バレンタインに勇気を出して告白したら、あいつは思いもよらないほど素直に想いを返してくれた。
周囲の目を完全に忘れたストレートすぎる告白に、一度は逃げ出してしまったけれど、想いを伝えてくれたことが嬉しくなかったわけじゃない。
すぐに仲直りをして、わたしとトラップは晴れて両想いになった。
そして、今日はホワイトデー。
すでに想いは返してもらってるのだし、何ヶ月も会えないのが当然の場所にいるのに、バレンタインから一ヶ月目のホワイトデーに、トラップはエベリンまで来てくれた。
照れ屋だから、どうしてもぶっきらぼうになってしまうけれど、それに時たま気がついて慌てて直そうとする。
そんなトラップを見られるだけでも、告白して良かったと思う。
会えない寂しさはより深まったし、信用はしていてもいつも隣にいられない不安もある。
片想いの時よりも辛いこともあるけど、こんな一日があるのなら、わたしはきっと頑張れると思う。
トラップはわたしを想ってくれているのだから。
「今日はありがとう。来てくれて。そろそろ行かないといけないわね」
乗合馬車の出発時刻まで、後三十分と少し。
日中は街を歩いたりしたけれど、今はわたしの家でくつろいでいた。
「長居はできなかったけどな」
「来てくれただけで十分よ。あんただって、そう思うでしょう?」
わたしがシルバーリーブに行ったら、口にはしなくてもトラップならきっとそう思うはず。
トラップは少し黙って、少し迷って、それから意を決したようにわたしと目を合わせた。
「シルバーリーブに来ないか?」
「トラップ」
名前を呼んだ響きの中に、とがめる様なニュアンスを含ませてしまったかもしれない。
「お前なら、シルバーリーブでだって仕事を見つけられるだろ。詐欺師の仕事はないだろうけど、服屋ならシルバーリーブでだってできる。物価は向こうの方が安いんだから、今より金がかかることはねぇよ」
必死なのは、口を挟ませようとしないスピードと、その表情からもよくわかった。
トラップは本気でそう望んでくれてる。
それは、とても嬉しいのだけど。
「それはできないわ」
「なんでだよ」
「わたしはそんなに、強くないから」
冒険に出かけていくあんたを、手を振って見送るなんてことはできそうにない。
小さい頃から見送っていた、頼もしい父さんたちとは違うから。
手先の器用さだとか、逃げ足の速さなら信用はできても、モンスターを相手に無事でいられる保証なんてないのだから。
近くにいれば、出発の時に引き止めてしまうかもしれない。
はっきりと口にしなくても、あんたが感づいてしまうかもしれない。
パステルたちに気を使わせてしまうかもしれない。
想いが叶ってまだ一ヶ月。
一年経てば平気になるかもしれなくても、今はまだ笑って見送ることはできない。
「なら、おれたちと冒険してもいいじゃねぇか。度胸も剣の腕前だってあるんだから、冒険者資格さえ取れば、お前だって」
「あんたはわたしを、ただの仲間だと思えないでしょう?」
仲間は全員、平等に大事であるのが理想だと思う。
多少の優劣は仕方がないにしても、一番大事な人がパーティにいたら、とっさの判断を誤ってしまう可能性がある。
クレイやノルが守ってくれたときに、焼もちなんて妬かれたらパーティとしてやっていけない。
苦々しく表情を崩したトラップは、だけど反論をすることはなかった。
「あんたがドーマに戻る頃には、ちゃんと見送れるようになってると思うけどね」
そう言った後で、それがどれだけ無防備な発言かに気がついた。
案の定、トラップの表情は一転して嬉しそうなものになる。
自分の言葉を否定しようとしたけれど、思いとどまった。
せっかくトラップが嬉しそうなのだから、わざわざ不機嫌にすることもない。
心にもないことを言ったわけでもないのだから。
「出ましょう」
「そうだな」
さり気なく掴まれた手は、あんたからの感謝のしるし。
お互いにまだ恥ずかしさが上回るから、顔も見れはしないけど、心はちゃんと繋がってるって思える。
離れ離れが寂しくても、あんたもわたしも立つ位置が違うのだから、受け入れるしかない。
それでも、いつか道が交わることをお互いに望み続けていれば、同じ道を歩けるようにもなるのだから。
その日を信じて、少しずつでも二人だけの思い出の時間を作っていこうと思う。
END
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