冬の事件


 冬の良く晴れた朝、空には雲ひとつなく、暖かい日差しが降り注いでいた。そんな朝の光がカーテンの隙間から入り、パステルの顔を照らすとパステルは目を擦りながらむっくりと起きだした。ここはドーマ、クレイとトラップの故郷である。パステル達はクレイの母の勧めもあり、冬をここで過ごすこととなったのだ。来た途端収穫祭に参加したパステル達一行だったが、早いものでもう一月、冬も本番を迎えていた。
 パステルは意識がはっきりすると、いつも隣に居る筈のルーミィとシロちゃんがいない事に気付いた。パステルとルーミィ、シロちゃんはクレイの家に、キットンとノルはトラップの家に泊まっているのである。
 何でこのような割り振りになったかといえば、簡単なことなのだ。前回トラップの家に泊まったのだから今度は我が家にとクレイの祖父がパステルを誘ったのである。パステルにとってクレイの家の図書室の魅力は大変なもので、パステルはこの申し出に、一も二もなく飛びついたのだ。当然パステルの居る方にルーミィが付いてくるのは自明の理で、さらにルーミィはシロちゃんを離そうとはしないのだから必然的にクレイの家にパステル、ルーミィ、シロちゃんが泊まることとなった訳である。キットン、乗る葉といえば、みんながクレイの家に行くわけにもいかないということと、大人数の家であればノルも泊まれるだろうということ、大家族を見てみたいということで問題なくトラップの家に泊まることで納得したのだった。
 パステルはルーミィとシロちゃんがいないことを少し不思議に思ったのだが、前日夜更かしして本を読んでいたために少し寝過ごしていたこともあり、きっと既に起きて朝ご飯を食べているか、食べ終わってどこかで遊んでいるのだろうと考え、急いで着替え、食堂に向かうことにした。食堂へ向かおうと歩いていると、クレイのやはり食堂へと向かっている背中が見える。パステルは息を殺し、忍び足でクレイの背後へと忍び寄るといきなり声をかけた。
「クレイ! おはよっ!
今ごろ朝ご飯?」
「うわぁっ!?」
いきなり声をかけられ、予想すらしていなかったクレイは思わず叫んでしまった。振り返るとそこに居たのは満面笑顔のパステル。上手く驚かせられたのが嬉しかったらしい。楽しそうな顔で笑っている。
「なんだ、パステルかぁ。
驚かさないでくれよ。もう。
ちょっと散歩してたら遅くなっちゃってさ。今ごろ朝飯食いに来たって訳。
で?パステルはどうしたんだ?」
「私もこれから朝ご飯なんだ。
昨夜本を読んでたら寝るのが遅くなっちゃって。
起きたらこんな時間だったって訳。」
クレイはパステルの答えを聞いて思わず噴きだしてしまった。それを見たパステルは頬を膨らませむくれて言う。
「なによ。
笑うことないじゃない。
いいでしょ。普段は本なんて高くって思う存分読むこと出来ないんだから。」
むくれたパステルにクレイは慌てて弁解をした。
「ああ。いや、違うんだよ。
そりゃまぁ、今ごろ朝飯を食う俺をからかったパステルも
寝坊して今ごろ朝飯に食いに来たってのも確かにおかしかったけどさ。
そうじゃなくて、
朝飯に一緒に遅れるところまで似てるなんて思ったらつい噴きだしちゃったんだ。
こんなによくタイミングが合うなんてまずないだろ。
だから、変な気なんて全くなかったんだ。
気を悪くしたんなら謝るよ。」
「そういえばそうだね。
こんな所まで似てるなんて確かに面白いかも。
じゃあ、早く朝ご飯食べちゃおう。
きっとルーミィ早く遊びに行きたがって待ちくたびれてるよ。」
「そうだな。
早く朝飯食って、トラップ達の所へ行こう。」
二人がにっこりと笑いあい、食堂のドアを開けた途端、中から声がかかる。
「クレイ、パステル。
早く朝ご飯食べちゃって頂戴。片付かないじゃないの。」
「ああ母さん、ゴメンゴメン。
すぐ食うよ。今日のメニューは何?」
「今日は焼きたてパンに、野菜とマトマ、チーズのサラダ、
カリカリベーコンにふっくらプレーンオムレツよ♪」
「うわぁ、美味しそ〜♪
クレイ早く食べよ。
聞いたらお腹がどんどんすいてきちゃった。」
「そうだな。早く食おう。」
そう言って二人は食卓につくと美味しい朝食を食べることに専念し始めた。

 朝食も済み、食後のお茶を飲んで一息ついた頃、パステルが思い出したように言い出した。
「そうだ、ルーミィ!
