穏やかな優しさ

ごろんっ。
朝露で湿った土の上。
そこに薄いタオルケットを引いただけのところで寝てたんだけど、まだ日も上りきってない早朝に目が覚めてしまった。
ごろ・・・っ。
ふたたび寝返りを打つ。
眠れない。
っていうのはおかしいか。さっきまで寝てたんだし。
でも、こんなに早い時間ならいつもならすぐ寝れるはずなんだけどな。
そもそも、わたしが起きる予定の時間より早くに目が覚める事が珍しい。
冒険に出発する日、とかならまだわかるけど。
今は冒険の帰り。
一日中歩いてしっかり疲れたはずなのに、なぜか起きてしまった。
目だけを開くと、木の間からわずかに見える空は、少しだけ明るい。
起きようかな。このままでいようかな。
目が覚めてから考えていた事を繰り返す。
いつもなら、寝れなければすぐ起きてるんだけどね。
朝食の準備とか、やるべき事はいっぱいあるんだし。
それでもわたしは毛布の中で迷っていた。
迷ってる理由は1つ。
今、起きて見張り役をしてるのが誰なのかわからなかったからだ。
夜ならともかく、朝まで起きてるのはクレイかノルしかいない。
起きてるのはどっちなんだろう?
目が覚めてから、何度か寝返りを打ったのは、起きてる相手がわたしに気づいて声でもかけてくれるかと思ったから。
それがノルなら起きればいい。
でも、クレイだったら・・・。
わたしがいつまでも判断がつかずにいると、やっと声がかかった。
「パステル」
声の主は、ノルだ。
わたしはごそごそと、眠っているルーミィを起こさないように起き上がった。
寝起きで髪はぼさぼさだし、顔もひどいものだろうけど、そんな事は気にしてない。
「おはよう、ノル」
みんなを起こさないように、ノルの傍にいってから声をかけた。
「おはよう」
「ずっと起きてたの?」
ノルの隣に座って、燃えかすだけになった、焚き火の跡を見つめた。
「いや、途中から。はじめはトラップだったし、次はクレイで、最後におれだから」
「そうだったんだ。クレイと交代しなかったの?」
いつもなら、朝まで何時間かおきに交代しながら見張りをしてるのに。
「クレイ、疲れてるみたいだったから」
顔を上げて、ノルを見た。
でも、ノルはいつもと同じように穏やかな顔をしてるだけだった。
「そうなんだ。今回の冒険、そんなに大変じゃなかったのにね」
「そうだな」
ノルはそれ以上は何も言わなかった。
クレイはどうして疲れてたんだろう。
昨日まではそんな様子なかったのに。
眠ってるクレイの方に目をやっても、わたしに背を向けたクレイの背中は、いつもと変わらないように思えた。
「ノル。クレイが疲れてるって、クレイ本人が言ってたの?」
「いや。クレイは何も言ってない。でも、見ればわかる」
「そうだね」
嘘だった。
わたしにはわからない。
クレイはいつも、わたしたちの・・・わたしの事わかってくれるのに、わたしはわからないんだ。
自己嫌悪、というより、落ち込んでしまう。
わたしが話さないと、ノルもしゃべらない。
黙ったままだと、考えるばっかりになっちゃいそうだ。
「じゃあ、食事の支度でもはじめようかな」
ノルに言ったっていうより、独り言のようにつぶやいた。
「パステル」
また、ノルから声がかかる。
「なに?」
「無理する事はない」
「なにを?」
ノルの言葉が意外だったから、わたしは本気で聞き返した。
ノルはちょっとだけ笑った。
いつもにこにこしてるんだけどね。
そういういんじゃなくて、おかしくて笑ったっていうか、そんな感じ。
「どうしたの? ノル」
「パステルは、クレイが好きなんだろう?」
「え!?」
思わず叫んだのと同時に両手で口を押さえた。
恐る恐るみんなを見渡して見たけど、誰も起きてない・・・かな。
まぁ、2人ほど絶対大丈夫なのがいるけど。
ノルはそんなわたしを微笑んで見ていた。
だから、わたしも笑って答えた。
「うん」
うん。そうなんだ。
わたしはクレイが好きなんだ。 今まで誰にも聞かれなかったから、認めれなかったけど、聞かれたら認めないわけにはいかない。
