アンダーソン家のお客様


その人が来ると。
アンダーソン家は、兎にも角にも、大騒ぎ。

     *

「お、おじゃまします……」
大きな門構えに、未だ緊張気味の『その人』。
本当は、これが初めての訪問じゃないのです。先月も、その前も来ているのです。
それなのに、緊張を隠せない理由は……。

「まぁぁ、パステル! いらっしゃい、お待ちしてたわぁ!」
満面の笑みで出迎えてくれる、アンダーソン家の奥様と。
「遠い所をお疲れ様でしたね。出迎えにも行けなくて失礼しました」
丁寧に挨拶してくれる、アンダーソン家のご当主と。
「やあ、パステル久し振り。また綺麗になったね」
「本当だ、一層見違えたよ。クレイ相手なのが勿体無いくらいだね」
歯の浮きそうな台詞さえさまになってしまう、アンダーソン家のご長男・ご次男と。
「やあやあパステル嬢! この間の新作、拝読しましたぞ!」
すっかり彼女のファンとなってしまった、アンダーソン家のご先代。
皆が手薬煉引いて(?)待ち構えているからです。

「……大丈夫か?」
後ろからさり気なく声をかけてくれるのは、本来同様に歓迎されるべきである、アンダーソン家のご三男。
「うん……平気」
やや引き攣った笑みを口元に浮かべつつ、パステル嬢は健気に答えます。
そう、皆、悪気があってのことではないのです。
これも皆、彼女がアンダーソン家の皆様に愛されているからこそ、のためなのです。
「あ、クレイ、荷物はいつものとおり客間に運んでね。さあさあ、パステルはこっちにいらしてね」
「うん」
生みの母が、パステルばかり構っていて。実の息子に淡白な態度を取っていても。ご三男は、全く気にしていないようです。
むしろ、気楽に構えている気配。
(……パステル、頑張れよ)
心の中で、愛する女性にエールを送りながら、クレイは客間に足を運ぶのでした。

そして、肝心のお客様は。
「パステル、このケーキどう?」
「あ、はい、とっても美味しいです」
「本当!? 良かったわぁ」
奥様の手作りケーキに笑顔で礼を言うと。
「パステル、この紅茶はどうだい? 私が取り寄せたのだが」
「あ、はい、とっても香りがいいですね」
ご当主直々お買い上げの紅茶を褒めて。
「パステル嬢! 是非今度の冒険話をしてくださらんか!」
彼女自身のファンでもある、ご先代にせがまれて。
「そうそう、俺たちも聞きたいな」
「俺も、俺も。あとさ、今度俺たちも出してもらえないかな?」
ご長男とご次男の、女の子がくらっとしそうな確立200%の微笑みに戸惑いつつ。
楽しいお茶会の主役として、頑張っているのでした。

やがて、お茶の時間から夕食の時間、そして食後の語らいの時間も。
彼女はいつも、主役としてあり。アンダーソン家は全員で、彼女との時間を持とうと半ば争うように話しかけているのでした。
そうして、皆が床に就く頃に。
「………はぁぁ、疲れたぁぁ」
お客様はだるそうに、ベッドに身体を預けてしまい。
「今回は明後日の朝までだから、夜はゆっくり休めよ」
気遣ってくれる恋人の、優しい言葉と辛い内容を、夢見心地で聞くのでした。

     *

愛されるのも、辛いものです。





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