「明日だな」
「うん」
シルバーリーブのわたしたちパーティの家に、今はクレイと二人きり。
窓辺から星空を見上げていたら、クレイが隣にやってきた。
パーティが解散してからしばらくは空き家だったこの家に、久しぶりに訪れたのは今日の朝のことだ。
わたしは明日、クレイと結婚式を挙げる。
どこで式を挙げるかは迷わなかったから、わたしたちは二人でシルバーリーブへと戻ってきたんだ。
教会で式を挙げるほどの余裕のないわたしたちは、この家で式を挙げることに決めた。
牧師さんを頼んで、祭壇はオーシたち村のみんなが作ってくれた。
焼けた家を直してくれたときもお世話になったのに、また協力してもらえて本当に嬉しかったな。
今は家の正面においてある。
この家は大きいけど、みんなが入れるほどは広い部屋はないから、式は庭で執り行うことに決めていた。
雨が降らないようにってそればかり祈ってただけあって、明日も快晴みたい。
わたしの支度部屋に飾ってあるウエディングドレスは、クレイのお母さんが作ってくれたんだ。
「新しい家族のために、絶対に作ろうって決めてたの」
寸法を測りながらそう微笑んでくれたクレイのお母さん。
わたしのお母さんも、もしかしたらそう思っててくれたかもしれない。
一人娘のために、一生に一度の晴れ舞台の衣装を作ろうって。
裁縫が得意だったお母さんを思い出して涙ぐんだわたしの心のうちを察したように、クレイのお母さんは優しくわたしの髪をなでてくれた。
「無事に式をあげられそうで良かったな」
「ほんと、みんなに感謝しなきゃ」
明日の料理は猪鹿亭でリタとマリーナとみすず旅館のおかみさんたちが作ってくれる。
昨日のうちにミケドリアを捕ってきてくれたのはトラップとノルだ。
キットンはハーブとかキノコとかをたくさん採ってきてくれた。
ブーケを作ってくれたのはルーミィとシロちゃん。
少しだけ大きくなったルーミィは、器用に花を束ねてくれた。
そんなことができるくらい成長したんだと思ったら感激して、ルーミィにおおげさだって怒られたっけ。
本当にみんなが協力してくれたから、わたしたちは招待状を送ったくらいなんだよね。
忙しくて来れないジュン・ケイやトマスたちからは電報が届いた。
サキとドリは子供をつれて駆けつけてくれる。
ギアはどこにいるかわからなくて、招待状を送れなかった。
いつか、どこかで会えたら報告しようって決めてるんだ。
いつになるかはわからないけど、いつか会えると思うから。
キットンとスグリさんからはゼン婆さんからの伝言を受け取った。
ガイナからはジョシュアとダイナやミケラ先生たちが来てくれるし、ドーマからはクレイの家族と友達が来ることになってる。
クレイのお爺さんも、わたしのお婆様も、明日には来てくれる。
反対されるかと思ったお婆様は、驚くくらいあっさりと結婚を認めてくれた。
「良かったわね、パステル」と、言われたのはそれだけだったけど。
笑顔さえないそんな一言だけだったけど。
それがすごく嬉しくて、どうしてかわからないくらいに嬉しくて、お婆様に抱きついていた。
戸惑っていたお婆様には、それでも突き放されることはなかった。
「子供みたいだこと…」
呆れたようなつぶやきは聞こえたけど、肩に置かれた手は暖かかった。
今日の昼間にはね、なんとメナースまで来てくれたんだよ。
ちょっとしかいられなかったけど、祝福の言葉を贈ってくれた。
サラさんからは少し前に手紙が届いた。
心からお祝いしてくれてるのが伝わってきて、本当に嬉しかった。
数日前からシルバーリーブに滞在してるトラップたちは、みすず旅館に泊まっていた。
昨日までと同じように、みすず旅館はずいぶん賑わってるんだろうな。
今日限りの賑やかさなんだから、行ってみたい気もしたけど、うん、でも、今日はクレイと二人だもんね。
賑やかなみすず旅館に泊まるのは、次の誰かの結婚式でいいから。
次は誰かな。
何年後になるんだろうな。
できたら早い方が嬉しいけど、みんなに子供ができたらあんまり会えなくなっちゃうかな。
