私の過去のHEROは

それは

何も知らぬ父の

祖父・・・つまり私のひいおじいさんの時代のことだった

ということは、まだ私は知らない



『 第二話 恋ニ落チタ君ト僕 』



「・・・ってワケだ、クレイ」

トラップが簡潔に説明するも、黒髪の長髪の男性(クレイっていうみたいね)は唸る
だけ。
私ってそんなに信頼ないかな?

「そっか・・・、ちゃんでいいかな?」
でいいよ。私のが年下でしょ?」
「じゃぁ・・・君は、どうしてほしい?」

意味がわからなかった。
どうしてほしいか・・・そりゃ、今すぐこんな世界から出して元の世界に返して欲し
い。
そしたらまた何もない生活に戻れるのだ。
しかし、そんなことを彼らに望んだところで叶えられるものでもないことは百も承知
・・・。
後は、私は私の道を行くのがいい。この人たちを巻き込みたくはない。

「このまま開放してほしい・・・」

言った後で、何故か胸が苦しくなった。
わかんない・・・ホントに、このまま私が1人で旅をしても・・・いいの?

「・・・、正直に。別に俺たちは万年ヘボパーティで、君を助けられないかもしれ
ないけど。
それでも、君はきっと重要な人物なんだろ?なら、俺とトラップは少なくとも君を支
えたいと思うよ」

優しいクレイは私の頭を撫でてくれる。
ああ・・・昔お母さんに頭を撫でられたときも気持ちが良かった。
クレイは・・・私のお母さんみたいだ。

「ありがとう、クレイ。でも、みんな嫌がるかもしれないよ?」
「そんなことないさ」

な?と皆に聞くと首を縦にして頷く。その姿に、熱いものが頬を伝う。
まだ逢って間もない、そんな私をこの人たちは信用してくれてる。
信頼してくれてる。
私を認めてくれたのは母だけだった。父は、私のことを何も知らない。
だから母が死んでから、私はいつも独りだった。
友達なんてうわべでの付き合いだけで、ホントに私を見てくれる人なんていなかっ
た。
でもきっとこの人たちは好きなんだろうな。
人間を、この世界を。
私なんかに一体何ができるかわかんないけど。
・・・少なくとも、信頼だけは私は・・・・・・裏切りたくない・・!

「私、この世界を救うわ。
何ができるかわからない、この世界についても何も知らない。
貴方たちの助けが・・・今の私に必要なの。
これから、一緒に私と戦って・・・ください。」

長い長い沈黙が、私たちを包んだ。
嫌な沈黙ではなかった、何も言わずただ首を縦に振ってくれるハジメテの"仲間"。
強さとかは関係ない、家族。

「ありがとう・・・みんな・・・・」


私が目を覚ましたのは、それから数時間が経った明け方だった。
元々私は基本的に早寝早起きの習慣が身についているため、特につらくはなかった。
意味もないため息をひとつついて、洗面所に向かう。鏡には自分がうつってる。

「そういえば」

髪の色が戻っている。
あの"ごぶりん"というモンスターと戦ったときは暗がりでよく見えなかったが、確かに髪はくろみがかった紺だったのだ。
長さは、髪の色が変わったときに伸びた長さのままとどまっている。
一体どういう・・・。
目の色についても、交互で違う。
ひとつは黒で普通なんだけれど、右目が青いのだ。トラップに言われるまで気付かなかったけれど。

「あ、、おはよう。昨日はよく眠れた?」

後ろからパステルが声をかけてきた。
突然のことではあったけれど、気配が近付いていたことはわかっていたのでそこまで驚きはしなかった。
軽く振り返ってにこりと笑う。

「パステル、おはよう。あ、そういえば、昨日渡し損ねていたものがあるの。
えぇっと・・・ジョシュアから預かった手紙。旅の途中で貴方に会ったらって。」

ポケットにいれていた手紙を渡した。そのまま寝たから、少し皺ができていた。

「ありがとう!ジョシュアからなんて・・・なにかしら。」

そういって彼女は部屋に戻った。
私も顔を素早く洗って慌てて髪を梳かす。ジョシュアが笑顔だったから、多分悪い意味の手紙ではないだろう。
そのような心配はしていなかったけれど、それなりに気になっていたからだ。
仕度を終えるとパステルの元に駆け寄った。
「どう?」と、軽く聞いてみた。

「あのね、私の誕生日が近いから、お金と手紙を送ってくれたみたい。」

少し照れて言う彼女を純粋にかわいいな、と思った。

「あ、今日はこれからエベリンに行くから。
昨日話し合ったんだけど、がまず冒険者になるべきだと思うの。
だから、その試験を受けに・・・伝説が本当だっていうのも、確かめたいじゃない?いや、確かめるべきよ!」

何かパステルの背後には燃え盛る炎の幻覚がみえるような気がしたが、やる気マンマンの彼女に水を差すのもなんだと思って出かかった言葉を飲み込んだ。
窓の方に目を向けると、ルーミィが起きたばかりのような顔をしてこちらにきた。
おはようと声をかけると、まゆげをぽよぽよとさせてじーっと私を見ているだけだった。

