ホワイトデー。
男から、女の人へ。感謝とか、愛情とか。
そんな気持ちを、伝える日。
でも。
*
「クレイ、パステルに何あげるかもう決めたの?」
不意に、猪鹿亭で。看板娘のリタが、俺に向かって問いかけた。
「あ、いや……」
曖昧に、言葉を濁す。
「ったくもう、シャンとしてよね。せっかくパステルがチョコあげたんだから」
溜息混じりの、リタの怒りとも嘆きともいえる声。
何とも、居心地が悪くなる。
パステルが『好きです』って言ってくれたあの日。
俺は即座に『俺も君が好き』って返した。
パステルは、真っ赤に顔を染めながら、嬉しいって言ってくれたけど。
───それとこれとは、別なのかな。
でも、何て言えばいいんだろう。何をあげればいいんだろう。
本当に、彼女が好きだから。そして、大切だから。
家族のように、友人のように、そして………恋人のように。
陳腐な言葉や、ありきたりのものでは、何かが足りない気がして。
俺は当日まで、ずっと悩み続ける結果となった。
そして、本日。
「パステル」
「何?」
俺は意を決して、彼女を連れ出す。もちろん2人っきりで。
ルーミィはシロと一緒に、ノルとキットンが面倒見てくれることになった。
トラップの奴は、しっかりとエベリンへ旅立ってる。
パステルと一緒にやって来たのは、まだ雪が残るズールの森の入り口。
「わあ、クレイ見て、ほら」
彼女が何かを見つけて、はしゃぐ声。指差すほうを見れば、地面に淡い緑。
「もう草が生えてきてるのね。春なのねー、やっぱり」
そう言って、微笑む君が。春のように、見えたから。
俺は自分だけの春を、腕の中に閉じ込めた。
「クレイ……?」
戸惑う君が、切ないほどに愛しくて。
「パステル」
俺は君の名を呼ぶのが、せいいっぱい。それさえも、悲鳴のよう。
「クレイ、一体どうしたの……」
彼女がいつもと同じく、優しいから。誰よりただ、大切だから。
俺の心、少しでも伝えたくて。
俺は自分の想いのままに、彼女に強引に口付けた。
離れる唇。顔を伏せた君。
「……ごめん、急に」
罪悪感に襲われる。
「本当は、君に喜んで欲しいと思ったんだけどさ。俺、どうしようもなく君が
好きだから、この気持ちを伝える方法、何も思いつけなかった。だから、本当
に、ごめん」
「………………で」
彼女から、か細い声。
「え?」
聞き返すと、顔を上げる彼女。瞳には、涙があふれ出そうで。
「謝ったりしないで。私、突然だったからびっくりしちゃって、それで、な、
涙なんて、出てきちゃった、けど、でも、嫌じゃないんだもん」
「パステル」
俺が名前を呼ぶと、彼女が不意に、しがみついてきた。
「クレイ、私もクレイのこと大好きなの。とっても、とっても、大切なの。
だけど、上手く伝えられなくて、ずっともどかしくて。だから、クレイも同じ
気持ち、持っててくれてたんだなって、嬉しくて……」
同じように、悩んでた。
同じように、苦しかった。
想いの行方は、同じようにたどり着いて。
俺も君も、同じくらい。ただ、愛しくて。ただ、大切で。
そう、お互いに。お互いしか、いないんだ。
「パステル、ありがとう」
俺は今、嬉しかったから。本当に、嬉しかったから。
彼女にそんな言葉を贈った。
「……うん。私もありがとう、クレイ」
俺の気持ちは、ちゃんと彼女に伝わってくれていたらしく。
彼女も微笑んで、言葉をくれた。
*
ホワイトデー。
男から、女の人へ。感謝とか、愛情とか。
そんな気持ちを、伝える日。
でも。
俺たちの、この日は。
気持ちと心と、想いを全部。
一緒に感じて、確かめ合う日。