ルーミィのこと朝から見かけていないんだけど、
クレイのお母さん、ルーミィ見かけませんでした?」
「あら、ルーミィちゃん?
朝ご飯を食べてからは見かけてないけど?
シロちゃんと二人で食堂を出て行ったきりよ。」
クレイの母がそう答えるとパステルは少し心配そうな顔をして言う。
「そうですか。
何処に行ったのかしら。
いつもなら、遊びに行こうって呼びに来るはずなのに。
解かりました。ちょっと探してみます。
クレイ、手伝って。」
パステルに言われるまでもなく、過保護は父親であるクレイは心配していたのだろう。パステルの頼みに当然とばかりに二つ返事で答えた。
「解かった。じゃ、母さんご馳走様。
パステル、とりあえずルーミィの居そうなところは何処だい?」
「うん、えぇっとねぇ・・・」
そう言いながら二人が食堂から出て行く様子をクレイの母は、楽しそうに見て笑っていた。

 パステル達の部屋、庭、クレイの部屋・・・・・クレイの家の中でルーミィたちの居そうな所を探したが、パステル達はルーミィを発見することが出来ずにいた。まぁ、流石に広いクレイの家ではあるので、居そうな所を探すだけでも時間はかかったのだが・・・・・。
「ここにもいないなんて・・・・・。
一体ルーミィったら、何処に行ったのかしら。」
「もしかしたら、俺たちを待ちきれなくって、
二人でトラップの家に行ったのかもしれないな・・・。」
「そうかもしれない・・・。
じゃあ、トラップの家に行ってみようか。」
「よし、行こう!」
二人がルーミィ達を探してトラップの家へ行くことを決めた時、少し離れた所から声がかかる。
「なんじゃ、クレイ、パステル。
どうかしたのかの?
切羽詰ったような顔をしておるが。」
声をかけたのはアンダーソン氏、ご存知クレイの祖父である。孫達が何やら青ざめた深刻そうな顔をして話しているので気になって声をかけたのである。
「あ、お爺様。
おはようございます。」
「おはようございます。お爺様。
ルーミィ達を見かけませんでしたか?
さっきから探しているんですが見当たらないんです。」
パステル、クレイが答える。二人の顔はやはり青ざめており、ルーミィを心配しているのがはっきりと解かった。
「いや、見てはおらんぞ。
なぁにそんなに心配することはない。
すぐに見つかるじゃろうて。
もしかするとブーツの所に居るかもしれんしな。
ほれ、ブーツの倅があのホワイトドラゴンの子供をえらく気に入っておったし、
遊びにいっておるのかも知れんじゃないか。」
爺様の言うことは至極尤もで、それを聞いていた二人は少し気が楽になったのか、心配そうな顔はしているものの、先程よりも顔色が良くなっていた。
「そうですね。そうかもしれません。
じゃぁ、俺達はトラップの家に行ってみます。」
「じゃぁ、お爺様。
いってきます。」
そう言うと二人は早く安心したいからかさっさと行こうとしたが、そこへ有無を言わせぬ強引さで爺様がある提案をする。いや、この場合、提案というよりは決定事項であると言わんばかりの爺様の様子に、この二人には逆らうことなど到底出来様筈もなかった。
「待て待て、二人とも。
わしも町にちと用がある。
ブーツの家まで一緒に行くとしよう。
依存はなかろう?
