その人は、いつの世にも生きていました。
その人は、たくさんの人に愛されました。
でも。
その人は、誰も愛していなかったのです。
*
あるときは、無骨な鎧に身を包んだ、流れ者の傭兵。
その人を愛したのは、酒場の華と称された美女。
あるときは、竪琴片手に世を儚む詩人。
その人を愛したのは、通りすがりに彼の歌を耳にした少女。
あるときは、国じゅうから慕われる王子。
その人を愛したのは、国じゅうの乙女。
でも、どんなときでも。
彼は、誰も本当に好きにはなれず。
やがて、ひとり寂しく、死んでいったのでした。
そうして、死んではまた、生まれ変わり。
だけど、誰も本気で愛することができぬまま、また死んで。
やがて、100万回の生死を繰り返した頃に。
とうとう彼は、心弱く傷つくのを怖れる剣士となってしまいました。
誰も、彼を見ようとしない。
誰も、彼の美しい外見だけを見て、内面を見ようとは思わなかったのです。
そして、彼は誰にも愛されなくなってしまっていたのです。
彼もまた。
誰も愛そうとしないまま、日々をただ生きていたのです。
しかし。
彼の前に、ひとりの可愛らしい少女が現れたことにより、彼は変わっていきました。
彼女は、いろんなものを愛し、いろんな人を愛していました。
心の弱さと同じだけの優しさを持っていた彼を、誰よりも愛しました。
そして。
彼は、初めて『愛する』心を知りました。
相手を誰より、何より大事に想う気持ちを知りました。
愛する心を知った彼は、初めて人に愛されることの喜びを知り。
愛することと、愛されることを知った彼は。たくさんの人の人気者になりました。
そうして。
長い時間が過ぎた、ある日のこと。彼女は静かに、動かなくなりました。
彼は、ただ涙を流しました。
100万回の時を繰り返して、初めて流す涙でした。
幾度の昼を、幾度の夜を、彼は泣き暮らして送り。
やがて、涙が枯れるとき。
彼もまた、彼女の隣。静かに動かなくなりました。
彼は再び、目を開けることはありませんでした───
*
その人は、もう目覚めません。
その人は、もう誰にも愛されません。
でも。
その人は、今とても幸せだと、思いませんか?
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