マスターズ


1−1−1 始動輪命

 ちぃ。
 まだ来るか!
 俺は彼女の手を引きながら、国道横を走り続けた。
 かなりの交通量を誇るこの国道を、足だけでこの時間に横断する事は死を意味する。
 地元の町が見えてきた、ここまで来れば今後ろにいる彼女の分のハンデも、地理に詳しいとでチャラになる。
 俺は彼女の手を離し、1mぐらいの低い壁に手をつき、国道の横にジャンプした。その先の高さはざっと7m以上の落差がある、下は足場の悪い凸凹した土の空き地。
 すぐさま俺は体に少し力を入れる、彼女が驚いたのが横目で見えた。
 体全体に力を入れる、これが俺の「発動」させる時の格好。これで俺たちは助かる。
 上昇気流に載った。下から吹き荒れる風で、俺の体は急激に落下速度を下がる、枯れ草が俺の周りを取り巻いていく。普通の上昇気流やビル風程度では、落下速度は下げられるかどうかだが、かなり強い気流だ。そうに俺がした。
 なんて事無く俺は両足で着地する。
「来い!大丈夫だ!」
 上にいる彼女にそう告げる。
 戸惑いながらも彼女は頷くと、俺の元へ落ちてくる。
 俺はすぐさま身を硬くする様に、力を入れた。
 彼女にも俺と同じように枯れ草と、風が身を取り巻く。
 膝くらいまであるスカートを、手で抑えながら落ちてきた所、俺が両手でキャッチ。
 両耳の上の方で束ねた髪が腕をくすぐった。
「すごい…」彼女がそう呟く。
 さっき俺たちを追い駆けて来ていた奴は、そろそろ俺たちが落ちてきた場所に来るだろう。そう休んでもいられない。
 抱いたまんま俺は走り出す。また体に力を入れてからだ。
「くそっ!待ちやがれ!」
 追い駆けてきた奴は、そう叫びながら、俺たちが落ちた場所から飛び降りた。
 鈍い着地音だ。骨折しててもおかしくない。
 逃げ切れる。
 やっぱり、発動させられる所以外は並みの人間か…。
 少しでもそこにうずくまっているのを確認して、俺はまた本気で走り始めた、もう発動させなくても逃げ切れるだろうが、甘い事をすればそれで即死だ。
 空き地から出れると思ったとき、周りの気温がとてつもなく上昇する、「発動」させたのだ、奴の力を。
 真冬だと言うのに、真夏のような気温、いやそれ以上だ。
 意外とこれはきつい。一気に体力をうばわれる気がする。風とかはもう関係ない。
「にがさねえぞ!マスターウィンド!」
「残念だな、もう俺は会いたくねえから来んなよ!」
 意外と彼女の体重がきつい。俺もやはり普通の人。40kg以上あるだろう彼女を、両手で抱きながら走るのはきつい。
 それをばらさないように、俺は「発動」を止めて、走った。


1−1−2

 警戒しながら橋を渡る。
 さっき逃げていた国道と、また他の国道を繋ぐ、そして、それは俺たちの生まれ育った町の入り口だ。
 T市T町。
 これが、俺の住んでいる町だ。
 この町は普通の人ではわからない、もう一つの顔を持つ。
 それが、異能者の集まった町という顔だ。
 他の町と比べて、遥かに異能者の比率が高い。
 異能者というのは、特殊な力を持った奴の事を言う。
 きっと俺の知らない様な奴もいるだろうが、存在を知っている限りでは、俺と同じようなのが3人。霊能者が2人。超能力者が2人いる。ついでに言うと俺にも霊感ってものがあるが、他の二人に比べたら天と地の差がある。
 他にも、俺の知らない奴が、それ系統の騒ぎを起こしてるので、最低でももう数人はいる。
 霊能者の数が少ないのは、まともにそういった力を活用する事が出来る人数だ。だから少ない。俺には、みんな似たり寄ったりの力に見えるが、結構違うらしい。一人はかなり大きな霊を使役してる。俺も驚いた、それが10代前半の少女だ。もう一人は霊的呪術を使えるらしい、どっから俺の事を聞いたのか、俺に手紙を出しやがった、読んだとたんに霊体のパレードを見させられ、居る事はわかったが、実際にあった事がない。超能力者(PSY)は過去視の男と、テレパスの女だ。
 過去視というのはそのモノの過去を見る事が出切る者の事だ。人の過去の記憶、その人に起こった事、物の過去を見る事が出来るらしい。会った事がないので、良くはわからない。もう一人はテレパス、まあテレパシーという方がポピュラーだが、遠くの人に自分の声を伝えたり、遠くの音が聞えたりという能力だ。人の知覚に直接声を伝えたり出来る。
 そして俺たち。発動者だ。
 俺たちは個々に能力の名前がある。俺の発動名は「マスターウィンド」風使いだ。
 自然界にあるものの1つに手を加える事が出来る。それが発動者。
 今さっき俺たちを追い駆けていたのは「マスターヒート」熱を操る。本名は知らない。
 ちなみに俺と一緒に橋を渡っているのは、一般人。こっちの能力者たちの世界では否能力者というらしい。その否能力者の一人、俺の幼馴染である片桐唯(かたぎりゆい)だ。
 俺は根岸翼(ねぎし つばさ)。
「翼。もう大丈夫なの?」
「ああ、多分」
「イチャイチャしないでよね、全く、援軍に行こうとしたのに」と、俺に話し掛ける声。
「うっせな。こいつは一般人なんだからしょうがねえだろ!」
「誰にいってるの?」と小首をかしげながら言う彼女。
「ああ、知り合い。んで、美咲。用事なんだ?」
 俺は、その声の主の名前を呼んだ。
「根岸君ってほんとつれないよね。せっかく心配してやってんのにさ」
「今からお前んちいくから、黙れ」
「りょーかい。隣りの子も連れてきてねー」
 げ、マジか…。
「悪い唯。もう少し付き合ってくれ」
「しょうがないの。付き合ってあげるよ。それに」
「それに?」
「ううん。なんでもないの」


