする私たちに彼女は叫んだ。
「あ、あなた達”青の至宝の化身”って方ご存じない? 私あの方をさがしてるの!!」
せっぱ詰まった物言いに私たちは顔を見合わせ・・・
「お嬢ちゃん、その青の至宝の化身ならあんたの 真下のいるぜ」
トラップの言葉に全員の視線が彼女に下になっている クレイに向いた。
「た・・たのむ、はやくどいてくれ・・・」
「ご、ごめんなさい!!」
彼女はふわりと宙に浮いて身体をどけた。
そして思いがけない言葉を口にした。
「おねがいします!!私たちを助けてください!! 青の至宝様!!」
・・・・それが再び私たちを神話の世界へいざなう 始まりの言葉だった。

天使族―神々の血をもっとも色濃く受け継ぐ種族で 時に神の従者として天へあがることもある。
彼らは平和主義であるが、受けた攻撃に対して 魔法で対抗する。
そして・・・伝説の至宝の神官でもある。

「・・・至宝の化身様がこんなに素敵な方だったなんてー!!」
天使の少女、リリスはクレイの腕にしっかりしがみつき ながらそう言った。
さっきからその状態で話が全然進まない・・・
クレイはクレイで困った顔をしてるし、みんな どことなくいらいらしてる・・・ってもう日も とっぷり暮れちゃったじゃない!!
しかもまだご飯食べてないんだから!!
そのうえ、彼女ったら時々私を見ては勝ち誇った ように笑ってるし・・・もう早くしてよ!!
「・・・で、あんた一体何しにきたんだ?」
・・・爆発5秒前。
そんな感じでトラップが文句をつける。
彼女ははっとした顔でまわりをみて・・ ようやく日が暮れたことに気付いたらしい。
せっぱ詰まった顔でクレイに懇願した。
「青の至宝様!!貴方の神官である私たちの 一族が赤の神官の一族に滅ぼされそうなんです!!」
「神官?オレの?」
クレイの言葉にリリスさんはこっくりうなずくと 冒頭でした天使族の説明と・・そのいきさつを 話し出した。

・・・ことの発端はクレイがジュディさんと 戦ったときと同時期のことらしい。
突然天使族の里に赤の至宝の神官である堕天使族 が侵略してきたらしい。
堕天使は天使族の中でも、闇の中にいきる種族らしく 攻撃力は天使族を遙かに上回る。
天使族は防戦を強いられ、・・・そんなある日 長が神託をうけたらしい。
『青き至宝とその守護石の力を借りよ』って。
で、次期長の候補である彼女が至宝を探しに はるばるやってきた・・・
「ちょっと待て!!じゃあクレイに至宝の力を 使えっていうのか!?」
「そうです!!そうでなきゃ私たち・・・」
泣きそうになった彼女にキットンはきわめて冷徹に 私たちの意見をいってのけた。
「リリスさん大変申し訳ないんですが、クレイは 至宝ではなく一人の人間として生きたがってます。 そして私たち彼の守護石もまた、人として 生きることを望み、彼の意志を尊重しているのです。 なのに、貴女は彼に至宝として生きろというのですか!?」
彼女は唇をかんだまま、何も言わなかった・・・

