なくし物は・・・?

ない! ない! どこにもない!
部屋の隅から隅まで探したのにない。
ど、どうしよう・・・。
今日の朝はあったよね。うん、確かあったような気がする。
ここで断言できないのが辛いとこだけど。
んで、今日はみんなでピクニックに行ってさっき帰ってきたばっかりなんだ。
だから道端に落としたのかもしれない。
原っぱで遊んだ時かも。
とにかく、部屋は探しつくしたんだから外に落ちてるはず。
急いで探しに行かなくちゃ!
わたしはすぐに立ち上がって階段を駆け降りて玄関の戸を勢い良く開けた。
「ぱーるぅ?」
騒々しかったせいか、庭で遊んでたルーミィに声をかけられた。
「どうしたんデシ?」
シロちゃんもびっくりした顔でこっちを見てる。
「後でね!」
立ち止まりもせずに叫び声だけをその場に残した。
走りつつも道端にも目を向けていた。
もしかしたらこの辺に落ちてるかも。
淡い期待に足を止める事もあったけど全て違っていた。
ほんとにどこで落としちゃったんだろう。
町から出る前に、
「どうしたの、パステル」
っていう声も聞こえたけどろくに彼女の方も見ずに
「何でもない!」
とだけ返事した。
いくらなんでも一緒に探してほしいなんて言えないしね。
これから夕食時で忙しくなるだろうし。
あんな物落としたなんてバレたら呆れられるだろうしね。
いや、呆れられるくらいならまだいい。
それよりもあれを落とした事を彼に知られたら・・・。
さ、探そう!
絶対に見つけなきゃ!
朝はよく晴れてたのに、今は薄雲で覆われてる空。
どんどん暗くなってくる。
明かり持ってくれば良かったな。
頭の片隅でちらっとそんな事も考えた。
でも、戻ってる暇なんてない。
そうこう考えてるうちに、ようやく目的の場所についた。
いきなり立ち止まったから息があがる。
それをなんとか飲み込んだ。
えっと、確かこの辺でお弁当を食べて。
結構ルーミィたちと遊び回ったんだよね。
しらみつぶしに探すしかないかな。
野原の広さに茫然としながらも、わたしはしゃがみ込んだ。
ここに着いた時はまだあった。
それは思い出した。
確かに、「危ないかな?」とは思った。
でも、他の事に気を取られてすぐに忘れちゃったんだな。
あー! こんな事になるんなら持っていかなければ良かった。
探すっていうのを最優先したいのに、違う事ばっかり考えちゃう。
探そう。
今はとにかく探すしかない。
幸いこの季節、日が沈むのはそんなに早くない。
がさがさと草の根をかきわける。
あぁ、ほんとにどこいっちゃったんだろう!?
ここに落ちてるはずなんだよね。
髪が首に張り付いて、べっとりと汗ばんでくる。
もし、ここになかったらどうしよう?
ほんとは町中に落ちてて誰かが拾っちゃったとか。
届けられてるかも。
でも、ここに落ちてるっていう方があるような気がする。
地面に鼻をこすりつけるように丹念に探しながら、頭を駆け巡るのは悪い想像 ばかり。
心臓がドキドキと高鳴っていく。
こめかみから汗がしたたりおちる。
なま温かい風がわたしの横を通り過ぎるたびに身体が震える。
もし、なかったら。
もし、見つからなかったら。
どうしよう・・・!!

