ここでない場所。
今でない時間。
もちろんフォーチュン世界でもありえない場所。
別次元のパステルとクレイの物語……
人里離れた一軒家。
そこは悪魔が住まう家。
頭部の羽は悪魔の印。
悪魔は人を騙す者。
悪魔は悪いことをする。
……と、世間一般では思われている。
実際はどうなのだろう。
この家の悪魔を見てみよう。
部屋の中は悪魔が住まうとは思えないほど綺麗に整頓されている。
窓辺に飾られた花が安らぎを教える。
「……ハァ。どうしよう」
ため息と弱気な声。
声の主は自室にこもり思案中。
思案内容は――同居人へのプレゼント。
同居人は悪魔ではない。
もちろん人でもない。
では正体は何なのだろう?
「魔法使いって何が欲しいんだろう?」
そう。
同居人は少女が誤って呼び出してしまった魔法使い。
少女の名はパステル。
人と悪魔のハーフの子。
同居人の名はクレイ。
心優しい魔法使い。
「やっぱり魔法薬の材料? それとも新しいマジックアイテム?」
悩めば悩むほど深みにはまっていく。
パステルは気が付いていない。
クレイが本当に欲しい物を……。
「でも、どっちにしても何がいいのか分からないのよね」
自分の提案に自分で却下の答えを出す。
そしてため息。
「やっぱり私に出来る事っていったら……」
そう言ってパステルは部屋を後にした。
「ただいま」
同居人の帰宅の声。
彼の仕事は困っている人を助けること。
クレイは自分の仕事に喜びを感じる。
「パステル?」
同居人の返答がないことに不信を覚える。
いつもならば出迎えてくれるはずなのに。
彼の大好きな笑顔と共に。
「パステル、いないのか?」
「キッチンにいるよ」
2度目の呼びかけに答える声。
安心する。
自然と笑顔になる。
クレイの幸せの源。
「今日はね――」
キッチンの扉を開け、本日の出来事を報告しようとした。
その時、クラッカーの音が鳴り響いた。
「お誕生日おめでとう! クレイ♪」
驚きに目を丸くするクレイに降り注ぐ紙吹雪とパステルの笑顔。
何が起こったのか理解するのに数秒を費やす。
「えっ……誕生日?」
そんな間の抜けた言葉が口をすべる。
「もう! クレイったら自分の誕生日忘れたの?」
頬をふくらますその姿もかわいらしい。
「あっ、そうか。今日は俺の誕生日か……覚えててくれたんだ」
覚えていてくれたことがとても嬉しい。
誰よりも、パステルが覚えていてくれたという事実が幸せだった。
それなのに何故かパステルは悲しそうな顔をした。
「どうした?」
悲しみは伝染するのか?
クレイもそんなパステルの表情を見つめるのが悲しい。
俯いたままパステルは答えた。
「あのね。プレゼントいろいろ考えたんだけど……何が良いのか思いつかなかったの」
そう言ってそっと小さなケーキを差し出した。
シンプルだけど愛のこもったイチゴのケーキ。
「結局、私にはこれくらいしかできなかった」
申し訳なさそうに言う。
気のせいか頭部の羽が力無く垂れ下がる。
そんなパステルにクレイがクスリと笑った。
何故笑うのか分からない。
小首を傾げ見上げるパステル。
それに答えるはクレイの笑顔。
「プレゼントなんていらないよ。パステルと一緒に祝えることが俺にとってプレゼントなんだ」
一口イチゴをつまんで口に入れる。
「おいしい」
とびっきりの笑顔と嬉しい一言。
「ありがとう。パステル」
喜んでもらえたことが嬉しい。
嬉しさもまた感染する。
パステルの顔にも笑顔が生まれた。
「プレゼントのお礼がしたいからこっち来て!!」
ケーキをテーブルの上に置くと、クレイはパステルの手を取った。
恥ずかしさと嬉しさが手のひらを伝わる。
ドキドキが聞こえる。
秋の夜は肌寒さを感じる。
「空を見ていて」
離れた手が少し淋しい。
パステルは言われたとおり空を見上げた。
「ンチリカナセチスニノナスイセチトナ トチニノラナシイトナ」
心地よい魔法の歌が耳に聞こえた。
クレイが最後の言の葉を終えたとき――星のシャワーが降り注いだ。
「すごい……すごいよ、クレイ!!」
感動に心が踊る。
クレイのロープの袖を掴み感動を現した。
嬉しそうなパステル。
嬉しそうなクレイ。
幸せは始まったばかり。