「・・・・でも、私たちの一族が生きるか死ぬかの 瀬戸際なんです」
リリスさんは手を握りしめたままそう言った。
「確かに至宝様の力を借りるなんて、虫がいいこと かもしれない。 でも・・・そうしなきゃ生きられないって神託が あるし・・・・」
彼女はそれだけいってクレイを仰ぎ見た。
「至宝様!!貴方はどうお考えなのですか!?」
クレイは彼女を見て、私たちを見て、ゆっくり言葉を紡いだ。
「おれは・・・人として生きたい。 でもオレの力が必要とされてるのなら・・・助けに行く べきだと思う・・・ それは至宝うんぬんじゃなくって、人間として・・・ 冒険者として当然のことだから・・」
「当然のことをして代わりにてめぇを失ってどうすんだ!!」
クレイの胸ぐらをつかんで、トラップは怒鳴った。
その目には仲間を失いたくない、としっかり映っていた。
「トラップ・・・」
「冷静になってみろ!!そんな戦いで人間でいられる わけがねぇ!!至宝になってオレ達と二度と会えなく なるんだぞ!! それでいいっていうのかよ!!」
・・トラップの言うことは正しいよ。
でもクレイの言うことも正しい。
だけど・・・・私は・・・・・
「クレイ・・・行かない方がいいわ」
私はそう彼に言っていた。
「パステル・・・?」
「冒険者として求められれば助ける。 それは当然よ。 でも彼女は冒険者じゃない至宝としてのクレイの助け を求めてる・・・・ クレイは人として生きる。 ・・・だから行かないで」
「そんな・・・!!」
リリスさんは激しい目で私をにらんだ。
「貴女、守護石のくせにそんなこというの!?」
「守護石だからじゃない、彼の仲間として言ったのよ!!」
「じゃあ、私たちが滅んでも構わないっていうの!?」
「そうじゃない!!だけど、人間に至宝の生き方を強いる 権利は神官と言ってもないんだから!!」
「それはあの方の考えることでしょ?!あなた達に 言われることでもないわよ!!」
「やめろ!!二人とも!!」
いつの間にか言い争っていた私たちをクレイが止めた。
「・・・ともかく、みんな明日の朝シルバーリーブに 戻って、これからどうするか考えよう リリスさん、それでいいね」
「・・・・はい」
クレイの言葉に全員がうなずくしかなかった。

・・・でも、この時クレイは決めていたのかも知れない。


・・・満月が部屋中を照らしている。
オレはリリスさんからもらった魔晶石をマントの留め具に した。
・・・彼女と会ってから次の日、オレ達はシルバーリーブ に戻った。
パステル達はオレを行かせるのに反対していたが、 ・・・・もう決めたんだ。
オレは天使族を助けに行く。
ただし至宝としてじゃなく、一冒険者として。
みんな怒ることだろう。
こんなスタンドプレーしたんだから。
でも、・・・・オレは信じたい。
自分自身を、・・・・みんなを。
至宝の力に負けないこと、そしてみんなが待っていて くれること。
「パステル・・・」
気がつくとオレはパステルが眠る部屋にいた。
いとおしい、オレの女神。
彼女も守護石だから行くと言い出しかねない。
でも・・・彼女はもとよりトラップもキットンも ノルもルーミィも、そしてここにはいないギアも 守護石の力に目覚めていない。
シロは多分力を自覚してるだろうけど、彼には みんなを守ってもらわなきゃならない。
そしてこの戦いは力なしに生きられない。
そんな戦いでみんなを傷つけたくない。
だからおいていく、大切な物全てを。
至宝とならずにオレが帰ってこれる場所はここだから。
「パステル・・・愛してる」
そっと彼女の額に唇を押しつけた。
精一杯の想いをこめて。

魔晶石に願い、力を解放した。
いつか見た青い翼が生えてくる。
「よろしいのですか・・・?」
リリスさんが複雑そうな顔でたずねる。
オレは大きくうなずき翼を広げた。
・・・・オレは必ず帰る。
人として、みんなのところへ。


「クレイのばかやろーーーーーー!!」
トラップはそう叫ぶと、持っていた手紙を テーブルにたたきつけた。
・・・そう、クレイは行ってしまった。
たった一通の手紙をのこして。

”パステル、トラップ、キットン、ノル、ルーミィ そしてシロ
みんな、すまない
オレは一人で天使族を助けに行く ・・本当はみんなと行きたかったけど
力に目覚めていないみんなを連れていけない
・・・みんなが大切だからオレは一人で行く
必ず戻るから、シルバーリーブで待っててくれ
                クレイ”