「えーっとぉ・・・ルーミィ、貴方魔法を使えるの?」
「るーみぃ、すごいまほーつかえるんだお!」

彼女はいきなり目をパッチリとあけて杖を持った。細くて少し彼女にしたら長めの木の棒にしか私には見えなかったけれど。

「ドゥルミィルファイルゥン・・・」

一瞬目を丸くした。確かに、彼女が呪文らしきものを唱えると、ボッと火が杖先についたのだ。
モンスターという生物にも多少驚きはしたけれど、彼らとて動物である。
ただ、私の世界には動物はいても魔法は存在していなかった。
彼女の杖から火が消えると、半分取り上げるようにして彼女から杖をとった。

「私も・・・試してみていい?」
「え?貴方の世界にも魔法があったの?こっちでは魔力のある人しか使えないんだよ??」

パステルがふいにこちらに目を向けていった。
まだ支度がすまされてないようで、髪を梳かしていた。

「いいえ、なかった。でも、試してみたくて。使えたら便利でしょ?」
「それもそうか・・・。でも、魔法屋サンが言ってたけれど、魔法にも向き不向きがあるみたい。
ルーミィは『フライ』の呪文が得意よ」
「るーみぃ、ふりゃーはすごいんだお!」

ルーミィは得意げに目を輝かせていた。
私は深呼吸して杖に神経を集中させた。・・・と、そのときだった。
あの、フードを深く被った男の声がしたのだ。私をこの世界に引きづりこんだ真犯人。

―――― そのような物に頼らなくとも、お前は魔力を十分に操れる。

―――― 胸の奥で聴こえてくる言葉に全神経を傾けろ。

―――― お前に必要なものは、制御する力だ。力ではないのだ。もう、力は備わってる。

「胸の奥の・・・声・・・」
「どうしたの?」
「呪文わすれたのかあ?」

パステルとルーミィは私を軽く覗き込んでいた。
私はありがとうと言ってルーミィに杖を返すと、何も言わずに外へと駆け出した。
あの部屋で神経を傾けたら、すごいことになりそうだったからだ。
外はひんやりと心地の良い風が吹いていて、神経を集中させるのには十分すぎる環境だった。
おもむろに片手を頭の上に上げて、胸の声を待った。

―――― 汝の求める力、此処に在り

後ろからパステルたちが心配そうに見ているのが分かった。でも胸の声はやまなかった。
身体の奥からものすごい温度の熱が解き放たれるのを今か今かと待っているような、不思議な気分だった。

―――― 汝、力を求めるならば強く想い願い給え

私は力が確かめたい、どうか私に、燃え盛る炎を。

私がそう願ったその刹那、私を囲むようにして蒼い炎がまるで守るようにしてあがった。
暫くその炎に見惚れていたとき、パステルの叫ぶ声がして我にかえった。

!返事をして、ー!!」

私が我にかえると炎は瞬く間に消えていった。
一瞬何が起こったかわからないでいたが、なるほど、制御とはこのことかと納得した。
つまり、コントロールだ。

「おい、。大丈夫かよ・・・?」

気がつけば目の前にトラップが立っていた。
わかってはいるんだけど、立とうと思っても立てなくて、ただじーっと彼を見上げていた。

「わ、私・・・まほ・・・で、け、怪我!?しなかった!!?」
「落ち着け、落ち着け!ダレも怪我なんかしちゃいねーから!」

私は一息ついた。あぁ、無我夢中で・・・本当にびっくりした。
まさか使えるなんて期待は・・・ちょっとしたけれど。あんなに抜群になんか使えるとは思ってもいなかったし。
私が深呼吸して呼吸のリズムを整えてると、彼は私を持ち上げた。

・・・え?これって、お姫さま抱っこってヤツですか??

「と、とらっぷさん!?あ、あたくし全然平気でございますことよ!!」
「どこの言葉だそりゃあ。いいから黙ってろ。今中つれてっから」

ぶっきらぼうに彼は私を抱きながら宿の中に連れ込んだ。
立てなかったからありがたかったけれど、私の人生でお姫様抱っこの経験なんてなかった。
・・・この17年間ね。

!平気?あなたすごいわ!あんなに大きな魔法、中々使えたものじゃないよ!」
「あ、ありがとう、パステル・・・。でも一番驚いてるのは私自身なんだから。」

少し苦笑しながら私は彼女を制した。なんか、ツッコまれそうだったから。
トラップはパステルをチラっと見て、ふぅとため息をついていた。
と、クレイとキットンがきた。ノルは外らしいけれど。
シロちゃんとルーミィはふたりで仲良く遊んでいた。

「これで実技試験はパスできんじゃねーの。」
「問題は筆記試験か・・・」

トラップとクレイは顔をあわせて何か嬉しそうに話していたが、いきなりキットンがゲラゲラと笑い始めた。
まるで、発作かと思わせるような(実際そうなのかも・・・)笑い方に、全員が凍りついた。

「しかしですね、私のように運が悪いかもしれませんよぉ!!」
「運・・・?」

私の疑問に、パステルはバツの悪そうな顔をして説明した。

「運がね、その・・・ほんとに低確率なんだけど、悪いと・・・ダメ男っていう札をひいたりしちゃうんだよね」
「私は12回『ダメ男』を引き当てた男なんですよ!」

そして、またギャハギャハと笑い始める。
パステルがこっそりと「でも、6割は望む職業が書いてあるの。だから、ダメ女なんてひかないと思うけど」と付け足した。
ともあれ、ダメ男なんて怖い話を聞きながらパステルのおさがりである問題集を片手に、私たちはエベリンに行く事となった。



続く