爆発しそうな心臓をかかえて、小1時間も探し回っただろうか。
空からポツポツと雨が降り出してきた。
やだ、あれが流されちゃう・・・。
でも、ここにはないのかもしれない。
これだけ探したのに見つからないんだし。
悪い想像はだんだんと現実味を帯びてきた。
何て謝ればいいんだろう。
きっと許してくれる。
それはわかってるけど、だからって素直に言えるような事じゃない。
あぁ、もう!
自分を責め続けたってどうなるものでもない。
それでもどうしても自己嫌悪にかられる。
もう絶対に、絶対になくしたりしないから出てきてほしい。
お願いだから・・・!
強くなる雨あしから避難する事もできずに、地面に手をついて草を握り締めていた。
「パステル!!」
その時に聞こえた、声。
今、一番会いたくない人の声。
今、一番会いたい人の声。
「やだ・・・」
雨を蹴って走ってくる足音は確実にこっちに向っていた。
「パステルか!? なにやってるんだよ、こんなところで。ルーミィたちが心配 してるじゃないか」
怒ってるっていうよりは、心配そうな声でクレイは言った。
ふわりっとわたしの頭に大きなマントがかけられた。
「どうしたんだ? 何かあったのか? とにかく帰ろう」
わたしの手をとってクレイは優しく言った。
「・・・だ。やだよ。帰れないよ」
雨で濡れた顔をクレイに向ける事もできなかった。
「何してたんだ?」
優しい口調は変わらない。
優しくしないで。怒ってくれればいいのに。
勝手な事を思いながら口を動かした。
「見つからない・・・」
「何かなくしたのか?」
「大事な物。とってもとっても大事なもの。わたしが悪かったんだよ、こんなところ に持ってくるものじゃないのに。それなのに・・・」
クレイは来てくれた安心感と、責め立てられるような罪悪感。
破裂しそうだった心臓は、今はズキズキと痛むだけ。
「わかった、わかったから。おれが探すよ。だからパステルは戻ってろ。いいな?」
断固としたクレイの口調。
「でも・・・」
「大事な物なんだろ? 大丈夫、おれに任せろって」
力強い言葉に思わず顔を上げると、そこにはクレイの笑顔があった。
わたしが大好きな極上の微笑み。
ずるいよ、その顔されたら断れないんだから。
「わかった・・・」
「道、わかるよな? 迷うなよ?」
「わ、わかってるよ! いくらわたしでも迷わないよ!」
思わずむくれてしまった。
「そっちの方がパステルらしいな」
失礼な事を言ってクレイは笑った。
もう、ひどいんだから!!
でも、ありがとう。ちょっとだけ心の痛みを忘れられた。
クレイの大きなマントを頭からかぶったまま、マントを胸でかき抱いた。
「クレイ、早く帰ってきてね」
「あぁ、見つかったらな」
クレイはもう地面にはいつくばってる。
「見つからなくても帰ってきてよ」
「大事なものなんだろ?」
わたしの方を見ないで言葉だけを返してくれる。
「そう・・・だけど。クレイの方が大事だし・・・」
赤くなってる事を自覚しつつ言ったんだけど、クレイは
「早く帰れ」
としか言わなかった。
「ごめんね」
この時になってようやく一番言わなきゃいけない事を言えた。
何度か振り返りながら、わたしは町に戻った。

待ってる時間、どれだけ長かっただろう。
ルーミィとシロちゃんに、いまだに震える手で夕食を用意して。
お風呂をわかして、わたしも入った。
傘を持って迎えに行こうとした時に、やっと玄関の戸が開いた。
「クレイ!!」
玄関に飛び出していくと、ずぶ濡れのクレイがいた。
すぐにバスタオルをかぶせた。
「お風呂わいてるから早く入って。大丈夫? 身体、熱っぽくない?」
「あぁ、大丈夫だよ。風呂、入っていい?」
バスタオルで服の水気を取ったクレイはそう聞いた。
「うん、もちろん」
着替えとかは当然用意してある。
「早く入って。風邪引いちゃうといけないし」
「わかってるって。あ、これだろ?」
クレイはひょいっとわたしに投げて寄越した。
手の中を見ると・・・まぎれもなくわたしが探してたものだった。
「ありがとう!!」
軽く手を振りながら、クレイはお風呂場に入っていった。
良かった・・・ほんっとに良かった!!
後、何日かの辛抱だったんだから、我慢してれば良かったんだけどね。
あぁ、それにしても良かった。
戻ってきた時とはうって変って元気になったわたしは、早速クレイの夕飯の 準備に取り掛かった。
鼻歌なんか歌っちゃったりして、ルーミィたちには
「どうしたんデシ?」
「ぱーるぅ、さっきっからおかしいおう!」
とか言われていた。
だってだって、本当に嬉しいんだもん!

