ミスキャストでGO!
あるところにマリーナ姫と呼ばれる、雪のように白い肌と血のように赤い唇を持った、それはそれは美しいお姫様がいました。
「わたしがお姫様なのね。でも、どうせならドレスはもっとシックな方がいいんだけれど」
童話のお姫様はひらひらドレスが基本みたいなので我慢してください。
「仕方ないわね…。わかったわ」
「おめぇが姫様だぁ? ちっとも似合わねーよ」
はいはい、あなたはまだ出て来ないで。
「あ、おい! こら! 横暴だ!」
強制退場完了。
「今、誰かいなかった?」
いいえ、全く。
「そう? なんだかちょっと腹が立ったような気がしたんだけど」
気のせいでしょう。
さて、この美しいお姫様には王様であるお父様と、女王様である義理のお母様がいました。
お父様はお忙しく、滅多にお城にいませんでした。
義理のお母様は自分の美しさを誇りにしていて、部屋で毎日のように鏡に自分が世界で一番美しいことを確認していました。
「よっぽど自分に自信がないのね」
義理とはいえ、お母様にそういうことを言うのは止めましょう。
とりあえず、地の文章に返事を返すのは止めて、あなたは庭にでもいてください。
「わたしはまだ7歳なんでしょう? 一人で遊ばせていいの? 仮にもお姫様なのに」
マリーナ姫は17歳です。
パロディというのは原作を都合よく変えることに意味があるんです。
「そうかしら」
まぁ、そうだということで進めます。
マリーナ姫は外へと遊びに行きました。
さあ、行ってください。
「無理やり追い出すのね。一人で何しろっていうのよ」
マリーナ姫はぶつぶつ言いながらも外へと行きました。
姫が城から出るのを窓辺で冷ややかに見下ろしている人がいました。
マリーナ姫の義理のお母様です。
女王様は少し前に鏡にいつもの問いかけをしました。
すると、いつもは女王様を褒め称える鏡が、あろうことか「世界で一番美しいのはマリーナ姫様です」と、答えたのです。
その言葉に怒った女王様はマリーナ姫を葬る決意をしたのです。
どうやら女王様は単純な思考の持ち主のようですね。
その彼女がいる同じ部屋の隅に、女王様が呼びつけた一人の男がいました。
「いいですか? あの子をしとめてくるのです」
「はい」
猟師の男―ギア・リンゼイ―はうやうやしく一礼してから部屋を出ました。
「なんでおれが登場するんだ」
さて、どうしてでしょう。
「しかもマリーナを殺せ、だ。そういう役回りが似合いだとでも思ってるのか」
いえいえ、滅相もない。
ただ、他に適任がいなかっただけでして。
「おれは適任ってわけだ」
単なる比較の問題です。
どうせマリーナを見逃すんですから良いじゃないですか。
株が上がりますよ。
よっ! 男前!
「……」
猟師は寡黙なんですね。
庭に出た猟師はマリーナ姫を森へと誘い、姫は大人しくギアの後をついていきました。
「なにか用なの? ギア」
「マリーナ、お前は女王に命を狙われている。逃げるんだ」
「そうね。ギア、あなたも来ない?」
義理の母親に命を狙われてたんですからもうちょっと驚いてくださいよ。
「そうだな。あの女王の側に仕えるのも嫌だしな」
こらこら。
勝手なことを言わないように。
ギアは城に帰って、マリーナは森の奥。
さっさと行く。
「おれの出番は終わりだな」
ギアは城に帰って、女王様にマリーナはしとめたと嘘の報告をしました。
一方、マリーナは森の奥へと進み、そこに小屋を発見しました。
ずいぶんと小さな小屋ですが、なんとかマリーナは小屋に入ることが出来ました。
疲れていたマリーナ姫は、並んで置かれたベッドに横になって眠りにつきました。
「眠くなるほど疲れてないわ…って言っても無駄でしょうね。おやすみなさい」
姫が寝静まってしばらくすると、外から賑やかな声が聞こえてきました。
「だれか、いる」
先頭に立って扉を開けたのは、のっぽのノルです。
「あぁ。わたしたちのベッドがきしんでますよ。壊れたらまた修理しないといけませんね」
ノルの横から小屋の中を覗いたキットンが騒ぎました。
「おっきいおう!」
「大きいデシ」
彼らの中でも特に小さなルーミィとシロは目を丸くして驚いています。
「おれは王子様にはなれなかったよ」
「わたしもお姫様になれなかった」
「でも、小人の方がずっと一緒にいられるな」
「そうだね。お姫様と王子様だと最後にしか一緒にいられないし」
「小人で良かったな、パステル」
