貴方へ贈るもの

 明日は、バレンタインデー。
「…さて、と」
 ルーミィもシロちゃんも眠ってしまっていて、今起きてるのは、この部屋ではわ たし一人。
 余計なお邪魔が入らない、このうちに…
 わたしは今日、作っておいたチョコレートを数個机の上に置いた。パーティーの みんな、ひとりひとりへのチョコレート。それから、いつもお世話になってる人た ちへのチョコレート。
 まとめて作ってるから、買うよりは経済的なんだけど…けっこう手間はかかる。
でも、1年に1回のことだし、感謝の気持ち、だしね。毎年やってたら、ラッピン グも何時の間にか上達しちゃったね、えへへ。
 …そして、作業1時間。全部のラッピングが完了。
「よっし、これで…みんなのはOKね。あとは…」

 ―机の上に、ひとつだけ残ったもの。
 チョコレートじゃないけど、わたしの気持ちを込めたもの。
 渡す相手は…受け取って、くれるかな?

 翌日。
「はい、みんな、これ」
 朝食の後で、パーティーのみんな―ルーミィたちも含めて―にチョコレートを手 渡した。ただし、この場にいないふたりを除いて。
「ぱーるぅ、ありがとだおぅ!いまたべてもいい?」
 ルーミィは早くも食べようとしてるらしい。シロちゃんも?
「そうねー…ま、いいわよ」
「わぁーい!」
 ルーミィたちは、早くも包装紙をがさがさと開け始めていた。
「パステル、ありがとう」
「いつもすみませんねぇ」
 ノルとキットンは、ニコニコ顔でお礼を言ってくれた。
「いいえ、どう致しまして」
 わたしもニッコリ笑って答えた。

 そして、ルーミィがチョコレートで顔中べたべたになったのを拭いてから遊びに 行ったのを見送って、キットンやノルがバイトに出かけたのを見送って。
 ささっと家事を済ませると、ようやくクレイが起きてきた。
 昨日のバイトが忙しかったみたいで、帰りが遅かったんだよね。今日は幸い、バ イトお休みみたいだし。ゆっくり寝かせてあげられたみたい。
「おはよー…みんなもう出かけたのかぁ?」
 ちょっとまだ寝ぼけ気味のクレイ。頭も少し寝癖がついてるよ。
「うん、ノルとキットンはバイトだし、ルーミィとシロちゃんは遊びに行ったよ。
クレイ、ご飯もう食べる?」
「ああ、頼むよ」
 クレイの分のスープを温め直して、パンや炒り卵なんかと一緒テーブルに持って 行くと、「ありがとう」ってニッコリと笑って食べ始めた。
「クレイ、今日は出かけるの?」
 わたしが聞くと、クレイは首を横に振った。
「いいや、特に用事もないからいるつもりだよ」
「それじゃ、わたしちょっと出かけてくるからお留守番頼んでいい?トラップがま だ寝てるんだけど、あいつだけじゃちょっと不安だし」
「ああ、わかった」
 クレイが快く引き受けてくれたから、わたしは外出の用意をした。
 印刷屋さんや猪鹿亭、一応ヒュー・オーシのところにも、チョコレート届けに行 かなくっちゃね。でも、その前に…

 わたしは一度、深呼吸。
 みんなへのチョコレートを入れた紙袋を手に持って。
 クレイへのチョコレートと、もうひとつの包みを、手に抱えて。
 意を決して、部屋を出た。

「それじゃクレイ、あまり時間かからないで帰ってくると思うけどお願いね」
 わたしは、自然を心がけてクレイに話しかけた。
「うん、わかった。気をつけて」
 クレイは食後のお茶を飲みながら、ひらひらと手を振ってくれた。
「あ、それと、ね。…これ、どうぞ」
 ちょっと顔が熱くなってるのを感じながら、わたしはクレイに持っていた包みを ふたつとも渡した。
「お、さんきゅ。いつもありがとう、パステル」
 クレイはニッコリと笑顔で受け取ってくれた。…ふたつってことにあんまり疑問 持ってないみたいだね。
「それじゃ、行って来ます」
 わたしはあまりクレイの顔を見ないようにして、家を出た。

 今朝はいいお天気だけど、そのぶん冷え込んでいて。わたしの火照った頬も、冷 たい風にさらされた。身を切るような冷たさが、不思議と心地よかった。
「クレイ…もう、中身見たかなぁ……?」
 ぼそっと一人、わたしは呟いた。

 クレイへのチョコレートは、みんなのと同じもの。
 でも、もうひとつ。クレイだけには、みんなと違うもの、贈りたかった。
 ―こっそり編んでた、青のマフラー。本当はセーターとかにしたかったけど、時 間があまりなかったし、隠れて作業するのも大変だったから、今年は手軽なものに しちゃったんだ。それでも、けっこう頑張って完成させた。
 そして、小さなカードを添えて…

「ただいまー」
 チョコレートを配り終えて帰ると、居間にクレイの姿はなかった。
 わたしがあげた包みはふたつともなくなっていたから、ちゃんと開けてはくれた みたい…だけど。どう、思ったのかなぁ…?
「あれ?おめぇ出かけてたのか」
 背後から聞こえた声に振り向くと、寝ぼけ眼のトラップだった。
「トラップ、今起きたの?」
「あぁ」
 頭をぼりぼりとかいて、トラップが答えた。
「それより、俺ハラ減った…パステル、メシねぇか?」
「あ、うん、待ってて今支度する」
 わたしは慌しく台所に立った。

   トラップの食事が終わってからチョコレートを渡すと、「お、さんきゅ」と一応 お礼を言って受け取ってくれた。
 それから彼も「ちょいとヤボ用」と言って、出かけてしまった。急に家の中が静 まり返った。そういえば、クレイ…どっか出かけたのかなぁ。
「あ、パステル!?もう帰ってたのか」
 不意にクレイの声がして、わたしの心臓は一瞬止まりそうになった。
「ク、クレイ、い、いたの?」
 どきどきする心臓を押さえながら、声の方を見る。
「あ、うん、その、部屋にいた、から」
 クレイの言葉もなぜか途切れがち。顔も少し、赤いみたい。
 …全部、見たんだね、きっと。
 どうしよう。わたしも顔、火照ってきちゃった。まともにクレイの顔、見れない よ。
 わたしは思わず、俯いてしまった。

「あの、さ。パステル」
 一瞬の沈黙のあと。クレイがそっと口を開いた。
「……ありがとう。俺も、君と同じ気持ちだよ」
 ―え?
 わたしが顔を上げると、クレイは微笑んでいた。そして一言。
「俺も……」
 わたしがカードに記した言葉。そして、クレイが言ってくれた言葉。
 貴方に贈った、わたしの気持ち。
 『貴方が、好きです』



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