チャイルド パニック!!

あーあ、いい天気。
こんな日に原稿書いてなきゃなんないなんて・・・・つまんなーい!!
そんな日にまさかとんでもないことが起こるなんて、この時私は 知らなかった・・・・

―ジュディさんの一件が終了して、二ヶ月がすぎた。
私はみんなと一緒にシルバーリーブに戻った。
みんなと一緒にいたい、何よりクレイのそばにいたい。
・・・だから、ガイナへは戻らないことに決めた。
ギアやマリーナにも話をしたら、二人とも「それでいいんじゃない」 って言ってくれて・・・・
それがなによりありがたかった。

「うわーーーーーー!!」
「なんだこりゃーーー!?」
「・・・・・!?」
隣の部屋から三人分の絶叫が聞こえてきた。
・・・・隣には確か、トラップがいてさっきクレイとギアが 入っていったはず。
にしては、声がやけに高かったような・・・・
なんだかいやな予感がして、私は大急ぎで部屋にとびこんだ。
「・・・・!!!?」
・・・・なにこれ?
そこには4・5才くらいと10才くらいの男の子が計三人。
しかもクレイ・トラップ・ギアの服を着ていて(なぜかサイズは合っていた)、 あわててるんだもん!!
「ど・・・どうしたの?これ」
「あ、パステル!!」
クレイそっくりの子がそばによってくる。
・・・間違いない、この子、クレイだ。
じゃあ、やっぱり後の二人はトラップとギア!?
呆然としている私の脇から、いつの間にきたのかキットンが にゅっと顔を出した。
・・・・で、言ったのはすべての元凶ともいうべき 言葉だった。
「あ!!三人ともあの薬飲んだンですね!!!」
・・・・・キットン・・・・・一体何の薬作ったのよ・・・・・!?

・・・・・やっぱり元凶はキットンだった・・・。
なんでも最近、若返りの薬ってのを研究していて、多分彼らが 飲んだであろうジュース(と言い切っていた)が開発中のもの だったらしい。
キットンは「大丈夫、効果は一週間くらいで切れますよ」 って言ってるんだけど・・・・・
「げーーーー!?一週間もこのまんまかよ!?」
心底いやそうな声で文句を言ったのは、言うまでもなくトラップだ。
でも顔は半泣き状態・・・・
「でも、キットン、元に戻す薬ってできるんだろ?」
トラップの頭をなでながら、5才くらいの外見になったクレイが 尋ねる。
キットンは大笑いしながら、
「いやあ、あることはあるんですが材料がここにないんですよ」
・・・・たちまち、クレイとトラップの顔が泣きそうになった。
か・・・・かわいい・・・・!!
「でも、あるんだろ?早く取りに行ってくれよ」
泣きそうな二人をなぐさめながら、10才くらいのギアが うながした。

・・・・かくして、私はルーミィを含めた計4人のお守りを 一人でするハメになってしまった。
キットンは例の薬草取りに行ったし、ノルはそれについてくし・・・
「わーい、くりぇーやとりゃー、ちっちゃくなっちゃったんだおう!!」
・・・ってルーミィは大喜びだし・・・・
もー!!なんでこうなるのよーーーー!!

心は体に引きずられる。

「やーーーー!!」
「まだまだ!!」
「いけーーーー!!」
・・・無邪気にはしゃいでる、三人を見て、私はそんなことを 考えた。
あれから2日。
クレイ達はすっかり子供に戻っていた。
あーあ、みんな泥だらけ。
洗濯大変なのに・・・・。
ぶちぶち言ってる私のそばに、元気な声が近寄ってきた。
「パステル!!おやつはー?」
こ・・・・この声は・・・・・
下を向くと、トラップが満面の笑みで私を見つめていた。
「トラップ、手は洗ったの?じゃないとおやつあげないよ」
こう返されると、トラップはぐっとつまった。
そんな私にクレイがにっこり笑う。
「心配ないよ、オレとギアでちゃーんと洗わせたから」
うんうん、クレイはやっぱりいい子だ。
ギアだって外見が二人より上だから、すっかりお兄ちゃんしてるし。
「じゃあ、いいよ。あっちの部屋にあるから」
『わーーーーーい!!』
大喜びで走り去っていく三人。
「はあ・・・・・」
なんかお母さんになった気分・・・・

