言えないクリスマス


降りしきる柔らかい雪を見ながら、暖かい部屋にいる君とおれ。
パーティも終わってみんなが眠りについて二人きり。
「パステル、おれ…」
「クレイ?」
「おれ、おれ、君のことが…!!」
「クレイ!! わたしも…」


「おーい。大丈夫か? おい!」
目の前にぬっと現れたトラップにおれは思わず
「うわぁ!」
叫んで飛びのいてしまった。
「なーに、にやついてんだよ。気持ち悪いやつだな」
「べ、べつに、おれは…」
パステルと二人きりの場面を想像いてたなんて言えないよな。
「なんでもないさ。それよりお前は」
気を取り直して、話題をさりげなく変えようとした。
「どうせパステルと二人っきりでいちゃいちゃしてるのを妄想してたんだろ」
かっと顔が熱くなる。
どうしてこいつはこう鋭いんだ。
「そ、そんなこと…」
「ばればれだっつーの。んで? きっちり予定は組んでるわけ?」
「予定なんか考えてないけど」
いつものようにおもしろそうなこいつの顔。
おれをからかうことを生きがいにしてるよな、こいつって。
「そんなんで上手くいくと思ってんのかよ。考えとかねぇと他の男と約束すっかもしんねぇぜ」
からかわれてるだけだから、さっさと部屋を出て行けばいい。
そう思いながらも、こいつの言葉に不安を広げる。
他の男…。
こいつにはマリーナがいるし、キットンにも今はいないとはいえスグリがいる。
まさかノルと約束するとも思えないよな。
シロはドラゴンだし。
「パステル、ノルと出かけたみたいだぜ?」
「ノルと!?」
まさか、ノルがパステルが好きだなんてことはないよな?
「ノルとなら、買い物とかだろ」
冷静さを装って、余裕を持って返事をした。
そうだ、ノルとパステルなんて、そんなことがあるはずがない。
「顔色が変わったくせによく言うぜ。ノルだって男だけどな」
「そうだけど…種族だって違うし」
おれがそう言うと、トラップは鼻で笑った。
「種族が違うったてボッシュ族とかじゃねぇんだからよ。巨人族と人間の違いなんて体のでかさだけじゃねぇか」
たしかに、そうだよな。
でも、ノルが?
今までノルが誰かを好きになったなんて聞いたことがない。
レディ・グレイスには迫られてたけど、どっちかっていうと困ってたよな。
ノルの好みとか知らないけど、家庭的で優しいパステルを好きになったっておかしくないよな。
「おれ、ちょっと」
「おぉ、行ってこい」
こいつにしては優しい笑顔。
ふと、思い当たったこと。
「お前はまだ出なくていいのか? エベリン、行くんだろ?」
「準備はもうできてるからよ」
「そっか。気をつけてな」
「大丈夫だって。おら、早くいかねぇと知らねぇぞ」
面倒くさそうに手を振るトラップ。
こいつも柄にもなく緊張してるのかな。
「上手くいくといいな」
「まかせとけって。お前もな」
「あぁ」
手をあげて部屋を出た。
買い物って言ってたから市場かな。
市場を回ってみたけどいない。
もう帰ったんだろうか。
歩き続けながら、でも、ノルがパステルを好きなら邪魔なんかするべきじゃないよな。
そう、思うようになった。
おれだってパステルと二人でいる時を邪魔されたくない。
それならノルのせっかくの時間も邪魔しちゃ悪いだろう。
ノル、かぁ。
考えてもいなかったな。
ノルは誰でも認めるようないい奴だし、常に誰にでも優しくできる。
ほがらかな笑顔は周囲を和ませるし、無口だけど無愛想なわけじゃない。
ノルって実はもてるんじゃないのか?
パステルも、もしかしたら。
おれが敵うわけがないじゃないか。
ノルはノル、おれはおれ。
それはわかってるけど。
落ち込みそうになりながらも、とりあえず旅館に戻った。