「これからも、みんなに会えるかな」
「会えるさ。会いたくなったら会いに行けばいいだろ?」
「うん。そうだね」
みんなで一緒にじゃなくても。
トラップのいる街。キットンのいる森。ノルのいる村。シルバーリーブには、ルーミィとシロちゃんがいる。
どこにだって会いに行けるよね。
「今日くらいは、みんなのことよりもおれとのことを考えてもらいたいけどな」
「クレイ…」
「明日まで二人だけだしな」
「う、うん」
改めて言われると緊張するんだけど、そんなわたしにお構いなしでクレイはにこにこしてる。
式の準備をはじめる前にはクレイの家に泊まりにいって打ち合わせしたりとか、はじめてからはシルバーリーブに来てみすず旅館に泊まったりしてたけど、この家に二人だけで泊まるのは初めてなんだ よね。
家があるのにみすず旅館に泊まってたのは、懐かしさもあるけど、照れくさいからって言うのもあった。
「何か飲む?」
「いや、いいよ。パステルが飲みたいならもらうけど」
「わたしはいいけど」
クレイってば、さっきからずーっとわたしを見てるんだよね。
嬉しくないわけじゃないけど、身の置き場がないというか、視線の置き場がないというか。
「そろそろ休もっか?」
「まだ9時にもなってないのに?」
「でも、ほら、明日はのんびりしてられないし」
「式は昼からなんだから、そう慌しくもないさ」
「そうだけど」
式は1時からだから、準備にしても朝早くからってわけじゃない。
準備っていっても飾りつけとか、テーブルの用意とかはもうしてあるし、会場はここだからして移動 の必要もない。
だから、クレイの言ってることは正しいんだけど。
「ど、どうかした?」
いきなり肩に手を回されたから驚いた。
「座らないか? 立ってると疲れるだろ」
「そうだね」
いくぶんほっとしながら窓辺から離れてソファに座ると、クレイはすぐ横に座った。
それはいいんだけど、クレイの手がソファの背もたれの上に伸ばされてるから、肩の辺りにクレイの腕があたる。
なんでもないことなんだけど、今日は妙にドキドキするんだよね。
「もう少し、二人でいる時間を作ったほうが良かったな」
「え!? なんで?」
体ごとクレイの方を向くと、伸ばしていたクレイの手が持ち上がって、わたしの頭をなでた。
「明日からは二人で暮らすのに、緊張してるみたいだからさ」
「これから慣れてくからだいじょうぶだよ」
「ほんとか?」
笑ったクレイの顔が近、づい、て。
止まった。
鼻がくっつくくらいの近さで、頬をなでられる。
ぎゅっと目をつぶると、クレイの胸の中に収まった。
「かわいいな、パステルは」
「ひょっとして、からかわれてた?」
「違うって。そんなことするわけないだろ」
「うん。知ってる」
「からかわれたのはおれの方だったか?」
「違うよ。そんなことしないもん」
「そうだな」
どちらからともなく笑い出して、強く抱きしめられた。
「これからは二人一緒にいろんなことをしような」
「うん。いろんなことができるといいね」
「あぁ。何でもできるさ」
明日、神様に誓うように。
どんなときも二人一緒にいられるのなら。
どんな苦難も、どんな喜びも、二人で分かち合えるのなら。
二十年後も三十年後も、しわくちゃのお爺さんとお婆さんになっても、二人はきっと笑っていられるから。
「結婚しような」
「うん」
二回目のプロポーズにも、わたしはしっかりとうなずいた。
「おめでとう」
「おめでとー! 二人とも!」
「幸せになってね!」
「パステルを泣かすなよ、クレイ!」
いつもは静かなみんなの家の庭に、人と花があふれた。
みんなの笑顔の中にあって、それでもクレイの笑顔は際立っていた。
クレイにもそう見えてるかな。
真っ青な青空の下に輝く純白のドレスに、負けないくらいの笑顔になってるかな。
わたしはきっと、もうすぐ泣いてしまうけど。
今日は今までで一番の、最高に幸せな日だ。
END
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