片側だけの重さ


ガタガタと揺れる単調な馬車の音に目を覚ますと、片方の肩に重さを感じた。
冒険の疲れからか、みんながすやすやと眠る平和な午後。
馬車の窓から入る日差しが心地いい。
肩の重みは、わたしの右隣に座っていたクレイがこっちにもたれかかってきたせいだった。
両手でクレイを押してバランスをとらせると、クレイは眠ったままで元の位置へと戻る。
わたしももう一度寝ようかな。
みんなが気持ちよく寝てるから、わたしもまた眠くなってきたし。
誰も見てないのをいいことに、大きな口を隠すこともなくあくびを一つして、目を閉じた。
とたんにまた右肩が重くなる。
閉じたばかりの目を開けて、軽くクレイをにらんだ。
気持ちよさそうに眠るクレイに通じるはずもないけど。
今度はちょっと乱暴に押し戻すと、クレイがまっすぐを通り越して右に傾いていくから、慌ててクレイの肩を引っ張った。
今日はわたしたちの他にも馬車に乗るお客さんがいるんだよね。
その人がクレイの右にいるから、さすがにそっちに寄りかからせるわけにはいかない。
なんだけど。
わたしが引っ張ったもんだから、クレイがまたこっちにもたれてきた。
うーん。
別にいいんだけどさぁ。
起きたら肩が痛くなってそうなんだよね。
クレイも痛くないのかな、わたしのアーマーにも当たってるのに。
でも、ま、しょうがないか。
諦めて目を閉じようとして、ちょっと正面に目を向けたら、三つの顔がわたしを見ていた。
「自分でクレイを引っ張ってましたね」
「クレイが寝てると積極的だよな」
キットンとトラップは聞こえよがしにこそこそとしゃべってるし、ばっちり目が合ったはずのノルは、気を利かせてくれたのかあらぬ方を向いた。
気づかいは嬉しいけど、そんなことされると、本当にわたしがクレイにちょっかい出してたみたいに思えてくる。
なんだか思いっきり誤解されたみたいだ。
変な誤解しないでよね、と言おうと思って思わず身を乗り出すと、わたしにもたれてたクレイが前のめりに倒れそうになる。
びっくりしてクレイを両手で押さえたから、今度はひょっとするとわたしがクレイに抱きついたように見えたかもしれない。
「見せ付けてくれますねぇ」
「今日はやけに暑くねぇか?」
「おれは、見てない」
クレイをまっすぐに戻してから、今度こそはと口を開こうとしたら、ルーミィがわたしの腕をくいくいと引っ張った。
「おあよー、ぱーるぅ」
「お、おはよう、ルーミィ」
ぎこちない笑顔でそう言うと、次には足に触れる手があった。
なんとなく嫌な予感を抱きながら下を向くと、シロちゃんまでが笑顔を向けていた。
その笑顔が、「クレイしゃんと仲良しデシね」とか言ってるように見えるのは、勘違いであってもらいたい。
だ、だからね、と言おうとしたら、馬車が石にでも乗り上げたのか、ちょっとした振動があって。
駄目押しみたいに、またまたクレイがわたしにもたれてきた。
他に寝てる人もいる手前、あんまり騒ぐわけにもいかないから、ここはぐっと我慢しようと決めた。
キットンやトラップにからかわれたら、どうしたって大きな声で反論しちゃうもんね。
好奇に彩られた十の瞳から逃げるように、耳を閉じれない分も、しっかり固く目を閉じた。
シルバーリーブに着いたら、絶対に反論してやるんだから。
いつまでも起きないクレイにも、思いっきり文句を言ってやるんだから。
そんな決意を胸に、いつしか心地よい眠りに落ちていった。
右肩の重みが消えないままに。

「さっきのは違うからね!? わかってるよね!?」
ようやくシルバーリーブに着いたから、馬車を降りて早々にみんなに力説してるのに、誰も聞いてない。
「ふぁ〜あ。眠ぃなぁ。とっとと帰るべ」
「そうですねぇ…」
「おい、まだ寝るなよ、キットン」
「おれ、ルーミィとシロを連れてく」
「…誰か聞いてる?」
「パステル、話なら後で聞くからとりあえず旅館に戻ろうぜ」
言うなりクレイもみんなもさっさと旅館に向かって歩いていく。
「ちょ、ちょっと! 納得はしてくれたの? してないの? 誤解したままじゃないよね!?」
停留所から、みんなの背中に叫んだ。
それなのに、振り向いたのはクレイだけ。
「置いてくぞ」
しかもそんな非情な一言だけ。
「ちょっと! 待ってよクレイ! そもそもクレイが悪いんだからね! ねぇってば、聞いてる!?」
日が暮れかけたシルバーリーブに、わたしの大声だけが響き渡った。
元はといえばクレイのせいなのに、平然としてるからやたらと憎らしくなってくる。
「クレイは寝かせないんだからね! ちゃんと話、聞いてよ!」
変な誤解されたままじゃ、クレイだって困るんだから。
遠ざかって行くクレイが、
「わかったから、早く来いよ」
って今度は笑顔で振り返った。
誤解されたままじゃ困るんだから。
からかわれたりしたら、困るんだから。
たとえわたしが良くても、クレイは困るよね。
きっとすごく、困るんだよね…。


END


〜〜〜あとがき〜〜〜
3000HiT、げんたつさんのリクエストの「何でもOK♪」です。
クレパスというかパステルの片想いっぽいです。
はじめは寄りかかられるのがクレイの予定だったんですが、パステルに変えてみました。
クレイが実は起きてたことにしようかと思ったんですが、最後は微妙にシリアスになってしまったので、これでクレイが起きてたらクレイが駄目な人になりそうなので、止めておきました。
クレイは困らないよ!! と声を大にしてパステルに言いたいです。
遅くなりすぎですが、良ければお楽しみください。
3000HiT、おめでとうございます!







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