帰ってきた災い!!

−1.

 始まりは一通の手紙。
「ちーす! ここにクレイって名前の黒髪の兄さんはいるッスかー?」 
 いつものように、各々の時間を過ごしている部屋の扉が勢いよく開いた。
「きゃー、かわいい♪」
「うささんだおう♪」
 入ってきた来客に飛びついたのはパステルとルーミィ。
 それもそのはず、やってきたのはルーミィより少し小さいピンク色のフワフワうさぎ(らしきもの)。
 特徴としては鼻の頭にちょこんと乗った緑色のサングラス。それから肩から斜めにかけられた古ぼけた革製の鞄。
「うおぉぉぉぉー、俺っちはうさぎじゃないッス!!」
 パステルとルーミィの手から間一髪で逃げたうさぎ(らしきもの)。
「ぐえぇ――って、人の上に乗るんじゃねぇ!」
 まぁ、逃げた拍子に寝ていたトラップを踏んづけたのはご愛敬。
 逃げるうさぎ(らしきもの)を追い掛けようとするパステルとルーミィを、クレイは何とか止めて話を進める。
「クレイは俺だけど何?」
「兄さんがクレイさんッスか? 手紙ッス」 
 クレイの前にピョンと跳び、鞄の中からピンク色の封筒をとりだした。
 たしかに“クレイさんへ”と宛名が書かれている。しかもハートマークつき。
 裏返してみるが……差出人の名前が書いていない。
「誰からなんだ?」
「秘密ッス。俺っちはただ手紙を届けるのが仕事ッス」
 それだけ言うと窓枠にピョンと飛び乗った。
「じゃっ、俺っちは次の配達に行くッス」
 ピッと敬礼をして窓から飛び出そうとするうさぎ(らしきもの)。
「えぇー、うさぎさんもう行っちゃうのー?」
「うささん行っちゃうのかー?」
 抗議の声をあげる二人に向かってうさぎ(らしきもの)がフッと笑った。
「俺っちはさすらいの郵便配達人。人は俺っちのことを風来のポストマンと呼ぶッス。アデュー」
 別れの言葉を残して謎のうさぎ(らしきもの)は去っていった。
「郵便配達人がさすらってどうすんだ?」
「深く考えないで欲しいッスぅぅぅぅ〜」
 ポツリと言ったトラップの突っ込みに遠くから声が聞こえたがあまり話と関係がない。
「ねぇ、何て書いてあるの?」
 名残惜しそうに窓を見ながらパステルがクレイの隣に立った。
「えっ、あ、あぁ。何々『またお邪魔します。よろしくですっ♪』……?」
「何だそりゃ?」
「俺に聞かれても……」
 さぁ、小悪魔再来です。


0.

「お久しぶりのライトエルフのシャルちゃんで〜す」
『俺っちはさすらいの配達人ことユエッス! 言っとくッスが、うさぎじゃないッスよ!!』
「むぅ〜、まだいたの?」
『いるッス。俺っちは一発キャラじゃないッス』
「でも、これで終わりでしょぉ〜」
『うっ、うるさいッス。それより“私、前回の話し知らないなぁ”や“えぇー、前回の話ってどんなんだったけ?”って思ってる方のために前回のあらすじを言っておくッスよ』
「わかりましたよ〜だ。……コホン、みなさん改めましてこんにちわ〜シャルちゃんでっす。さて、シャルは前回黒髪のお兄さんことクレイさんに蜘蛛の巣から助けてもらったことがあるんで〜す」
『まぬけッス。どうしようもないまぬけぶりッス』
「うるさ〜い! あんた邪魔!!」
『ふん、絶対帰らないッス。それよりさっさと続けるッス』
「くぅぅぅ〜!! こんど狭い箱に一人っきりにしてやる〜」
『!? そ、それだけはやめるッス。俺っち淋しくて弱ってしまうッス』
「じゃあ、大人しくしてて」
『くっ、しかたないッス。で、助けて貰ってどうしたッスか?』
「そうそう、シャル達ライトエルフのモットーは“受けた恩は必ず返す”です。だからお兄さんの願いを叶えてあげようと思ったんですっ」
『嫌なモットー――なんでもないッス』
「――でも、お兄さんは別にいいっていったんですぅ。だからお兄さんの後を付けました。すると、お兄さんがこう言いました。“猫はいいな”って〜」
『ストーカーに盗聴ッスか。良い子は真似しないでくださいッス』
「言っとくけどシャルも良い子〜!! で、そう言ったから猫さんにしてあげたんですぅ。……でも、あんまり喜ばれなかったのぉ。シャル頑張ったんですけどねぇ」
『ハッキリ言って“小さな親切大きなお世話”状態ッス』
「……水もいっぱい用意しないとね」
『あぁ!! 水も嫌ッス〜』