ん? クレイ?」
「・・・ありません・・・。」 そうアンダーソン氏に睨まれたクレイは、まさに蛇に睨まれた蛙そのもので、脂汗を流しながら項垂れている。そんな二人の間に交わされる視線に、含みがあるとは欠片も解かっていないパステルは、言葉どおりに受け取ったらしく、『お爺様が一緒に行くっていうだけなのに、クレイは何をそんなに脂汗をかいているんだろう?』とはてなをたくさん浮かべるのだった。

 しばらくすると三人はブーツ一家の根城、すなわちトラップの実家に到着した。三人を代表してクレイがドアをノックし、ノブを回してドアを開ける。
「おはようございます。
クレイですが、こちらにルーミィ達は来ていませんか?」
そう声をかけたのに対し、いつもなら女将さんの声が返ってくるのだが、その日に関しては違っていた。返ってきた声はトラップのもので、その内容はといえば相も変わらず、じーちゃんと同じ様に少しからかいを含んだものであった。
「よぉ、クレイ。
今日は遅かったんだな。
しっかし、来て開口一番がそれかよ。
まぁ、挨拶を忘れないで言うってのがお前らしいっちゃらしいけど、
真っ先に言う内容がルーミィの心配とはな。
若い、心配性のパパさんは苦労するねぇ。
奥さんの方向音痴が娘にでも伝染ったのか?」
一瞬ぽかんとした後、トラップの言う意味を理解したクレイは顔を真っ赤にしてトラップに食って掛かった。
「心配性のパパさんってなんだよ!
それに奥さんの方向音痴が娘に伝染ったってどういう意味だよ!!」
「なぁにとぼけてんだよ。
まんまの意味に決まってんだろ?
お前らぱっと見若夫婦とその子供じゃねぇか。
シロまで加わりゃ、幸せな家族そのものだぞ。」
この言葉に反応したのはパステルで、やはり顔を真っ赤にして言った。
「もう、何言ってんのよトラップ!!
方向音痴が伝染るわけないでしょ!!
それに私がクレイの奥さん?
ふざけた事言ってからかわないでちょうだい!
今はルーミィが何処に言ったか心配してるんだから!!
(そりゃね、クレイとって言われて嬉しくないわけじゃないけど、
今はそれ所じゃないんだから・・・。
でも若夫婦か、えへへ♪)」
ふざけてからかうトラップを叱るパステルであったが、内心は少し嬉しかったらしい。しかしそんなパステルの内心に周りは気付くはずもなく、がっくり項垂れるクレイにトラップが耳元でささやいた一言は、余計にクレイを沈ませるのに充分すぎるものであった。
「クレイちゃんカワイソ〜。
全然意識されてないっていうか、ルーミィに負けてんじゃん。」
「・・・ほっとけ。」
そんな二人をわけがわからないといった様子で見ていたパステルに爺様が声をかけた。
「で、パステル。
ルーミィはここに居ったのか聞いてみんで良いのか?
もうじき昼になるぞ。」
その言葉でやっと本来の目的を思い出したクレイとパステルはトラップを問い詰める。
「どうなんだ、トラップ?
ルーミィとシロはココへ来ているのか?」
「どうなの、トラップ。
二人は来てるの?」
二人に肩を揺すぶられて、頭をくらくらさせたトラップはやっとこのとで二人を引き剥がし、はぁーっと一息ついてから答えた。
「来てねぇよ。
何なら家の中家捜ししてみっか?
それに来てるとしたら、ノルのトコだろうがな。
何ならノルの所へ行ってみっか?
お袋に頼まれて、裏で薪を大量に作ってる筈だぜ。」
その言葉に一も二もなく、4人は裏手のノルの所へと向かっていった。

 裏庭では、ノルが斧を振るって薪を作っている。どうやら、長いこと作っていたようで、後ろにはものすごい量の薪の山が見えた。ノルも、もう真冬に近いと言うのに額には汗が光っている。声をかけるとやってくるクレイ達に気付いたようで、斧を振るうのを止め、こちらを見て微笑んでいた。
「やあ、ノル、おはよう。」
「ノル、おはよう。」
クレイとパステルが挨拶するとノルはさらににっこりと笑って頷いた。しかし出てきた言葉はその顔からは想像もつかないものであった。
「どうかしたのか?