1−1−3

 ドアベルを鳴らした。
「入ってきて」と唯には通じない方法で言う。
 俺は上がらせてもらおうとすると、唯が止める。
「勝手に入っていいの?」
「ああ、了解はもう得てる」
 そう言って、観音開きの玄関を開けた。靴を脱いで、玄関正面の階段を上がり、右の部屋に入る。
「おつかれ様」そう、さっきからの不思議な声の主、美咲が俺に労いの声をかける。
「どっから聞いてたんだ?」
「来い、大ジョブだ!からかな?」
 うろうろし出しそうな唯を、俺の横に座るよう、うながす。
「へえ、君がこれの幼馴染さんか」
 美咲の視線が怪しい。ついでだが、俺が美咲の事呼び捨てなのは、美咲がそうに呼べと言ったからだ。会って2回目にもという時にもかかわらずに。
 異能者の中で一番付き合いが長い。といっても3ヶ月か。
「どうでもいいが、携帯じゃないんだから、急に話し掛けるな。遠距離通話は、つかれんじゃなかったのか?」
「まあ、疲れるけどね。月の携帯代金0円なのが魅力か…」
「基本使用料は?それとパケ代」
「それは…」
「それと、異能者以外への通話」
「ツッコミ多過ぎ」
 モジモジし出した唯に、とりあえずコイツを紹介することにした。
「こいつは三瀬美咲(みせ みさき)。まあ、俺と同じ様な体質の奴」
「あたしは三瀬美咲、異能者としての翼の先輩、まあ学校の先輩でもあるけど。小学校中学校は同じT小だよ。キミが片桐唯ちゃんだね。以後よろしく」
「片桐唯です…」
 美咲の勢いに負けてる…。
「こいつに異能者のこと、全く話してなかったんだ、だから今の、あんま通じてない」
「なに!本気か?翼」
「しょうがねえだろ、こんなの話し辛いって」
「だけどなあ、彼女じゃないのか?」
「ち、違います!」
 と、真っ赤になって否定する唯。
「こいつ、彼氏居んの」
 そう、唯は彼氏が居る。勿論俺じゃない。
「これは驚き。あたしにも翼落款のチャンスありか」
「落款て…」
「落とす事」
「しませんよ」
「残念」
「話し何か有るんじゃないですか?」
「そうそう。忘れる所だった。翼さあ。とうとう戦いに出んの? ついでにさっきやりあってたの誰?」
「俺は戦いたくないんですけどね、運命って言うかなんていうか。さっきのはマスターヒートです」
 思案顔しながら「あーん、確かこの町に住んでる奴じゃなかったよな」と、聞いてくる。
「はい、この町に住んでる奴じゃないっス。この町に住んでるのは…」
「あーいい、いらない。そんなイッペンに覚えられるか!」
 正直、俺は狙われてる。同じ発動者にだ。
 なんでかは知らないが、事実は曲げにくい。
「えっと、美咲さん」と、遠慮がちに唯が訊ねる。
「うん?なんだい?」
「翼たちって、なんなの?」
「ああ、あたしはPSY。つまり超能力者。テレパシーって力持ってる。そんで、翼教えてやんな」
 俺は頷き、俺の力について説明を始める。
「俺みたいのを発動者って言うらしい。自然にあるものに手を加える力、それが発動者だとさ。超能力とは違う、物を見たり、動かしたりじゃなくて…。そうだな俺の場合、風を自由に出来る。さっき上昇気流を作って、それであの国道から空き地へジャンプできた。他にも追い風を作って、走るの早くしたり、とかな。
 つまり、人工物じゃない1つのカテゴリーを自由に出来る力、それが発動者」
「…魔法使い?」
「かな?」と美咲に尋ねる。
「精霊魔法の使い手だね」実は、美咲さん、ファンタジーマニアだ。
 唯もRPGのゲームとかやってたりするので、何となくわかったらしい。
「すごい…。何時から使えるようになったの?その魔法」
「俺は、天然と言うか、生まれ付きなんだって。ただ、使い方を知らなかっただけ」
「霊感あるのは知ってたけど…、魔法まで使えるなんて」
「そうそう、翼せこいよな、これで霊感までもってるんだから」
「嬉しくないよ!」実際、霊感って言うものも若干だ。ただ、俺の場合そこに霊が居るか解る程度だ。
 使役とかはまず出来ない。それどころかこの程度だと邪魔臭い。
「あたし思うんだけど、唯ちゃん、何も異能使えないの?」
「私ですか?魔法とか超能力とかは、考えてもみませんでしたし、今も半信半疑って言うか…。ごめんなさい。霊感はないです」
「まあ、半信半疑まで行けば上出来」
「みたいですね」少し、ショックだった。唯に半信半疑って言われるのが。
「翼、今のうち慣れておきな。気にしてたら生きて行けないよ」
「わかりました」
 少しの沈黙の後「じゃあ、ちょっと待ってて」と、美咲は部屋を出た。階段を降りてくのが音で解る。
 そして、玄関から外に出る。
「翼、唯ちゃんにあたしの机の上にある耳栓させて、その後、窓の外みさせてよ」とテレパシー。
 言われたとおりに、耳栓させて、玄関側の窓の外をみさせた。
 続けてテレパシー。
「よし、窓閉めて」それを聞いて実行する。
 すると。
「翼、これ本当?」
 と唯が言い始める。多分俺に聞えないように、テレパシーを送ってるのだろう。
「本当に翼には聞えないの?」耳栓をしてるから、頷くだけにする。
「不思議…。美咲さんの声がすっごくはっきり聞えるの」俺は微笑んで、俺の力を発動させる。部屋の空気がすごい勢いで流れる。
「これは、翼の力…。部屋の中に風が吹いてる」