「てめえにこんな気遣いされても嬉しくないぞ!! そんなに心配なら一緒に連れてけ!!!」
トラップはずっとこの調子だ。
ルーミィは泣き続けてるし、ノルやキットンも怒りを はっきりと顔に出していた。
そして私は・・・・クレイを失った喪失感にさいなまれて いた。
クレイがいない、
それだけでいきる力がなくなっていきそう・・・・
彼がこんなに大切だったなんて・・・・
(・・・このままクレイを失うの?)
黒い不安が心を脅かす。
そんなのいや!!
みんなと一緒で・・いたいの、クレイと一緒に!!
「みんな!!追いかけよう!!」
私はそう叫んでいた。
みんなびっくりしたような目で私を見る。
「パステル・・・」
「私、クレイのそばにいてあげたい。 大体待つのなんて私たちらしくないわ!! 追いかけましょう!!追いかけて怒ってやろうよ!! 『そんなに私たちが信じられないのか!!』って!!」
「くりぇい、追いかけるんかぁ?ルーミィ行くおう!!」
私の言葉にみんな、にやりと笑う。
「・・・そうですね、クレイを追いかけましょう。 私たちがおとなしくしてると思ったら、大間違いです!!」
「おう!!クレイの奴、一発なぐんないと気が済まないぜ!! よっくも置いてけぼりにしてくれたな!!ってな!!」
「みんな一緒、クレイ忘れないようにいう」
「行くデシ!!」

かくして、私たちはクレイを追いかける準備をして 旅だった。
え?どうやって追いかけるのかって?
答えはキットンのモンスターポケットミニ図鑑にあった
『天使族は同族と竜の翼でしか行けないかくれ里に住んでいる』
・・・正直、シロちゃんに飛んでいくのは怖かったけど
みんなすっかり興奮して、誰一人としてためらいはなかった。
クレイ、覚悟してなさいよ!!
みんなで追いかけてやるんだから!!


・・・もう、シルバーリーブは見えない。
オレは改めてみんなとの距離を感じていた。
「・・・クレイ様・・・?」
リリスさんがいぶかしげにこちらを見る。
彼女にはクレイって呼ぶように言ったんだけど・・・ いまだ敬称つき・・・・たのむからやめてほしい・・・
オレは苦笑いしながら、彼女に確認をとった。
「なあ、天使族の里って常人じゃ来られないよな?」
でなきゃ置いていこうなんて考えない。
追いかけられるところなら絶対追いかけてくる、そういう 連中だからなぁ・・・
これで来られる場所ならオレ、笑うぞ。
せっかくオレがガラにもなく慎重に事を運んだってのに・・
そんなオレにリリスさんはにっこり笑った。
「ご心配いりませんわ 天使族の里は同族かさもなければドラゴン族の羽ばたきで しか来られないところにありますから」
「ドラゴンの・・・・羽ばたき?」
・・・・・
・・・・・一気に力が抜けていく。
「クレイ様!!」
リリスさんの声で翼が消えかかってることに気づき、 あわてて力を集中する。
「どうなさったんです?」
「・・・・あるんだよ」
「え?」
虹色の瞳にいぶかしげな光が浮かぶ。
オレはもう笑うしかなかった。
「・・・あるんだよ!!ドラゴンの羽ばたきが!!」
「え・・・?」
・・・その様子からしてシロの存在に気づいてなかった ようだな。
「・・・気づかなかった?オレ達のパーティに ホワイトドラゴンがいたことに」
「まさか・・・あの子犬?」
「その通り、これであいつらが追いかけてくるための 手段が見つかったわけだ」
そしてきっと追いかけてくる。
もうここまでくるとお笑いもいいとこだ。
これじゃあ何のために策を弄したんだか・・・!!
「これじゃあ、怒られるために出てきたような もんだぜ・・・」
そう言いながらオレはこみ上げてくる笑いとあったかい 気持ちを抑えることができなかった。
(まだみんなとのつながりは切れてない)
そんなうれしさがオレの冷え切っていた心を 暖めていた。


