未来の予感


 木々が緋や黄の衣をまとう秋、ここドーマでは収穫祭の準備に追われ人々が慌しく働いていた。もちろんアンダーソン家の人々も例外ではない。今年は運良く騎士団長であるクレイの父やアルテア、イムサイも休みが取れたようで準備に奔走している。例年と違うのはクレイやパステル、トラップ達パーティの一行が参加しているということだ。(残念ながらマリーナはアンドラス達と仕事に行っているため不参加である。)


 ある夏も終わり秋の気配が漂い始めた頃、シルバーリーブのみすず旅館に一通の手紙が届いた。宛先は『クレイ・S・アンダーソン 及び パーティ一同様』とあり、差出人はクレイの母となっていた。何かと思い一同が集まった上で封を切るとそこには
≪もうじき収穫の季節です。
 この前来た時はゆっくり話すことが出来ませんでしたから、
 収穫祭に参加も兼ねて皆さんでドーマにいらっしゃい。
 
 なんだったら冬の間ドーマで過ごすのもいいわよ。
                      母より

 追伸 乗り合い馬車の切符も同封しておきます♪ ≫
短い手紙ではあったが、折角のありがたいお誘いということで、一同はドーマに行くことにしたのである。そして、パステル達がドーマに到着したのはつい2日前のことであった。

 収穫祭の準備といっても、外で作業しているのは男性連中のみ。(当然というべきかなんと言うべきか、女性陣は室内で飾りの制作、男性陣は飾りつけと力仕事というようにしっかり役割分担がされているのである。) そこへ少女の声が聞こえてきた。
「お爺様〜、そろそろ休憩にしませんか〜?」
振り返ると、金に近い茶色の髪にハシバミ色の瞳をした少女が大きなバスケットを持ち、シルバーブロンドの幼い女の子と白い仔犬を連れ、歩いてくるのが見える。それはパステルとルーミィ、シロちゃんに他ならなかった。パステルはやっとアンダーソン氏のところまでニコニコと笑いながらやってくると作業の手を止めたアンダーソン氏に話し掛けた。
「そろそろ休憩して、皆と向こうの丘でお茶にしませんか?
クレイのお母さんはもう少ししたら来ると思いますけど・・・
サンドイッチとかも用意してありますよ♪」
そう話し掛けられたアンダーソン氏は、孫には見せたことのないような穏やかな笑顔でパステルに答えている。
「そうか、では一息入れるとしようか。
クレイ達も呼んで来なければな。」
そこへ、パステルとアンダーソン氏の会話を聞いていたのだろう。ブーツ一味のご隠居、ステア・ブーツが割り込んできた。
「アンダーソン、お前なぜパステル嬢ちゃんに『お爺様』と呼ばれておるんじゃ!?
ええい、白状せんか!!」
流石にトラップのじーちゃんというべきか、掴みかばかりの勢いでブーツのご隠居はアンダーソン氏に詰め寄ったが、アンダーソン氏は面白そうにニヤニヤするばかりで話そうとはせずブーツのご隠居はますますヒートアップしそうになるところをパステルに声をかけられた。
「こんにちは。トラップのお爺さん。
以前は大変お世話になりました。
今回、クレイの家に泊めていただいているんですけど、
クレイのお父さんがいらっしゃるので
お爺様のことを「アンダーソンさん」とお呼びすると、
クレイのお父さんのことかお爺様の事かこんがらがってしまいまして
どうしたものかと思っていたら
お爺様が『≪お爺様≫と呼べばいい。』と
仰って下さったのでそう呼ぶことにしたんです。」
パステルの良いところであろう。きちんと挨拶をしてから事の次第を説明すると、始め不満気にしていたブーツのご隠居が何か思いついたらしくにっこり笑いながら提案してきた。
「そうか、アンダーソンが『お爺様』ならば、ワシのことは『お爺ちゃん♪』と呼んでくれんかのぅ。」
この提案に驚いたのは『どうじゃ、羨ましかろう』という顔をしていたアンダーソン氏である。今まで、手紙の返事の件で先手を取られていたので、今度はこちらが自慢してやろうと思っていたのにこれでは意味が無くなってしまうのだから、慌てたのも無理はない。そうはさせじとブーツのご隠居にくってかかった。
「ステア・ブーツ! 貴様どの面下げて『お爺ちゃん♪』じゃ!
貴様なんぞ『偏屈ジジイ』で充分じゃ!!」
それを聞いて黙ってられないのはブーツのご隠居である。
「なにおう!?
『偏屈ジジイ』というならワシよりお前さんの方が相応しいわい!!」
「貴様ぁ! わしを愚弄する気か!?」
「ふん、事実じゃろうが!」
「ゆ、許せん!! たたっ切ってくれる!!」
「やれるモンならやってみぃ、ほれほれ♪」
「ええいちょこまかと!!
大人しく剣の錆になれぃ!!」
「やなこった、じゃ♪
年取って鈍ったんじゃないのか、アンダーソン」
「このぉ〜〜」

