覚悟




 欲しいものは、ひとつだけだから。


   *


テーブルの上には、皆へあげたものと同じ、簡単な手作りチョコ。
そして、皆にはあげてない、違うボックス。
この違いに、貴方は気づいてくれるのかな?

「……クレイ」
「何?パステル」

いつも通りの貴方の笑顔が、今だけは恨めしい位。

「あのね、これ」
「ん?……そっか、今日、バレンタインだもんな。ありがとう」

やっぱり普段と同じように、穏やかな笑みを浮かべた彼は。
やっぱり普段と同じように、私へしっかり頭を下げる。

ここで、去年の私なら。
きっと、にっこり笑顔なんて見せて。
「どういたしまして」なんて、明るく言って。
それで終わりにするだろう。

でも。
今年はもう、そんなのをやめてしまった。
曖昧な優しさとか、微温湯みたいな空気とか、そんなものは欲しくないから。



「………クレイ」
「何?」

心臓が飛び出そうな程、五月蝿いけれど。
それでも、深呼吸して、告げる。

「……っ、それ、義理じゃないからね!」

案の定、鈍い貴方はきょとんとして、首を傾げる。
そんな所も嫌いじゃないけど、今だけは嫌。

だから、最後のカードで、勝負。

「え?」
「だから……貴方のは、本命だから!」



……空気が、凍った。



「来月、返事、聞かせてね」

上擦った声で何とか告げて、私はその場から逃げ出す。
もう、これ以上は限界だったから。
一気に自室へダッシュして、扉を閉ざし、ベッドへと勢い良くダイビング。
狂ったように高鳴る鼓動が静まらないのが、恨めしい。

でも。
ちゃんと言えたから。
心の中の、一部分だけは、やたらすっきりとしていた。


   *


 私も、もう逃げないから。
 貴方も、逃げないで。

 一緒に、覚悟、決めて。



特集の部屋へ