「うん。一緒にいてね、クレイ」
なにやら場違いな2人にはマリーナ姫さえ目に入ってないようです。
「おい! そこのデカイ女! 人の家に勝手に入るんじゃねーよ」
最後に小屋に入ったトラップが小さな足で眠るマリーナ姫を蹴飛ばしました。
マリーナ姫は賑やかな話し声と、足の痛みで目が覚めました。
「どなた?」
「『どなた?』じゃねーよ。不法侵入しやがって。賠償金はきっちり払ってもらうからな。だいたい、おれが王子じゃねーのかよ!」
最後に余計なことを言いつつも、トラップはマリーナ姫に食って掛かりました。
「あんたが王子なんて笑っちゃうわよ。無理に決まってるじゃない。勝手に上がりこんでごめんなさい」
「謝るのか馬鹿にするのかどっちかにしてくれ」
トラップの情けない言葉は聞かなかったことにされ、キットンが小人たちを順にマリーナに紹介しました。
「あなたたちは家族ではないのね」
「はい、違いますよ。寄せ集まりってとこでしょうかね」
「おれたち、家族じゃなくて良かったな、パステル」
「そうよね、クレイ」
クレイとパステルはあくまでも2人だけの世界にいるようです。
手を握り合って見つめ合い、とことん幸せそうです。
「こいつらがこんなんだからさぁ、まともな飯を作れるのがノルだけで困ってんだよ。おめぇ、行くとこないんだろ? 働いてくれりゃ、いさせてやるよ」
「まいーなはここにいるんだおう」
「これからよろしくデシ」
トラップのえらそうな態度が気にはなりましたが、かわいいルーミィやシロちゃんにお願いされては嫌だとは言えません。
マリーナは小屋に残ることにしました。
ところかわってお城の女王様のお部屋です。
女王様は久しぶりに鏡を覗き込みました。
そして尋ねたのです。
「世界で一番美しいのは誰?」と。
その問いかけでマリーナ姫がまだ生きていることに気がついた女王様は、今度は自分の手でマリーナをしとめようと考えました。
真っ赤なリンゴにたっぷりと毒を塗り、小人たちとマリーナ姫の住む小屋へと出かけました。
姿を隠した女王様に、おいしいリンゴをどうぞ、と渡されたマリーナ姫はそのリンゴを一口、かじりました。
「こんな怪しいリンゴ、普通は食べないわよ」
と、言い残してマリーナ姫は意識を失いました。
女王様はマリーナが倒れたのを見届けると、急いでお城に戻っていきました。
驚いたのはクエストから帰ってきた小人たちです。
「一応は姫のくせにリンゴをそのまま食べるか!?」
「お姫様だから皮をむいたり切ったりできなかったんでしょう」
そもそも皮をむいたり切ったりしたところで、結果は変わりませんしね。
「これだから姫なんてーのは。ろくな嫁になれねーぞ」
「まいーなぁ! 起きるんだおう!」
「ルーミィ、シロ、外に行こう」
「パステル、リンゴを食べなかった?」
「食べてないよ。わたしは大丈夫」
「良かった。マリーナも大丈夫だと良いけどな」
「きっと大丈夫だよ」
みながマリーナ姫を失った悲嘆にくれていました。
けれど、いくら泣いてもマリーナ姫は意識を取り戻しません。
「誰も泣いてねーよ」
しかたなく、彼らはガラスの柩(ひつぎ)にマリーナを入れました。
「ガラスの柩なんて悪趣味な気がしますけどね」
花の中に横たわるマリーナ姫は生前の美しさを失ってはいませんでした。
「パステルほどじゃないけどね」
「やだ。クレイったら」
地の文にしたがって、真面目に進めてくださいよ。
まぁ、いいです。
と、そこに白馬に乗った王子様が通りかかりました。
「(わたしはこれでも白馬の王子を待つ方の身なんだが)なにがあったんだい?」
通りがかりの王子様―ジュン・ケイ―は、馬から下りて、柩に近寄りました。
「なんでもねーよ!(こいつか! 顔は…まぁ、ちっと負けてるかもしんねーけど)」
「あぁ、あなたが王子でしたか。ささ、この姫君に口づけをしてください。それでこの話は終わりです」
「キットン! なんてこと言いやがる! おい、あんた。悪いことは言わねーから、キスなんかすんじゃねーぞ。んなことしたら、こいつのことだから訴えるぞ。だいたい、寝てる女に手を出すなんざ、男として最低の行為だ。そうだろ!?」
「それもそうだね。じゃ、後は任せるよ」
王子様はひらりと白馬にまたがり、去っていきました。
(良かった。ファーストキスの相手が女の子っていうのはいくらなんでもね)
ジュン・ケイは、人知れず胸をなでおろしていました。
