終わるから、始まるから


気がつけば。
雲があんなに高くなって、焼けるような日差しが柔らかくなって。
そろそろ、夏も終わり。

「はぁぁ」
買い物帰りに、空を見上げて。ついつい、溜息なんて飛び出した。
「どうしたんだよ、パステル」
今日も荷物持ちを引き受けてくれた、隣に並んでいるクレイの声。
彼に視線を向ければ、戸惑った笑顔。
「え?」
「そんなに大きな溜息ついて、さ。原稿、進まないのか」
優しい声で、気遣ってくれる。
この人には、真夏の青空も似合うけれど。秋の優しい紅葉も似合うんだろうな。
そんなことを、ふと思いながら。
「ううん、そんなんじゃないよ、大丈夫。ただ、ね」
「───ただ、何?」
「もう、夏も終わっちゃうんだな……って」

また、空を見上げる。
勇ましい入道雲なんて、もうどこにもいなくって。
高い高い空の上、筋雲だったかな? 青い空に真っ白な線を描いてる。
すっきり晴れた空だけど、春や夏のそれとは違って。
体に感じる風も、花や草の息吹じゃなくて、優しく流れる落葉の香り。

「な、パステル」
ふと、クレイが私に声をかけた。
「なあに? クレイ」
彼にもう一度向き直ると、そこにあるのは暖かい笑顔。
「夏が終わる、って考えるから、そんな寂しくなるんじゃないか?」
笑顔のまま、謎かけのように。彼は一言、ぽつりと言った。
「どういうこと?」
私の問いに、彼はその笑みを深くして。
「夏が終わるんじゃなくて、『秋が来る』んだよ」
「……あ」
今まで思い当たらなかった、彼の指摘に思わず声を上げると。
「夏は確かにたくさん遊べて楽しかったけどさ、秋だって楽しいことたくさんあるはずだよ。それに、さ」
クレイは一旦言葉を切ると。
私の耳元に唇を近づけて、そっと囁いた。

(俺は、パステルが一緒なら、どんなときでも嬉しいから)

紅葉よりも、真っ赤になった私と。
負けず劣らず、赤い顔のクレイとは。
しばし、動くこともできないまま、ふたり並んで空を眺めた。

もうすぐ、秋が始まる。







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