・・・どうして?
どうしてそんな顔できるの?
私はこんなクレイ様初めてみる・・・
いくらドラゴンの羽ばたきがあったって隠れ里の 場所までわかりっこないのに・・・
なのにクレイ様は追いかけてくるって言い切っている。
しかもすっごく優しそうに笑って・・・
そもそも、「傷つけたくない」って言って、連中を 置いてきたのはクレイ様本人よ。
その時だけでも嫉妬しそうになったのに、 まるで追いかけてくるのが嬉しいみたいで・・・
私は全身が熱くなるのがわかった。
・・・・・この気持ちは嫉妬。
私は嫉妬している!!
この方の仲間に!!あの女に!!
守護石としての力にすら目覚めていないってのに、 そばにいるのが当たり前って顔でいるあいつら!!
この方に想われてるってのにはっきりしきらない あの女!!
(・・・・この方は私・・・私たちのものよ!!)
そう、私は小さい頃から「至宝の花嫁」、そう言われて 育ったんだから!!
この気持ちは誰にも負けない!!
一族の存亡にかけて、青の至宝様を私の物にしてみせる!!
そうすれば天使族は滅びることなく、永遠に神のおそばに いられるんだから!!
決意を胸に私はクレイ様の後を追った。


さあ、クレイを追いかけるぞ!!・・・・と
意気込んだはいいんだけど・・・・・
私たちは肝心なことを忘れていた。
それは・・・・
「天使族の里ってどこにあるの?」
・・・・すっかり忘れていたもんね・・聞くの。
でも、あのリリスって子の態度じゃ教えてくれる わけないけどさ・・・聞くだけでもきいとけばよかった・・・
しょんぼりしてしまった私たちに、シロちゃんがある提案を した。
「JBのおじしゃんに聞いてみるデシか?」
・・・確かに。
天使族の里へはドラゴンの羽ばたきで行けるんだから JBなら行ったことあるかも!!
私たちはホーキンス山へ向かうことにした。

「天使族の里だと!?」
私たちが理由を話すなり、JBは大声を上げた。
ちなみに彼は人間の姿をしている。
で、さっきまでコボルト相手にRPGをしていたんだって。
・・・あいかわらずよね、彼。
JBは渋面を浮かべながら、私たちに言った。
「・・・天使族の里は遥か北の彼方、ベヒモスすら住まない 山に囲まれたところにあると聞く。 わしだって行った事がないところへ行くなどとは・・・ いくらクレイのためだからって無謀すぎるぞ」
「わかってるって!!」
トラップはいらだたしげに言葉を返した。
「んなややこしいところにクレイが行くから こんなことになったんだ。文句はクレイに言って くれよな」
「う・・・うむ・・」
トラップのあまりの剣呑さにさすがのJBも たじろいでいる。
「だが、わしも正確な位置がわからんのだ。 こればっかりはドラゴンといえどもな・・・」
えーーーーーー!!
じゃあ、このまんまクレイと一生あえないの!?
そんなの・・そんなのいや!!
みんなも同じ気持ちだったんだろう。
一斉にJBにつめよる。
「お・・おい!!せっかく期待してきたのに なにも手がかりなしかよ!!」
「お願いです!!些細なことでもいいですから 教えてください!!」
「やー!!ルーミィ、くりぇいのとこ行くんだおう!!」
「わ・・・わかったから、そんな目でわしを 見るなーーー!!」
みんなを押しとどめて、襟元を正しながら、思いがけない ことを言った。
「ここから北のキスキン国の王家の塔がある。 そこの神官が天使族の血を引いてるとか引いていないとか ・・・ 手がかりと言ってもそれしかないぞ?」
「・・・キスキン国?」
思いがけない言葉に私たちは顔を見合わせた。
あの、ミモザ王女・・・いや、今は女王か 彼女の国、キスキン国。
そこの王家の塔の神官って・・リリアさん・・・よね?
クレイを助けてくれた、そして初めて「青の宝玉」って 彼を呼んだ女性・・・
「そういえば、名前が似てますねぇ」
そうよ、リリスとリリア、単なる偶然にしちゃあ よく似ている名前よ!!
「よっし!!そうと決まりゃあ、行くか!! キスキン国へ!!」
『おー!!』
みんなの声がきれいにハモった。
「・・・・帰ってきたら顛末を聞かせてくれ。 シナリオのネタにしたいからな」
冗談めかしたJBの言葉に笑いながら私たちは うなずいた。