「…どうするんだ?」
王子様がいなくなってしまい、話が止まってしまいました。
「話が終わらなかったら、おれたちずっとこうしていられるな」
「そうだね。嬉しい」
この2人にはどうでも良さそうですが、そういうわけにもいきません。
「トラップ! あなたが王子を追い出したんですから、責任とって姫を起こしてくださいよ!」
「なんでおれが起こすんだよ!」
「トラップ。マリーナ姫がこのままで、いいのか?」
ノルが静かに言うと、トラップは言葉につまりました。
マリーナをこのままにしておきたいわけがありません。
しばらく共に過ごすうちに、トラップはすっかりマリーナが好きになっていたのです。
素直さとは無縁のトラップなので、いつも言い合いばかりして自分の気持ちを伝えたことはありませんでしたが。
でも、トラップは小人であって王子様ではありません。
それに、小人のトラップはマリーナの半分くらいの背丈しかありません。
悩みに悩むトラップを見かねて、キットンがその背中を思いっきり押しました。
体勢を崩したトラップは、都合よく柩に向かって倒れていきました。
が、トラップは柩のふちに手をかけ、なんとかマリーナとぶつかる寸前で身体を止めることができました。
「じれったいわね」
安堵の息をもらしたトラップの耳に、そんな声が届いたと思う間もなく、首に腕が回され、唇をふさがれました。
と、トラップの身体が見る見る大きくなっていきました。
トラップにかけられていた呪いが解けたようです。
トラップは、マリーナと並ぶとちょうど良いくらいの背丈になっていました。
なぜか都合よく服も伸びていたので困ることは何もありませんでした。
「違う話が混ざってんだろ!! 呪いってなんだよ!」
トラップは文句を言いましたが、気にしてはいけません。
「きっちり幸せにしてもらうわよ」
マリーナはにっこり笑って言いました。
そうして、マリーナ姫と元小人のトラップは6人の小人たちと幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
ハッピーでGO!
あるところに船に乗っている王子様がいました。
「き、気持ち悪ぃ」
船に弱いトラップ王子は船の先端で苦しげにうめいていました。
「なんで王子が船なんかに乗ってんだよ」
これが「人魚姫」のパロディだからです。
どうして船に乗っていたかまでは知りません。
「いい加減だな…うげっ」
トラップが苦しそうな場面を続けても楽しくないのでかっ飛ばしましょう。
トラップは海に落ちました。
と、いうよりも自分から海に飛び込みました。
「いつまでも船になんか乗ってられっかってんだ」
泳ぎに自信のあるトラップ王子は、陸が十分近づいてきたのを見計らって、後は泳いで帰るつもりのようです。
王子様と呼ばれる人の行動ではありませんが、そもそもトラップが王子様というのに無理があるのでしかたないでしょう。
王子は泳ぎが達者でしたが、さっきまで気分が悪かった人がいきなり上手く泳げるわけがありません。
嵐は来ませんでしたが、王子は哀れにも溺れ…溺れませんね。
ここは溺れるところなんですけど。
「おれが溺れたりするわけねーだろ」
軽快なクロールでぐんぐん陸に迫っていきます。
予定が違いますが、無理に溺れさせることもできないので、見守ってみましょう。
トラップは最短距離で陸に向かったので、着いたのは港ではなく、砂浜でした。
息を切らせた王子が、ぐったりと砂浜に寝転がっていると、馬が駆ける蹄(ひづめ)の音が聞こえてきました。
さすがに長距離を泳いだトラップ王子はその音に気がついてはいても起き上がることはできませんでした。
蹄の音はだんだんと近づき、トラップのすぐ近くで止まりました。
「何者だ! ここは王家の敷地内だぞ!」
馬上からの勇ましい声に、王子は顔を上げました。
太陽の日差しを背後に受けた馬上の人物を見ることができずに、まぶしさに顔をそむけましたが、声からして相手が女性であることはわかりました。
「わるかったな。すぐ出てく」
「名を名乗れ!」
「エドニ―国の第一王子のトラップだ。おめぇは誰だ?」
「エドニ―は隣の小国だな。しかし、なぜ王子がこんなところにいる? 王家の名をかたるなど、不敬罪で捕らえられても文句は言えないぞ」
「小国で悪かったな。けど、おれはこれでも王家の嫡男でな。疑ってんなら、向こうの港に行ってみるんだな。王子がいなくなったって大騒ぎしてんだろうからよ」