そう、やっと認める事ができる。
「ありがとう、ノル」
わたしがそう言っても、ノルはにこにこしてるだけだ。
驚くわけでもなく、非難するわけでもなく(ノルが非難なんてするはずないけどさ)、笑っててくれるのが嬉しかった。
なんだかすごく、気が楽になった。
リタとかには一応言ってあるんだけど、パーティのみんなには話せない事だと思ってたから、誰にも言ってなかった。
もちろんクレイに気づかれたら困るし。
クレイは信じられないくらいに鈍感だから、その辺は大丈夫だろうけどさ。
でも、やっぱりちょっと辛かったのかな。
クレイが傍にいて、たまにドキドキしたり、いきなり不安になったり。
そういう事があっても、すぐに言える相手がいないんだもんね。
さっきもそうだった。
そう思った時には、もう話しはじめていた。
「今日、すぐに起きなかったのはね、起きてるのがクレイだったら困るな、と思ってたからなんだ。クレイと2 人っきりになったらどうしていいかわかんないし。意識しちゃうと駄目なんだなぁって思った」
ほんとは、もっと後で気づけば良かったのかもしれない。
そんな事言ってもしょうがないんだけど。
「クレイってさ、結構心配性なとこあるじゃない? 根は能天気なわりに。いつも・・・今回の冒険でもだけど、 わたしの事とか心配してくれて。それって嬉しいとも思うんだけど、ちょっとさ、勘違いしそうになっちゃう んだよね。わたしの事、気にしてくれてるのかなとかって。でも、そうじゃないんだよね」
そう。クレイは誰にでも優しいし、きっと誰の事でも心配する。
それなのに、差し伸べてくれる手とか、見守ってくれてる事とか、わたしだけなんじゃないかって思いそうになる。
「クレイにとってはわたしはただの仲間だろうから、だからせめて心配されないようにしっかりしたいなぁって思うんだ」
「だから、頑張ってるんだな」
「うん。マッパーとしても冒険者としてももっともっとしっかりして、クレイがばっちり安心できるくらいになりたいし。 これからもずっと一緒に冒険したいから」
「パステルなら、大丈夫だ」
どうしてなんだろう。
ノルがそう言ってくれると素直に信じられる。
「そうだね」
そうだといいな。
希望を込めて言葉にした。
「クレイとならね、どっちかが立ち止まったら相手を励ましたり、道を間違えたら『そっちじゃないよ』とかさ、お互いにい い影響を与えれると思うんだ。歩幅は同じじゃなくても、並んで歩けるっていうのかなぁ。どっちかに合わせるんじゃなくて、 お互いに合わせあえるのかな。そんな風になれると思うんだけどね。クレイにとっては違うのかな」
半分くらいは質問のつもりで言ってみたんだけど、ノルはやっぱり答えない。
でも、ノルに答えてもらう事じゃないもんね。
いつか、クレイに答えてもらう事。
「これからも、たまに話聞いてもらってもいい?」
ノルは、黙ってうなずいてくれた。
「じゃあ、そろそろみんなを起こそうか」
もう、辺りは十分なくらいに明るい。
鳥のさえずりとか虫の声とかでにぎやかなくらいになってるし。
立ち上がって背伸びした。
う〜ん、気分いい!
ノルのおかげでスッキリした。
もう1回、お礼を言おうかなと思ったら、ノルは
「クレイ、起こすか?」
と、わたしに聞いた。 「い、いいよ! 後で! 一番最後でいい!!」
わたしの慌てようがおかしかったのか、ノルはまた声を出して笑ってる。
うぅ。ノルにからかわれたみたいだ。
でも。
本当にありがとね、ノル。

END

後書き
こ、これでもクレパスですよね・・?高里 麻耶さんのHPに載せてもらってる「静かなぬくもり」 の続きです。
同じ夜の話ですね(こっちは朝か)。合わせて読んでいただけるととっても嬉しいです!!!
ノルが中心のこの2作。実は結構気に入ってたりします。
これでもわたしにとってはほのぼのなのです(笑)。甘さが全くないのが好きなのかなぁ。


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