”ZZZ・・・・・”
四人分の寝息が聞こえてくる。 「はあ・・・・」
私は何度目か解らないため息をついた。
・・・・・ほんっと、この2・3日でいっぺんに 子育てが上手くなった気がする・・・・
満月を見ながらぼんやりとそんなことを考えた。
だってだって、ちっちゃくなった三人に加えてルーミィまで いたずらするようになって、それを怒って・・・・
もうもうもう!!
「・・・早く元に戻ってよ・・・」
原稿用紙を前につぶやいた・・・・と同時に
「・・・・パステルぅ・・・」
クレイの寝ぼけた声が後ろから聞こえてきた。
慌てて後ろを振り返ると、寝ぼけ眼をこすりながら 立っているクレイがいた。
「・・・どうしたの?クレイ」
つい、目線を合わせて尋ねると、クレイは私にすりよってきた。
「クレイ・・・?」
「・・・さっきね、変な夢みたの」
あらら、すっかり子供に帰ってる。
私は優しく背中をさすりながら、続きをうながした。
「変な夢って、なーに?」
「・・・・・あのね、パステルが誰かのお嫁さんになる夢」
・・・・!?
よりにもよって、なんて夢を・・・・!?
半ば呆れながら、私は声をかけた。
「別に変な夢じゃないでしょ? 私だっていつか・・・・」
「ぼくじゃなきゃいやだ」
は・・・?
「パステルはぼくのお嫁さんになるの」
!!??
・・・・多分、クレイってば子供に返ってるもんだから 言いたいことを言っちゃうんだね。
なんとなく顔が赤いのを意識しながら、私はクレイを 抱き上げた。
「さ、クレイ、早く寝よう、ねっ」
「でね、ギアやトラップもパステルをお嫁さんに したいんだって。 ・・・・パステル、誰が一番好き?」
このあまりにストレートな疑問に、私、顔から火を吹いてしまった ・・・。
「そ、そ、それは・・・・・」
「ねー、パステル、誰が・・・・」
私があたふたしている間にクレイは眠ってしまった。
「はあ・・・」
全く、クレイってば・・・
元に戻ったとき、この時のこと覚えてるかな・・・?
そんなことを考えながら、私も眠りについた・・・。

・・・・遠くで子守歌が聞こえたような気がした・・・
不吉な予感を感じさせる、そんな感じの・・・・

「あーーーーーーーーー!!」
みすず旅館にトラップの大声が響く。
「ど・・・・どうしたんだよ?そんな大声出して」
寝ぼけ眼をこすりながら、ギアが尋ねる。
トラップは泣きそうな顔をしながら、一通の手紙を差し出した。
ギアとクレイが手紙を見る。・・・段々目が潤みだしていく。
手紙の内容は以下のものだった。

  ”クレイ、トラップ、そしてギア
    ちょっとルーミィとシロちゃんを連れて
    キットン達を探しに行ってきます。
    三人ともいい子で待っててね。
    ・・・・大丈夫、ズールの森の中にいるから
    心配しないでね
                パステル”