1.

「ん〜」 
 椅子の背もたれに体重をかけたパステルがうなり声をあげた。
「パステル、どうしたんだ?」
 思わずクレイが剣の手入れをしている手を止めた。
「うん。あのね、この間のクエストで出会ったモンスター、名前何だった? 私、ど忘れしちゃて」
「忘れるのはモンスターの名前だけじゃないだろうが」
 ベットの上からトラップが茶々を入れる。
 それにパステルは舌を出して抗議の意を示した。
 クレイは笑って二人を見ている。
 いつもの風景――だった。
 そう、今このときまでは……。


2.

「ぱーるぅ。しおちゃんが、しおちゃんが大変なんだおう」 
 突然、慌てた様子のルーミィが部屋へと飛び込んできた。
 部屋を見回し、一目散にパステルの元へと駆け寄った。
 今にも泣きそうな顔をしている。
「ちょ、どうしたのよルーミィ」 
「ルーミィ、シロがどうかしたのか?」
 優しい声でクレイが訪ねた。
「しおちゃんがしおちゃんじゃなくなったんだおう」 
 一生懸命に説明してくれるルーミィ。
 が、いまいちよく分からない。
「ゆっくりでいいから、シロがどう大変なのか教えてくれないか?」
 子どもをあやすかのように――訂正、ルーミィをあやしながらそう言った。
 その時、開けたままになっていた扉から可愛らしい少年が飛び込んできた。
 年齢にして7,8歳。サラサラの青みがかったシルバーブロンドに黒曜石のような瞳。
 どこかの国の王子様、そんな印象を与える少年だった。
 そして、その少年が口を開いた。
「ボク、人間になっちゃったデシ!!」 
 その言葉を聞いて、少年とルーミィを除く3人の時が一瞬止まった。
「もしかして」 
「おめえ」
「シロちゃんなの〜」
 3人で一つの言葉となった。


3.
 

 6つの目が少年にそそがれる。
 たしかに……よく見れば以前出会ったシロの母親に容姿が似ている。
 それに瞳を見ればシロだと分かった。
「ボク、どうすればいいんデシか?」 
 涙に潤ませた瞳でパステルを見上げる。
 可愛いもの好きのパステルがそれに反応しないわけがなかった。
「シロちゃん……かわいい♪」
「パステルおねーしゃん苦しいデシ!!」
 ギュッと抱きしめるパステルにシロが抗議の声をあげた。
 それに頬を引きつらせるのはクレイ。
「クレイちゃん、ある意味不幸♪」 
「……うるさい、トラップ」
 パステル達に悟られないようにトラップを睨み付ける。
 それに対しトラップ「おぉ〜、怖♪」言いながらも楽しそうなのは気のせいではないだろう。
「それにしても……なんでいきなり人型になったのか心当たりはないか? ルーミィも何か思い出さないか?」
 パステルの後ろからシロをジッと見つめていたルーミィは、突然呼ばれて驚いたようだ。
「ルーミィしあないよう。しおちゃんと遊んでたらいきないピカーって光ってしおちゃんじゃなくなったんだおう!!」
「そうデシ。ボクいきなり光って人間になったデシ」  
 一生懸命説明してくれるが……分かりずらい。
 と、困り果ててるメンバーの耳にギターの音色が!!
――次回に続く――