1−2−1 賢人息吹

「翼、派手に吹かせたね」
「すみません」
 美咲さんの部屋には大量の紙が散らばっていた。
 これでもこの人は大学生だ、まだプリントとかから離れない部分があるらしい。それにしても異常なほど多いが。
 強制的に3人で片付けをし、終わった後部屋を出る、唯を送る為だ。
 俺はその後、多分呼出を食らう。


1−2−2

 家に帰って風呂から出て、部屋でノンビリする。
 適当に漫画なんかを読んでいると、式神なんていうものが部屋に侵入してきた。
 これは霊能者の使役する簡単な伝達手段だ。俺自身に霊感が少しあるので、この式神が感じられる。
「なんだよ、こっちかよ」
 美咲さんから呼出を食う前に、他の人からだった。
 ジャケットを着込み、外出をする。さっきの式神の連絡は神社に来るようにだった。
 この場合の神社は、T町のほぼ中央にある八幡神社だ。あまり大きくはないが、小さくも無い、鳥居が二つは慣れておいてあるし、車なんかが境内に数台止まってる。
 そして、自転車に乗って数分、神社についた。
「どう言う事?」
「いきなりそれなの?」俺はついた早々の挨拶がそれで、少し疲れた気分になる。
 神社の本堂の前、その鳥居の下にその少女と、そいつは居た。
「マスターウォータ。そいつに聞けよ」そうに男に言った。
「聞いたわ」
「マスターウィンド、何をやったんだ?」
「霊が騒いでる」感情の起伏が少なめの声で言う。
「俺がやったんじゃないよ。襲撃されたんだ」
 男のほう、マスターウォータが方ほうの眉をあげる。
「誰にだ、言え!俺が仕留める!」こいつは水使いだが、どうも熱くなり易い。ある意味苦手だ。
「マスターヒートだよ、渡良瀬(わたらせ)!」こっちが言い放つ。
 渡良瀬、マスターウォータは渋い顔をした。
「何時どこでだ!」
「昼間、市街地出だよ」
「ちっ。昼間か」
「俺はもう帰る、今日は疲れた」
「わかりました、では明日夕方ここに来て下さい」少女が言う。それに俺は頷く。
 二人に背を向けると渡良瀬がこう言った。
「それと、今日は異能者同士としての会話だ。渡良瀬は学校の中で止めろ」
「気が向いたらな」
 そう返し、俺は神社を後にした。