・・・ようやく、クレイを追っていける!!
喜びに満ちた私の横で、トラップがなんだか 寂しげな顔をしていたことに、私は気づいていなかった・・


(パステル、お前、クレイが好きなのか?)
そう聞きそうになるのをオレは必死の思いで こらえた。
・・・あの、ようやくクレイを追っていけるって 嬉しそうに笑った顔がオレを打ちのめした。
・・・・・ああ、薄々そんな感じはしていたさ。
クレイの奴が至宝だって知ったときからな。
でもオレにも望みがある、そう思っていたのに・・・
(パステルを渡したくない)
そんな想いがおれを支配しそうになっていた。
・・クレイ、お前にはかなわないのか・・?
オレはお前に勝てないのか?
・・・・皮肉なもんだ。
好きな女を争ってるの当の相手が生まれたときからの 親友、なんてな。
オレはふっと笑った。
でも今はオレの方が彼女のそばにいる。
これ以上負けられるか!!
オレはオレのやり方でパステルを勝ち取ってやる!!


「キスキン国を抜ければあと2・3日で 里へにつきますわ」
幾分疲労を顔ににじませながら、リリスさんは いった。
―そう、オレ達はキスキン国を今まさに抜けようと していた。
最初、ゆっくり様子を見ながら行こうと言っていた のに、突然、休みなしのぶっとおしで飛ぶハメに なってしまった。
(・・・さすがに疲れたな)
何せ、自力で空を飛ぶなんて初めてのことだし
飛ぶための翼だって精神力で作ってるようなもんだしな・・
疲れない方がおかしいか
まあ、オレのことはともかく、リリスさんは辛そうだ。
何度か墜落しそうになってるし。
「・・・リリスさん、休もう。 君だってもうフラフラじゃないか」
オレがそう言うと、彼女は半泣き状態になった。
「いいえ!!休んでる間に里にもしものことが あったら・・・!!」
「そうは言っても体力がなくなるまで飛んで、 いざってときにHP1じゃ何もできないだろ? そうしないためにも少し休んだ方がいい」
「でも・・・!!」
・・言ってることはいかにも里を気にしている って感じだけど、・・オレの気のせいかな?
何か隠しているような顔をしている。
・・・もっとも、彼女だって話したくない 事情だってあるだろうしな。
リリスさんはしばらくオレの顔を泣きそうな 目で見つめていたけど、すぐあきらめたように 下へ降りてった・・・って言うよりあれ、落ちてるぞ!!
オレはあわてて彼女を抱えると、静かに地面に 降りた。

大地の感触が心地いい。
(人ってやっぱり大地に生きる種族なんだな)
しみじみそんなことを思っていると
  ”ヒュッ!!”
矢の形をした炎がオレめがけて飛んできた。
あわてて炎をうち払う。
「・・・堕天使族!!」
忌々しげに呟くリリアさんの声を背に、オレは 翼を実体化させ、飛んだ。
「クレイ様!!あいつらは炎と水の精霊を使います!! 気をつけて!!」
「炎と水!?」
人の生活に必要な精霊を操るのが堕天使だって!?
・・・・混乱する頭を抱えながら、オレは初めて 堕天使族と相対した。