庭に、ノルがいた。
「おかえり」
「あ、あぁ、ただいま」
反射的に辺りを見回したけど、いたのはノルだけで、パステルはいなかった。
「どうかしたか?」
「いや、パステルが。あっ」
口を手で押さえてしまってから、そんな必要がないことに気づいた。
おれがパステルを探してたってちっともおかしくないはずだ。
なのに、なにを慌ててるんだ。
「その、パステルを探してて。別に特に用があるとかそういうことじゃないけど」
しゃべればしゃべるほど墓穴を掘ってる気がする。
早くここから立ち去ったほうがいい。
「悪かったな、引き止めて。それじゃ」
何を言ってるのか、自分でもよくわからなくなりながらも、なんとかそう言って旅館に入ろうとした。
「パステルが言ってた」
「え?」
ノルの声に振り返った。
「クレイを買い物に誘おうとしたけど、変な顔をしてたから止めたそうだ」
「変な顔? おれが?」
そこまで聞き返してから気がついた。
トラップが、パステルとノルが連れ立って出かけたことを知ってるってことは、二人と入れ違いにトラップが旅館に戻ってきた可能性が高い。
なら、おれを誘おうとしたパステルは、トラップが入ってくる前に部屋に入ってきたわけで。
おれが一人で妄想にふけって、変な顔をしてるのを見たわけで。
変な顔…。
「そ、そっか。いや、なんでもないんだ。うん。ほんとに」
よろよろと旅館に向かって歩き出した。
「クレイ、顔色が悪いぞ」
「大丈夫。大丈夫だから」
パステルに見られたのか…。
精神的なダメージを受けながら、ノルを残して部屋に向かった。
おれってものすごく情けなくないか?
あんなところをパステルに見られてたなんて。
それでパステルとノルのことを疑って。
いや、パステルがノルを好きじゃないって決まったわけじゃない。
少なくとも、一人でへらへらしてるような男よりもノルの方がずっといいよな。
おれって…。

結局、今年のクリスマスは予定していたようにパステルを誘うどころか、ろくに顔も見れないようなありさまだった。
トラップを除いたみんなでのパーティが終わったら、パステルも「リタのところに泊まるね」と猪鹿亭に行ってしまったし。
きっと、来年にしろっていうことなんだ。
そう、無理やり自分に言い聞かせて、今年のクリスマスは早々に寝ることにした。


「クレイ、どうしたのかなぁ」
猪鹿亭の二階のリタの部屋で、わたしとリタはくつろいでた。
「クレイがどうしたの?」
「最近、わたしが話し掛けようとすると逃げてくんだ」
「照れてるんじゃないのぉ?」
楽しそうにリタが言う。
そうだったら嬉しいんだけどね。
「でもねぇ、クレイもせっかくの日なんだからパステルと二人で過ごせばいいのにね」
「今年はリタのところに泊まるって言ったから」
「パステルってば、ほんとはそれでも誘ってほしかったんでしょ?」
「そんなこと…ある、けど」
リタがはじけたように笑った。
「来年はパステルから誘いなさいよ」
「えー? わたしから?」
リタはずいっとわたしに近寄ってきた。
「せっかくクレイが好きだって気づいたんだから、待ってないでガンガン行かなきゃ。相手はクレイなんだし、いつまでも待たされるわよ」
「そ、そうだね」
「じゃ、決まりね! 来年こそはくっつけるわよ!!」
力強く宣言するリタに、わたしも来年は誘おうかなっていう気になってきた。
うん、来年は頑張ろう!




END

〜あとがき〜
ぎりぎりセーフのクレパスクリスマスです。
が、クレイとパステル、会話どころかまとももに会ってすらいません。
たまにはこんなクリスマスもありかな、と思いまして。
しかし、クリスマスやないと言えないんでしょうか、クレイもパステルも。
こだわりすぎです、お二人方。
来年こそは二人っきりで過ごしてもらいたいものです。
しかし、トラップが欠けたパーティは少し寂しそうですね。
遠距離なんで、こんな日くらいは、と思いますが。
来年はマリーナに来てもらうかエベリンにみんなで行ってもらいましょう。

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