精一杯の想いを込めて


だから、おれは
こういうのは苦手で
どうすればいいのかわかんねぇ

おめぇならきっと
おれが何も贈らなくても
その日をなかったことにしても
「しょうがないわね」なんて
平気な顔して笑ってるんだ

だけど、だからこそ
何かしてやったら
顔には出さなくても
態度にも出なくても
すごく喜ぶんだよな

同じ家で暮らしてたのに
何をやればいいのか
喜ぶ物が何なのか
一つも思いつかなかった

苦さが際立つチョコを食べてから
もう一ヶ月が経とうとしてるのに

無難に花とか
指輪は早いだろうな
綺麗な風景なんて柄じゃねー

何をやっても喜ぶのに
その中でも一番が選びたい
あの意地っ張りが
思わず素直な笑顔を見せるような
そんなものが贈りてぇから

いっそのこと
全部贈ってやるか
数本の花に安い指輪
綺麗な景色はドーマに決まりだ

慌しく馬車のチケットを買って
予定を聞く間もなくマリーナに送って
来れなかったら来れなかったで
しょうがないのだと割り切って
ホワイトデーの一日前に
おれはドーマへと降り立った
翌日のために花屋を物色して
よく知る店員に目を丸くされ
指輪を用意するために
母ちゃんにサイズを聞いて
店の中でもからかわれた

ドーマにするんじゃなかったな
家中の奴らに質問攻めにされながら
祝杯を上げるのを止めさせながら
そんなことを思った

翌日にはマリーナが来て
少し早くについたから
ハンナの店で茶でも飲んで
当然のようにからかわれた

頃合になったら店を出た
歩いて30分が過ぎると
テラソンの山が一望できた
青い空に浮かぶ真っ白な雪山が
徐々に暗くなる空に合わせて
色を少しずつ変えていく
赤く染まった白い山が
その明度を落としながら
ゆっくりと夜に染まっていく

山が夜と同化してから
隠しておいた花と指輪を渡した
しおれかけた花も
むき出しの指輪も
考えてみれば失敗だったのに
それでも最高の笑顔を見られた

一ヶ月悩み続けたことまで教えたら
きっと泣くだろうと思うから
その笑顔を消さないためにも
教えるのは明日にするか





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