・・・堕天使族は浅黒い肌に青い瞳、 そして燃えるような紅い髪の種族だった・・・
彼らの方がよっぽど「至宝の神官」に ふさわしいような気がする。
「・・・貴方様が青の至宝・・赤の至宝様の兄君 ですね?」
彼らの先頭に立つ男がそう尋ねる。
「あんた達の中じゃそうなってるらしいな」
オレはかすかな痛みを感じながらつっけんどんに 言い放った。
そう、オレはその至宝って事実にふりまわされて、 ジュディを殺したんだ!!
あいつだって、父さんたちだって・・・
彼らはしばらくオレを見つめていたけど、 急に膝を折った。
「・・・?」
「・・・青の至宝様、あなた様は人と至宝、 どちらの道を選ばれるのですか?」
「は・・・?」
思ってもみなかった言葉だった。
そんなオレに彼らは話を続ける。
「我らとあの娘の一族は元々は同じ一族。 なのに、彼らは我らを堕天使と忌み嫌ってる。 その理由が至宝の神官の地位なのです」
「なんだって・・・!?」
「我らは炎と水、奴らは風と大地を象徴として 生きております。 それゆえ、赤と青の至宝の神官となったのです ・・・ですが、奴らは赤の至宝が闇に堕ちたことから 我らを堕天使と呼ぶようになったのです」
・・・それじゃあ、リリスさん達は嘘をついた ってことなのか!?
オレの考えを見透かすように彼らは首を振った。
「あの娘は嘘は言っておりません。 織天使族の里を我らが襲っているのは事実です。 しかし、あなた様がどちらの生き方を望まれるのか それを知りたくてこうして赴いたのです」
彼らの表情には答えによってはオレを殺すと 言わんばかりの輝きに満ちている。
(・・・でも、天使族と堕天使族・・・・ 元をただせば同じ種族なんだったら何故、 彼らは天使族の里を襲ったんだ?)
そんな疑問が胸に浮かんだ。
「・・・その前に一つ聞かせてくれ。 何故天使族の里を襲った? 元が同じ種族なら、争うこともないだろう?」
オレの疑問に彼らは表情を曇らせた。
「・・・それは言えません」
続いて出たのは拒否の言葉。
「ですが、あなた様方ご兄妹の事が起因している。 それだけはお話しておきます・・・ して、こちらの答えは?」
・・・トラップがこの場にいたら間違えなく 「てめえ!!何寝言ほざいてんだ!!」って 怒りそうだな・・・・この答え。
ま、とりあえず疑問はこっちにおいといて、 オレが答えようとした・・・その時
『風よ!!闇に堕ちた天使を滅ぼせ!!』
リリスさんの声とともに風の刃が次々と飛んでくる。
「この方は誰にも渡さない!!」
彼女ははっきりと怒りを顔に表し、彼らを にらんでいた。


「この方は誰にも渡さない!!」
私はそう言ってクレイ様をかばうように立った。
・・・あいつらの魂胆はわかってる。
赤の至宝―クレイ様の妹君―が亡くなったから 自分たちが青の神官になる、そうに決まっている。
だから、あんなこと聞いたんだ!!
大体、私たちと堕天使族が元は同族!?
そんなの嘘に決まっている!!
私、そんなこと長老から教わってないもの!!
私は堕天使族のリーダーに向かって、風の刃を次々と くりだした。
だけど彼は水のベールでことごとくかわす。
「くっ・・・」
「それが織天使族の次期若長のすることですか?」
淡々と言ってのける堕天使。
だから、その織天使って何なのよ!!
怒りが私の身体を焼いていく。
何のためにクレイ様を連中から引き離したと 思ってるのよ!!
なのに役立たずの守護石は追いかけてくるし、 堕天使は寄ってくるし・・・!!
(あ・・・!!)
業火に焼かれ、私の心は一つの結論を見いだした。
(この方は私のものよ!!)
そう、堕天使族にも、あの女にも・・・同族にだって 渡さない!!
想いの全てを風の力に換算する。
風は全てをなぎ払った。堕天使達さえも。
「・・・青の至宝様!!ご返事は織天使族の里で お聞きします!!」
それだけ言うと堕天使達は遥か北の方へ飛び去った。


