『変化』

 クレイの誕生日。
 今年は忘れずに、お祝いしようと思って。…とはいえ、相変わらずの貧乏だか ら、大したこともできないけど。一応ささやかながら、パーティとかプレゼント もみんなで企画して。
 そして、今日を迎えた。



 今は、ちょうど0時を過ぎた。
 本当ならもう眠っている時間だけど、今日は特別。だって、クレイの誕生日だ から。
 一番最初に『おめでとう』が言いたくて。この時間まで、待ってたんだ。(原 稿書いてたっていうのもあるけどね)
 とはいっても、もう眠ってるはずだから。寝顔に向かって「おめでとう」って 言ってもしょうがないのかもしれないな。でも…こういうのって、なぜだかワク ワクする。
 普段は絶対、できないこと。



 そのとき。
 コンコン、と静かなノックの音がした。
 「パステル、まだ起きてるのか?」
 …クレイ?なんで?
 がちゃ、とドアを開けると、そこには眠ろうとしていたらしく、パジャマ姿の クレイ。
 「どうしたの?こんな夜中に」
 「いや…ちょっと、眠れなくて。そしたら部屋から灯りが漏れてたから」
 ぼりぼりと頭をかきながら、何となく照れ笑い。どうしたんだろ?
 でも、これって実はけっこういいチャンス?
 「とにかく、もう遅いから眠れよ、パステル。それじゃ…」
 「―待って、クレイ」
 私は、自分の部屋へ帰ろうとしたクレイを呼び止めた。
 「何?」
 振り向いて、じっと私を見つめるクレイ。鳶色の瞳は、優しく輝いてる。
 「あのね。お誕生日、おめでとう」
 私が言うと、彼は一瞬きょとんとして、その後でぱっと顔を輝かせた。
 「パステル、覚えててくれてたのか?」
 「当たり前でしょ?だって…」と言いかけて、私は慌てて口を押さえた。
 (だって、クレイのことだもん)なんて言えないよぉ。
 「どうかしたか?」と顔を私に近づけて、尋ねてくるクレイ。うう、心臓に悪 いアップ。
 「な、何でもないよぉ、あはは。とにかく、おめでとう」
 私はちょこっとひきつり気味の笑いを浮かべつつ、ぱたぱた手を振った。これ で誤魔化せるとは思えないけど…
 「うーん…ま、いっか。とりあえず、ありがとう、パステル」
 クレイは納得していないようだったけど、笑顔で答えてくれた。…ほっ。



 「ねぇ、クレイ。とりあえず、って何だかあんまり嬉しくないみたいだよ」
 私が言うと、クレイは苦笑しながら「パステルのとにかく、っていうのも、あ んまり祝ってくれてるようには聞こえないぞ」と答えた。確かにそうだよね、ふ たりとも。何だかおかしい。
 私とクレイは、顔を見合わせて、ぷっと吹き出した。
 「さ、本当にそろそろ寝ようか」
 「そうだね。クレイ、おやすみなさい」
 私はクレイに挨拶して、自分の部屋に戻ろうとした。
 すると、クレイが私の腕を掴んだ。
 「…何?」
 答える私の顔を見つめるクレイ。その瞳は、さっきとは違ってて。優しい光じ ゃなくて、熱い炎を宿した瞳が、私の心を射貫こうとしている。
 「パステル…ありがとう」
 彼の声も、ちょっといつもと違う響き。暖かさじゃなくて、熱を帯びた声。私 を包み込み、焼こうとしているかのような。
 やだ、何だか私の体火照ってきたみたい。顔も熱いよ。きっと赤くなっちゃっ てる。
 心臓の音も、やたらどくどく響いてるし。
 「それじゃ、おやすみ」
 そういって、クレイは私の腕を離してくれた。そして、何事もなかったかのよ うに、自分の部屋へ戻って行った。
 私はのろのろと部屋に戻り、そのままベッドにもぐり込む。
 どきどき、どきどき。まだ収まらない心臓。体温も上がったまま。
 (クレイ…どうして、あんなにいつもと違ったの?)
 心の中で叫んだ言葉は、彼には届かないけど。私はしばらく眠れなかった。


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