1−2−3

 力いっぱい風を上から下に叩き付けた。
 全く、どこでも関係なしかよ!
 小さなダウンバーストを起こさせた俺は。1人心の中でごちた。
 幸いここは風通しが良い。分が悪いとは思えないが、極力避けたい。
 マスターヒートは向かい風のない今、一気に間を詰める。さっきのは当らなかったらしい。
 その隙に奴はこっちが不利になるようにと、間を詰める。
 近距離ほど風は吹きにくい、そう判断してだろうが甘い、俺は自分の真横から台風並の風を吹かし、横にとんだ。奴の正拳が横をかすめる。だが、奴はニヤリと口元を上げる。
 風を吹かせた方向に逆らうように、奴の蹴りが来る、除けられそうにない。
 鈍い音をさせながら、俺の横腹に刺さる。酷い吐き気が襲う。
「捕らえられた鳥は、飛べるもんじゃないぜ」
「お前足逝ってないのかよ…」
 口元を上げ、にやりと笑う。
「ああ、あの落下の時か。悪運良く捻挫だよ」
「体もバケモンか…」
「お前と違って、俺は体も鍛えてあるんでね」
 腹に一発重い蹴りが入る。耐え切れずうめきながら嘔吐した。
「さっきのお礼だ。「発動」させて殺してやるよ」
「全身火傷か、辛い殺されかたするもんだ」
 俺は軽くあしらってやる。少しでも皮肉っぽくだ。
「大当たり。それじゃあ始めるぜ」
 そして、体の周りが熱くなる、それだけでやけどが出来るんじゃないかと思うほど。
 俺は逃げようとした、がまた蹴りが入る。
 こいつの力、なめてたのか、俺は。
 その時、俺の頭の上を何かが飛んでいった。何か重いものが跳ねる音がすると、俺の上に水が撒かれる。
「貴様!マスターウォータ」
「決着つけてやんよ」
「やめときな、貴様の力じゃ俺には勝てねえよ。水は蒸発させちまえばいい」
「何か勘違いしてないか?力の許容量の差が、歴然としてる」
「馬鹿言うな。ドブ川でもあれば、お前のほうが有利かもしれないが、ペットボトル1つ程度の水。蒸発させてやるよ」
 俺の目の前、水が動いている。
「だから、浅はかなんだよ。何で1つとしか見てないのか…」
「マスターヒート、お前が今俺に勝てない理由その1、炎ではない事。その2、状態はどうあれ、2体1だ。その3、あと二つ、2リットルのペットボトルがあることに気が付いていない。その4、俺の時間稼ぎに付き合ったこと」
 目を閉じ悠然と口上を述べる。
「笑わせる。炎じゃない事が何だ?こいつが戦えるのか?どこにそんな物を持ってる?時間稼ぎにもなりゃしねーよ」
「ブレイク」それを聞いて俺は、地面に水で書かれたとおり上昇気流を起こした。
「水が流れれば、その器も飛ぶ」
 庭先に置いてあったペットボトルが中に舞い、俺の作った上昇気流に乗った。そしてペットボトルが弾ける。
 合計4リットルの水が、俺と奴の体に降りそそぐ。
 ほてった体に気持ちいい。
「とどめだ」奴の体が鈍った。水の影響だろう。そこに水を鞭のように撓らせてマスターヒートを撃つ。
 熱で蒸発させる前に水で、奴に大打撃を与えた。しかも俺には何時「発動」させたのかわからないほどの早業だ。
 すかさずマスターヒートは逃げ出す。
「くそ、また逃がしたか…」
「追わないのか?」
「死にたくはない。奴は逃げながら熱で罠を張るからな」
「助けてもらってありがとう」
「助けたのはついでだ。忠告しておく、戦い中は常に注意しろ、気を抜くな、そして冷静になれ」
「後1つ」
「なんだ?」
「さっきのペットボトルどこに在ったんだ?」
「ずっと置いてあるよ、多分猫除け対策のだろう」そう言って。彼は後にした。
 服と、体は乾いていた。


