キスを、お願い。



 始まりと、終わりと。
 どちらも、同じに。


   *


「ゴメンな」
目覚めの挨拶の、軽いキスの後。
今日も一日バイトでいなくなる、貴方が言った。
「本当は、皆と一緒に、君の誕生パーティーやりたかったんだけど、さ」

悲しかったのは、本当だけど。
それ以上に、貴方が辛そうなのがイヤで。
「ううん」
笑って、首を振って、続けた。
「大丈夫だよ、皆がお祝いしてくれるから。それに、クレイの気持ち、伝わってるもの」
「パステル……」

2度目のキスは、熱かった。




「ただいま」
夜も更けて、既に日付も変わろうかという頃、クレイはようやくの帰宅。
そうっと扉を開ける彼を、私は笑顔で出迎える。
「お帰りなさい、お疲れ様」
「ごめんな、残業が長引いちゃって」
長時間の重労働の後なのに、待ってた私を気遣って。
クレイは疲れた顔だけど、微笑んでくれて。
それから、長椅子にどかっと座り込んで、大きく溜息。

「お腹空いてない?」
「ああ、それは大丈夫。夜食も一応出たからさ」
答えるなり、クレイが不意に腕を伸ばし、私をあっという間に捕まえて。
あ、と声を上げる間もなく、私の身体は逞しい腕に包まれた。

ぎゅっと私を抱き締めたまま、クレイはただ動かない。
「……ク、レイ?」
そうっと声をかけてみても、何も答えてくれなくて。
ただ、押し付けられた彼の胸の鼓動だけが、力強くリズムを刻む。
それは今日一日中離れていた、愛しいリズムで。
私は静かに目を閉じ、彼の胸に耳を当て、鼓動をじっと聞いていた。

「パステル」

静かに私を呼ぶ声がして、腕の力が緩んだから。
そうっと顔を上げてみると、クレイは私を見つめてた。
「クレイ……」
声をかけると、彼は少しだけ微笑んでから、ゆっくりと顔を近づけて来て。
私もそうっと瞼を閉じて、降りて来る温もりを待った。

誕生日の日、最後のキスは、優しかった。


   *


 始まりも、終わりも。
 どちらも、同じ。

 貴方のキスを、下さい。







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