「・・・・・置いてかなくったっていいじゃないかぁ・・」
泣くのを懸命にこらえながら、トラップが文句を言う。
クレイなどもうぼろぼろ涙を流している。
一人冷静さを装っているギアも、目が潤んでいた。
「・・・・追いかけよう」
茫然自失になっている中、ギアが言った。
クレイとトラップが涙を止めて、ギアを見る。
ギアは得意そうに二人に話し出す。
「パステルがおれ達を置いて行ったって、 オレ達が追いかければ、置いてかれたことにならないだろ? だから、ズールの森に行ってパステルを探すんだ」
トラップはすっかり喜んでいそいそと荷造りを 始めている。
対してクレイはすっかりオロオロしてギアの顔色を うかがっている。
「ギア・・・それって約束破るって言わないか・・・?」
クレイの言葉にギアはうっとつまった。
約束破り、それだけでなく、ここ二三日でパステルに 怒られることがどれだけ怖いか思い知ってるからだ。
だが、この心配もトラップが解消した。
「大丈夫だって。パステルの奴、今頃森ン中迷って 『えーん、みんなを連れてくればよかったー』なーんて 言ってるぜ。 オレ達が行きゃあ大喜びするって」
それでクレイも涙を拭って、おおきくうなずいた。

・・・かくして、精神年齢と外見年齢が大きく 隔たった三人組はズールの森へ旅だった・・・・。
・・・大丈夫か?こいつら

てくてくてく・・・
ちっちゃい足が三組、ズールの森の中を歩いている。
「・・・なあ、本当にこっちでいいの?」
ギアが不安そうに前を行く二人に尋ねる。
「だーいじょうぶ!!オレ達を信用しろって!!」
トラップの元気な声が森中に響く。
あわててクレイが口をふさいだ。
「モガッ・・!!何すんだ・・・」
「バカ、モンスターが来たらどうすんだ!?」
・・・今の三人は小学生並の体格。
つまり、いつものように戦えないどころが、 下手をすれば自分たちがモンスターのえさに なりかねない。
ようやく気づいた事態にうろたえるクレイ、トラップ そしてギア。
「ど・・・どうしよう」
泣きそうになるクレイにトラップが元気に答える。
「な・・・なんとかなるって!!」
・・・・だがその声は木々の間を飛ぶ鳥の声に 遮られた。
思わず首をちぢめる三人。
「・・・・あれ?」
おそるおそる首を元に戻したクレイの目の前に 妙なものが写った。
「館・・・・?」
「あ!!あれみろよ!!」
トラップが指さす方角に見覚えのあるショートソードが ある。
「パステルのだ!!」
慌ててギアが剣を拾う。
・・・ギアの今の体格にショートソードはうまく つりあっていた。
「これって、ここに落ちてたよね・・・?」
剣と館の扉を交互に見ながら、クレイが言う。
しばらく三人はちっちゃい頭をよせて考え込んでいた。
なんでパステルのショートソードがこの館の前にあるのか?
答えはすぐ出た。
「パステルはここに迷ったんだ!!」
「迷った勢いで剣も落としたに違いない!!」
「多分パステルはこの中にいるんだ!!」
・・・・・段々幼児レベルに思考が落ちてきている 三人組であった・・・。

「ごめんくださーい」
小さい声でおそるおそる声を出す三人。
しかし、返ってきたのは静寂のみ。
「・・・誰もいないんじゃないか?」
トラップが小さな声で二人にささやく。
「でもパステルのショートソードはここの前に あったんだよ?」
「少なくてもパステルはこの中にいるって ことだ」
ギアはそう言うと、パステルのショートソードを クレイに手渡した。
「ギア・・?」
「クレイのショートソードは多分オレの方が 使えると思う。 今の外見じゃクレイには重すぎるよ、それ」
「で、パステルのはオレがちょうどいいと・・?」
クレイは自分の身体を見て、仕方なくうなずいた。
「準備はいいな?」
そう言った瞬間、
”ばたーーーん!!”
後ろの扉が大きな音を立てて閉まった。
「え!?」
・・・扉の取っ手は今の三人では 到底届かない。
つまり少年達の退路は閉ざされてしまった。
「・・・どうしよう・・・」
不安そうにクレイが呟いたその時、なま暖かいものが 彼の首筋をなでた。
「ひぃ・・・!!」
そこにはおぼろげな影―ゴースト―が不思議そうに 彼らを見つめていた。