1−2−4

 翌朝、学生である俺は学校を休んだ。
 式神が俺のもとに来て、今日は来なくてもいいとの伝言もあった。
 多分昨日の襲撃は、この町に住む異能者の半分には伝わったのだろうと思うと、ぞっとする。昨日の渡良瀬は、何と言うか凄かった。慣れきった「発動」。無駄のない戦い方。
 そして何より。あの力の強さ。
 水を操るといっても。あれには驚く。
 ペットボトルごと宙に浮かすのだ。流れを作るんじゃなく、浮かす。さらにはペットボトルを破るほどの流れを作っていた。
 あの人が敵じゃなくてよかったと、心から安心する
 でも何で俺は狙われているのか?
 そして、どうして渡良瀬はマスターヒートを追ってるのか。
 謎が多い。
「おーい、今からそっち行くな」と美咲の声が響いた。
 沈黙で、了承と答える。
 俺は母子家庭だ。今親は居ない。そして、俺の部屋の窓を開けた。
「開けろー」と外で言ってたのはやっぱり美咲だった。
「もう来たんか」と半ば呆れた。
 玄関から美咲は入ると、早速俺の部屋にあったポテトチップスをつまみながら、買ってきた缶ジュースを飲む。
「それで美咲さん、何の御用で?」
「ちょっとね、紹介したい人が居んの。明後日空けといて」
「いいけど。明後日ね」
「でさでさ、話し変わるけど」
「なに?」
「唯ちゃんと、本当はどんな関係?」
 どっからそんな話題が出てきたのだか、とりあえず疑われてるのかもしれない。
「いや、ただの幼馴染ですよ。とりあえず彼女の家まで案内しよっか?すぐ近所だし」
「遠慮するよ」
 少し照れくさそうにそう言うと、彼女は出かける準備を始めた。
「あれ?もう出るんですか?」
「ん?まあ、今日は大学の講義があるし。あまりノンビリもしてられないのよ」
 じゃあ何でここに来たのかという質問は、心にしまって、彼女を見送る。
 でも、紹介したい人ねえ。誰なんだ?


1−2−5

 翌日、俺はT町に幾つかある、市営住宅の1つの部屋に来ていた。
 美咲さんに連れられてきたのだが、なんつーか狭い。
 物が沢山ある部屋なのに、部屋自体は6畳半ぐらいだろうか?
 そこには1人の青年が居た。年は間違いなく俺より高い、20代前半か半ばぐらいだろう、深く切れ長の目は、鋭い印象を与える。髪を短く刈り上げ、地味目の色のセーターを着てる。
「美咲ちゃん、それで今日の用事は彼の事かい?」
 その人は言った。
「わかってるんでしょ?だったら聞くだけ野暮じゃない?」
「確かに。それでは風使い君。自己紹介をしよう」風使い君て…。俺の事知ってるのか?
「オール・オブ・レコグネイション、発動者だ。本名篠目是清(しのめ これきよ)。異能者全てを平等に扱う者だ」
「レコグネイション?マスターじゃないのですか?」
「あまりにも特異、そして強力な発動の為、「全ての」と名づけられてしまった」
「すいません、レコグネイションの意味は?」
「認識、だ」
「認識?」
「今、君は俺の事を視覚によって認識しているな」
「はい」
「では、俺の事を認識できなかったらどうする?」
「えっと、目とかで見たりすること出来ませんね」
「そうだな、つまりは認識されていないと言う事は、無いと言う事だ」
 それは、つまりその認識を自在に操ると言う事が出来ると言う事か?
 とんでもない事が出来る発動者だ、恐ろしいぐらいの。
 自分にとっていらない物の認識を消せば、そのものが認識されない、つまりは事実上の抹消だ。認識を消す事も出来れば、認識を変えることも出来るだろう。
「翼を連れて来たのには理由があるの、ちょっと是清さんに聞きたい事があってね」
「まあ、予測はつくが言ってみろ」
「ヒートの素性、それと目的を知りたいの」
「マスターヒートだな、少し待て」
 そう言って、腰をかけていたベッドから、部屋に2つ置いてある机の1つ、窓際の机に向かった。机は二つとも学習机なのが、何か親近感が沸く。
 その机の引き出しからファイルを取り出した。
「マスターヒート。この近辺で戦闘のできるようなマスターヒートは彼しか居ない、彼の事を指してるのは多分間違いないだろう。本名赤井辰美(あかい たつみ)。本職高校生、学校は今届を出して長期欠席をしている。発動者としては全体的に見て中のレベル。趣味はゲーセンに行く事。今の時間だと、特に用がなければゲーセンに居るだろう。あと、空手を習得している。システムに所属」
 何だ、あのファイルは…。何が書かれているんだ…。もしかして俺の事がかかれたファイルもあるのか?いや、間違いなくある、俺が自己紹介する前に風使い君と呼ばれた。
「それで、もう1つの方の君を狙う理由だが。個人的な恨みもあるが、システムからの依頼だな」
 1つ気になった、システムってなんだ?
「すみません、システムって何ですか?」疑問を素直に口にした。
「ああそれか、発動者を監視、そして統合する組織の事だ。犯罪に「発動」を使う者も少なくない。それを監視するのが役割といってる」
「そんなのが在ったんですか!?」
「ああ、君はその誘いを蹴っているがな」
「誘い?」
「システムに賛同しないか?という誘いだ。君が「発動」を初めて使ってすぐ、その誘いが来たはずなのだが。覚えは無いか」
「もしかしてあれかな?」
「思い当たる節があるなら、それだろう」
「ありがと、是清さん」そうに美咲さんが切り出し、話をまとめる。
「あの、質問いいですか?」俺は少し気になった事を聞いて見ることにした。
「なんだ」
「なんで渡良瀬とマスターヒートは争ってるんですか?なんで俺はシステムに襲われるんですか?」
「渡良瀬君か。彼はアンチ派なんだ。アンチ派というのは、システムを気に入らないと思ってる奴らの集団のひとつだ。彼はそこに属してる。君が襲われるのは、そのシステム勧誘者に間接的にだが重傷を負わせた、そのためアンチ派ではないが、システムにとって危険とみなされ、無力化させようとしているし。アンチ派に属したと思われている確立も少なくは無いそれが襲撃の理由」
「どうも」
「それじゃあ帰りますね」美咲さんはどうも帰りたがってるらしい、俺もここら辺にして帰る事に決めた。
「それじゃあ俺も帰ります」
「わかった、そうだ、根岸君。この家の半径200m以内では常に気をつけることだ。誰が誰を襲うかわかったもんじゃない」
 スゴイ所だな、それは。俺は本気で気をつける事を固く決めて、篠目さんちを後にした。