クレイ、パステル。」
いきなりそう言われて二人は目を見開いた。
「どうして解かったんだ? ノル?」
「そうよ、私達まだ挨拶しただけなのに」
「二人とも心配事がある顔、してる。」
当然というように言うノルの言葉に、そんなに顔に出ているのかと二人顔を見合わせる。
「そんなに顔に出てるか? 俺達?」
頷くノルとトラップにため息をついたクレイはそのままノルに問い掛けた。
「ルーミィとシロが朝から見かけないんだ。
ノルは見なかったか?」
クレイの問いかけにノルは首を横に振りながら答える。
「いや、見てない。
今日はずっとココに居たが、ルーミィ達は来なかった。」
ノルの答えを聞いて、クレイとパステルがさらに心配そうに顔を青ざめさせたとき、予想外の方から声がかけられた。
「おや、クレイにパステル。
一体どうしたんですか? 皆さんおそろいで。」 声をかけてきたのはキットンで、抱えた籠にはたくさんのキノコが入っている。
「キットンこそどうしたんだ?
キノコをそんなに一杯抱えて。
研究用のキノコにしては普通のキノコみたいだし。」
「ああ、これですか。
いや、トラップのお母さんに頼まれたんですよ。
今夜はキノコ料理にするとかで、採ってきてくれって。
で、どうかしたんですか?
顔が青ざめて不安そうな顔をしてますよ。」
「実は・・・」
キットンにも事の次第を話し、ルーミィを見かけなかったかと半ばダメ元で聞いた時、キットンが何だそんなことかと言わんばかりに言った。
「ルーミィですか?
ええ、見かけましたよ。
あのシルバーブロンドの後姿はルーミィにまず間違いないでしょう。
それにシロちゃんらしき仔犬も一緒でしたし。
でも、声をかけたのに気がつかなかったのか、
そのまま行ってしまいましたがね。」
あっさりと言うキットンの言葉にクレイとパステルは目を見開いてキットンに詰め寄る。
「そ、それで、ルーミィ達はどっちに行ったんだ?」
「キットン! ルーミィとシロちゃんは何処へ行ったの?」
先程のトラップの様にがくがく肩を揺すぶられたキットンは悲鳴を上げながら言った。
「うぎゃぎゃぎゃ!
あ、あちらの山に向かって行きましたよ。」
指差された方角を見てクレイはさらに顔を青ざめさせる。
「あ、あっちの山ってテラソン山じゃないか!
まさか、ルーミィ達だけで祭壇に向かったんじゃないだろうな。」
「やりかねねぇな、あのちびスケならよ。
やべぇぞ。今の季節は強いモンスターも多い。
こりゃグズグズしてらんねぇな。」
そう言うトラップにノルも頷いている。
「よし、テラソン山へ行こう!」
そう言ったちょうどその時、また別の声がかかった。
「なんじゃ、坊主。
みんなお揃いでどこかへ出かけるのか?
おや、アンダーソン。
なんじゃお主も居ったのか?」
その一言で、クレイはやっと爺様がまだ一緒にいることを思い出したようで、ぽかんとした顔で問い掛けた。
「そういえば、お爺様。
町で用事があると仰っていた様ですがよろしいのですか?
僕達はこれからテラソン山へと向かいますから、
お爺様はどうぞご用事をお済ませになってください。」
それを聞いて黙っていられないのはアンダーソン氏の性分であろう。
「何を抜かす。
子供が危険に晒されておるかもしれん時に悠長に所用なんぞしておれるか!」
それを聞いて眉を上げたのはステア氏である。
「何!?
子供が危険に晒されておるじゃと!?
どういうことじゃ坊主!
