あの日の約束


カランッカランッ。
お店の扉につけたベルが音を鳴らした。
「いらっしゃいませ」
狭い通路を通り抜けて、すぐに入り口のそばに立って挨拶をした。
「こんにちは〜!」
短く切った黒髪に小柄な体つき。よく動く瞳。
男が放っておきそうにないタイプの子。
挨拶をしながらお店に入ってきたお客さんをわたしは瞬時にそう判断した。
もちろん、お客さんに似合う服装を考えるため。
それ以外の理由はなかった。
その子の後ろからあいつが入ってくるまでは。
「おい、勝手に行くなって」
声だけでも、誰なのかはすぐにわかった。
わたしに勝てないくせに生意気な口ばっかり叩く奴。
わたしの幼馴染。
この子が、あいつの連れ?
こいつが女の子を連れてくるとしたら、同じパーティのパステルかルーミィくらいだと思ってたのに。
「いいじゃないのさ」
その子は入ってきたトラップに軽く返事をした。
「ったくよぉ」
弱りきったあいつの顔。
サラサラの赤毛を帽子の上から乱暴にかきむしってる。
それでもその子はどこ吹く風。
余裕を見せて笑ってる。
彼女、なんだ。
そう思わせる雰囲気だった。
こいつが最近はシルバーリーブの方で人気があるっていうのはパステルから聞いてた。
クレイと並ぶくらいにもててるって。
だからってわたしは特に気にも止めてなかった。
知名度が上がってから寄ってくる女の子なんてファン心理みたいなもので本気じゃないって思ってた。
クレイならともかく、あいつはたいした顔してるわけでもないし、女の子と遊んでるだけで誰にも本気にならない。
そんな奴、しばらくちやほやされたってすぐに飽きられると思ってたのに。
こいつが誰かに、本気になるなんて。

そっか。

「どんな服をお探しですか?」
わたしは、店内を物珍しげに見回している彼女に声をかけた。
「わりぃこいつ客じゃねぇんだ」
トラップは困った顔のまま、わたしに言った。
わたしは彼女に聞いたのに。
なんであんたが答えるのよ。
なんであんた、わたしに挨拶もしてくれないのよ。
客じゃないってことは、彼女をわざわざ紹介しにきたのかしら。
なにもそんなことしなくても良いのに。
あんたの好きな人なんかわたしは別に知りたくないのよ。
「別に特に用があるわけじゃねぇんだけどよ。なんつーか…」
らしくもなく、しどろもどろではっきりしない。
あいつは横目で彼女を見て、彼女もあいつを見ていた。
わたしはゆっくりと微笑んだ。
「人がいるところでそういう雰囲気にならないでほしいわね。言わなくてもわかるわよ。どういう用事かってことくらい」
服を探す振りをしながら、さりげなく二人から目を逸らした。
「幸せな二人には何かプレゼントでもしようかしら」
どうして目をそらすの。
別にどうってことないじゃない。
こいつと付き合えるような女の子がいたなんて驚きだけど。
物好きな子がいたって祝福しないといけないのに。
「良かったじゃないの」
彼女はトラップに向かってそう言った。
彼女を見ると、赤い唇の端を上げていた。
『良かった?』
なにが?
言われたトラップはわたしと同じように意味がわからないって顔してる。
彼女はしょうがないわね、と肩をすくめた。
「鈍感な男は嫌われるわよ。せっかく妬いてくれてるってのにさ。片想いじゃなくて良かったねってことよ」
「おまっ!! 言わねぇってことだったじゃねぇか!」
トラップは見る見るうちに赤くなって彼女に食って掛かった。
彼女はそ知らぬ顔をしてる。
「両想いなんだからいいじゃないの。そうね、約束は果たしてもらったし。そういうことなら諦めてあげるわ」
彼女はわたしに向き直った。
「嫌な思いさせてごめんね。でも、彼との約束だったの。わたしを振る理由にいつか会わせてね、って」
そう言って彼女は片手を出した。
「キム・ジンガ―よ。覚えておかなくても良いわ」


END



――あとがき――
トラマリ、第二段です。
新6巻でキム・ジンガ―(覚えてますか? 盗賊の女の子です。トラップの頬にキスした子)とトラップの間で何らかの約束が交わされた、というところから作った話です。
これは実は原型がありまして、断筆前の最後の詩作でした。
キム・ジンガ―との約束はFQの方では盗賊としての頼みごととかであってほしいですが、ここはトラマリHP! ということで恋愛に絡ませていただきました。
マリーナが焼餅を妬く話を書くとは思ってなかったですが。
あ、トラップが妬く話も書きたいですね。


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