「ひえっ・・・!!」
「だ・・誰だ!!」
おびえるトラップの前でギアが剣を構えるが ・・・足は思いっきり震えていた。
ゴーストは小首を傾げて三人を見ていたが 急に深々とお辞儀をした。
「あーら、お客様でしたのね? 外見と中身が全然違うんでつい戸惑って しまいましたが・・これでは執事失格ですわね」
「は・・・?」
予想外のリアクションに呆気にとられているクレイ。
こうなると途端に強気になるのがトラップで 案の定、ゴーストにかみついた。
「やいやい!!パステルはどこだ!!」
ゴーストは困ったようにトラップを見つめ・・ ぽんと手を打った(ゴーストが手を打つってのも 変な話だが正確にはそんな仕草をしたということだ)。
「パステル・・・、ああ、先ほどいらしたお嬢様 ですね?エルフのお子さまと可愛らしいワンちゃんを 連れてらした・・・」
「そ・・そう!!そのひと、ここにいるの!?」
せき込んだように言う、ギアの言葉にゴーストは 大きくうなずいた。
「なんでも、森の中で迷われたとかでご主人様が いたく気に入られて、今頃お茶してますわ」
(・・・やっぱり)
・・・見事に予感が的中した三人であった。

「今、ご主人様に取り次ぎますので うちの子たちと遊んでいてくださいね?」
ゴーストはそう言うと、大広間の正面にある 扉を開いた。
・・・そこには小さいゴーストが3人、おもちゃを 囲むようにふらふらと飛んでいた。

「あんときのことは思い出したくもねぇ・・・ 悪夢だぜ、まさに」
・・・元に戻ってから、そうトラップは述懐している。

「ふーん、じゃあその状態が亡くなった年なんだ」
「そう、ある意味不老不死、なんだけどね。 退屈で・・・」
クレイとギアは年長らしい二人のゴースト―リュウと ジェスと 名のった―とそんな話をしていた。
リュウは10才ぐらい、ジェスは7才ぐらいの外見だ。
「・・・で、あの子もそうなのか?」
そう、クレイがいった先には熊のぬいぐるみに 調教されるトラップの姿があった・・・。
熊のぬいぐるみは遊ぶための便宜上の依代で 実際は三歳ぐらいのゴースト、ミーナなのだ。
リュウとジェス曰く、ミーナは外に出ることが なく、寂しい境遇だったらしい。
で、その無念が彼女を作ってると。
「・・・しかし、どっからあんなこと覚えて きたんだ?」
ギアが呆れるのも無理はなく、ミーナが やってるのは完全に女王様だった・・・。
ジェスが恥ずかしそうに身体を小さくする。
「あれ・・・どうも母さんが見ていた変な雑誌 の影響らしいんだ・・・」
「・・・・」
あまりに刺激の強い話題に言葉を失うクレイと ギアの二少年であった・・・。

そんなわけでかれこれ20分ほどトラップが いじめられてると、おもむろに扉が開いた。
「母さん!!」
「まあ、みんないい子にしてた?」
・・・例のゴーストが現れた。
彼女はクレイ達に目をむけると(クレイとギアは おびえていたが)、丁寧にお辞儀をした。
「さ、ご主人様がお待ちかねですわ」
「・・・助かった・・・」
半泣きになりながら、そちらによって行く トラップ。
・・・しかし、そうは甘くなかった。
「や!!トラップ、行っちゃやだ!!」
またもや熊に・・もとい、ミーナになつかれ 泣きそうになるトラップくんであった・・。

悪夢はまだ続く・・・?