きりきり白状せんか!!」
ステア氏に迫力たっぷりに詰め寄られては、流石にじーちゃんには適わないトラップとしては素直に言うしかなく、渋々ながらため息と共に事の次第を白状することと相なってしまった。一部始終を聞いたステア氏が自分も行くと言い張ったのは予想通りの事で、二人を止めようとしたクレイとトラップの行動もやはりいつものことであった。
「何!?
わし等にじっとしてろと言うのか坊主!?」
「そうだよ!
また無茶して発作でも起こされちゃたまんねぇからな。
ここは大人しくじっとしててくれよ。」
「そうですよ。
お爺様ももう若くは無いんですから、
ここで僕達が帰るのを待っていてください。」
「何を抜かす!!
老いたとはいえこのジェラルド・D・アンダーソン、
まだまだお前達のようなひよっこには負けはせん!」
「まったくじゃ!
わしはまだまだ現役じゃぞ!
坊主達なんぞに劣るものではないわい。
行くぞ! アンダーソンよ!
わし等でルーミィちゃんを見つけ出してやるわい!」
「もちろんじゃ!!」
そう言うや否や、爺様ズは孫達も真っ青の素早さで飛び出して行き、後に残されたパーティの一行、特にクレイとトラップは更に顔を青くさせる羽目になったのである。一瞬呆然としたものの、すぐに正気を取り戻したクレイとトラップは同時にため息をつくと他のメンバーを促してテラソン山へと向かっていくのだった。

 テラソン山の麓に先に到着したのは、当然先に出発した爺様ズであった。テラソン山はもはや冬一色で、辺りは一面雪に覆われている。それは麓の森も例外ではなく、一様に皆雪帽子をかぶっていた。しかし、いくら美しかろうと冬の方が強力なモンスターが出るというのは常識である。かつて冒険者として冒険をしていた爺様ズにとってはそれは充分すぎるほど身に沁みている。油断は命取り、それを常に頭の隅に留め、爺様ズは山へと進んでいった。
「どうじゃ、アンダーソン。
ルーミィちゃんらしき子供は見つかったか?」
「いや、居らん。
ブーツこそそれらしき子供を見つけたか?」
「いや、こっちも見つからんわい。
いっくらエルフで、ホワイトドラゴンが付いているといっても、
彼らはまだ幼い子供じゃ。
何事も無く無事で居ると良いんじゃが・・・。」
「そうじゃな。
何より、あの子達に何かあってはパステルが悲しむ。
一刻も早く二人を見つけるぞ!」
「もちろんじゃ!!」
爺様ズは先程より更に細心の注意を配って辺りの気配に意識を研ぎ澄まし進んでいく。
 ちょうどその頃、クレイ達もテラソン山の麓に到着していた。パステルは家で待っているように言われたのだが、一緒に探すと言い張りついてきている。仕方なく一行はルーミィ達に気を配るだけでなく、パステルが迷って二重の迷子にならないように注意を払うのだった。
「お爺様達まだ見えないな。
一体何処まで先に進んだんだろう?」
「まったく困った爺さんたちだぜ。」
そうため息をつく二人を尻目に一行は爺様ズの後を追うようにテラソン山を進んでいった。

 麓の森を抜けようかと言うその時、アンダーソン氏の目の端に何やら光るものが飛び込んできた。そちらの方へ顔を向けると、銀色のふわふわした物がピコピコ揺れているのが小さく見える。
「おい、ブーツよ。
あそこに見えるのはなんじゃと思う?」
「なんじゃと!?
何処じゃ何処じゃ?」
「ほれあっちじゃ。
あそこの木々の間で小さく見えておるじゃろう?」
「うむ。確かに見えるわい。
よし、行ってみよう。」
「うむ。解かった。」
そう言って、爺様ズは銀色の光るものの方へと駆け出していく。しばらくすると銀色の光る物は大きくなり、次第に人の形をとって、少女の形になっていった。思わず、二人は声をかける。
「ルーミィ(ちゃん)!」
声をかけられた少女がぴくりと反応し振り向いた。そこに居たのはシルバーブロンドの少女と、白い仔犬。しかし、それはルーミィとシロではなかった。
「お爺ちゃんたちだぁれ?
