───明日。
   私の名前が、変わります。

   『大好きな貴方へ』


お元気ですか?
きっと今日も、クエスト頑張っているのでしょうね。

パーティーの皆さんも、お元気なのでしょうか。
かつての私たちのように、貧乏暮らしではないと聞いて、安心してはいるのですが。
それでも、日々修行や情報収集など、休みなく働いておられるのでしょうね。
どんな人にも、休養は必要ですよ。
貴方が是非、他の人たちを気遣ってあげて下さいね。

さて、私は明日、とうとう名前が変わることになりました。
折悪しく貴方たちがクエスト中だと耳にしました。
結婚式にお招きできなかったこと、本当に残念に思っています。
是非、一度こちらへ─ドーマへ─お越しくださいね。
その時は、できる限りおもてなしさせてもらいますから。
料理の腕も、少しは上達したと思うので、楽しみにしていて下さいね。

では。
最後に、貴方とパーティーの皆様のご多幸を祈ります。
とはいっても…。
きっとホワイトドラゴンと共に旅する貴方たちですから。
運には見方、されていますね。それはもう、間違いなく。
ですから。
これからも、皆仲良く日々過ごせますように、お祈りします。

また、お会いできるまで。

              ──パステル・G・キング

       *

「……よし」
書き上げたばかりのそれを、丁寧に折り畳む。この間買ったばかりの、小花をあしらった綺麗な封筒に、入れて。封筒を手に、外へ出た。
もうすぐ、春。まだ肌寒い日が続いているけれど、風はだんだん暖かくなっていて。
「あれ、パステルじゃない」
声をかけられて、振り返ると。マリーナがそこにいた。
「あ、マリーナ、こんにちは」
「こんにちは、って……パステル、どこ行くの?」
手紙を見せると、彼女は頷いて。
「郵便局までの道のりは覚えたのね」
笑いながら、一緒に歩き出した。そして、郵便局の窓口で、速達扱いで手紙を送る。
「終わった?」
「うん」
「ドーマって、シルバーリーフよりは都会でしょ?エベリンよりは田舎だけど」
マリーナはこの町が好きらしい。いつも、ドーマの話をするときは、笑顔だった。
「うん、そうね。道が覚えやすいのがいいな、私としては」
「あはは、パステルらしいわね」
冗談なんて言い合って、笑い合う。
実際、こちらへ移ってきてから早2ヶ月。筋金入りの方向音痴である、私でも。商店街や銀行など、かなりいろんな場所へ迷わずひとりで行けるようになったのだ。
……クレイと、ご家族と、マリーナの教えの賜物、なのだけれど。
「それにしても……」
マリーナが空を見上げながら、呟いた。
「パステルも、とうとう明日、アンダーソン家の一員になるのね」
「……うん」
私も空を見上げた。

ここまでは、順調な道のりだったわけじゃない。
クレイの婚約解消、とか。
我らがパーティーの解散、とか。
私の唯一の肉親である、エベリン在住のおばあ様へのご挨拶、とか。
いろいろ、いろいろ。
───何とか無事、全てを終えたとき。
私は正直、くたくたになってしまっていて。
結婚に対して、あまり明るいイメージがなくなってしまっていた、気がする。
でも。
「やっと君を『俺の奥さん』って言えるんだな」
感慨深げに、クレイが笑ってくれたから。そっと、抱き締めてくれたから。
あの、温もりは本当だから。
私は明日から、彼と一緒に歩いていこうと、改めて思った。
「……先、越されちゃったな」
マリーナが笑った。

「ただいま」
「お帰り」
アンダーソン邸に戻った私を出迎えてくれたのは、クレイ。
「あれ、クレイ?お帰りなさい。お仕事は?」
私が問うと、彼は笑顔で。
「明日から休むつもりだったんだけど……周りが気を遣ってくれて、今日から休みにしてくれたんだ」
そう答えた。
一応騎士団員のひとりである彼も、まだまだ新米。
それなのに気を遣ってもらえるというのは、やはりこの人の人徳、っていうものだろう。
「よかったね」
「ああ」
お互いを見つめ、微笑みあった。
「あららー、今日もお熱いことで結構ですねぇ、クレイちゃーん?」
唐突に、からかうような声。ふたりで慌ててそちらを向く。
「「トラップ!」」
私とクレイの声が見事にハモる。
「よっ」
トラップは相変わらずの派手な衣装に身を包み、さっそうとした身のこなしで。
「とうとう明日嫁さんを迎えるわが親友と、是非今夜は一献傾けたいと思って誘いに来てやったんだけどよ。どーだ?」
驚くほど綺麗に、笑って見せた。クレイもにっこりと、笑顔で答える。
「ああ、勿論行くよ」
「トラップ、クレイを泥酔させないでね、明日の式に響いちゃうから」
「わーってるって」
俺だってそんなとこに水を差すほど野暮じゃねぇよ、と言い残して。
トラップは帰っていった。

夜。クレイの帰りを待ちながら。私は空を、見上げていた。
満天の星が、静かに瞬く。その中に、きらきらと一際大きな星があって。
───お父さん、お母さん。
思わず心で話しかけた。
(大丈夫だよ、私。きっと、クレイと一緒に幸せになるからね)
きらり、星が再度煌いて。私の言葉は、無事届いたように、感じた。
「……明日は晴れるね」
満天の星空。二時間ほど前は、夕陽が綺麗だった。
きっときっと、明日はいいお天気になるだろう。
私のお父さんと、お母さんが大好きだった、青空の下で。
私はきっと、幸せの第一歩を踏み出すから。

       *

   ───明日。
   私の名前が、変わります。

   巡り会った、大切な人と。
   新しい人生を、生きるために。





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