「なっ!? なんでこんな良いところで切るッスか!!」
「って、言うよりシャルの出番は!!」
「そんなことはどうでもいいッス。今大切なのは俺っちのギターテクのご披露ッス!!」
『そっちの方がどうでもいいの!! シャルの出番〜!!』
 だぁぁぁ!! うるさいよ、災いコンビ!
『「コンビじゃない!」ッス!』

 
4.

「俺っちは〜♪ さすらう郵便配達人〜♪ 人〜は〜俺っちを風来のポストマンと呼ぶッスゥゥゥゥゥ〜〜〜〜♪」
『俺っちのテーマ♪』
 作詞作曲:ユエ/演奏:ユエ/ボーカル:ユエ
 歌い終わり満足そうに肩で息をしているピンクのふわふわうさぎ(らしきもの)。
 白いギターが真夏によく似合う。
「また来てくれたんだ、うさぎさん♪」
「うささんだおう♪」
「だから俺っちはうさぎじゃないッス!! ちゃんとユエって名前があるッス」 
「……俺はそれよりも今の歌に疑問を感じるぞ」
 クレイの後ろに非難してからユエは抗議の声をあげた。
 それを横目で見ながらトラップが呟くが、誰も相手にしてくれそうになかった。
 なので質問を変えてみる。
「郵便配達はどーした?」
「今日は非番ッス。だから手伝ってあげるッス!!」
 腕を組み見下ろすトラップにピッと片手をあげる。  
 非番の日に何をしているのか謎である。
「ユエしゃん……何しにきたんデシか?」 
 すっかり忘れられているシロが自分の存在をアピールするためにユエに声をかけた。
 シロに声をかけられ固まる。
 そして時間にして43秒たった後、ポンと手を打ち鳴らした。
「なんでしたッスか?」
「……ユエしゃん」
「お、俺っちが悪かったッス! そうッス、俺っち犯人を知ってるッス!!」
 怒りの炎を背後に背負いニッコリと微笑む美少年。
 普段のシロ(子犬バージョン)からは想像もできないその様子に、一同はさっさと原因を捕まえてあの素直で優しかったシロに戻そうと心から思った。
「そ、それで犯人はだれなんだ?」 
 クレイの言葉にユエは勿体ぶるようにそこにいるメンバーを一人一人見渡した。
「フッフッフッス。犯人は――」
 一度言葉を止めじらす。
「犯人はぁぁー!!」 
「シャルちゃんでっす♪」 
「何で出てくるッスかぁぁぁぁぁぁー!!!」
 いきなり現れたライトエルフにユエの絶叫がこだました。


5.

「「「あぁ〜!!」」」
 クレイ、トラップ、パステルの3人に指差されたライトエルフはくるんと一回転をしてニッコリと笑う。
「はーい、お久しぶりのシャルちゃんです♪ みなさん元気でしたか〜」
「元気でしたか〜……じゃないッス」 
 半眼でシャルの羽を掴むユエ。
 当然ながらシャルもそれに抗議するように、長く伸びた(ライトエルフサイズで考えて下さい)手足を一生懸命に振り回した。
「何するですかぁ、うさぎ!!」
「俺っちはうさぎじゃないッス!! 何度言えば分かるッスかぁぁ!!」
「うさぎはうさぎ!!」
「くぅぅぅぅ!!」 
 うさぎVS虫の戦いが今、始まろうとしていた。
「シャルは虫じゃないです!!」
「だからうさぎじゃないと言ってるッス!!」

「……ボクのことあくまで無視する気デシね」
 にこやかに苦笑するシロを残ったメンバーが寄り添いあって遠くから眺めた。 


6.