「リリスさん・・・・」
哀しい声に私は我に返った。
「クレイ様・・・」
「何故、あんなことを・・・?」
哀しそうな声で聞くクレイ様の瞳は、声に 負けないくらい悲しみに満ちていた。
「オレは彼らと話していた。 ひょっとしたら戦いを回避できたかもしれない。 なのに君は・・・・」
クレイ様の声が私の心を切り刻む。
よかれと思ってした事なのに、彼を悲しませている・・ 私は声もなくうつむいた。
「・・・すみません・・」
謝罪の言葉が口をついて出た。
クレイ様は表情を和らげると、再び翼をはためかせた。
「さあ、急ごう。このままじゃパステル達が 追いついてくる。 怒られるのは終わってからで充分だ」
そう言った彼の顔には今度は優しい笑みが浮かんでいた。
再び炎が心を焼き尽くす。
私にはあんな笑顔見せたことがなかったのに・・・
嫉妬がさらに炎を燃え立たせる。
パステル!!あんたになんかクレイ様を渡さない!!
渡すもんですか!!
・・・私はある決意を胸に青の至宝の化身たる方の 後を追った。


JBから手がかりを聞いた私たちは 3日後、キスキン国へついた。
へ?シロちゃんに乗ってる割には早いじゃない かって?
それはとっさに考えた方法、ルーミィのフライを シロちゃんにかけるってのがうまくいったせい。
ルーミィのフライで安定させ、シロちゃんが前の方へ 飛ぶ、その形でなんとか(でもないか・・・) 当国へきたわけ。
で、何とかミモザ王女・・・じゃなく女王に会って 事情を話して、ようやく王家の塔に入れることに なった。
・・・にしても、女王まで「詳しいことは後で まとめて聞かせてもらう」だもの・・・
クレイが戻ったら色んなとこ回らなきゃ・・・

「・・・そう、リリスレアが・・・」
王家の塔の中、神官リリアさんに全てを 話した後、彼女は大きくため息をついた。
「で、そのドラゴンは私が天使族の居所を 知っていると言ったのですね?」
「あ、はい!!JB・・じゃないブラック ドラゴンは貴女が天使族の血を引いてるから わかるだろうって言ったんです!! リリアさん!!お願いです、天使族の里の場所を 教えてください!!」
「お願いします!!」
「おねがいするおう!!」
「クレイの奴を早く見つけたいんだ!! 頼む!!教えてくれ!!」
私たちの懇願にリリアさんは難しい顔をした。
「・・・確かに私は天使族の里の場所を知っ ています」
「じゃあ・・・!」
「ですが、あなた方がそのままで行っても あの青年を連れ戻すどころが、天使族の抗争で 全滅しかねません それでは彼の意を無視した形になってしまいます」
・・淡々と言う、彼女の表情はまさに巫女その ままで私は青くなるのがわかった。
「じゃあ、どうしろっていうんだよ!?」
怒り心頭って感じのトラップに、彼女は一言、
「守護石の力をお出しなさい」
そう、言い切った。
「守護石の・・・力?」
いぶかしげな私たちに歌うように彼女は言う。
「・・・守護石は至宝を守る力。 その精神が闇に堕ちないよう、見守り、 ささえ、前に進めていく力・・・」
リリアさんの言葉に私たちは顔を見合わせて ・・・笑った。
「・・どうしたの?」
「リリアさんよお、オレ達、はなっから 守護石の力に目覚めていたみてえだぜ!!」
「まあ・・!?」
驚くリリアさんにキットンが説明する。
守護石と知る前から、みんなそうしていたこと。
それはクレイに、だけでなく、互いに支え合って そうしてきたこと。
守護石は至宝の一部だから、力云々ではないんだと いうこと。
リリアさんは小さく笑うと
「・・・リリスレアもそういうことに早く気づけば いいのに・・・」
その顔には姉が妹を気遣うそんな表情があった。
「リリアさん・・・リリスさんって貴女の血縁 じゃないんですか?」
キットンの指摘に彼女は寂しげに笑った。
「・・・そうよ、あの子の妹」
えーーーーーーーー!?


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