 延々と続くご隠居二人の喧嘩にパステルがおろおろしていると、騒ぎを聞きつけたクレイとトラップがやってきた。
「この騒ぎは一体どうしたんだ? パステル?」
「あっ! クレイ、トラップいいところに来てくれたわ!
皆で休憩にしようとお茶とサンドイッチを持って来たんだけど
お爺様とトラップのお爺さんの三人で話してるうちに喧嘩を始めちゃったのよ!」
「そうらお! いきなりけんかしはじめたんだお!
るーみぃ、おなかぺっこぺこなんだお!
はやくしゃーどいっち食べたいんだお!」
「わんデシ!」
パステルとルーミィ、シロちゃんの言葉に、クレイとトラップは、はぁーとため息をつく。
「またかよ・・・。 懲りねぇよなじーちゃんたちも。
しかたねぇ、さっさと止めるか。」
「・・・・・だな。」
流石にウンザリしつつもこのままでは周りの迷惑になること請け合いなので、すかさず二人は止めに入る。
「じーちゃんいいかげんにしとけよ。
また心臓の発作起こすぞ。」
「お爺さまもいい加減にしてください。
剣を振り回したら周りの迷惑になりますよ。」
「こりゃ坊主、離さんかい!
ふん、これしきの事で発作なんぞ起こらんわい!」
「ええい、クレイ離せ!
こやつを剣の錆にしてくれるわ!!」

 孫たちが止めに入るも一向に二人のご隠居は止まりそうもない様に見えたときクレイの母がやってきた。そこへキットン、ノル、クレイの父、アルテア、イムサイも合流してくる。
「あら、あなた。アルテアにイムサイ、キットンさんにノルさんも。
お茶や食べ物を持って来たんですのよ♪
休憩にしましょ♪」
何事もないようにクレイの母が、他の皆に話し掛け、それに対して他の人間が何か言いかけたが、素知らぬ顔で、ご隠居たちやパステルに声をかけた。
「お父様〜、いい加減しないと置いていきますわよ〜。
ブーツさんもご一緒にいらしてくださいな〜。
パステル〜、二人は放っておいてさっさと行きましょう〜♪
クレイにトラップもいらっしゃ〜い♪」
それを聞いて、置いていかれては堪らないと慌てたご隠居さん達はピタッと喧嘩を止め、何事もなかったかのように孫達に声をかけた。
「ほれクレイ、レディーに重たい荷物を持たせておくとは何事じゃ。
さっさとパステル嬢の荷物を持ってやらんか!」
「お前もじゃ、坊主!
ほれ早ぅせい!」
あまりの変わり身の早さに呆気に取られながら、クレイとトラップはパステルの荷物を受け取った。それを確認すると、ご隠居たちはパステルににっこりと笑いかけながら手を差し伸べた。
「ご心配をおかけしましたな、パステル嬢。
お詫びに丘までエスコートさせてくださらんか?」
「そうじゃそうじゃ。
是非とも案内させていただきたい。」
そう二人に言われたパステルが少々困ったような顔をしているとノルが声をかけた。
「ルーミィとシロ、俺が連れてく。」
そういうとルーミィを抱き上げ、シロちゃんを肩に乗せた。それを見たパステルはにっこりと笑う。
「ありがとう、ノル。
それじゃぁ行きましょうかお爺様たち」
そう言ってご隠居達の手を取ると、三人は一行の先頭を歩いていく。その後にクレイ、トラップ、アルテア、イムサイの四人が続き、さらにその後ろを残りのメンバーが、歩いていった。

 前を行く3人の背中を見ながら歩いているクレイに、トラップが声をかける。
「ジジイどもに負けてんじゃねぇよ、なさけねぇなぁ。」
それにアルテアとイムサイも同調して発破をかける。
「まったくだ。さっさと言っちまえよ。」
「そうそう、あんまりのんびりしてるととんびに油あげ掻っ攫われんぞ。」
三人三様に発破をかけられたクレイが情けない顔をしてため息をついた。
「解かってるよ。でもパステル鈍感だからなぁ・・・・・。」
というクレイの言葉に三人は
『『『おまえもだよ!!!』』』
と内心ツッコミを入れていた。

 前の様子を面白そうにに見ていたクレイの母はクレイの父に話し掛けた。
「ねぇ、あなた。
この分だと娘が出来る日も近いかもしれないわね♪」
ニコニコという妻にクレイの父は頭に?マークを浮かべている。
「は? 娘?
そりゃ一体どういうことだい?」
訳がわからんという顔の夫にクレイの母は微笑みながら答えた。
「ふふふ♪
そのうち解かりますわ♪」
とりあえず訳がわからないが妻が楽しそうなので良いことにしたらしいクレイの父は妻の荷物を持って妻と歩いていった。

 すべてを見ていたキットンはこめかみにジト汗を貼り付けていた。
「クレイの鈍感は父親似だったんですねぇ・・・・・。」
「・・・・・親子だな・・・。」



HPへ 小説の部屋へ