1−2−6

 美咲と別れ、神社に向かう。約束を守る為だ。
 夕方には早いが、彼女を怒らすのは、唯を怒らすのより怖い。
 小学生が遊んでる隣りの公園、児童館もすぐ近く。なんでこんな所が待ち合わせ場所なんだ。
 そういえば、唯に今日学校休む事伝え忘れてた、終わったら唯に電話でもいれるか。
 そして、日が沈んだ後、彼女は来た。
 染めたわけじゃなく元から色素の薄い髪。深く黒目がちの瞳。
 身長は普通。ただ、大人しい目と言うよりは、活発そうな顔立ち。なのに雰囲気は大人びた中学生の少女。
 古雅春花(こが はるか)は到着すると挨拶もなしにこう切り出す。
「聞きます」
「それで、何が聞きたいんだ?」
「なぜ戦うの?」
「それは向こうが襲ってくるからで」
「では、止める気は無いのですね」
「止める気はあるんだけどな」
「マスターウォータと、ともに戦うの?」
「まだなんとも答えられないんですけど」
 彼女は理解したのか、頷いた。
「今日、あの方に会いましたね」
「あの方?」
「篠目さんです」
「知ってるのか?」
「ボクが小学生の頃からの知り合いです」相変わらず似合わない。この子の一人称は「ボク」だ、しゃべり方とか、その振舞い方からはどうも。
 何か変な組み合わせだ、多分10歳ぐらい離れてると思う、小学生の彼女と、篠目さん。似合いそうも無い組み合わせだ。
「では、あの方に聞くことにします」
「ああ、そうしてくれても良いよ。要件はそれだけか?」
 そう聞くと、軽く頭を下げて立ち去っていった。




