ジレンマ


絶対伝えたいのに、言葉が見つからなくて。
親しくなりたいのに、このままでいたくて。

今日もまた、戸惑う。

     *

「はあぁ……」
机の上に、並んでいるのは。綺麗にラッピングした、小さな箱。
中身は、言わずと知れた、贈り物で。
相手はもちろん、決まっているのだけれど。
その人は、今日一日、会えないまま。

朝一番から、親衛隊を名乗る人たちに捕まって。
「クレイさん、これ受け取って下さい!」
「私たちの気持ちなんです」
「応えてもらおうなんて、そんなこと考えてませんから……どうか受け取ってもらえませんか」
なんて、潤んだ瞳と真っ赤な頬で言われては。
クレイならずとも、「情にほだされる」というのか。
「……あの、俺、きっと君たちの気持ちには応えることができないと……」
と、言い訳などしつつ、手を伸ばしているのも、仕方ないのだろう。
「クレイさん! 今日一日だけでいいんです!」
「是非私たちに付き合ってもらえませんか!?」
……結局。彼の人のよさが、どこまでも災いして。彼はそのまま、『クレイさんを囲むお茶会』なるものに、連行されていったまま。暗くなっても、戻らない。
「───んもう」
私のこんな、もやもやなんて。恐らく考えても、いないんだろう。
仕方ないのは、わかってる。でも、でも……ね。
「私だって、女の子なんだよ……。ちゃんと今日、あなたに伝えたいんだよ……」
包み相手に、ぼやいても。答えは返ってくるはずもなかった。

真夜中に。
包みはそのままに、私はペンを走らせる。原稿用紙が、思ったよりも順調に文字で埋められていって。
「………、よし! できたっと」
嘘みたい。締切りまでまだ、3日ぐらいあるのに。見事話が、完成を見た。
「明日印刷屋さんに届けて来ようっと。一日遅れのチョコも持っていかないといけないし……」
書きあがった原稿を、袋詰めしながら。私はそんなことを、考えていた。
「───そろそろ、12時だね」
ぼんやりと、呟く。
今年も伝えられなかった、気持ちと。
今年は渡せなかった、心と。
ずっと言いたいのに言えないままの、私が。
今日が終わるのを、ただぼんやりと感じていた。

「あれ、パステル、起きてたのか」

不意に耳に届く、聞きたかった声。慌てて声の方を見やると、疲れを露にしたクレイの顔があった。
「クレイ! お疲れ様、遅かったね」
労いの声をかけると、彼はぼりぼりと頭を掻いて。
「うん、悪かった。夕食まで付き合う羽目になっちゃってさ」
そう答えてから、持っていた紙袋を持ち上げた。
「たくさん貰っちゃったから、お返しが大変だよなあ」
女の子たちの気持ちがぎゅっと詰め込まれた、その紙袋を見て。私の心臓が、きゅっと切なくなる。
「……全員親衛隊の人なんでしょう? まとめてクッキー缶、とかは駄目なのかな」
動揺を悟られないように、助言すると。
「そうだな、それもいいよな。サンキュー、パステル」
彼は嬉しそうに微笑んで。
「それじゃ、おやすみ。あまり根を詰めるなよな」
「うん、ありがと。おやすみなさい」
ごく普通に、挨拶してから。自室に戻っていった。

「……はあ」
彼が去った、部屋の中。私はひとり、溜息をつく。
本当は、誰のチョコも受け取ってなんて、欲しくない。
本当は、私のチョコだけ受け取ってもらいたい。
でも、そういうわけにはいかないから。
「……また次の機会まで、お預けだね」
私は寂しく微笑むと。彼へのチョコから、気持ちを綴った手紙をそっと、抜き出して。
出せないままに、引き出しへしまい込んだ。

     *

絶対伝えたいのに、言葉が見つからなくて。
親しくなりたいのに、このままでいたくて。

今日もまた、溜息。





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