――ガシャン!!――
 ぎゃいぎゃい騒ぐ二人の頭上から大きな檻が被さった。
「な、なにですかぁ〜!!」
「いきなり檻ッスか!!」
 檻の中で唸る二人に冷たい視線が突き刺さる。
 クスクス……そんな笑い声も耳に聞こえる。
「……ボクを無視するからデシよ」 
 今まで言い争っていた二匹……いや、二人? が抱きしめあう。
「お、落ち着くッス」
「シャルもここは冷静になった方がいいと思うです」
 お互いの言葉に頷きあう二人。
 シロは二人に目線を合わせるように屈むとにっこりと微笑んだ。
「だったら黙ってボクを戻すデシ」
 殺意を感じる天使の微笑みにシャルと、ついでにユエも首を縦に振るしかなかった。


7.

「やっと戻れたデシ♪」
 子犬サイズに戻ったシロは嬉しそうな声を出した。
「わーい、しおちゃんがしおちゃんになったおう」
「ルーミィしゃん、これで泣かないでくれるデシね♪」
 すっかり普段の優しいシロに戻ったことを一同は心から喜んだ。
 はしゃぎ合う二人を横目で見てからクレイはシャルに向き直る。
「それにしても……なんでシロを人間の子どもにしたんだ?」
 シャルはクレイの肩にちょこんと腰掛け、ニッコリと微笑んだ。
「あっ、それはですね前にお食事貰ったのにお礼していないことに気が付いたからです♪」
 そこまで聞いてトラップが額をおさえる。
「……をい、もしかして前回のクレイと同じようにシロが“人間になりたいデシ”とかなんとか言ったからかぁ」
「はい♪」
 その返事にはパステルも額をおさえた。
 結局……前回と同じような災難が襲っていたというわけだ。
「もう、なんにも恩はないんだよな」
 クレイが念を押すようにシャルに言う。
 言われた方は唸りを上げて考え込んだが……笑顔で首を縦に振った。
「はいです。もうなんにもなかったです……たぶん(ボソ)」
 シャルの最後の言葉を聞き取れなかった3人は、ホッと胸をなで下ろした。
 でも……そう言うパステルの言葉がクレイの耳に聞こえる。
「パステル、どうした?」 
「うん、ちょっと残念だったかなって」
 残念、何が残念だというのだろう。
「だってね、もうクレイの猫になった姿見られないんでしょ。もう一回ぐらい抱っこしたかったなー、って思ってね」
「なっ!! なに言ってるんだよ」
 サラリと言われた大胆な言葉にクレイは顔を真っ赤にする。
 そんなクレイの耳元でトラップが囁く。
「どうせなら抱きしめられるより抱きしめたいんだろ、クレイちゃん♪」
「トラップ!!」
 こうしてまたいつもの風景が戻る――はずだった。
 ポンッ♪ 可愛らしい音と煙……
「ケホ……なんだぁ?」 
 煙も消えてクレイが声をあげる。
 そんなクレイを指差すトラップ。その顔は驚きと笑いが入り交じったおかしな表情。
「ク、クレイ、おめぇその姿!!」
「きゃぁー!! クレイの猫姿♪」
 パステルに抱きしめられてクレイは自分がまた猫になってしまったことに気が付いた。
「シャルー!!」
 クレイの絶叫の中、言い争いながらみすず旅館を後にするうさぎと虫が目撃されたという。


7と半分.

『終わったッス。なんていい加減な小説だったッスか』
「終わったです。そう、しかもあんまりおもしろくなかったよね」
『でも、なんで最後クレイさんを猫にしたッスか?』
「檻から出して貰った恩を思い出したから♪」
『やっぱり嫌なモットーッス』
「……コソコソ、ガサガサ」
『何をやってるッスか?』
「えい!! 狭い箱攻撃〜!!」
『甘いッス!! 虫取り餅攻撃ッス!!』
「嫌ぁぁ、ベタベタ〜」
『嫌ッスぅぅぅ、一人ッス。寂しいッス〜』


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