1−3−1 閃電騎士

「ごめんなさい」
 電話に出た彼女に早速謝る。
「何で連絡してくれないの」
「思いつきと言うかなんと言うか」
「先生、怒ってたよ」
「まじっすか?」
「うん」
「はっはっは、しょうがない。明日は行けるんだかわからないけど行けたら、行くよ」
「わかった、じゃあまた明日ね」
 携帯を切ると、神社を後にして家に帰る事にした。やっぱ寒い。
 途中唯の家の前を通り過ぎ、家に帰る。
 時々思うが、あいつは彼氏が居るのに俺のことも気が利きすぎる。俺もそれを使っちゃうのもなんかなと、思うけど昔からの癖としかいえない。
 帰宅の挨拶をすると、部屋に入って、CDをかけながら漫画を読むことにする。
 携帯のメール着信音が鳴ってチェックしてみると、数件のメールが溜まっている。めんどくさいと思いつつ返事を書いていくと、美咲からも届いてる。必要じゃないだろ、彼女の場合。学校の友達のメールが、休んだ事の講義はあるけど、労わりのメールが1つも無いのが悲しい。
 メールのやり取りをしばらくしてると、携帯の通話着信音が鳴った。
 この着メロは唯だ。
「どうした?」
「マスターウィンド君だね」知らない男の声。あいつの彼氏じゃない。
「誰だ!」
「あなたの幼馴染。ヒートが預かったと伝えてほしいと言うので」
「お前誰だよ」自分でもびっくりする位、声が冷たい。
「発動者の1人です。ヒートからの伝言頼まれて、この携帯でマスターウィンドにかける様にとも」
「お前。どこに居る」
「待ち合わせ場所は今からなるべく早くで、小学校の中庭。先生とかはもう帰ってるから大丈夫だよ」
 俺は、もう向かっていた。


