「・・・一度気を許したら駄目ね。 完璧に、油断してた」
「あぁ、ちょっとでも信用したら簡単に裏切られる・・・・何の情けもなしに、な」
「それを天然でやってるから怖いんだよね、意図的だったらこっちも対処のしようがあるのに。 予測もできないし、かと言って責めるなんてお門違いだし」
「おれらは確かにお人好しだし、騙されやすいっていうのも認めるけど、この場合はしょうがないと思うよ。 でもさ、おれ・・・・こんなにも振り回されたの初めてだ」
「うん、ここまで手の平かえされると、どうしていいか分かんない」
「・・・・・・・なあ。 おめぇら、一体何の話してんだか見当もつかないんだけど、聞いてもいい?」
時は、3月末
いっそう春めいてきた穏やかな小春日和にピクニックにきたおれたち。
しかし、
朝出掛けた時の上天気とは打って変わって、目的地に着いた途端雲行きが怪しくなってきた。
しかも、冬が戻ってきたかのような寒さ、
ピクニックに来たはずのおれらは、何故かぶるぶると震えながら弁当を食っているのであった。
「何の話って、天気の話に決まってるじゃない。 ねぇ、クレイ」
「ああ、三寒四温って昔の人はよく言ったもんだなぁって二人で感心してただけじゃないか、変な奴だな」
おれたちがそう言うと、トラップは一瞬ぽかん、としたが、はっと我に返り急いで何か言ってやろうという顔になったが、諦めたように大げさに溜め息をついた。
本当に変な奴だな、トラップ 一人で百面相か?
「しかし、ほんと寒いですねえ。 何だかこうして周りを見渡してみますと、呑気にピクニックなんかやってるの私たちくらいなもんですよ。 ねえ、皆さん? ぎゃはははははは」
・・・・でも 一番呑気なのって、キットンじゃないかって時々思うよ。
「あああ、ぱーるぅ! とりゃーがルーミイのミートボールとったおう!」
「ばぁか、おめーが芝生の上に落っことしてぼけーと見てっから食ってやったんだろぉ。 おれのルールでは10秒以内はセーフなんだよ」
「ずるいおう!!」
ルーミイとトラップが、ぎゃーぎゃーわめいているのをパステルがどうにかなだめようと必死になっている。
大変そうだなぁ・・・・・
そう思いつつも、ふと眠気が襲い、芝生の上に寝転がろうとしたその時、
「ダメデシ!!」
というシロの鋭い声がした。
「へ?」
「クレイしゃん、ちょっと待ってくださいデシ」
シロはにっこり笑って、・・・笑って・・・・・・
ぱくっ、 ぐちゃ、むしゃむしゃむしゃ、ぺろっ
「クレイしゃん、もう少しで毛虫しゃんを踏むところだったんデシよ♪ 危なかったデシね。」
「あ、ああ さんきゅ・・・・」
眠気、ふっとんだよ シロ・・・
「大丈夫、もう少ししたらまた晴れる」
穏やかな低音に、はっと振り返るとノルがにっこり笑った。
「あぁ、ノル 天気のこと、分かるのか?」
「あっちの空は、明るい。 それに、雨降るなら鳥たちがもっと騒ぐはずだから」
「そっか、じゃあもうちょっとしたら晴れてあったかくなるかもなぁ。 いくらなんでも、ピクニックにしては寒すぎるよなー」
しばらく、ノルと喋って
ふと空を見上げると、ほんとに晴れ間が覗いてきた。
天気って、よく分からないよなあ・・・
“女心と秋の空”って、よく言うくらいだし。
ま、今は秋じゃないけど。
それに、微妙な女心ってのも、おれには正直理解できないんだけど。
「わあ、晴れてきたねぇ! あ、見て見て 陽の光に照らされた桜の花って、何かすっごい素敵だよね」
いつのまにか隣に立っていたパステルが、嬉しそうに指さしてはしゃいだ。
「うん、夜桜もいいんだけど、太陽の下の桜もいいよな」
