花のように、綺麗な笑顔のあの人が。
とうとう、お嫁に行くのです。
『大好きな貴方に』
「シロちゃん!」
「はいデシ!」
「もっと急いでっ、お願いっ!!」
「はいデシっ!!」
急加速する、ホワイトドラゴンの背の上で。
私は必死に、しがみついていた。
*
今、こんなに私が急いでいる理由は、ただひとつ。
私にとって、母親以上の存在の。
誰よりも大切な、家族の。
パステルが、クレイと、結婚するのだ。
しかも………明日。
実際タイミングが悪すぎた。
結婚式の、3ヶ月も前に、ふたりは招待状を発送してくれていたのだけど。
私たちは、ちょうど郵便が届いた前の日に、クエストに出発してしまっていたのだから。
しかも。
今回は、思った以上に大掛かりなクエストを引き当ててしまい。
更に、仲間の負傷というアクシデントにも、見舞われて。
無事クエストを解決し、仲間の怪我も癒えてから、懐かしい拠点の街へと戻ってみれば。
優しい色合いの、『招待状』なる封筒が、静かに私の帰りを待っていたのだった。
「信じられない……!!」
招待状を見て、愕然とする私。
「いやあ、こりゃホントにタイミング悪過ぎ!としか言いようがないねぇ……」
「全くだねぇ、ははは……」
仲間たちは、私の事を気遣ってくれていたけれど。
この街から、パステルの結婚式が行われるドーマまでは、馬車で行っても丸二日はかかる。
どうやっても、普通は間に合うはずがない。
でも。
どうしても、行きたいのだ。いいえ、行かなきゃいけないのだ。
だから。
「………。決めた」
「え?」
「何を?」
私は意を決して、急いで旅装を調えた。
「ごめん、ドーマへ行ってくるわ!」
捨て台詞を残し、私は走る。
「あ?ちょ、ちょい待ち!」
「ルーミィ!今から馬車で行っても間に合わないんだぞ!」
みんなが私を案じてくれているけれど。
「大丈夫、絶対間に合うように行くからっ!」
私は。『最後の手段』を使うことに、決めていた。
(───どこにいるのよっ、『最後の手段』はっ!)
全速力で疾走しつつ、人探し。いいや、人ではなくて。
「あれ?」
「え?」
「ルーミィしゃん、何してるんデシか?」
……いた!最後の手段。
*
かくして。
私は今、巨大化(?)シロちゃんの背中に乗り。一路、ドーマを目指して飛ぶ。
前にくらべて、ずいぶんとシロちゃんの飛び方も上手になったから。
乗り物酔いならぬ、ドラゴン酔いもかなりなくなっているのだけれど。
それでも、もの凄く、辛い。
だけど。
これを乗り越えなければ、私はパステルの結婚式に、出られない。
私の母であり、姉であり、何より大切な家族だった、パステル。
一族を森の大火事で失ってから、ずっとパステルと一緒だった。
そのあとで、冒険者になって、たくさんの仲間を得て。
嬉しいことも、哀しいことも、たくさん経験して。
でも。
全ての始まりは、パステルとの出会いだったから。
そんなパステルの、大切な、大切な、結婚式。
私は是非にとも、出なくては、いけないのだ。
「ルーミィしゃん!」
大空を全速力で、飛び続けながら。シロちゃんが私に叫ぶ。
「もうすぐドーマが見えてくるはずだから、頑張るデシよ!」
「わかったわーっ!」
普段なら、髪が振り乱されるのは我慢ならないのだけれど。
今はただ、ドーマに辿り着くのが先だから。そんなことに、かまってなんかいられない。
適当に三つ編みしていた髪の毛は、千切れそうなほどにはためいている。
でも、今はただ、ドーマを目指すだけ。
パステルを、目指すだけ。
「ルーミィしゃん、ドーマの広場デシよっ!!」
かつて、シロちゃんの母親が降り立った、ドーマの広場。
今、その子供ドラゴンが舞い降りて。
私はふらふらになりながら、ようやくその背中から、地上へと降り立った。
「………着い、た………」
荒い息を、懸命に整えて。何とか懐に入れて持ってきた、招待状を取り出す。
結婚式は、この広場近くの教会。
「…………行く、わよ、シロちゃん」
「はいデシ!」
既に仔犬ほどの大きさに戻っていた、シロちゃんと。
私は重たい足を引きずり、歩き出した。
*
花のように、綺麗な笑顔のあの人が。
とうとう、お嫁に行くのです。
だから。
だから、私は。
綺麗な笑顔のあの人に。
最高のおめでとうを、伝えにいきます。
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