「そうか…。後で使いのものを出す。小国だなどと言ってすまなかった。わたしはここコーベニア国の第一王女のマリーナだ」
マリーナ王女は馬から下りて、非礼をわびました。
「はぁ? おめぇマリーナなの? なんだよ、そのしゃべり方」
馬の影に入ったマリーナを視界に捉えたトラップがおおげさに驚きました。
「しょうがないでしょ。今回はこういう役なのよ」
「『人魚姫』だろ? それにこんな勇ましい王女さん、いたっけか?」
「趣味なんじゃないの。知らないわよ」
はい、ただの趣味です。
人魚姫には勇ましい王女様は登場しません。
「おっ、そうだ。どうだ。おれだって王子になれただろ」
トラップは立ち上がって威張って見せました。
「似合ってないわよ、そのカボチャルック」
「カボチャって言うな!」
どうやらトラップ王子は王子様ルックで船に乗り、なおかつ泳いできたようです。
「で、人魚姫には会えたの?」
マリーナ王女はこの王子様らしくない王子様が気に入ったのか、そんな質問を投げかけました。
毎日のように舞い込んで来る縁談の相手は、紳士で優しそうないかにも王子様タイプばかりだったのですが、そんな相手とおしとやかな暮らしをするなんてマリーナ王女には合いそうもありません。
今日もそれで、気晴らしの乗馬をしていたところだったんです。
でも、いくら自分が気に入っても、海の泡となってしまう人魚姫がいるのでは、気になってしまいます。
自分が振られ役になっても、王子と人魚姫が幸せになった方がいいのではないかと思ったようです。
「いんや、おれは泳いでここまで来たからな」
「そういえば、嵐も来てないわよね」
「ま、会わなかったんだからいーじゃん。まぁ、マリーナ。エドニ―とコーベニア、合併させる気はねーか?」
「悪くないわね」
「だろう? んじゃ、さっそくこれからコーベニアの王様方に会うとしますか」
「そんな濡れた格好で『お嫁さんにください』なんて言う気?」
「おれらしくていいだろ?」
「お父様もお母様もさぞ嘆くでしょうね」
言い合いながらも2人は馬にまたがり、一目散にお城へと向かいました。
港では、王子のお付のキットンやノルたちが必死にトラップ王子を探していたのですが、当の本人がそれを思い出すのは両親への挨拶を終えた後だったとか。
一方、王子に出会うはずだった人魚姫はと言いますと。
「えーん。上手く泳げない〜。クレイー、助けて〜」
人魚姫は泳ぎが得意ではなく、また方向音痴だったために、いつも姫様付きの従者のクレイと一緒にいました。
海の中で溺れたり、行方不明になったりすると大変だからです。
「パステル姫、頑張ってください。今日も一緒に散歩に行きましょう。姫様は筋力をつけないといけませんよ」
「クレイは上手く泳げるよね。いいなぁ」
「おれだけじゃなくて、パステル姫の姉姫様たちも上手く泳げますよ」
パステルの姉であるレディ・グレイスや、ユリア、ルイザ、リタといった姫君たちはスイスイ泳いでいます。
「わたしだけ落ちこぼれだよね…」
「パステル姫様も上手に泳げるようになりますよ。根気よく練習しましょう」
「うん。クレイがいるなら頑張る」
こうしてパステル姫は、海の外に興味を持つことさえなく、クレイと幸せな結婚をしましたとさ。
めでたし、めでたし。
終わる
〜〜〜あとがき〜〜〜
11777HiTのエースさんのリクエスト、「FQコメディ」です。
パロディがコメディの中に含まれるのかは微妙なような気もするんですが、思いついてしまったのでリクエスト作品にさせてもらいました。
パロディは初書きなんですが、いかがだったでしょうか。元の童話に詳しいわけではないので、間違ってる部分等、あると思いますがご容赦ください。
とりあえず、わたしはとてつもなく楽しかったです。
もっといろんなキャラを出せたらよかったんですが、思ったよりもこじんまりとまとまりました。
両方ともトラマリメインになったのは話の都合上です。
「ミスキャスト」の方はクレパスがバカップル状態になってしまいましたが許してください。
わたしもあんなクレパスが好きなわけでは…。いや、でもあれはあれでそれなりに(どっちだ)。
ともあれ、楽しんでいただければ幸いです。
11777HiT、おめでとうございます!
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