ゴーストに連れられて、三人は奥の部屋にむかった。
ミーナも一緒だ。
彼女曰く「もっとトラップに芸をしこむのー」 だそうだ。
当のトラップは逃げ回っていたが、クレイとギアは 薄情にもケイレンするお腹を押さえ、黙っていた。

「ご主人様、お嬢さんのご友人の方をお連れしました」
「入りなさい」
澄んだ水のような声が返ってきた。
  ギギィ・・
扉が開き、その先にはいすに座ったパステルとルーミィ シロ、そして黒髪の美女が優雅にお茶を飲んでいた。
「パステルーーーー!!」
「クレイ!トラップ!!それに・・ギアまで!?」
目を白黒させるパステルにクレイとギアはしっかり 抱きついた。
トラップは顔を赤くしつつ、ふくれっ面でパステルを にらんでいる。
と、言っても目はうるうるしていたが。
「三人ともどうしてここが・・・?」
「パステルを探しに来たんだよ」
首にしがみついていたギアが得意げに答える。
「本当は待ってようって言ったんだよ。 でも、『パステルは絶対寂しがってるから行こう』って ギアとトラップが言って、ここまで来たんだ」
ちゃっかりパステルの膝の上で甘えていたクレイが ギアの話の続きをする。
それを聴いて、黒髪の美女はころころと笑った。
「あら、じゃあ、その話も聞かなきゃね」
―不思議なお茶会の始まりだった。

柔らかな日差し。
風に揺れるカーテン。
そこで繰り広げられる優雅なお茶会。
・・・ここが簡易テントの中のことだなんて 信じられない。
「どうしたの?パステルさん」
ここの持ち主、つまり黒髪の美女が尋ねる。
あ、彼女はレイラフィール。通称、レイラ。
かなり高レベルの魔法使い、つまり魔女だ。
「あ、いえ、・・・随分凝ってるな・・って 思って・・・」
しどろもどろになりながら、私は答えた。
だってだって、彼女ってば女の私でも憧れちゃう くらい、きれいなんだもの。
しかも話術が巧みで、私はいろんなコトを話していた。
もっとも、二ヶ月前のことはのぞいて、だけど。
だって、それを話そうとした途端、クレイが 泣きそうになったんだから。
・・・多分彼にとっては、いくら吹っ切っても まだ新しい傷なんだろう。
だもレイラさんはすべておみとおしって顔で クレイを見ていた。

そんなのどかなティータイムはとんでもない 地響きとともに幕を閉じた。
「な・・・なんだ!?」
「多分私の一族を滅ぼそうとしている連中よ!!」
レイラさんはきっと、ある一点を見つめていた。

・・すさまじい力。
魔力を持ってない私でもわかるくらい。
クレイ達はおびえたように私にすがりついていた。
「くっ・・・」
とりあえずこの部屋に結界を張ったレイラさんが 歯がみする。
「レイラさん・・・?」
「どうやら質より量で来たようね。
ここの結界もどれだけもつやら・・・」
皮肉っぽく笑う彼女の視線の先に クレイがいた。
「レイラ・・・さん?」
「クレイ・・っていったけ? 貴方『青の至宝』でしょ? 貴方ならあいつらを追い払えるわ」
な・・・!?
なんでクレイのこと・・・!?
「おい!!なんでクレイのこと知ってるんだ!?」
トラップが私の後ろからレイラさんに抗議する。
彼女はゆったり笑うと、クレイの額に手を当てた。
「貴方たちにはわからないかも知れないけど、 彼のことは魔法使いや賢者の間で有名なのよ。 クレイ・ジュダが封じた至宝の化身、ってね」
彼女がしようとしていることはすぐ解った。
クレイの力を利用して敵を倒すこと。
でもそれはクレイの意志じゃない!!
「やめて!!クレイは人間として生きるのよ!!」
「至宝としてなんて利用させない!!」
私とギアが彼女を引き剥がそうとしたけど 意外にも彼女の力は強かった。
「・・いっとくけど、ここで彼が至宝の力を 使わなきゃ全滅よ。 あなた達も私もね」
「みんな・・・死ぬの?」
酷薄とも言うべき魔女の言葉にクレイのか細い 声が重なった。
すでに彼の身体を青い燐光が取り巻いている。
「・・・だったら、オレ使うよ。至宝の力を」
「クレイ!?」
何てこというの!?そんなコトしたら貴方は・・
私の考えを見透かすかのようにクレイは本来の年 相応の笑みを浮かべた。
「だってこのまま手をこまねいていたら全滅、だろ? だったらこれしか方法はないよ。 おれ、みんなを・・・パステルを守りたい。 だから・・・こわくない」
「クレイ・・・」
悲しみに満ちた声があたりに響く。
「・・・大丈夫。 たとえ、どんな力を持とうともオレはオレだよ。 そうだよね!?シロ!!」
「はいデシ!!」
そして、光は満ちた。