お風呂から出てきたクレイと向かい合ってお食事っていう事になった。
当たり前だけど、あんな状態だったからわたしはまだ食べてなかったんだよね。
「それにしてもなぁ、パステル」
呆れた声でクレイが言う。
「落とすか? よりにもよって結婚指輪を」
お願い! それは言わないで!!
「ごめんなさい! 反省してる! でも、でもね、こう言っちゃなんだけど、元はと 言えばサイズ間違えるクレイもどうかしてるよ〜」
クレイはぐっと詰まった。
そうだよね、式の当日さんざんトラップにからかわれたもん。
実は、だ。
わたしとクレイは数日前に結婚したんだ。
なんだけど、クレイってば指輪のサイズ間違えててね。
わたしにはめてくれた指輪、ぶかぶかだったんだよ。
(注:婚約指輪は存在しなさそうなので、クレイがはじめてパステルに贈った指輪 が結婚指輪なのである)
せっかくの神聖な式がそれだけでなごやかに・・・と言えば聞こえが良いけど、笑いの場 になったんだよね。
あの時はわたしも恥ずかしかったなぁ。
わたしがクレイに贈った指輪はピッタリだったのに。
相手に似合うと思うものを、なんて別々に用意したのがそもそもの間違いだったんだと思う。
「そ、それはいいんだよ。今度直してもらうんだから。だいたい、ちゃんとはまらない 指輪をはめておくパステルだっておかしいじゃないか。もうじき直してもらうはずだったのに」
うん、それはそうなんだ。
指輪を買ったのはエベリンなんだけど、エベリンなんて早々行ける距離じゃないから、今度 のお休みまで待ってくれって言われたの。今日のピクニックはクレイはいなかったし。
「だって・・・外したくなかったし・・・」
わたしがうつむいてそう言うと、クレイも赤くなった。
「でも、ごめんね。ほんとすっごい反省した。もうサイズが直るまでははめない」
「そうしてくれると、助かるな。今日、心配したんだからな、本当に。仕事から帰ったら パステルがいないし、ルーミィたちはすごい勢いでどっか行ったっていう事しか知らないし」
クレイはね、この町で・・・っていうかわたしの故郷のガイナなんだけど。
ここで剣の先生やってるの。
騎士じゃないのかって?
向いてないからって結局辞めちゃったんだ。
もちろんすごく悩んだ末の結論だけどね。
この町も過去にチャクデスに襲われて、なんて事があったし、冒険者のっていうかモンスター に襲われても対処できる人材の育成に力をいれてる。
そこで、冒険者としての腕を買われたクレイはここでみんなに剣だけじゃなく、いろんな事 を教えていくと思う。
わたしはもちろん小説家を続けるつもり。
「さんざん町中探し回ったんだぞ。そしたらダイナが今日、ピクニックに行った野原の方 に走っていったって教えてくれて・・・」
おっと、クレイの話の途中だった。
「うん。ありがとね」
「ダイナにもお礼言っとけよ」
サラダをつつきながらクレイが言う。
「わかってるよ。心配かけてごめんなさい。もう心配かけたりしないから」
「ほんとかなぁ」
「あ、ひどい。疑ってるでしょ? だいたい、方向音は返上してるのに、迷うなよって。
それにガイナで迷うわけないのに」
わたしはまた膨れた。
「わかんないぞ。冒険に出なくなったらまた方向感覚が鈍ったり・・・」
「そんなわけないでしょー?」
そんな事を言い合いながら、食事は進んだ。
「ぱーるぅとくりぇーってまえよりなかおしだね〜」
「そうデシね。言い合いしてるのに、笑ってるデシ」
「なんでらおう〜??」
「わかんないデシ・・・」
ルーミィとシロちゃんのそんな会話が耳に入った。
「夫婦だからね!」
にこやかにわたしは答えた。
END

後書き
仕事中に構想を練って、携帯のメールに打ち続けて、PCの方でも書き続けて いっきに書き上げたしろものです。
こういう書き方をするものはたいがい自分でも気に入ります(または好評)。
と、いう事で今回の話も気に入ってます。
だましが入ってるんですが、騙されてもらえたでしょうか?
第2段落(クレイが来てパステルが帰るとこ)までは場所はシルバーリーブで ピクニックにはパーティのみんなで行ってて、パステルが町で会ったのはリタ。
だと思ってもらえればわたしとしては満足です。
で、第3段落で「お風呂」という単語にひっかかってもらって、クレイが「結婚指輪」 と言ったところで「あぁ!そういうこと!」と思ってもらえると大喜びです。
これはシリーズ化する予定です<アンダーソン夫妻>シリーズっていう形で。
でもまだ未定です〜。
気に入ってもらえると嬉しいです♪


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