1−3−2

 小学校。場所は神社のすぐ近くにある、俺の通った学校だ。
 そしてそいつは、中庭の小さな噴水に腰掛けていた。
 タレントかと思うほど、可愛い感じの男が居る。
 見たところ唯は居ない。
「唯はどこだ」
「この学校の公舎内。女性に対して乱暴だけど、少し気絶してもらっています」
「ゆるさねえ。殺してやんよ」
「それじゃあ戦いますか」
 小動物のペットのような顔が、はっきりと鋭い顔付きになっていた。
 素早い突撃。右手にはさっきまで無かったが、小ぶりのナイフ。
 今から「発動」させて避けるのは無理と判断して、右サイドステップでかわす。皮ジャンが切れる。
 奴はそのまま左足を軸に回りながら、切りつけてきた。
「っふ」呼吸を完全に攻撃と合わせてる。
 その攻撃は大ぶりで早い、だが、かわせる!
 その時だ、少し俺の右手が奴のナイフに吸われる感じがした、急いで引くが間に合うのか。当ると思った瞬間、俺の手に電流が流れる!
「っいつ…」かわした、刃は確実にかわせた、証拠に切り傷は無い。なのに、一瞬麻痺するぐらいの電気が走った、それが俺にダメージを入れたのか?
 奴は、バックステップで間合いを取る。
「マスターエレクトリー。電気使いさ」
 まじかよ、ナイフに当りもしないでそれと同じぐらいのダメージ。右腕の感覚はまだ少ししかない。
「一応、勝負の場所としては電気と風、対等に勝負できる場所を選んだつもりだけど、能力話してなかったのは、不公平だったね、謝罪するよ」
 こいつ、切れ者だ。はっきり感じる。ヒートのように直線的な攻め方に見えて、実際は幾らでも自由に変化させられるのだろう。「発動」が、それを可能にしてる。一撃でもナイフ自身が掠れば、そこで致命的ダメージになりかねない。
 冷静にならないと俺が殺られる。
 俺は体に力を入れ、「発動」させる、俺にとって向かい風を起こし、そのまま後ろへと動く。間合いは離れるほど俺に有利な相手だ。
 間合いを離すのには、何も介入してこない。両手ともダランと下げたまま、足はすぐ走れるように構えてる。
 あいつの間合いから完全に離れた。一気に間合いを埋めようとも、能力は電気だ、俺の風みたいに加速が出来ない。そうなれば余裕でかわせる。また少し離れる。左右にそびえる北校舎と南校舎、そのほぼ中間の平行線上を移動する。
 あいつはまだ動かない、マスターエレクトリーは両手を下げたまま、足はいつでも走り出せる格好のままで動いてはいない。
 そこで俺は特大の突風を吹かせるべく、「発動」する、俺が起こそうとしてるのはかなりの貯めが必要だ。
 身に力を入れる、そして奴も動き出す。左手を払うような行為をしてから、一気に間を詰めてきた。あいつ足、かなり速い、だがそれも人間の域での話しだ、能力での加速は無い。
 おちついて「発動」させる。俺の目的はひとつ、あいつの体勢を完全に崩す事。
 刹那、突風、俺には向かい風。
 だがその時、敵はその風の直線状から外れていた。
「追い風だったのか…」敵はそう呟く、呟いたのだが俺に聞えていた。
 完全に吹く場所が読まれてる、南校舎の方から斜めに俺のほうへ向かった突撃、突撃しながらも奴は攻撃の動作。
 どういう速さだ、奴の投げたナイフは「発動」の後の隙を逃す気は無いらしい。俺は風に乗るためバックステップで逃げる。
 一撃だ、一撃どちらかが入れればこの戦いは終わる。
 俺の左胸のあった場所にナイフが通り過ぎる、やつ自身はすでに走る軌道を俺に向かわせていた。
 土煙の揚がる突風の中、俺は「発動」の動作を始めた。
 あいつが入った、さっき俺が作った突風の中に。
 そして俺は「発動」させる。
 今度は俺には追い風。吹かせる場所は、さっきと同じ。
 風が歪んだ。
 歪みの中、俺は強引で倒れるように体を伏せる。
 奴の眼前、それは発生してる。小規模の竜巻だ。
 俺は追い風に乗った。だが、俺が自分の足でちゃんと止まれる速度での、勢いで。
 竜巻の収まりかけた頃、俺は敵の倒れてる場所へ向かった。
「発動」は始まってる。何時でもとどめを注せる。
「唯はどこだ」
 奴の体制が完全に崩れた後の、勧告。
 奴は着ていたコートを脱いだ。
「武装はこのコートだけだ、ここに電池とナイフ、全部収まってる。完敗だよ」
 電池?こいつもやはり、電気自体は起こせないのか、電池だけでこれほどの武器になるとはね。
 奴の顔は何時の間にか、また小動物の様な顔付きに戻ってる。
「少し待て、俺の仲間には連絡しない、したとたん風で潰してもいい」そう言って、コートの下に着込んでいたワイシャツの胸ポケットから、携帯電話を取り出した。
 そして誰かにかけた。
 誰かが電話に出たらしい
「初めまして、流と申します。少しあなたと話したいと言う人がいるので、少し時間をいただけませんか?」
「ありがとうございます、少し待って下さいね」
 そう言って、俺に携帯を軽く投げた。一端「発動」を解くが、いつでも「発動」させられるように体勢を取る。
「もしもし」
「あれ?つばさ?」聞き慣れた声だった。その声があまりにも平和的過ぎる。
「唯?今どこにいる?」
「ん?私の部屋、どうかしたの」
「いや、ちょっと待ってくれ」通話口を抑え、マスターエレクトリーに話し掛けた。
「どう言う事だ?」
「誘拐は嘘です、すみません」そう言って、座りながら深く頭を下げた。
「あなたと戦うには、片桐さんに危害を加えれば早いと聞いたので」
 納得した、だが。
「ヒートはこれに噛んでるんか?」
「まあ、ヒートに聞いたら、だったら誘拐してしまえば早いと。すみません」
 やりすぎと思いつつ、なぜかこいつを憎めなかった。実際には唯に何もしてないところだろうか?
 会話を電話にうつす。
「ちょっと心配してだよ」
「なんの?」
「ほら、色々あったじゃん」
「ああ、大丈夫。私の所には何も無いみたいなの」
 そこにエレクトリーが、助言する。
「システムより怒らすと怖い人がいるもので。幾ら異能者の関係者でも、この町で否異能者に、異能者が手を出すと消される覚悟があると言う事ですよ。それと、しばらくは会話してても良いです、嘘言ったお詫びと言ってしまえば、都合が良いですが」
 唯に話し掛ける。
「そっか。安心した。学校で会えたらまた明日な」
「そんな事言わないの。ちゃんと来るの。いい?」
「わかった、誰にも襲われなかったらな」
「そんな事言わないでよ。心配しちゃうなじゃいの」
「大丈夫だって。たぶん」多分を小声で言って、俺は別れを告げて電話を切った。
 マスターエレクトリーに電話を投げて返す。
 まだ座っていたマスターエレクトリーは、電話を受けとると、意外そうな顔をして胸ポケットにしまう。
「もう、電話はいいのですか?」
「ああ、長く話すと、あいつの彼氏に何言われるかわからないからな」
「え?片桐さん、あなたと付き合ってるのでは?」
「誰に聞いた?」少し眉を寄せる。
「いえ、篠目さんに片桐さんは付き合っている人がいると」勘違いか…。それより問題なのは。
「篠目さんって。あの?」
「そうですよ、この近辺では有名な人ですから」本当に異能者なら、誰でも平等なのか、あの人は。
「わかった、じゃあな。俺帰る」そう言って、俺はその場を後にしようとした。
 だが、マスターエレクトリーの顔に驚きが見える。
「とどめ、ささないで行くのか?」
「止めって、俺はまだ道間違えたくはない」
「…アンチ派にそんな人がいたなんて。驚きです」
「俺、アンチ派じゃないよ」
「え?アンチ派って教えられてたけど」
「なんかの間違いだ。それと、何時まで座ってんだ?」
「それが、足やっちゃったみたいなので」



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