歩いて帰ろう

3月14日、今日はホワイトデー。
わたしは原稿をまとめながら、こみ上げてくる笑いを懸命に堪えた。
ついさっき、クレイからお返しをもらった所。
甘くてフワフワのマシュマロと、それより甘くて、優しいキス。
どうにもニヤけてしまって、原稿に集中出来ない。
そんな気持ちを何とか抑え、原稿を書き終わった頃には、 すでに日が暮れかけていた。
すると、わたしのジャマをしないようにと、外に出ていたクレイが戻ってきた。
「パステル、ちょっといいか?」
「うん。何?」
クレイはチラリと窓の外を眺め、またわたしに向き直った。
「ちょっと出かけないか?パステルに見せたい物があるんだ」
「今から?別にいいけど・・・」
よほどわたしが不思議そうな顔をしてたんだろう。
クレイはおかしいような、困ったような、複雑な笑みを浮かべた。
「今ぐらいの時間じゃないとダメなんだ。じゃあ、着いて来て」
そう言って、クレイは部屋から出た。
わたしも慌てて後を追いかける。
「どこに行くの?」
「ん。ちょっと森の方・・・」
クレイは言いながら、どんどんズールの森の方へ進んで行く。
わたしはその背中を見つめながら、後に続く。
ズールの森に到着しても、クレイの足は止まらなかった。
わたしは早足でクレイの隣まで行くと、彼の腕にしがみ付いた。
「どうした?」
クレイが不思議そうに尋ねてくる。
「だって・・・なんだか気味悪いんだもん」
さすがにこの時間になると、辺りに人の気配は無い。
代わりにモンスターでも現れそうな雰囲気だった。
「ああ、ゴメン。もうすぐ着くから」
そうして二人で10分ぐらい並んで歩いていると、 不意に開けた場所に辿り着いた。
「着いたよ」
そう言ってクレイは足を止める。
「うわぁ・・・・」
わたしは眼前の光景に、言葉を失った。

そこは草原だった。
どこまでも続いているような、見渡す限りの大草原。
地平線では、今まさに夕日が沈もうとしている。
その光が、辺り一面を金色に輝かせていた。
それはまさに黄金の草原だった。
「キレイ・・・」
わたしは光り輝くその景色を、ただウットリと眺めていた。
「この前、偶然見つけた場所なんだ。喜んでもらえたかな?」
「ウン!ありがとう。わたし、こんなキレイな夕日見たの初めて・・・」
わたしはそっとクレイに体を預けた。
それを受け止めるように、彼はわたしの肩を抱く。
「ね、クレイ・・・」
わたしは目をつぶり、少し顔を上げた。
柔らかい感触がわたしの唇を塞ぐ。
それは今日2回目の甘いキス・・・。

それから、その場に座って夕日を見ていた。
「じゃあ、そろそろ・・・帰ろうか」
クレイが立ち上がりながら言う。
わたしはまだ居たかったけど、日が暮れる前に帰った方が良い。
「そだね・・・」
わたしも立ち上がって、土を払う。
「急いで帰らないと、ルーミィがおなか減らして待ってるもんね」
「ああ、それなんだけど・・・」
クレイは少し照れたようにわたしを見た。
「もう、ノルに言ってあるんだ。先に猪鹿亭に行っておいてくれって」
クレイは指で頬を掻いた。
「夜になるまでに帰った方が良いのは確かなんだけど・・・。
その、少しゆっくり帰らないか」
優しい目でクレイがわたしを見つめている。
わたしはクレイの胸に頭をつける。
「うん、いいよ・・・」

そして二人は手を繋ぎ、森の道を歩き始める。
ゆっくり、ゆっくりと・・・。



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