「・・・!?」
「青き天使の登場ね!?」
そこには元の姿に戻ったクレイがいた。
だけど・・・・その背中には青い光を 放つ天使の翼があった・・・・
(クレイ・・・!!)
とうとう行ってしまった・・・
かつてジュディさんが苦しんだ苦難の道を・・

クレイは青い翼で飛んでいく・・・
その姿は本当に神話の世界の人間みたいで・・
私たちと違う世界のようで・・・
「クレイ・・・」
クレイの剣が一人をたたき落とす。
彼らしい戦法、誰も殺さずにダメージだけを与えていく。
「・・・これで一部の力なんて信じられないわね」
薄い笑いを浮かべながら、レイラさんはつぶやく・・って。
一部の力!?これで!?
私の戸惑いに気づいたのか彼女は肩をすくめた。
「だってこれで全部解放しますって言ったら貴女やちびちゃん たちに殺されてしまうわよ、わたし。 それにあの連中ならわざわざしなくっても、あのくらいで 追っ払えるしね」
・・・なんかこの人よくわかんない。
いかにも貴婦人って思ったら、今度は魔女で、次が賢者 だもの。
「おい、あんた一体何者だ?」
トラップが私の後ろから尋ねる。
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「さーて、何者でしょう?」
・・・だもんなぁ・・・
これじゃ、トラップ怒るよ。
ちらっと、彼の方を見た、その時
”・・・・!!”
青い光が全ての魔法使い達をたたき落とした。
光の発生地は・・・クレイ。
「・・・これが・・・至宝の力・・・?」
それだけ呟くと翼は霧散し、・・・ゆっくりと落ちてる !!
「クレーーーーーイ!!」
『ヨイタ・・キイデン・・トゲヒロヲ、サバ、ツニラゾ・・ オオノア!!』
私の悲鳴とルーミィの呪文が重なる。
”・・・ふわっ・・・・!”
クレイの身体は落下速度をゆるめて、羽のように落ち てきた。
「クレイ!!大丈夫か!!」
ギアが必死に声をかけてるのに答えがない。
「・・・力を使いすぎたのね」
すごく優しい目でレイラさんはつぶやいた。
「まったく、人間ってのは・・・」

