「おめぇ、明日が何の日か知ってっか?」
学校からの帰り道で、あんたはそんなことを聞いてきた。
「バレンタインでしょ? それがどうかしたの?」
「誰かにやる予定あんの?」
「ないわよ。なによ、あんた。誰からももらえないからって
わたしからの義理を期待してるんじゃないでしょうね。
義理チョコも本命チョコも予定はないんだから諦めなさいよね」
「ふーん」
適当な返事をしながら
あんたが嬉しそうに見えた
柔らか味を帯びた瞳と
わずかにカーブを描いた口元が
ひどく印象に残った
それからわたしは
誰にもチョコを渡していない
今年も誰にも渡さない
あんたが喜んでくれるかもしれないから…
…って思ったのよ。わかる?」
「わかるわけねーだろ!」
あれから月日はずいぶん流れて
あの頃よりは逞しくなったあいつは
バレンタインに期待していたみたいね
用意してないって言ったら
いじけ出して機嫌が悪くなったから
せっかく説明したって言うのに
「だってあんた。
自分がもらえなくても嬉しそうだったじゃない」
ずっとわからなかった
どうしてあの時
あんたが嬉しそうだったのか
ぶつぶつ文句を言って
なかなか答えようとしなかったけれど
「あんときのおれが
本命なんかもらえるわけねーだろうが」
怒ったようにあんたが答えて
長年の疑問が
それでようやく解けた
あんたは知ってたのね
あの頃わたしが
あんたを意識してなかったこと
あんたをちっとも見てなかったこと
わかってみれば
単純なことだったのね
「とびっきりの手料理を作るから
それで許してくれる?」
「おれの好きなもん作れよ」
文句を並べてたあんたが
一言注文をつけた
任せなさいって
二人で食事をした後に
手作りのチョコを食べましょう
せっかくあんたに渡せるのに
用意してないわけないじゃない
あんたってほんと
肝心なところは抜けてるんだから
あんたとわたしじゃ
お互いを分かり合えるまで
だいぶ時間がかかりそうよね