おれが賛同すると、トラップが意地悪そうに目を半開きにして言った。
「お二人さん、ロマンチックだねえ〜。 桜なんて、どーせ散るんだから昼でも夜でも綺麗なのは最初のうちだけだろぉ?」
「夢の欠片もありませんね、まったくトラップは。 桜の散り行く様こそが美しく、最高にロマンチックな瞬間なんですよ。 桜というのは、出会いと別れを意味すると言いますが、あっそうそうスグリとわたしが出会ったのも、そう桜の季節でした・・・なんちゃって。 でも、あれっ?いや秋のキノコの季節だったかなあ〜。 忘れちゃいましたね、ぎゃっはははは! まぁ、どっちにしてもそもそもですね、出会い方は何であれ運命の瞬間というのは・・」
「おめえ、五月蝿ぇんだよっ!!! ロマンチックな瞬間をぶちこわしてんのは、てめーだろ!? ったく」
いつもの2人のバトルが始まり、おれたちは慣れたもんで知らないふりを決め込んだ。
「・・・・そうそう、ところで やっぱ散る前に一枝だけ持って帰っちゃ駄目かなあ」
「いいんじゃないか?一枝くらいなら 花瓶にさしたら綺麗だろうな。 届く?」
懸命に桜の木に手を伸ばしているパステルに、声をかける。
「うぅ〜ん、あとちょっとなんだけど届かない、かな」
おれがとってやろうか、と言いかけてやめた。
パステル、自分で取りたいのかもしれないし。
「おんぶしてやろうか? ほら」
いい案を思いついたとばかりに、パステルの前に背を向け膝をついた。
でも、何の反応もない。
「? パステル・・」
振り返ると、パステルが何故か少し赤い顔で決まり悪そうにしていた。
「嫌だよ、そんなの」
「えっ、何で。 大丈夫だよ、気にしなくても。パステルぜんぜん軽いしさ」
「もぅ、そーいう問題じゃないの! 嫌ったら嫌!! クレイになんか、おんぶしてもらいたくないもん」
がーん・・・・
結構、ショックだった。
そんなにはっきり言わなくても
この前までそんなこと言ってなかったじゃないか・・・
「ごめん・・・」
何で謝るのか分からないけど、何となく謝ったら、 パステルがはっとした顔をした。
「ご、ごめん! あの、別にクレイが嫌とかいう意味じゃなくて、何て言うか・・・」
「いや、いいんだ・・・。パステルは、別に悪くないんだから」
パステルは、なおも何か言いたそうな顔をしていたが、困ったように頬を染めて俯いてしまった。
おれ、何か悪いことしたかな。
はぁ・・・・・女心って、ほんとよく分からないよなぁ・・・
一人で落ち込んでいると、ルーミイが
「ルーミイ、クレイにおんぶしてもらいたいおう!」
と言った。
・・・・おれって、もしかしてルーミイにまで気を使われてるのだろうか・・
なさけな・・
「情けねぇな」
「情けないですね」
「・・・・・・・・・・」
勿論、言ったのはトラップとキットン。
「クレイには、天気も女心も一生分かりそうにないですね」
「・・・どーいう意味だよ」
「年頃のムスメが、嬉々としておんぶしてもらうかぁ?」
「・・・でもさ、前まで別にそんなこと言ってなかったじゃないか。 それに、おれにとってパステルは妹みたいなも・・」
「でも、女の子ですよ。 クレイと2つしかかわらない、女の子」
「・・・・・・・ぅん」
当たり前のことなのに、気付いていなかった自分に正直びっくりした。
帰り道、パステルがさりげなくおれの隣を歩いた。
小さい声で、
さっきはごめんね、クレイのことは大好きだよ
そう囁いた。
君への愛が形を変え始めた、晴天と花曇りの春の日
気まぐれな天気と、女心、
どっちも、いつか分かる日が来るのだろうかと、こっそり溜め息をついた。
![]()
![]()