クレイは三日間目を覚まさなかった。


青い・・・
全てが青い世界を漂っている・・
なんか不思議だ・・・
あれほど人間でいるって言ったのに、至宝の力に 酔いそうだ・・・
多分レイラさんが解放したのはごく一部だろう。
仮にもオレのことだから、それくらいはわかる。
なのに・・・この力全てを解放してしまった、自分の手で。
おかげで魔法使い達を一掃できたけど・・・
ああ・・・・今までの悩みや苦しみがなくなっていく・・・
力が浄化してくれてるんだな、きっと。
いっそこのまま・・・
(バカ兄貴!!)
突然オレによく似た、でも違う声が怒鳴りつけてきた。
(何だよ・・せっかく人がいい気で・・・?)
(何がいい気よ、そのままじゃ本当に至宝になっちゃうわよ)
・・・そう言ったのはオレの片割れ・・・
もう二度と会えないって思ってたのに・・!!
(ジュディ!!)
(・・・全く、前言撤回するなんて男らしくないよ)
ジュディの言葉にぐっとつまる。
・・そうだ、オレはなんて言った?
「人間として生きる」そう言ったじゃないか!!
なのに、力に酔って、忘れかけるなんて・・・
ジュディは大きくため息をつくと、よりにもよって オレの頭をはたいた。
(な・・・!?)
(兄さん、至宝である以上、たしかに厄介ごとに巻き込まれる けどね、貴方には仲間がいるじゃないの。 人間として大切にしたい人がいるじゃないの!! 至宝になってしまったら、そんなこと許されないのよ!! わかってる!?)
パステル・・・大切にしたい女性・・・そして トラップ、ノル、キットン、ルーミィ、シロ、ギア・・ ・・かけがえのない仲間たち。
そうだ、人間としてのオレはこんなに沢山の宝物を 持っている!!
力のためにそれを失ったらいけないんだ!!
(ありがとう、ジュディ)
オレが笑うとジュディも微笑んだ。
(もう、こんなのナシだからね)
(わかってる、・・・それにお前にまた会えて嬉しかったよ)

・・夢だったかも知れない。
でもオレは信じている。
ジュディがオレを導いてくれたこと。
・・・もう間違えないから。


「ん・・・・」
小さなうなり声をあげ、クレイは目を覚ました。
「クレイ!!」
「おめぇ、目は・・・?!」
・・・まだ眠そうな彼の瞳の色は・・・鳶色。
いつものクレイの目だ!!
「クレイ!!よかった!!」
うれしさのあまり、私はついクレイを抱きしめていた。
「パ・・・パステル?」
「ばか・・・心配したんだから・・・」
泣きじゃくりながら言う私の背を、クレイはなだめるように ぽんぽんとたたいてくれた。
「大丈夫、もう間違わないよ」
優しく言って、彼はそばにいるトラップやギアにも しっかりうなずいていた。

次の日、クレイの身体はまた子供に戻っていた。
たまたまいてくれたレイラさん曰く、
「至宝の力が安定してないからよ、 やっぱり薬草で治すしかないようね」だそうだ。
それでこの時帰ってきていたキットン達は 戸惑いつつも調合を急いでいた。

「さあ、できましたよ」
そう言ってキットンが取り出したのは ・・・・お世辞にもおいしそうとは言い難い 緑色の液体だった・・・。
「・・・キットン、これ、大丈夫なんだろうな・・・?」
心底疑わしげにギアが尋ねる。
キットンったらやけに自信ありげに胸をたたいた。
「大丈夫です!!これで元に戻れますって!!」
その言葉に押されるように、おそるおそる三人は 液体Xの入っているコップに口をつけて・・・
一気に飲み干した。
「さあ・・・これで・・・・?!」
怪しい煙が三人をそれぞれ包み、それが晴れた瞬間 そこにいたのは・・・・三匹のネコ。
「え・・・・?」
あまりのことに声も出ない。
しばらくまじまじと三人・・・もとい三匹を 見ていると、急にレイラさんが笑い出した。
「やだー!!それ解毒剤じゃなくって変化の薬 じゃないー!!」
えーーーーーー!?
キットンは慌てて薬草図鑑と肝心の薬草を見比べて ・・・・これまた大笑いしだしちゃった。
「わーっはっはっはっはっは!!いやー、私ったら 思いっきり間違えてしまいましたよー!!」
三匹は怒りも露わにキットンににじりよると 一斉に攻撃しだした!!
「わーーーーーっ!やめ・・やめてください!!」
「やれやれ!!やっちゃえ!!」
必死に逃げようとするキットンをレイラさんは クレイ達と追いかけ、私は声援を送っていた。
まったく!!誰のせいだと思ってんのよ!!


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