野に咲く花でいるように
「なぁ、パステル?」
一緒に歩いてた、散歩の途中。
不意にクレイが私に尋ねた。
「なぁに?」
「あのさ、やっぱり女の子って、綺麗な薔薇が好きだろう?」
…どうしたんだろ。クレイから、こんな言葉が出るなんて。
「うーん、人によるんじゃないの? 私は別に、薔薇じゃなくてもいいけどなぁ」
正直に、答えると。
「そうか? 本当に、そんなもんか?」
かなり強い調子で、クレイに詰め寄られた。
「どうして急に、薔薇の話になったわけ?」
誰かにあげるのかな? と、胸が少しだけずきんとしつつ。
私はクレイにそっと尋ねる。
すると、彼は。照れくさそうな表情で。
「いや、薔薇の花ってわけじゃないんだ、実は」
「…?」
私の頭に巨大な疑問符。彼は察して、教えてくれた。
「ほら、俺ってアンダーソン家でも地味な存在だろ?兄貴たちとかは皆、世間から
尊敬される花だから、まさに薔薇とかカトレアだよな。でも俺は、そこらの野原に
咲くマーガレットみたいなもんで…。こんなんで、いいのかって」
…ふぅん。
「なあ、パステルはどうなんだ?」
クレイの瞳の色は、真剣そのものだったから。私も冗談なんていえずに。
「私は…」思わず口ごもった。
「急に変なこと聞いちゃってごめん。さ、帰るか」
クレイは笑顔で歩こうとした。
───駄目。
「…どうしたんだ? パステル」
彼の腕を必死でつかんでいる私は、きっと奇妙に映っただろう。
「あの、ね、クレイ…」
私はちょっとだけ、深呼吸。
───言わなくちゃ。
「薔薇は確かに綺麗だけど、でも長く見たら疲れちゃう。緊張しちゃうの」
ゆっくり、私は言葉を続ける。
「目立つお花には人を引き立てる力があるけど、でも疲れさせてしまうのよ。強い
から、人の力を吸い取ってしまう。野の花は、そっと優しくて、人の力を戻してくれ
るの」
それから、私は。
そっとクレイにしがみつく。
「パ、パステル?」彼のうろたえた声が妙におかしい。
「私はどんなにそっと咲いてても、必ずクレイを見つけたい」
………だって、私の花だから。
「え?」クレイが聞き返す。
私のそっと囁いた、最後の言葉が気になるらしくて。
でもね。
「うふふ、内緒」と舌を出し、私はクレイを置いて走り出した。
だって、まだまだ教えたくないよ。私の気持ちも、私の心も。
「おい待てよ、パステル!」
クレイの声が、聞こえたけれど。
私はお日様に向かって。一所懸命走っていた。