あたしルミエラって言うのよ?
この子はチロ。
さっきも紫のボサボサの人が、
私のことルーミィって呼んでたみたいだけど、
私とその子ってそんなに似てるの?」
ルーミィと同じ位の年なのに偉くはっきりした物言いのルミエラは爺様ズにそう問い掛けた。よく見ると似ているのは髪の毛だけで、顔つきや雰囲気などはそう似ているわけではない。何より、ルーミィの長い耳と違い、ルミエラの耳は丸い人間のものであった。
「いや、済まんな。
お前さんのその髪がルーミィに良く似ておったんでな、
間違えてしまったんじゃよ。」
「そうなんじゃ。
ところでお嬢ちゃん、
こんな所で何をしておるんじゃ?
今の季節は危険なモンスターも出るんじゃぞ。
危ないではないか。」
謝られて機嫌を直したルミエラは、なぜココにいるかを答えた。
「お母さんが風邪を引いてしまったの。
だからお見舞いにお母さんの好きな花を持っていってあげようと思って、
お花が咲いている所に来たの。」
「ほぉ、今の季節にこんな所に花が咲いておるのか?」
「そうよ、ちょっと奥まってるけど、
木がぽっかり開けて綺麗に咲いているのよ。」
「それはすぐそこなのかな?」
「そうよ。」
「では、わしらも一緒に行ってあげるから、
摘んだらすぐに戻るんじゃ。
危険なのには変わらないからのぅ。
その後家まで送っていってあげよう。」
「そうじゃな、それが良かろう。」
爺様ズの申し出にルミエラは嬉しそうににっこりと笑う。
「ありがとうお爺ちゃんたち。
じゃぁ、行こう。」
そう言うと三人+一匹は森を進んでいくのだった。

 クレイたちが爺様ズをやっと見つけた時、爺様ズと一緒に花を抱えたルミエラが見受けられた。見たことも無い少女と祖父が一緒に居るのをいかぶしんだクレイがどういうことなのかを爺様に聞こうとすると、ルミエラが大声を上げた。
「ああーー!
さっきの紫のボサボサの人ー!」
指を指されているのはキットン。やはりキットンが見かけたのはルミエラだったようだ。ルミエラの言っていたことを聞いて、なんとなくそうじゃないかと思っていた爺様ズはやれやれとため息をついた。
「やはり、キットン殿が言っていたのはルミエラのことじゃったか。」
「ちょっと待ってくださいお爺様。
やっぱりってどういうことですか?」
「おい、きちんと俺等にも解かるように説明しろよ。
爺さんよ。」
あまりの乱暴な物言いに、アンダーソン氏はステア氏の方をジト目で見て言う。
「ブーツよ。
お主、孫の教育はどうなっておるんじゃ?
少しは目上の者に対する態度を教えた方が良いぞ。」
「なぁに、心配はいらんて。
若い頃のわしそっくりじゃ。
そのうちわしのようになるわい。」
「それがまずいと言うんじゃ。
せめてお主よりはマシに育てんでどうする!
誇り高き盗賊団というなら、
その誇りに相応しい態度をとらんか。」
「とっておろうが。」
「何処がじゃ!!」
「何か文句でありそうな言い方じゃのぅ。」
「大有りじゃ!!
貴様の何処が誇りある態度なんじゃ!
貴様から出てくるのは叩いて出る埃じゃろうが!」
「何を抜かす!!
わしは後ろ暗いこと何ぞ何一つしてはおらんわい!」
「よく言うわ!
有り過ぎて何が何やら解からなくなっただけじゃろうが!」
「なにおう!」
「やるか!」
このまま放っておけば、いつものように喧嘩に突入したのだろうが今はそれどころではない。すかさずクレイとトラップが止めに入ったが、一行に止む気配は無くいつまで続くのか不安が二人の頭をよぎった時、パステルが爺様ズを一喝した。
「お爺様達、いい加減にしてください!!
今はそれ所じゃないんです!!
とにかくどういうことなのか説明してください!!」
「はいっっ!!」
鶴の一声とは正にこの事だろう。パステルの一喝に爺様ズは言い争いをピタッと止め、背筋を伸ばして返事をした。ここが家の中とか野原なら、正座させられていたかもしれない。そんな気迫が今のパステルにはあり、爺様ズは背中に冷や汗を流しながらパステルの問いに答えていった。
 全ての問いに答え終わった時、クレイ達にも、キットンが見たのがルミエラであってルーミィでないことが理解できた。
「おい、キットン、一体どういうことだよ。
お前、まず間違いないって言ったじゃねえか。
それにパーティの仲間とそうじゃない奴を見間違えるなんて、
どうかしてるんじゃねぇのか?」
「仕方ないですよ。
私は後姿しか見ていませんからね。
まぁ、誰にでも間違いはあるっていうことですよ。
ぎゃ〜っはっはっはっはっは!!」
「笑い事じゃねぇ!」
「まぁまぁ、とにかく、
この子を家まで送ってから、これからどうするか考えよう。」
そういうクレイの言葉に賛成して、とりあえずはルミエラを家に送る事にした一行であった。

 ルミエラを家に送り、父親に礼を言われた一行は、とりあえずトラップの家に戻る事にし、トラップの家へと向かっていた。そこへ聞き慣れた生意気な声がかかる。
「あら、シーモア。
皆さんお揃いでどちらへ向かうんですの?」
「やぁ、ジンジャー。
君こそ何処へ行くんだい?」
「何言ってますの?
私はこれから帰る所ですわ。
先程まで、お宅の図書室で本を読んでましたの。
シーモアも少しは本を読んだほうがよろしいんじゃなくって?」
「ははっ、相変わらず手厳しいね。」
「ところで、どうかなさいましたの?
何やら気にかかる事がお有りの様ですけど。」
「ああ、実はルーミィを探してるんだ。
朝から見かけなくってね。
ジンジャー君は知らないかい?」
「ルーミィって、あのエルフの子供のですの?」
「そうそう。
知ってるのかい?」
「ジンジャーお嬢様、
知っておられるなら教えては下さらんでしょうか。」
アンダーソン氏まで一緒になって頼む様はやはり祖父と孫だ、よく似ているとジンジャーは妙な感心をした。
「シーモア、『灯台下暗し』ですわ。
図書室に行って御覧なさい。
じゃあ、私はこれで失礼しますわ。」
言う事だけ言うとジンジャーはさっさと行ってしまい、残された一行はとりあえずアンダーソン邸の図書室へと進路を変更し歩き出した。

 図書室では、窓の傍の日が当たる所で、ルーミィとシロちゃんが丸くなって眠っていた。どうやら日向ぼっこをしている内に眠くなって寝てしまったようである。パステルがほっとしながらも声をかけると、ルーミィはうっすらと目を開ける。
「おあよ、ぱぁるぅ。
もうあさなんかぁ?」
いつものルーミィの様子にふふっと笑いながらパステルは答えた。
「ううん、朝じゃないわ。
でももう夕方だから起きようね。」
「うん、るーみぃ、
いつのまにかねみゅっちゃったんだお。
ぱーるぅに本よんでもらおうとおもってまってたんだお。
でも、ぱーるぅこないから、ねみゅくなっちゃったんだお。」
「そうなんだ。
ゴメンね、ルーミィ。
じゃあ、今晩は寝る時に好きな本を読んであげるからね。」
「うん、やくそくだお!」
「うん約束ね!」
先程までの張り詰めた緊張が一気に緩んだ様なほのぼのした光景に、一同は安心するも、脱力を隠すことが出来なかった。トラップなんぞは、おもいっきり愚痴をこぼしている。とりあえず大事には至らなかったという事で、クレイや爺様ズは安心した様でほっとした顔をしていた。

 「結局の所、俺達ゃ、慌てもんの夫婦に振り回されただけかよ・・・。」
そんなトラップの呟いた愚痴がある意味一番の真実であったことは、言うまでもないことであった。





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